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日本法人設立30周年を迎え、改めて考えるアドビの価値と日本法人の役割

これからもデジタルで心をおどらせる 神谷社長に聞く次のアドビ

2022年04月22日 09時00分更新

 アドビの日本法人30周年を記念するコンテンツの3本目では、アドビ株式会社代表取締役社長の神谷知信氏に話を聞いた。サブスクリプションやEコマースの強化 などを経て、アドビはなぜクリエイティブ製品に加え、マーケティング分野にも注力したのか?市場動向や海外との比較も含めて、神谷氏の洞察と戦略を伺う。(以下、敬称略 インタビュアー ASCII編集部 大谷イビサ)

アドビ株式会社 代表取締役社長 神谷知信氏

この10年で進めたサブスク移行 パートナーとともに成長できるように

大谷:まずは神谷さんのアドビでのプロフィールを教えてください。

神谷:2014年10月にデジタルメディアの責任者として入社しました。アドビの組織はAdobe Creative Cloud、Adobe Document Cloudを主体とするデジタルメディア分野と、Adobe Experience Cloudを主体とするデジタルエクスペリエンス分野の大きく2つから成り立っているのですが、そのうち前者の方です。昨年4月に両事業を統括する形で代表取締役社長に就任しました。久しぶりの生え抜きの日本人社長です。

大谷:まずはこの10年でやってきたことから振り返ってもらえますか?

神谷:1つはサブスクリプションモデルへの移行ですね。アドビは日本で2012年からサブスクリプション型サービスの提供を開始しましたが、私も入社してからまさにCreative Cloudといったクリエイティブ製品のパーペチュアル(永続版)からサブスクへの移行を牽引する立場にありました(関連記事:パーペからサブスクへ アドビの営業が見たソフトウェア販売のリアル)。2015年にはAdobe Acrobat DCを中心としたAdobe Document Cloudを発表していますが、こちらも含めてサブスクへの移行をやらせていただいた感じです。

正直、日本はサブスクへの移行が遅れていました。サブスクリプションという言葉も浸透していなかったので、リースとなにが違うのか?とよく聞かれましたし、国民性でしょうか、購入したモノは自分の手元に置いておきたいという考え方が強いようでした。文化的にサブスクや従量課金に慣れていない中でのチャレンジでした。

大谷:取材でも出てきたのですが、やはりパートナーにサブスクのメリットを理解してもらうのは苦労したのですか?

神谷:アドビ日本法人を設立してからこの30年間、本当にパートナー企業のみなさまに支えられて、ビジネスを拡大してきた歴史があるので、パートナーのみなさまといっしょに成長するというのは、自分の中でも重要なポイントです。決して直販に持っていくのではなく、どうやってパートナーのみなさまの成長につなげるかを考え、サブスクをきちんと理解していただくことが課題でした。

そのため、とにかく丁寧に説明しました。あとは3~5年くらいの将来計画をパートナーのみなさまと膝をつき合わせていっしょに練りました。どれくらいの新規と更新をとれば、3年後に下がった売上が元に戻り、5年後に倍にできるかをいっしょに考えました。並行して、過去のお客さまが移行しやすい価格帯で提供できるようにしました。

大谷:なるほど。確かにサブスクはコストイメージが沸きにくいですからね。

神谷:実はアドビ製品のすべてを一挙にサブスクに移行したわけではないです。パートナーのビジネスや意向に合わせて、最適なプランを提供してきました。元に戻るのに3~4年かかりましたが、今ではほとんどのパートナーは過去に比べてアドビの取引額は倍になっています。

北米のサブスクと同じ体験を日本のユーザーにも提供

神谷:あと、もう1つはEコマースサイトであるAdobe.comの強化ですね。パーペ(永続版)の時代はほぼ100%間接販売でしたが、Adobe.comでは新しいお客さまに対して、われわれのソフトウェアを直販する。こちらも急速に成長しましたが、これもこの10年で大きく変わったことだと思います。

大谷:もともと間接販売体制が充実していた中、あえて直販を増やそうとした意図はどこにあるのでしょうか?

神谷:実は面白いことに、あえて増やそうと思ってはいませんでした。要はお客さまの選択肢が増えた結果なのです。

サブスクでの差別化施策や利用促進を推進していくと、デジタルコンテンツが増えていき、それをリッチにした結果として、直販というチャネルが可能になった。決して、間接販売に比べて、自社のEコマースを優遇したわけではなく、お客さまの購買や調達の方法が変化してきたということだと思います。

現在も直接販売も間接販売も両方伸びているので、間接販売から直接販売へのシフトではなく、間接販売に比べて、直接販売の方が急速に拡大したわけです。

大谷:続いて日本ならでは施策を教えてください。

神谷:日本の消費者がわかりやすいよう、Adobe.comはかなりローカライズしました。日本のお客さまは製品の比較など、かなり読み込む傾向があるので、北米のコンテンツは大幅に手を入れました。あとは体験期間も以前は1ヶ月でしたが、今は日本人に合わせた結果として1週間になっています。

プロダクト自体のUIもきちんと日本語化しました。今はもはやアプリもマルチデバイス化されているので、スマホ上で編集や閲覧したいというニーズは高まっています。しかし、モバイルアプリほどローカライズが遅いという課題があったので、これにいち早く取り組み、抜本的に解決できるようにしました。

大谷:具体的に日本ならではのニーズってなんでしょうか?

神谷:たとえば、1つのニーズはフォントですよね。Creative Cloudのサブスクライバー(購入者)にフォントを無料で提供しているのですが、当時、欧米では5000近くあるのに対して、日本語フォントは10くらいしかありませんでした。でも、アドビジャパンでの開発やフォントメーカーとの連携などで、その後は日本語のフォントをかなり増やしてきました。

とにかく同じ料金をいただいてSaaS型のサービスを提供しているので、北米と同じ体験を日本でも提供する。これを徹底してきました。

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