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【前編】『機動戦士ガンダム 水星の魔女』Season2放送直前! プロデューサー岡本拓也氏インタビュー

今描くべきガンダムとして「呪い」をテーマに据えた理由――『水星の魔女』岡本拓也P

2023年04月09日 15時00分更新

身体拡張技術はまさに富野監督が定義した「モビルスーツ」そのもの

岡本 その「呪い」というキーワードから、『水星の魔女』の世界観や物語が固まっていきましたね。企画序盤から打ち合わせで出ていた「身体拡張技術」とも良い形で結びついたと思います。

―― 身体拡張技術が登場したことにも新しさを感じました。現在は、人が外骨格のように装着して重たい物を運ぶとか、義手や義足に使用するなど、医療・福祉分野で注目を集めている技術ですよね。広義ではVRなども含むでしょう。この案はどのように出てきたのですか?

岡本 ガンダムでは作品を作るときに、「今回のガンダム/モビルスーツの定義」を決めるんです。これまでの宇宙世紀シリーズから続くモビルスーツの概念を踏襲することもありますし、新たに考えることもあります。

 今作では、設定考証の白土さんを交えて小林さんと「この世界のモビルスーツは、どういうものなのか」をアイデア出ししていく中で、「身体を拡張する、意識を拡張する」という言葉が小林さんから出てきました。

 『水星の魔女』世界のモビルスーツは、現在の身体拡張技術の延長線上にあって、人間の感覚を拡張していく存在である、と。

 それは富野由悠季監督がモビルスーツという存在を身体の拡張だと定義付けた部分と相通じるものもあります。

 また、「ガンダムによる呪い」は、搭乗者の身体にフィードバックが来る、というアイデアとも結びつきました。

 もし普通の人が身体感覚を拡張するような機体に乗り続けていたら、身体にフィードバックが来る、そして、その場合「ガンダムに乗ったら死ぬ」という形がよいのでは、という発想に行き着いています。

作中で描かれる「呪い」とは

――— 先ほど監督から「呪い/呪縛」というキーワードが出てきたと仰っていましたが、作品のテーマになっているとも感じます。

岡本 そうですね。作中ではガンダムを「呪い」と言ったり、スレッタとプロスペラ、ミオリネとデリング、グエルとヴィムのように親から子への呪縛みたいなものも描かれています。また本作の背景には、スペーシアンとアーシアンの「分断」や「格差」があります。

 作品の中で主人公たちが、置かれた環境下の中で、どのようにそれらの呪縛と向き合い、どう乗り越えていくのかが作品のテーマの一つとして据えられています。

―― 普遍性のあるテーマだと思いますが、どの世代の方にも幅広くテーマを伝えるために意識した部分はありますか?

岡本 『水星の魔女』では、「社会構造といった大きな話を大上段に構えて描くのではなくて、観る人にとって身近にあるものを通して描くことで、主人公たちに共感してもらいたい」という狙いがありました。

 今回、競い合う勢力を「企業」にしたのもその1つです。

―― なぜ国家などではなく、企業にしたのでしょうか?

岡本 ガンダムシリーズでは戦いを描くので、複数の「勢力」が登場します。

 『水星の魔女』では、その勢力の単位を何にするか考えました。「国家」だと、これまでガンダムを観たことがない方や、若い方にはちょっと実感しにくいかもしれない。今、実感が持てるような組織の単位って何だろう、と考えていたときに出てきたのが「企業」でした。

 企業であれば、10代でも家族が「会社でこんなことがあった」といった話を聞く機会があるでしょうし、昨今は企業ドラマも人気なので、若い方々にも伝わるのではないかと思いました。

 その結果、モビルスーツを製造する企業体「ベネリットグループ」という設定が出来上がりました。

―― 何より伝わりやすさを重視した?

岡本 現実での「企業」という存在を鑑みるに、ガンダムの世界観として、規模が小さくなり過ぎることはないと思いました。

 今の時代、一企業が強大な力を持っていることもあります。

 日本にも「企業城下町」という言葉がありますから、それを極端に拡張してみたらどんな世界になるだろうか、というシミュレーションをしていきました。

 また、ガンダムでは勢力ごとにモビルスーツのデザインも分かれていることが多いのですが、これも「『水星の魔女』の世界では、さまざまな企業がモビルスーツを作って企業同士で競っているからデザインも違う」という見せ方ができると思いました。

 こうして巨大企業と学園ものという要素が合わさって、「ベネリットグループがモビルスーツの運用や会社経営を教える学園を経営しており、企業の子弟たちが通っている」「学園内では、企業がモビルスーツの性能と運用を競い合っている」という世界が出来上がっていきました。

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