12月17日、ソニー・コンピュータエンタテインメントが発売する期待の携帯ゲーム機『プレイステーション・ヴィータ(PS Vita)』。マルチタッチパッドの採用や3G回線への対応など、ゲーム機としての新要素がてんこ盛りで、どんなゲーム体験ができるのか発売前から興味津々だが、週アス的に注目しておきたいのが、ニコニコ動画への対応だ。
その名も『ニコニコ』はドワンゴが開発したダウンロードアプリで、PS Vita上でニコニコ動画とニコニコ生放送を視聴できるというもの。一体、どんな経緯で開発が始まったのか、ニコニコ事業本部 企画開発部の重要人物に直撃インタビューしてみた!
↑左がニコニコ事業本部 企画開発部担当部長、鈴木慎之介さん。右が企画開発に携わった高橋大樹さん。 |
開発は15人で、わずか3ヵ月
── まずは単刀直入に。Vitaで観るニコ動の魅力はなんでしょう?
鈴木 「動作の速さですね。ハードウェアのスペックが高いので、動画や生放送をすぐに見られるというのが、いちばんのメリットですね。」
高橋 「単純に画面と音もきれいですよね。今、市場に出てるモバイル機器の中でいちばんハイスペックなので。」
↑スムーズに動画が読み込まれ、再生される。有機ELの画面は発色がきれいで、PCで見るよりも引き込まれるような印象だ。なお、『陰陽師』や『ねこ鍋』など、アップロード日時が古い一部の動画はファイル形式が対応していないため視聴できない。 |
── 開発の経緯をお聞かせください。
鈴木 「昨年末、うちとSCEさんの上層部が話をしたのがきっかけです。ニコ動との親和性が高そうだから、ニコ動に対応するといいものになるんじゃないかという感じで、開発に移りました。ニコ動では、フィーチャーフォンやスマートフォンなど、モバイル端末向けはつくってきましたが、ゲーム機向けは初めてでした。だからチャレンジでしたね。」
── 開発自体はドワンゴなんですか?
鈴木 「そうです。このアプリのために急きょエンジニアを集めました。今年の夏ぐらいに15人ぐらい集まりました。」
── じゃあ半年ぐらいで開発を?
鈴木 「もっと短くて3ヵ月ぐらいです。そもそも動画が再生できるのかといったような基礎調査は春から始めてましたが、開発のめどが立ったのが夏で、そこから人員を募集しました。でもまだまだC++を書ける人材が必要なので、もしご興味のある方はぜひ応募してくれませんか(笑)?(関連サイト)」
── 週アスPLUSで人材募集(笑)。
↑動画の解説ページ。画面右に並ぶタグは、押してその検索結果にジャンプできる。現状、動画説明文内のリンクは選べないが、今後対応予定だ。 |
── 開発でたいへんだったところはどんなところですか?
高橋 「動作速度の改善ですね。ここ1ヵ月で大幅にアップデートしました。今のゲーム機は2Dに見えるものでも基本的に3Dで描画していて、2D画像をベクターのまま表示すると重くなってしまう。だから1回ポリゴン変換する処理をかまして、軽くしています。
もともとわれわれがドワンゴという会社を作った際、“DWANGO”というネットワーク通信対戦の仕組みを提供していたんです。その後、iモードゲームを作って、モバイル向けの開発ノウハウをためていたはずだったんですが、さらに主力事業が“着うた”に移っていったため、事業に合わせてエンジニアもスキルタイプが移り変わっていきましたね。」
── じゃあ、ドワンゴとしては原体験のところに戻ったという感じなんですね。
鈴木 「それはありますね。」
↑タッチパネルのキーボードをタップして、コメントをサクサク入力! |
── モバイルの開発とは違いましたか?
鈴木 「一部のAPIやサーバー資源は今までのものを利用していますが、実機の中のソフトはすべて作り起こしです。」
高橋 「今回入れられなかったんですが、視聴中の動画の上に半透明のレイヤーをかけて、ランキングを見たり、検索を実行できるようにしたいと考えてます。もともとそれ前提で作ってたんですが、ちょっとチューンアップが間に合わなかったんです。」
鈴木 「ハード自体の性能は素晴らしいので、我々のスキルもハードに追いつくよう日々精進したいと思います(笑)」
── でも、軽く触らせていただいた限りでは、まったくわからないレベルまで作り込まれてますね。
鈴木・高橋 「そうですね。」
↑生放送の視聴もできるよ! |
従来のイメージを覆すカッコイイUI!
高橋 「細かい話ですと、そもそもゲーム機向けのソフトを開発したことがなかったので、最初、Photoshopなどでユーザーインターフェース(UI)を作っていたんです。そしたらアプリの容量の8、9割が画像になってしまった(笑)。ゲーム会社から来たエンジニアさんに、ハード専用に画像を圧縮するソフトがあることを聞いて、圧縮し直しました。
iPhoneではすでにあるUIのセットを組み合わせてアプリを作りますが、PS Vitaはそういう仕組みがないため、全部ドワンゴで作りました。たいへんな反面、スゴく自由にできるという。」
↑メニュー画面左にある王冠アイコンを押すと、ランキングページが開く。 |
── 最初、UIはSCEさんが作ったものかと勘違いしてました。すごくあか抜け過ぎていて、ニコ動じゃないみたいです。
高橋 「みんなに言われます(笑)。SCEさんが作られたたのを必死で真似しました。」
鈴木 「今までのニコ動は割とゆるい雰囲気でサービスやデザインも作ってきましたが、今回はVitaのもつイメージがカッコいいので、それになるべく合うように仕上げています。ニコニコのブランドイメージも、時代に合わせて変化していくものかもしれません。今は、国会中継や映画といったマス向けのコンテンツが増えてきているため、それに合わせて作っているというのもあります。街中で見てカッコいいかどうかっていうところも意識して作ってたりもします(笑)。
でも昔の方が好きという方もいらっしゃると思うので、その辺は今後、スキンで替えられるようにしていきたいですね。マスコットの「テレビちゃん」も今回、後光が射してる“ブラックテレビちゃん”なんですよ。」
── おお!
↑ブラックテレビちゃんは、起動画面やバージョン情報で見られる。 |
ニコ生をすると実績が解除!? 将来はゲーム連携に挑戦
── 将来的に対応して行きたい機能には、どんなものがありますか?
鈴木 「ニコニコ静画への対応ですね。今後、いろいろ話し合いを進めていかなければならないですが、この画面でお絵かきして、投稿できるようにしたいです。」
高橋 「あと、視聴系では、現状、生放送のタイムシフトや、ニコニコチャンネルの動画/生放送に非対応なので、2012年春のアップデートに向けて作り込んでいます。加えて、動画のアップロードと生放送の配信も盛り込む予定です。」
── PS Vitaがあればどこでもサクッと生放送できちゃうのはスゴイことですね。
鈴木 「Vitaはカメラがありますからね。」
↑人間アイコンでは、ユーザープロフィールが確認できる。プレミアム会員への入会も可能だ。 |
高橋 「あとはゲームとの連携機能も考えています。ほかのライセンシーさんと、ニコ動への動画アップロードと生放送配信の機能をプラグインとして提供する話し合いをしている最中です。」
── それはスゴい! 今まで権利的にアウトだったゲーム実況動画が公式にできるということですか。
高橋 「権利関係がホワイトになっていくのと同時に、ゲーム内容にニコ動ユーザーがインタラクティブに介入できるような仕組みを作っていきたいですね。たとえば、生放送で配信したときの来場者数がゲームのスコアになるとか、生放送につけられたコメントやアンケート結果によってゲーム内容が変わっていくとか……そうした試みです。」
── ソーシャルゲームに続く、次の新しいゲームの形ですね。
鈴木 「PSVitaは2012年の2月には北米で発売されるので、海外にも目を向けたいと考えています。いろいろ仕掛けていきますので、ぜひ今後も注目してください!
── もちろんです! ありがとうございました。
緊急速報! PS Vita専用『ニコニコ』実機動画公開
※週刊アスキー12月27-1月3日号(12月13日発売)の特集記事『PS Vitaはネットで遊ぶっ!!』(26~31ページ)内にあるインタビューを再構成したものです。本特集ではSNS連携など、3GS回線が可能にする新しい楽しみ方を詳しく解説しています。
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