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プロ棋士側が先勝した第一局・二条城の観戦レポート|将棋電王戦FINAL

2015年03月20日 20時30分更新

将棋電王戦FINAL第1局レポート

 プロ棋士とコンピューターソフトがガチ勝負する将棋電王戦はプロ棋士側が先勝した。第1回の米長邦雄永世棋聖vsボンクラーズはボンクラーズの勝利。第2回からは5人対5ソフトの対決となり、プロ棋士側の1勝3敗1分、第3回はプロ棋士側の1勝4敗と、勝敗だけ見ればコンピューターソフト側が圧倒している。

 今年で最後となるこの戦い。プロ棋士側としては、ここで負け越して終わるわけにはいかない。日本将棋連盟が選んだ棋士は、コンピューターソフトを使いこなしたり、研究熱心だったりと、段位や成績にとらわれない“勝つ”ための人選をし、かなり気合を入れて臨んでいるはずだ。ただ、逆に負けてはならないという相当なプレッシャーがかかっているに違いない。

 昨年11月に行なわれた振り駒の結果、プロ棋士側の先手で始まった第1局。このような状況の中で斎藤五段が勝利したことは、この後続くプロ棋士側を勇気づけることにもなるだろう。そんな第1局をレポートしよう。なお、カッコ書きの時間表記は、タイムシフトで見たときのおおよその時間。タイムシフト視聴棋譜電王戦FINALのサイトで見られる。

将棋電王戦FINAL第1局レポート
↑京都の二条城。世界遺産の場所で今回の対局の幕が開ける。

 対局場所となった京都・二条城は、あいにくの雨模様だった。前日の準備のときはそれほど寒くなった気温も、この日は底冷えする寒さ。舞台は二の丸御殿の台所。寛永期に建てられたもので、現在は一般公開されていない。大政奉還を発表した大広間がなどがある二の丸御殿の北東側にある。その台所にある板敷の広間に設置された舞台は、前回の木組みで造られた畳敷きの和風なセットではなく、白色でモダンな仕様のセットに。板敷きの広間と戸板に囲まれた台所ではちょっと浮いた感じだ。

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↑二条城の二の丸御殿・車寄。大政奉還が行なわれた大広間などの建物の入口で、一般公開されている。
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↑天守閣跡から本丸御殿を望む。昼には雨が上がっていた。
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↑二の丸御殿・台所の正面。扉を開けたところが土間。そこから板の間に上がったところが対局場所。

 対局開始前のときは、雨だったことと窓が少ないこともあり、かなり薄暗いなか、照明によりセットが浮かび上がっている状態。Aperyの開発者・平岡拓也氏は正面左手奥に座り、斎藤五段を出迎えた。

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↑斎藤五段の登場シーン。扉が開いて土間に入ってきたところ。土間と言っても砂利が敷かれていた。
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↑室内は薄暗く、照明により舞台部分だけが明るい。相当寒かった。

 斎藤五段が登場し、将棋盤の前に座る。背後には電気ファンヒーターが2台(のちに1台追加)並び、ひざ掛け用の毛布も用意されているほど、対局場は寒かった。

 斎藤五段が先に駒を並べ、続いて銀色に輝く電王手さんが駒を並べる。最初に肩を回すような動作をしたが、なんとなく「よし、いっちょもんでやるか」的に見えてしまったのは私だけだろうか? この動作のホントの意味は、のちほど。

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↑対局開始前、電王戦のエクゼクティブプロデューサーである角川歴彦KADOKAWA会長も記録席に。

 そしていよいよ対局開始。▲7六歩△3四歩▲2六歩と進み、8手目は11分ほど考えて△4二飛と四間飛車の戦型をチョイスした。これに対して斎藤五段は穴熊を目指す展開。序盤はAperyが一手に10分以上考えることが多く、慎重に指していた。

 昼食休憩時の残り時間は、斎藤五段が4時間44分、Aperyが3時間22分とかなり開く。この頃には雨も上がり、太陽も顔をのぞかせていたが、肌寒いことに変わりない。

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↑お互い礼をして対局開始。礼を合わせるのが難しい。
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↑斎藤五段の初手は▲7六歩。序盤はあまり時間を使わず、Aperyのほうがかなり慎重に指していた。

 午前中の中継で、電王戦のエクゼクティブプロデューサーである角川歴彦KADOKAWA会長が登場(1:03:20ごろ)。

藤田綾女流初段「対局前の雰囲気はいかがでしたか?」

角川会長「(将棋は)人間同士の対決をずいぶんと見てきましたが、機械相手というのは結構緊張するもんですね。もっと楽な気持ちで見られるかと思っていました。何か、緊張感を強いりますね。非常にいい雰囲気でした。デンソーさんがつくった電王手さんがお辞儀する姿を見て、エイリアンと戦うかのような感じで、斎藤五段が愛おしく見えた。緊張感が漂ってましたね」

 途中、門川大作京都市市長からのメッセージが伝えられ、奨励会に所属していた角川会長が、将棋の話も披露しつつ話は展開。そして最後に本音をぶっちゃけた。

角川会長「このような電王戦という良い番組が今後継承されていることを願っています。FINALがFINALじゃなくなるかどうかの瀬戸際に立たされています。どうかみなさんからも、ぜひ継続する声を寄せてほしい。日本将棋連盟が重い腰を上げてくれることを願います」

 さすがは会長。日本将棋連盟関係者やプロ棋士の皆さんが多く見ているなかで、このような発言はなかなかできない。これには藤田女流初段も笑うしかない。来年からタッグマッチの形式に切り替わるが、これまでの戦いとはおもしろみがまったく違う。正直な話、このようなガチ勝負を、ぜひとも続けてもらいたい。

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↑台所の建物の裏側。こちらから関係者は出入りする。
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↑台所の正面側にはトラックとテントが。飲食が建物内でできないので、このテントまできて飲食する。
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↑木の影に隠れているが、赤い機械は発電機。これで電気をまかなっていた。

 午後に入り、28手目△6五銀がこの対局のひとつのキーポイントとなった(3:54:50ごろ)。大判解説の中継でも言われていたが、控室でも予想外の手と継ぎ盤の前の棋士たちは少し騒がしくなった。

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↑控室には、ディスプレーが4台ならび、リアルタイムの映像とニコ生が流されていた。

 今回の控室には、報道関係者とプロ棋士の方々しかおらず、残念ながらコンピューターソフト側のメンバーがいない。開発者目線の言葉が聞けず、人間側目線の意見だけが飛び交う状況。評価値を担当しているのは『習甦』だが、読み手は違っていたが、この手を指しても数値はあまり変わらず、斎藤五段が-50だ。コンピューターソフトにとっては、そんなに悪いという手ではないようだ。

 

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↑棋士の方々が検討していたが、コンピューター側の開発者はおらず。ちょっとさみしい。
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↑Surface用のアプリ、DENOUBANを使って解説。コンピューターの予想とか評価値なども見られ便利。
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↑画面はこんな感じ。とても見やすく、一般に公開してほしい。

 この手に対して20分強考えた斎藤五段は、角交換に。35手目には▲2一飛成りと戦いの火蓋が切られた。

 2時半ぐらいの時点での評価値は斎藤五段の-1と互角。このあと、40手目に△4七歩成りと踏み込んだが、大判解説の木村九段はあまり予想しなかった手のようだ。評価値は斎藤五段の110。ちなみにこの手が電王手さん初の成り動作になる(5:41:00ごろ)。

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↑電王手さんの開発を指揮したデンソーウェーブの澤田氏。

 ここで、電王手さんの開発を指揮した澤田氏にお話を伺った。

――今回開発するにあたっての目標は?

澤田氏「目標はハンドの中で成りを実現することでした」

――今回は掴む動作に変更しましたが、これは成るために取られた手段ですか?

澤田氏「前回の吸着の場合、エアーコンプレッサーを導入しなければならず、どうしても音が出てしまう。あと、ホースが外へ出てしまって、ちょっとかっこ悪いところもありました。なので、どうしても掴みたかったです」

――動作的には、カメラで撮影して位置を確認し微調整して掴む。

澤田氏「見た目的には変わっていないですが、今回は隣のコマの位置も見ていて、爪が入るかどうかのチェックもしています。そのため、両隣のコマの位置も合わせて3回撮影しています」

――そうだったんですね。撮影している時間が長いなと思っていました。もし隙間がないときはどうするんですか?

澤田氏「そのときは、我々に警告を発っするようになっていて、棋士の方にコマの位置を修正していただきます」

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↑電王手さんの制御画面。右側は盤上を撮影して挟めるかどうかの画像認識。

――前回、インタビューした際に次回つくるとしたらどのようにしたいかと伺ったとき、音を鳴らしたいとおっしゃってましたが、実現は難しかったですか?

澤田氏「難しいですね。どちらが重要かといった場合、今回は成りを実現することかと。あと、ちょっとリスクが高いですね。弾かせるという動作が、駒を飛ばしかねないので、リスクを追うことはできないと判断しました。成りは機能的にも必要だと思いましたので」

――成るときはちょっとカメラに向かって見せるような動作ですね。

澤田氏「あれは、棋士の目の前でやるのは失礼かなと思い、極力内側でやるようにしたら、そこにカメラが設置されたということです(笑)」

――あと、駒を並べる前に肩を回すような仕草をしましたが。

澤田氏「1回ハンドが動くかどうか確認するために、特に意味のない動作なのですが、初めて動かすという動作の中でちゃんと動くというのを見てから仕事しても らうと、安心感があるんです。ハンドがカチカチとやっているのも、実際にハンドが動くか確認した上で、駒を並べに行けるという。我々の安心感だけの動作で す」

――前回より若干動作がゆっくり目かなと感じましたが。

澤田氏「前回のロボットよりも若干ガタイが大きく見えるので、圧迫感があります。このため去年より速度を落としています。特に、プロ棋士側へ移動した時の速度は相当落としています」

――将棋電王戦自体は今回で最後になってしまいますが、また電王手さんの開発を頼まれたら受けますか?

澤田氏「いや、わからないですね(笑)。会社の方針に従います(笑)」

――次開発するとしたら、何を実装させたいですか?

澤田氏「現時点ではまったく考えていないですね。いまは、(電王手さんが)ちゃんと動いてくれるか心配なので。今回の電王戦が終了したあとにゆっくりと考えたいです」

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 その後、この対局で斉藤五段が一番長考したのが、46手目△5七と金と、銀を取られた局面。夕食休憩を挟んで50分ほど時間を使った。ただ、この時点で残り時間が2時間43分もあるので、まだまだ時間はたっぷり残っている。評価値は斎藤五段の191。

 54手目△2二飛と指したとき評価値は斎藤五段の256に。ここから徐々に評価値が開いていくことになる。66手目、▲6一角打ちと指したとき評価値は斎藤五段の1000を超え、△6七歩成り、▲6二銀打ちと勝負を決めにいった。評価値も2000を超え、控室は斎藤五段がもう勝つと余裕の表情。検討も打ち切られた。

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↑このころは、すでに検討は終了。控室は明るい雰囲気だった。

 81手目に評価値は斎藤五段の9999を付け詰みが見つかる。このときAperyはすでに秒読みに突入していた。ここから、Aperyは王手を指す手がなくなるまで続けた。結局115手まで進みAperyが投了。終局時間は20時44分。プロ棋士側が貴重な1勝を挙げた。

■投了後の会見

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――今日の将棋は相手が四間飛車で、そのあと穴熊なるかという展開でしたが、戦いが始まるまでは想定されていたのでしょうか?

斎藤五段「本譜のような激しくなる将棋は予想はしていましたが、まさかここまで一気の戦いになるのは予想していなかったです。考えていたカタチではありますが、本命の将棋ではなかった。指される可能性はある将棋だと思っていました」

――激しい戦いになったところのご自身の形勢は。

斎藤五段「少しは自信があった形勢でしたが、少しの差で逆転するとは思っていました」

――かなり有利だと思い始めたのは?

斎藤五段「自玉が金と龍で守られていた時がありましたが、そこで攻め合いになったので、後手の王が薄くて攻め合いがちになるのではと思っていました。受けに回られたらよくわからないと思います。△4五角の攻め合いなら少し余せているかなと思っていました」

――その後は勝ちに近づいたと。

斎藤五段「そこからは、間違いがなければいけると思っていましたが、最後まで気は抜けないということで、勝つのは大変だと思っていました」

――どういう将棋が指せましたか?

斎藤五段「作戦的には、うまく指せたとは思います。細かい時間の使い方も工夫はしてみて、それが全部いいように進んでいって、驚いています。しっかり準備してきたことは出せた一局だったと思います」

――Aperyの印象は?

斎藤五段「本局のように踏み込んでくるのは珍しいかなと思います。この一局は少し荒さがあった気はします。ふだんの練習の時のような強さは影を潜めていた気がします」

――斎藤五段自身はこの一局をどう考えて指されたでしょうか?

斎藤五段「電王戦FINALの先鋒ということで、厳しい勝負に臨むことになると思っていましたが、自分にとっては一局しか指せない1番勝負の形では、結果は出せたと思います。ただこの1勝だけでは、大きく影響しているとは思わないです。与えられた条件の中でやるべきことはやれたと思います」

――どんな気持ちでしょうか?

斎藤五段「ホッとしました。対戦していて、すごく強いソフトだと思っていましたので。完敗してもおかしくないと思って臨みましたが、勝負は時の運だと思います」

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――平岡さん自身は今回の戦いの推移はどうみていましたか?

Apery開発者・平岡拓也氏「Aperyは定跡が入っていても、定跡を使わずに自分で指してみたり、最善手を常に指すわけではなく、評価値の近い違う手を序盤に限っては指すようにしています。今回はほとんど囲わずに始まったというのがポイントかなと思います。読みにはずっと美濃に囲うとか穴熊に囲うとか出ていたんですが、すべて見送って激しい将棋になったのが、自分が見ていても驚くぐらい、私はあまり将棋はわからないのですが、それでも攻めているとわかるぐらいの将棋をしている印象がありました」

――徐々に形勢が悪くなってきましたが、その時の気持は?

平岡氏「今回形勢が良くなるということはほぼなかったですね。読みを外されることが何度かありましたが、今回の将棋に関しては、読みを外されるたびに形勢を大きく損ねる評価をしていたので、完全に力負けでした」

――プロとの対戦は初めてでしたか?

平岡氏「なんと言葉に表わせばよいのかわからないですが、コンピューターらしいところはいっぱい出せてよかったと思います。先にこだわっていたのですが最後、王手ラッシュになっても投げずに最後まで続けられて、囲うところを囲わずに戦ったり、人間なら常識として省いてしまうところをしっかり考えて指したことは、コンピューターらしくてよかったと思いました」

――今回は敗戦してしまいましたが感触というか感想は?

平岡氏「1局だけの勝負ですから、この1局だけで判断されるということはわかって参加していますし、今回は素人目に見ても不甲斐なかった気がします。たからといってホントはAperyは強いとはあまりいわない方がいいかなと思います」

■対局後の記者会見

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斎藤慎太郎五段

「無事に1局終えてホッとしています。関係者やスポンサーの皆さんや平岡さんなどみなさんの協力によって実現できたと対局だと実感しております。ありがとうございました」

 

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平岡拓也氏

「負けたことは残念でしたが、ある意味良かったことがありまして、当初ソフトの貸出などこのルールに不満がありました。棋士が勝っても手放しで喜べないんじゃないかとか、ケチがつくのではないかとか、そういう心配をすごくしていました。ただ、今日の対局を見る限り、序盤の△6五銀あたりですごく驚かれていました。あの時点は形勢がどうというわけではないですが、結局完敗して完全に力負けでした。もし今回のルールでケチがついたらもったいないと思いましたが、斎藤五段は非の打ち所のない素晴らしい指し手でした。斎藤五段が素晴らしいということをみなさんに伝えたいです」

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立会人・福崎文吾九段

「コンピューターと人間ですが、ある意味人間対人間の戦い、開発者の魂がこもったマシンと戦うということですから。人間に関しては、小さい時からプロ棋士として戦ってきて、勝ったからといって自慢できるものではありませんが、格別なプレッシャーがあるということで、斎藤五段にとっては勝っても負けても貴重な体験になったと思います。立会としてトラブルなく最後まで終わったことは喜ばしいことで、電源が落ちることがあったら辛かったですので、正々堂々戦え、最後まで見届けられたことはよかったです」

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島朗常務理事

「将棋の内容については福崎九段の言うとおりですが、斎藤五段がご覧のとおり謙虚に臨まれで、みやびやかに勝たれた素晴らしい内容だったと思います。平岡さんも気がきではなかったかと思いますが、開幕局にふさわしい内容だったですし、お互い敬意を称して戦われたと思います。素晴らしい内容になったことを喜んでおります。関係者並びにスポンサーの方々のご協力のもとこの棋戦を設けていただきありがとうございました」

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第2局対局者・永瀬拓矢六段

「今日は斎藤五段がAperyと対局するのを1日中見ていました。斎藤五段はAperyのことを理解しているからこそ、できるような戦い方をされていたと思います。なので人間のよい所が出て、Aperyの悪いところというわけではないのですが、人間がソフトにまさる部分を武器に変えて、そこを突くことができたのは、斎藤五段がAperyに対して正面から向き合って、時間を掛けて努力をした結果だと思います。自分も1週間後にSeleneというとてもとても強いソフトと対局しますが、練習のときはなかなか勝つことができず、ただ対策自体は少しずつ少しずつ積み上げていっているので、良い結果になればいいなと思います。ありきたりですが、負けない戦いをして、団体戦ですので、将棋界を傷つけないよう頑張りたいと思います」

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――昨年、一昨年と団体戦で敗れており、先鋒としてプレッシャーがあったと思いますが。

斎藤五段「今までの電王戦を見ていく中で、正直私より成績が上、少なくとも私よりは実績が上の棋士が出ていて、その上での苦戦といいますが、苦杯の結果でしたから、私が出ることがよいことなのだろうかという疑問がありました。でもその中で選んでいただき、少なくとも自分の中だけでは自信を持って戦いたいと思っていました。ただ、1日で結果が出るので、不安しかなかったですね」

――対コンピューターの指し方を研究していたと思いますが。

斎藤五段「指し手自体を調べておけば、読む量が少なくて済みますので、それは当然のことですが、どのくらい時間を掛けて読むのか、自分が長考したときにどのくらい掛けて返してくるのか特徴はあると思います。それを練習させていただいた時に、ひとつひとつ分析していったので、見たことのない局面でも、どの展開を使って指していこうかと思いました」

――事前準備の想定内で進んでいったのか。

斎藤五段「28手目△6五銀は驚いたふうではあったのですが、起こりうる展開ではあると思っていました。なので想定内といいますか、こうなったときどうするかは考えていた局面で進んではいきました。それでもそれがくるかは本番になるまでは分からず、想定する局面は20、30とあったのでそのうちの1つが少し予想外の形で来た感じではあります。ただ20、30ある局面の中から形が決まったことで、これから始まるぞという思いもありました。驚きもありましたが、ようやく戦い方が定まったという気持ちもありました」

――事前にどのくらい練習対局をしたのか。

斎藤五段「序盤で有利になりたいという気持ちがありました。なので、序盤を集中して指していました。そういう意味では1局を指した将棋は100、200程度に過ぎないです。序盤30手40手までの棋譜のデータは400から500ぐらい取りました。その中で自分が指すだけでなく、ほかのコンピューターと対局させたり、データ収集にこだわりました。正直終盤を指したのは100局あるかぐらいですので、こだわりを持って練習してきました」

――事前の練習で、公式戦への影響は?

斎藤五段「将棋の指し手は驚くこともありましたが、自分でその手を指すということまではいかなかったです。自分が思いもよらない指し手は多く出てきて、将棋はそんなに狭いものではないというか、自分は居飛車で指すことが多く、偏りがちだが、序盤はどう指しても難しいと語りかけられているかのように感じました。それで気持ちも少し変わりましたし、将棋に対しておもしろいなと思う部分もありました」

――今日寒かったですがいかがでしたか?

斎藤五段「何が起こっても動じないよう、心がけてはきました。でも正直寒かったです。それが将棋に影響することはなかったです。途中からは気にならなくなりました」

平岡氏「寒かったですし、何もやることもなくじっとしてました。初めて間近で棋士が戦う姿を見られましたし、たくさんの関係者の方が用意してくださった場で、やらせていただいていることに感謝していました。中盤以降は、敗勢だったので何をしゃべろうかなと考えていました(笑)」

――自分のプログラムの課題はなにか感じましたか?

平岡氏「今回はできるだけ長い将棋にしようと思っていました。それには角道を止めるほうが開けているより長くなるなど、調整しました。評価関数自体は、プロ棋士の棋譜は片っ端から取り込んで学習しているので、角道を開けて戦う棋譜も含まれていますが、振り飛車と若干合っていないのではないかと思いました。角道を止めてもすぐ開けてしまいましたし、攻めたがりになっていました。もう少し受けて受けて粘っていく将棋にしたほうが、勝てる可能性も高まったのかなと思いました。では、その部分を修正するのかというとそうでもないですし、強くする上では難しいところです。今回の反省をどう活かすか。負けパータンの1つとして、コンピューター界にはよい棋譜を残せたかなと思います」

――6五銀を含め想定外な手はありましたか?

斎藤五段「28手目△6五銀は、そのような指し手があるということは想定していました。2、3指される手を考えていて、その中でも一番激しく自分が決断を迫られる手でした。なので勝算がある手ではなかったです。そんな中でも仕掛けていって結果的には勝てたので、良い決断ができたかと思います。驚いていたこともありますが、自分が決断しなければならない切迫した気持ちになったところでした」

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最後に平岡氏が視聴者へのメッセージを語った。

平岡氏「会見の最初に不満を漏らしてしたが、ネガティブな感情だけで出たことではなく、電王戦は将棋をあまり知らない人だとか、プログラムに興味があるとか、あまり将棋に興味がない人も見てくださっているので、もっと将棋に興味を持ってほしいですし、将棋を指してみたいと思ったり、斎藤五段がカッコイイから応援して“見る将”が増えるといいですね。プログラム面でもコンピューター将棋ってどうなっているのだろうと興味をもってもらってもいいですし。今回せっかくですので、Aperyを公開する形でみなさんに使っていただきたいと思います。プログラムに興味をもった方のためにオープンソース化しようと思っています。それを見て興味をもってもらいたいです」

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 ということで、相当斎藤五段はAperyを研究したようだ。前回の豊島七段もそうだったが、研究に研究を重ねた棋士は強く感じる。というのも、素人目だが、見ていてハメ技みたいなふだん指さないような手をわざと指して勝ったということではなく、徐々に差を広げて勝っていくという、相手が人間と指しているかのような展開なのだ。

 一方、Aperyの開発者・平岡氏は、最後まで指すという信念を持ち、これがコンピューターの戦い方だということを示した。これまで電王戦で負けた習甦の開発者・竹内氏やYSS開発者・山下氏が最後まで指さず、プロ棋士と同様勝ち目はないとみるや、投了を宣言していたのとは考え方が違う。終盤の王手ラッシュに、控室では「あぁコンピューターらしいよね」という雰囲気が立ち込めており、こんなことでコンピューターが揶揄されるのも辛いので正直私は投了を宣言すれば良いのにと思った。でも、平岡氏はそこまでもがコンピューター将棋として最後まで投了はしなかった。そんな話を対局後に聞き、コンピューター将棋を開発した誇りと気概をものすごく感じた。

 たとえ自分の評価値が-9999となっても、相手が変な手を指せば一発逆転だってありうる。コンピューターに投了判断はできないだろう。人間は相手がミスる可能性があっても、負けを認められる。それは数値では表わせない。

 もうひとつ、Aperyのオープンソース化は、将棋ソフトの発展に貢献するかもしれない。ボナンザ以来の出来事であり、ボナンザ以降の複雑化した評価関数を見られるからだ。電王戦の戦いを見て将棋ソフトに興味を持った人は、すでに公開されているので、ソースを見て研究することをオススメする。

 第1局は、斎藤五段の完勝で終了したが、次回以降このような展開になるとは限らない。第2回のときも阿部光瑠五段が初戦を勝ったがその後続かなかった。明日から高知県の高知城で行なわれる第2局・永瀬拓矢vs.Seleneの戦いに注目だ。

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■関連サイト
将棋電王戦FINAL公式サイト

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