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アドビ日本法人設立30周年 今だから話せる日本語DTPの夜明け

PostScript、デジタルフォント、InDesign 日本語DTPを当たり前にしたアドビの技術

2022年03月24日 10時00分更新

ゆるやかながら、確実に出版・印刷業界に浸透していったInDesignの軌跡

 InDesignがシェアを拡大できた理由は、テキスト処理エンジンの日本語対応に加え、Adobe Creative SuiteとしてPhotoshopやIllustratorなどの他のツールとバンドルされるようになったことも挙げられる(関連記事:『Adobe Creative Suite』はデザイナーを助けるか!? 米アドビ システムズ 上級副社長 ジム・ヒーガー氏に聞く)。Photoshopも、Illustratorも、DTPを行なうユーザーであればすでに日常的に使っているツールだ。これらツール同士が連携し、ましてコストメリットがあるのなら、移行しない理由はない。日本語版のCreative Suiteがリリースされた2004年に入社した岩本崇氏は、バンドルのインパクトについてこう語る。

アドビ 岩本崇氏

「単体製品のInDesignというのは、基本は紙媒体のデザインが前提だったのですが、時代の流れとともにお客さまはWebや動画といったクロスメディアも意識されるようになっています。これからはどれかだけをやるという時代ではなくなるので、ドライバーだけですべてのクリエイティブを作るのは難しい。工具箱としてまとめて、お客さまのコンテンツのデリバリをきちんとサポートしようと考えたのです」(岩本氏)

 InDesignが市場に受け入れられたのは、日本語組版への対応、Creative Suiteでのバンドル化だけではない。たとえば、2005年にアップルがMacシリーズでのCPUをPowerPCからインテルCPUに変更し、InDesignもいち早く対応した。2007年に登場したInDesign CS3ではMacOS X 10.5に対応し、Intel Macのネイティブ動作を実現。圧倒的な性能と安定性をもたらした(関連記事:まさに革命!! Mac Pro × CS3は爆速だった)。

 また、フォントに関しても、InDesignで使える日本語フォントを自社開発(関連記事:「源ノ角ゴシック」を実現させたアドビ西塚氏の勘と感覚)。もちろん電子出版への対応やWebオーサリングツールとの連携も迅速に行なった。今から考えれば、いろいろな要因が複合的にからまり、InDesignをDTP市場のデファクトスタンダードに押し上げていったのだ。

InDesign誕生から20周年 アドビが変わらず持ち続けたものとは?

 月刊誌の編集という立場で現場を見ていた筆者からは、まさに潮が満ちるように、周りはInDesignユーザーばかりになったように見えた。このシフトはまさにゲームチェンジと言えるものだった。また、「DTP=Mac」という傾向は変わらないものの、WindowsでのDTPも珍しい存在ではない。さらにもはやプラットフォームを問わないPDFでの入稿すら、可能になった。まさに隔世の感がある。

2008年にアスキーから刊行された「Adobe:Innovation これまでの25年、これからの25年」では、アドビの歩んだ四半世紀が凝縮されていた

日本語組版に対応したInDesignも「Adobeの革命」の1つとして取り上げられている

 そして昨年、InDesignは誕生から20周年を迎えた。その後、DTPはすでに出版・印刷業界に深く根付き、デジタルネイティブのデザイナーも珍しくない。写植・活版時代の支えた専用システムやワークフローはすでに化石となりつつある。さまざまなプロフェッショナルツールでDTPを支えてきたアドビが大切にしていたものはなんだろうか? 3人に聞いてみた。

「PostScriptという技術から生まれた会社なので、画面に表示されたものを一寸の狂いもなく、正確にアウトプットする精度の高さ、そしてあくなき表現力を追い求めています。それは最初は紙だったものが、Webとなり、映像となり、今やあらゆるコミュニケーションにおける表現にまで取り組んでいます。こうした挑戦は創業時からまったく変わっていません」(岩本氏)

「変わらないのはソフトウェア技術の利便性を誰でも享受できるように努力していること。専用システムを扱うプロや大企業、研究機関だけではなく、PCやタブレット、スマホのような誰でも使える機材や環境で、最先端のコンピューターサイエンスのメリットを受けることができる。それによって『なにか作ってみたい』という人々の想いに応え、しかも与えられた条件下で最高の品質の結果を得られるように支援すること。このことが、アドビが創業時から受け継いできた考え方の一つだと思います」(山本氏)

「アドビが変わらないところはフォントですね。デジタルフォントの使い方、組版についてこれだけ深い知識やノウハウを持っているソフトウェアメーカーはもはやアドビくらいではないでしょうか。長年フォントを開発しているメンバーもいまだに在籍していますし、私のように働いて四半期になるような従業員もいます。ベイエリアでは珍しいので、『まだいるの?』と言われますよ(笑)」(ノーブル氏)

誰もがクリエイティビティを発揮できる時代にアドビがなすべきこと

 InDesignがDTPへの橋頭堡となった出版・印刷業界は変化を迎えている。紙媒体の部数は減少し、Webや電子書籍といったデジタル化へのシフトは本格化している。また、出版社・印刷会社・卸・書店という業界のヒエラルキーも大きく変化しており、コンテンツの流通や消費形態はこれからもどんどん変わっていきそうだ。ノーブル氏は敏感に業界の変化を感じ取っている。

「今の市場で流行っているアプリやSNSで求められるのは、きれいな組版ではなく、入力や表示のスピード。北米では、すでに学校で筆記体を教えなくなっているので、子供たちは百年前の手紙を読むことはできません。これは悲しいこと。日本でも紙文化、フォント、組版などの文化がなくなるのではないかと危惧しています」(ノーブル氏)

 一方で、ポジティブな兆しもある。インターネットとツールの進化でプロフェッショナルとアマチュアの差がどんどん埋まりつつあることだ。誰もがクリエイティビティを発揮し、コンテンツを発信できるようになった。そんな時代を切り拓くべく、これからもアドビに課された使命は重い。

「最近はスマホで簡単にポスターが作れるみたいな初心者向けのツールも作っています。だって、InDesignの組版設定なんて、プロじゃなければいじれませんよね(笑)。もちろん、今後もアドビはプロ向けのツールを作り続けますが、UIはシンプルだけど、組版はプロの技術みたいなツールもやってみたいです」(ノーブル氏)

「まさに私たちが提唱している『Creativity for All』というフレーズになるのですが、誰でも創造力を発揮し、発信できる時代。プロの声に鍛えられた品質をキープしつつ、手軽に使えることも求められます。そして、時には驚きも必要だし、ベーシックな部分もわかりやすく伝えることもこれからのクリエイティブには重要だと思います。それを実現すべく挑戦し続ける私たちに注目をしていただいて、みなさまも刺激を受けて、日々のデザインワークや発信に役立ててほしいと思います」(岩本氏)

■関連サイト

(提供:アドビ)

Adobe, the Adobe logo, Adobe Photoshop, Adobe Illustrator, Adobe InDesign, and PostScript, are either registered trademarks or trademarks of Adobe in the United States and/or other countries.

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