週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

第2回電王戦初戦は人類・阿部四段の勝利!(観戦記)

2013年03月25日 14時00分更新

文● いーじま 撮影●篠原孝志

初戦は人類・阿部四段の勝利!!

第2回電王戦・第1局

 東京・千駄ヶ谷の将棋会館で行われれた第2回電王戦の初戦、阿部光瑠四段vs.習甦(しゅうそ)の対局は、、阿部光瑠四段が113手までで勝利した。

 阿部四段の先手で始まった注目の初手は、▲7六歩と奇をてらうことなく、ふだんと変わらない差し手だった。序盤は角換わりの展開となり、トントンと進んでいったので意外とすぐ終わってしまうのではと思われたが、その後はコンピューターが意外と時間をかけて読みつつ指し、お互いしっかり駒組みをする展開に。そのままお昼を迎えた。昼の休憩までの残り時間は、阿部四段が3時間22分、習甦が3時間だった。

第2回電王戦・第1局

最初の数手は、開発者の竹内章氏が盤の前に座り指していた。

第2回電王戦・第1局

 いっぽう、大盤解説が行なわれた六本木・ニコファーレでは、解説者の阿久津主税七段と聞き手の矢内理絵子女流四段による軽快なトークを交えた解説が行なわれた。タイトル戦というわけではなくしかも有料なのに、会場にはたくさんの将棋ファンが詰め掛けており、注目度の高さが伺えた。
 ロビーには今回対戦する5人の棋士といっしょに撮れるプリクラが登場。こんなプリクラは2度とお目にかかれないと思うので、将棋ファンならぜひとも撮影してほしい。ちなみに、ロビーのみは無料なのでお気軽にどうぞ。

第2回電王戦・第1局

解説は阿久津主税七段、聞き手は矢内理絵子女流四段と美男美女によるトークは、軽快でかなりおもしろかった。

第2回電王戦・第1局
第2回電王戦・第1局

ニコ生で見ると、観客席の部分はCGで盤面が表示されるが、実際はこんな感じ。大盤解説は有料だけど、ゲストもいろいろと登場して見る価値あり!!

第2回電王戦・第1局

故・米長永世棋聖の直筆の電王戦色紙も飾られていた。

第2回電王戦・第1局
第2回電王戦・第1局

今回対戦する5人の棋士とプリクラが撮れる。ロビーにあるのでぜひ!!
 

 阿部四段の昼食は、うな重の松とマグロづくし。昼食としては最高額なんじゃないかとのこと。スタミナ十分といったところで午後に入り、先手が▲3七桂と跳ねたら、すぐに後手が△6五桂と跳ね、小競り合いが始まった。のちの記者会見で、阿部四段の研究の結果、この桂跳ねが出やすいと読んでいたので誘っていたとのこと。この時点でボンクラーズの評価値(ニコ生の画面に表示していたもの)は習甦の+14だったが、▲6八銀と引いたところ、評価値は習甦の+174に。その後、46手目で△5六飛、▲同飛となったところで習甦の+431までなった。ただ、着実に阿部四段は習甦の攻めを受け、56手目の5六桂成で阿部4段の+4と初めて+評価となる。

第2回電王戦・第1局

習甦が動いているマシン。Xeon E5-2687W×2、メモリーは16GBだ。マシンの上にあるディスプレーは盤面上のカメラ映像用。

第2回電王戦・第1局
第2回電王戦・第1局

このころの控え室。遠山五段や中村太地六段ほか、何人かで検討していた。しかし、この時点で阿部四段のほうが優勢だろうと思われていたので、みなさん表情は明るい。

第2回電王戦・第1局

ニコ生の現地からの中継は、控え室から行なっていた。このときは貞升 南女流1級、中村太地六段、佐藤紳哉六段によるトーク。

 

 その後は、66手目の△8四歩に119の評価値となってからは、ずーと阿部四段が+評価値に。コンピューターも人間側有利と認めだした。75手目の▲3四歩、△同銀で1289と1000を超え。この手は、のちの会見で阿部四段が勝ちを確信したところで、ほぼコンピューターもそのように感じているとこになる。

 そして18時32分、習甦が投了となり第1局が終了した。終了後は記者会見を行ない、以下のようなやりとりがあった。まずは今日の対局について、それぞれの立場で答えた。

第2回電王戦・第1局

第2局の佐藤慎一四段、第5戦の三浦八段、第4戦の塚田九段も控え室で観戦していた。
 

第2回電王戦・第1局

終局直後の様子。コンピューターの差し手は三浦初段が行なっていた。

第2回電王戦・第1局

習甦を操作するクライアントソフトの画面。下段は読んでいる手、棒グラフは、評価で、上側が人間。消費時間が合わないのは、実際は1分以内は切り捨てのため。

第2回電王戦・第1局

今回の棋譜。字がとてもきれいですね。

第2回電王戦・第1局

阿部四段 率直にうれしいです。盤の前に座るまではいろいろな思いもあり緊張してましたが、盤の前に座るとやっぱり将棋は将棋なので、楽しく指せました。電王戦に選んでいただいて、勝てたのがうれしいですし、強いソフトに勝ったのもうれしかったです。

習甦開発者・竹内氏 結果も内容的にも、後半無駄な差し手が目立って残念でしたが、こうやって記憶に残る対局に参加できたことをうれしく思います。今回この和装は、周りにいたあまり将棋に興味のない人にまで衣装の心配していただいて、祖父の衣装を着ることになったものです。いい棋譜を残したかったのですが、少し残念な結果になってしまいました。途中開発でうまくいかない部分もあったのですが、何とか間に合って戦えたことはよかったです。

コンピュータ将棋協会・瀧澤会長 コンピューター将棋協会の会長という立場ですが、今回はなるべく人間側に多く買っていただきたいと思ってます。そのほうが、データが集まるといいますか、プロ棋士が真剣に指した棋譜は非常に貴重なものなので。しかも、今回は阿部四段が対プロ棋士と同様に『習甦』に対して研究した上で、結果を出していただいたのはたいへん貴重です。このよう機会を与えていただいたことに感謝いたします。

立会人・飯野七段 対局の結果、指し手を論ずるのはおこがましいので控えますが、実は本日は故・米長永世棋聖の百か日法要の日でありまして、奇しくも第2回電王戦の初戦と重なり、さらに2人の盤上に米長玉が登場し、これは偶然とは思えない、米長前会長が導いたのではないかと。きっと今どこで、ホッとして笑顔で会場を見渡していると思います。

田中寅彦九段専務理事 正直ほっとしています。練習のときそうとう苦戦している姿を見てどうなるのかと思ったのですが、お昼にうなぎとすしを頼んでいるのを聞いて、これは大丈夫かなと思いました。米長前会長も、さぞかし喜んでいることと思います。これから五番勝負が盛り上がっていくと思いますが、第2局の佐藤四段にも相当プレッシャーがかかっているでしょうけど、それをはねのけてがんばってほしい。

佐藤慎一四段 阿部さんの差し回しが非常に完璧で、練習でもいろんな人を見てきましたが、こんなに上手に指した人はいなくて、人間側にとっていい例であり、阿部四段の才能に驚きと心強い気持ちになりました。今日の結果を見ましたが、阿部四段と自分の将棋は違いますし、相手も違いますし、自分は自分として今日のように人間側の圧勝になるとは思わないので、ぎりぎりになるのではないかなと予想しています。

――佐藤四段になにかアドバイスはありますか?
阿部四段 アドバイスできる立場ではないですが、とりあえず団体戦として1勝できたので、気楽に臨んでいただければと思います。

――準備と本番とで何か違いはありましたか?
阿部四段 今回▲7六歩、△3四歩、▲2六歩、△8四歩となったんですが、自宅で練習対局をしていたときは▲7六歩、△8四歩、▲2六歩と定跡系で、自分から角交換していかなかったんです。だから一手損の角換わりになってしまいましたが、△4四角▲9八玉までは、▲3七桂、△3一玉の形は入ってますが、ほぼ研究どおりでよかったと思います。

――阿部四段はよく鼻をかまれていましたが。
阿部四段 花粉症というかアレルギーをもっていて、風邪もちょっとひいていたかもしれません。対局時はいつもこうなので、気にせず指していました。

――コンピューターはそういうヒューマンファクターはないですが、それでやりにくさはありますか?
阿部四段 うらやましいのがコンピューターは緊張がないので、悪い手でもぶれたりしないので、無理でしょうけど、そういうのは見習いたい。

――本日の『習甦』のマシンスペックは?
竹内氏 CPUはXeon E5-2687W(8コア、3.1GHz)×2、メモリーは16GBです。1秒間に千数百万手読むぐらいです。

――今後の課題としては?
竹内氏 終局後に指摘された桂が跳ねやすいということなんですが、機械学習させているため、すぐにそれをどう反映させればいいのかは難しい。今後考えていきたい。

――序盤は誘うような差し回しをしていたようですが、研究した結果なのですか?
阿部四段 そうですね△6五桂と跳ねてくれればいいなと思っていましたが、本番でもそうなって。ただ△2二玉と上がられていたので、△6五桂と来られてもあまり自信はなかったです。コンピューターは攻めをつなぐのがとてもうまいので。自宅では玉が上がらずに△6五桂と跳ねることが多く、玉が入った形は一局も指していなくて。でも、そのあとの手順は研究していたものだったので、ありがたかったです。

――昼がうな重の松とまぐろづくしでとても注目されましたが。
阿部四段 うろ覚えなんですが、順位戦で吉田正和五段がうな重と特上の寿司とさらにうどんを注文されていて、どうなんだろうと思い食べました。大トロと中トロが残ったので、三浦初段にあげました。

――お昼のあたりはどうでしたか?
竹内氏 昼食休憩までは、ふだんどおりの力を発揮していたので、落ち着いて食べられました。

――今日の対局にあたり、どのくらい研究し、作戦を決めて臨んでいたのでしょうか?
阿部四段 順位戦が終わってから、3月に入って毎日持ち時間4時間で打っていました。だいたい20局以上はやっています。そのうえで、だいたいこうなるかなとは思っていましたが、作戦は決めていませんでした。

――4手目、横歩取りをしなかったのは?
阿部四段 自分、横歩取りできないので(笑)。角換わりのほうが得意なので。

――持ち時間4時間という時間はやりやすかったですか?
阿部四段 そうですね。練習のとき持ち時間1時間で対局していたのですが、すごい優勢でも1分将棋になると、ひっくり返されて、1時間ぐらい終盤に残したかったので、人間としては長い方がありがたいです。

――端歩を突きこされたのは突き返してこないのを見計らってのことだったのか?
阿部四段 そうですね。桂馬を跳るか、端の位を取らせるかどっちかだと思っていたのですが、今回はどちらも指したので、端歩を生かした展開もできました。

――おやつの時間のあたりはいかがでしたか?
竹内氏 あのくらいから無理気味だとコンピューターが思い始めたころで、仕掛けたころは若干優勢だと判断していたが、60手目過ぎから優勢じゃないと感じました。71手目に▲5一角を打たれて0手で馬になったのですが、そのあたりで負けを覚悟しました。

――どのくらいで優勢と感じ、どのあたりで勝ちを意識しましたか?
阿部四段 85手目の▲3四歩に△同銀となったところで勝ちを確信しましたね。相手が投了するので気は抜けないので、あまり勝ったとは思いませんでしたが。

 

第2回電王戦・第1局

 こうして、人類vs.コンピューターの第1戦は人類・プロ棋士が勝利に終わった。阿部四段のお話を聞くと、短時間のうちに習甦の特徴を的確に捉え、どう指せば勝ちやすいかを判断できるというのは、さすが現役のプロ棋士。素人ではコンピューターがよく指す=弱点とたとえ判断したとしても、それをどう使えば勝てるかはなかなかできないだろう。

 コンピューターは、人間らしい手が続いたが、最後は人間ではあり得ない手を指していたのと、負けを認めないため、人間なら投了する段階でもどちらかが詰むまでひたすら指そうとしていた。最終的には開発者の竹内章氏が投了を告げていたが、そのあたりはコンピューターらしいといえばらしい。強気に攻めた習甦は攻めがうまくつながらなかったため、阿部四段に形勢が傾いたのだが、辛抱強く攻めをかわしじっくり攻めたのが勝因だったと思う。

 さて次回は3月30日、佐藤四段vs.ponanzaだ。ニコ生中継をチェック!!

第2回電王戦・第1局

<<第2回将棋電王戦 大盤解説会概要>>

●日 時:3月23日(土)~4月20日(土)までの毎週土曜日
 午前9時開場/午前10時より大盤解説開始~対局終了まで
 ※9時45分より解説者・聞き手が登場し、対局前の
 現地(東京・将棋会館)の様子をレポート

●会 場:ニコファーレ
●料 金:一般1500円、大学生以下1000円
      (当日チケットのみ・税込)

  ※1局あたりの料金となります
  ※全席自由・立ち見あり
  ※学生の方は、チケット代金支払い時に学生証をご提示ください
  ※ニコファーレのエントランスホールでのモニター観覧は無料
  ※ニコニコ生放送の視聴は無料
●対局者および解説者/聞き手:
 第1局 (3/23):○阿部光瑠四段 vs 習甦(しゅうそ)【終了】
 ◆解説者:阿久津主税七段/聞き手:矢内理絵子女流四段

 第2局 (3/30):佐藤慎一四段 vs ponanza
 ◆解説者:野月浩貴七段/聞き手:山口恵梨子女流初段

 第3局 (4/6):船江恒平五段 vs ツツカナ
 ◆解説者:鈴木大介八段/聞き手:藤田綾女流初段

 第4局 (4/13):塚田泰明九段 vs Puella α
 ◆解説者:木村一基八段/聞き手:安食総子女流初段

 第5局 (4/20):三浦弘行八段 vs GPS将棋
 ◆解説者:屋敷伸之九段/聞き手:矢内理絵子女流四段

●持ち時間:各4時間(1分未満切り捨て)
 先手番は、第1局 阿部光瑠四段
 (2局目以降は先手番・後手番が交替)
●主 催:株式会社ドワンゴ、公益社団法人 日本将棋連盟
●詳 細:「第2回将棋電王戦」公式ホームページ

●関連サイト
日本将棋連盟

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります