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アドビ日本法人設立30周年 今だから話せる日本語DTPの夜明け

PostScript、デジタルフォント、InDesign 日本語DTPを当たり前にしたアドビの技術

2022年03月24日 10時00分更新

縦書きだけじゃない 日本語の組版を理解してテキスト処理エンジンを開発

 欧文を前提としたDTPソフトのローカライズでは難しい日本語の組版の特徴とはなにか? 縦組みももちろん特徴的だが、実は日本語の組版の一部に過ぎない。

 日本語の組版は全角の正方形をベースにしており、フォントも記号類をのぞけば正方形でデザインされている。そのため、1行の長さを指定する場合は、1行に含まれる文字数で指定する必要があり、パラグラフ(段落)を組む場合には、最後の行を除いて行頭行末を揃えなければならない。また、1行中で異なるサイズの文字を配列する場合には、上揃え(縦組みでは右揃え)、中央揃え、下揃え(縦組みでは左揃え)と、組み方向ごとに3つのベースラインを使い分けることになる。もちろん、難しい漢字に読み仮名を振る「ルビ」も欠かせない。ノーブル氏たちが目指したのは、これら日本語組版の基本的なルールを理解できるDTPのテキスト処理エンジンだ。

「『普通のローカル版でいいのは?』という社内の声は大きかったです。仕様書を見た開発メンバーも『こんなの開発できない』と言っていました。日本語の組版について理解できなかったからです。でも、クラリスワークスとアップルで働いていたナット・マッカリーのように、日本語の組版にくわしいメンバーもInDesignのチームに参加しました。私たちも日本の印刷会社、出版社、新聞社、フォントメーカーなどの人たちと話合いを持ち、組版について学びました」(ノーブル氏)

 デザイナーであるシェード氏、日本語組版に詳しいマッカリー氏など、日本語DTPに情熱を傾けられる仲間を得て、ノーブル氏は日本のアドビメンバーとともに戦った。まずはマーケティングの観点で、ノーブル氏はまず日本市場のポテンシャルを経営者層にアピール。QuarkXPressのシェアと、そこから大きく引けを取るPageMakerのシェア、そしてこれらDTPソフトよりもはるかに巨大なレガシーの専用システムのシェアと市場規模。そして真に日本語対応したInDesignなら、これらをリプレイスできる可能性があると上司に説いた。

ノーブル氏が使ったInDesign日本語版の企画書

 とはいえ、上司の理解を得るのは難しかった。悩んだ末、経営陣まで直訴したところ、理解を示したのが前職のクラリスで日本語対応の経験を持っていたバイスプレジデントのブルース・チゼン氏だった。チゼン氏の鶴の一声でチームが編成され、ようやく日本語専用のテキスト処理エンジンの開発がスタートした。日本市場が大きいという理由はあったものの、北米のソフトウェア会社が、欧文用のエンジンとは別に、日本語専用のテキスト処理エンジンが作ったというのは、特筆すべき事項と言える。

 英語版のInDesignが出てから2年が経過した2001年、テキスト処理エンジンを刷新した日本語版のInDesignが発売された(関連記事:アドビ、『Adobe InDesign 日本語版』を2001年2月上旬に発売)。

文字通り日本のプロフェッショナル・パブリッシングを変えたAdobe InDesign 日本語版

2000年のMAC WORLD EXPO/Tokyoにはノーブル氏も登壇したという

 当初は不具合も多く、英語版・日本語版を含めて、本当に安定稼働するようになったのはバージョン3.0を待たなければならなかったのだが、InDesignは確実にデザイナーの支持を受けるようになった。

「パートナーやカスタマーから不具合の報告はいろいろ受けていましたので、エンジニアとひたすら潰していき、日本のエンジニアにもテストしてもらいました。ただ、従来の専用システムと同じプロフェッショナルグレードを目指していたので、お客さまが慣れている他のソフトにある機能だからと言う理由だけでInDesignを直したことはありませんでした」(ノーブル氏)

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