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〈前編〉アニメの門DUO TRIGGER取締役・舛本和也さんと語る

アニメの放送延期が続出した原因は「海外依存8割の動仕」にあるが解決は困難

前編では、2022年末に起きたアニメ放送・配信の延期について、その原因と解決策をアニメスタジオ・TRIGGERの舛本和也取締役と語る

後編はこちら

■アニメの制作現場で何が起きていたのか?

 今回は、2022年末から2023年春にかけて多発したアニメ放送・配信の延期について、2023年2月に生配信したインタビューを再構成してお届けいたします。当時、アニメ制作の現場では、何が起きていたのでしょうか?

まつもと 今回はアニメスタジオ「TRIGGER」で取締役を務める舛本和也さんに、アニメ制作のリアルな現状を語っていただきます。舛本さん、よろしくお願いいたします。

舛本 どうぞよろしくお願いします。

まつもと さっそく今日のお品書きを見ていきたいと思います。1つ目のコーナー名は……ごめんなさい。「休止」と書いていますが「延期」が正しいですね。2022年末、アニメの放送や配信の延期が相次ぎました。アニメの制作現場で何が起きていたのか探っていきたいと思います。

 2つ目は、アニメの制作に変化が訪れているなかで、スケジュール管理や素材の受け渡しで非常に重要な役割を果たしてきた「制作」というお仕事はデジタル化でどう変わるのか?

 そして3つ目では、これからアニメ業界を目指す方々を含めて、どのようなスキルを持つ人材が求められているのか? ……これらについて、舛本さんにおうかがしていきたいと思います。

TRIGGER取締役・舛本和也さん。『プロメア』『SSSS.GRIDMAN』『キルラキル』などのアニメーションプロデューサーを務める。同社がアニメーション制作を担当した『サイバーパンク エッジランナーズ』はクランチロール・アニメ・アワード2023にて最優秀賞 アニメ・オブ・ザ・イヤーを獲得

まつもと では、さっそく1つ目のコーナーにいきたいと思います。「休止」と書いちゃいましたが、正しくは延期ですよね。ただ、途中まで放送して、「このクールは諦めました。次のクールに回します」という作品もあります。

 表にまとめてみました。こんなにあるんだ、と。これでもまだ一部のはずですね。個別の作品については舛本さんに触れていただくと。

2022年~2023年前半に延期したアニメ作品(一部)

舛本 (笑)

まつもと そして……舛本さんのお顔の下にあるお名前の漢字が間違っていることにいま気がつきました。大変失礼しました。正しくは「“きへん”がない“舛”」です。

舛本 あ、ホントだ。はーい。

■コロナ禍で海外発注の「動画・仕上げ」が停止

まつもと 特筆すべきは、ほぼ同じタイミングで「延期します」とアナウンスされたこと。また、再開時期も似通っています。この背景には何があるのか? すでにわかっていらっしゃる方もいるかもしれませんが、中国の影響が結構大きいと思います。

舛本 そうですね。

まつもと 現場で何が起こったのか舛本さんからお話いただければと思います。その際、ヒントになる図もあるので、そちらも出します。

舛本 まず、図のタイトルすべてが同じ理由ではないという前提はありつつも……今回に関しては大きな理由が1つあります。

 アニメ制作の工程には、中割りと言われるなめらかな動きを蓄積する「動画」、そして着彩をするための「仕上げ」という部署があります。テレビシリーズの場合、動画と仕上げのおよそ90%を海外の方々にご協力いただいています。そんな背景があるなかで、新型コロナウイルスの感染拡大が中国で起きました。

まつもと これはアニメ制作の進行を示した図です。日本動画協会の公式サイトから無料でPDFがダウンロードできます

日本動画協会の公式サイトから無料DL可能

 原画と原画のあいだの中割り、その集合体を動画と言いますが、この中割りを中国はじめ海外に発注しています。この図では、左から2番目のラインにある「海外動仕出し」がそれにあたります。動仕とは、動画・仕上げの略です。つまり、動画と仕上げをワンパッケージで中国をはじめとする海外に発注しているわけです。

 中国はゼロコロナ政策を2022年末にいきなり終了したことで、感染者が急増して会社そのものが動けないという状態が、アニメ業界でも相次ぎました。

 結果、「海外動仕出し」の部分でアニメ制作が止まってしまったと。

舛本 そうですね。特に動画・仕上げを担当している会社の地区全体が厳しい状況にあったようです。生産性が担保できず、各作品が影響を受けたというのが大きいところですかね。まあこれは突発的というか、仕方がないというか、どうしようもなかったと思います。

まつもと そこで最初の表を見直してみると、だいたい第7~9話の3話分ほどを再放送でつなぐかたちになっています。コロナ禍で動画・仕上げの現場が止まったのが2022年の年末から。そしてその後に春節(旧正月)が続きます。当然、春節は会社もお休みですから、仕事は進みません。

舛本 春節自体は1週間から10日くらい。ただ、その後も影響が続きます。溜まっていたものが一気に流れ出すみたいな状況になって、順番待ちの状況が起きます。仕事が止まっている期間自体は10日間程度なのですが、アニメ業界にはだいたい1ヵ月くらい影響が出るという感じです。

まつもと 結果として、2022年末の新型コロナの感染急拡大とその後の春節の影響が、我々の目の前に現われ……そして2023年2月になってようやく収まってきた、という理解でよろしいでしょうか?

舛本 そうですね。海外の動仕作業についてはそういう状況だと言えると思います。

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