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アドビ日本法人設立30周年 今だから話せる日本語DTPの夜明け

PostScript、デジタルフォント、InDesign 日本語DTPを当たり前にしたアドビの技術

2022年03月24日 10時00分更新

 2022年3月27日、アドビの日本法人がいよいよ30周年を迎える。30年間を振り返る記念コンテンツとして私が最初に書きたかったのは、自身も関わってきた紙雑誌の制作を支えたDTP(Desktop Publishing)についてだ。当時の月刊ASCIIをあさり、「革命」とまで言われたDTPの最前線を日本市場に持ち込んだアドビの3人に当時を振り返ってもらうと、今で言う「DX」のような巨大な基盤変革が業界全体で起こっていたことを肌で感じることができた。

1990年代、神谷町にあった頃のアドビの日本オフィス

すべてはPostScriptから始まった

 「アドビ」という社名から、多くの人が連想するのはフォトショ(Adobe Photoshop)やイラレ(Adobe Illustrator)といったいわゆるクリエイティブツールであろう。しかし、1982年に設立された米国のアドビ システムズで創業者が最初に手がけたのは、高精度な印刷を可能にするページ記述言語「PostScript」である。一見地味に見えるこのPostScriptは、DTP革命と呼ばれる出版・印刷業界の業界刷新のまさにイネイブラー(原動力)として機能することになる。

 PostScriptはプリンターへのコマンドのみならず、テキスト、画像、図形などを埋め込んだページレイアウトを詳細に記述できるプログラミング言語だ。パソコンの周辺機器であるプリンター上で実行する複雑な手続きを定義し、ページを構成する要素の形状や配置を指定し、プリンターを制御できる点が斬新だった。

1988年12月号の月刊ASCIIではPostScriptの連載が開始されており、アドビ創業者であるジョン・ワーノック氏も載っている

 PostScriptに対応した高性能なプリンターにアウトライン形式のデジタルフォントを組み込むことで、最終的にプリントされるものと変わらない内容とレイアウトを、画面上で確認しながら編集作業が可能となった。パソコンは対応プリンターに対して高精度な出力が可能になり、ディスプレイで見たままのフォントやレイアウトを出力できるようになる。しかも、これまでのプリンターメーカーではない、サードパーティであるアドビが開発したという点も特筆すべきだ。

 1985年に発売されたアップルコンピュータ(当時)のレーザープリンターである「Apple LaserWriter」は、このPostScript言語の処理系をいち早く搭載。同年、Macintoshで動作するDTPソフトとしてアルダス(Aldus)の「PageMaker」が登場。アップル、アドビ、アルダスの3社がDTPをリードし、1980年代の後半には米国を中心に商用印刷でのDTP化が一気に加速することになる。

1986年11月号で月刊ASCIIに掲載されたDTPの特集(当時はDPと呼んでいた)では、PageMakerとLaserWriterでDTPを実践。既存のドットインパクトプリンターと比べたLaserWriterの出力精度の高さを紹介していた

アップルコンピュータとキヤノン販売が出した「日本語ページメーカー2.0」の広告。PageMakerは当時、米国でのシェア70%以上を誇っていたという

 米アドビから遅れること10年後、1992年に設立されたアドビの日本法人が取り組んでいたのも、このDTPの普及。そのアドビに入社したのが、モリサワで編集やデジタルフォントの開発に携わっていた山本太郎氏だ。アドビに入ったのも、フォント開発者の立場でDTP革命のインパクトに気づいていたからだった。

「ユーザーがそれぞれの目的や予算に応じて、利用する機材やソフトウェアを選んで、柔軟にワークフローを構築していける自由を得られるようになりました。しかも普通のパソコン画面でレイアウトを作って確認し、同じモノをプルーフとして出せる。まさに革命と言えるものでした。そんなDTP市場の出現を目の前にして、ぜひ最先端なことをやりたいと思ってアドビに入りました」(山本氏)

アドビ 山本太郎氏

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