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〈後編〉ITジャーナリスト高橋暁子とマカフィー執行役員青木大知が語る

大人が知らない子どものお小遣い稼ぎ&誹謗中傷の実際

2020年11月16日 11時00分更新

子どもとネットでのお小遣い稼ぎ

── その他のテーマとして、ネットでの「お小遣い稼ぎ」という話があります。中高生がお小遣い稼ぎにフリマアプリで物を売るようなことが多いようですが、実際のところネット経由のお小遣い稼ぎは若者にとって当たり前なのでしょうか?

高橋 ここ数年、大学生の仕送りは頭打ちになっていて、さらにコロナ禍で減っていると耳にしています。親はスマホ代を出すだけでも精一杯……というようなこともあり、子どもたちはそれ以外の自由になるお小遣いをネットで稼ぐ、ということが当たり前になってきているようです。

 そういった「お小遣い稼ぎ」のなかでも一番敷居が低いのが、メルカリのようなフリマアプリで物を売ること。「自分の持ち物のなかで要らない物を売ってお金にするんだからいいじゃないか」という意識があるのですね。また、欲しい物を買うときにも「メルカリだと●●円で売れるから買いだ」というようなリセールバリューを気にしたり、メルカリで売られている価格を参考にして新品を高額でも買うべきか判断することもあるようです。

── なるほど!

高橋 ほかにも「ポイントサイト」でポイントを貯めるいわゆる「ポイ活」も普通のようです。休み時間などにやることがなかったら、ポイントサイトでポチポチして何円か稼ぐといった行動ですね。

 実際、10代向けのファッション雑誌にも「お小遣いを稼ぐ!」というようなコーナーでポイントサイトの活用法が解説されています。まあ、大人からみると、『それ、本当に儲かってる……?』『費用対効果はどうなの?』と突っ込みたくなるんですけどね(笑)

 子どもたちも「SNSでお金を儲けたい」とか「インフルエンサーになりたい」と考えてはいるようですが、発信するコンテンツや自分のセンス、さまざまな戦略も必要なので、誰にでもできるわけじゃないことは理解しているのです。そんななか、誰でもできる簡単なお小遣い稼ぎがメルカリなのです。

 大人としては、手間暇かけて出品・発送しても大した額は入らない、めんどくさいな……と思うのですが、若者にとっては少ないお小遣いしかもらっていないなかで、わずか1000円でも稼げるのは大きな魅力なのでしょう。1000円を稼げたのであれば「マックに何回か行けるよね」という考えで、「なら頑張って稼ぐぞ!」と。子どもにとって1000円の価値が我々大人とは違うんです。

 いまの子どもたちはいわゆる「ブランドキラキラ」に憧れるような感じではなくなっているんです。ファッションも基本「安かわ系」で、全身で5000円だと「頑張った!」みたいな評価ですから。100均で買えるなら100円で済ますことが普通になっています。大人の感覚とはかなり違っているので、そりゃもうメルカリに向いているだろうな、というのは想像に難くありません。敷居の低さとか稼ぎやすさとか、彼らの稼ぎたい額の低さを考えると、納得できるというものです。

青木 メルカリについては年齢制限はないのでしょうか?

高橋 未成年者は親の同意が必要という規約はあります。しかし該当していても同意なく利用している子どもは多いですし、ましてや大学生だったら自由自在に利用してるようです。お母さんのバッグを勝手に売っちゃった、なんて話もあります。

── それはちょっと……。

高橋 言い分としては「だってお母さん使ってないじゃん」。「高く売れたし、家の中すっきりするし、いいじゃん」と。断捨離して、しかもお金が手に入るという感覚ですね。

青木 最近、郵便局へ行くとメルカリのために並んでいる人が結構いますよね。

高橋 バイト禁止の学校も多いので、お小遣いを稼ぐとなるとスマホを使ってメルカリで……という具合になってしまうようです。

お金の使い方と子どもたち

── ネットやスマホ絡みでどれだけ馬鹿なお金の使い方をしたか? という話をするとき、ひと昔前は「スマホで何万課金した」というエピソードが定番だったと思います。しかし最近よく聞くのは、いわゆる「投げ銭」です。「気づいたらスーパーチャットでVTuberに数万投げていた」といった感じで。稼ぎ方の次は「使い方」をお聞きしたいです。

高橋 そもそも「払えるお金がない」という子どもたちが多いのは確かです。ただ、「推し」がいる場合は、頑張って投げ銭する子もいますね。ポイントは「自分が大事にしているものには金銭をはずむ」ということ。そのため、推しを推すためにがんばってお金を払うとか、趣味には景気よくお金を使うけれども、それ以外に関してはほとんど使わない。

── 反対に、子どもたちが投げてもらう側になるというケースはどうでしょう?

高橋 とても少ないです。自分発信のコンテンツに課金してもらうというのは結構ハードルが高いことなので試みる子どもからして少ないですね。ただ憧れは強いので、自分でも「ちょっとやってみたい」という気持ちはあるかもしれません。ネットで有名になることは、たとえばテレビのオーディション番組でアイドルになるよりも敷居が圧倒的に低いですし。また、ネット上での「推し」が人気者になるとうれしいので応援しているという子は、どこか「自分もなれるかも」という想いを持っているからこそ、推しているという面があるのかもしれません。

── 同一視している側面もあるのでは? ということですね。一方、「見てもらう」欲求がアダルト方面に向かってしまう危険性はないのでしょうか?

高橋 手っ取り早いので、そういったサービスで未成年であることが発覚して摘発される例も結構あります。また、自分は元締めのような立ち位置で、同じ女子高生に声をかけてアダルト系の配信させたということで摘発された例もあります。

 手軽に、自分の身元を明かすことなく、しかも手持ちのスマホで稼げるので、嫌な目に遭わず、個人情報もバレずに配信ができるのであれば、彼女たちにとっては敷居が低く、手っ取り早く稼げる手段……ということになると思います。こういった事例は増加傾向にあります。スマホやSNSが若者に行き渡り、かつコロナ禍でバイトができなくなった状況・環境も関係していると思います。

── コロナ禍でバイトができなくなったという人は多いのでしょうか?

高橋 多いですね。飲食店の場合は、閉店増や時短でバイトのシフトが減らされるというケースです。塾もしばらく閉鎖されていたため、その間の講師収入がまったくなかった学生も少なくありません。学費以外の生活費は自分で稼ぐことになっているとか、生活費はもらっていても娯楽費は自分で出すことになっている学生も多いです。そのため、ほとんどバイトができないとなると、やはり生活が苦しくなるようです。

 だからこそ闇バイトに手を出して摘発される若者が後を絶たなかったわけです。一時期は「コロナ」「高収入バイト」などで検索すると、簡単に闇バイト募集に行き当たりました。特殊詐欺の出し子・受け子といったアポ電詐欺の片棒を担がされるのです。また「持続化給付金」の申請詐欺に大学生が関わって摘発された、という報道もありました。こういった事件が目についたのは、やはり生活が苦しいためです。

 大学生ってもともと特殊詐欺に狙われやすいんです。成人していればクレカも作れますし、借金やローンもできますから。悪意ある人たちにとって、社会経験が少なく、独り暮らししていて、周りがコロナで相談できる人もいない……という大学生は一番狙いやすいのしょう。

特殊詐欺に関わり、検挙される少年の割合は年々増加している(警察庁『少年からのシグナル』より引用)

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