AMF 椎木里佳代表(写真:AMF公式サイト) |
「仕事着はセーラー服。勝負服です」
AMF椎木里佳代表は笑顔を浮かべてそう言った。
1997年東京都千代田区生まれ。中学3年生、15歳のときにスタートアップのAMFを創業。私立高校に通い、学業と事業の両立に奮闘中──これが椎木代表の経歴だ。現在高校2年生で、取材した日は期末テストの翌週だった。テストの出来はどうか。
「今回はがんばったから、中の上くらいは……」
AMFの事業内容は女子中高生によるマーケティング調査。起業2年目、年商は「普通の会社員の年収くらい」(椎木代表)。有名製菓メーカー、サイバーエージェントなど大手が取引先に並び、六本木ヒルズの片隅に事務所を構えている。
六本木の喫茶店で会った椎木代表は予想以上にかわいかった。
椎木代表が会社を作った理由も、きっときらきらした夢があったに違いない。そう思ってたずねると、きっかけは男の子への復讐だと言われた。いきなり重い。何があったのか。
男子の悪口に傷つく「絶対成功してやる」
中学時代の椎木代表は、ざっくり言うとモテていた。男子と女子の関係にいざこざはつきものだが、その中でもとりわけ心が傷つく出来事があった。
「中学3年生のとき、フェイスブックで男の子からすごい悪口を言われたんです。よく知らない人になんでそんなことを言われなきゃいけないんだろうと、中学生の心にぐさっと来ました」
とはいえ、相手は男の子。力では勝てず、仕返しをする方法が見つからなかった。何かで成功してみせるしかない、そう思った。
「絶対言ったことを後悔させてやる」
誓ったのは13歳、クリスマスの朝。父親の知り合いだった司法書士に「会社やります!」と駆け込んだ。会社名と事業内容を聞かれ叫んだ。「決めてません!」
「すぐ社長になろうとは思ってなかったです」と椎木代表。
社長という道を知ったのは中学1年生のとき。映画監督になりたい、芸能事務所を作りたい、ヒットアプリを開発したいと、夢はたくさん持っていた。それでも自分は中学生だ。大人になってから社長になろうと考えていた。
「学生生活を過ごすうち、ちょっともったいないなと思って。中高一貫で高校受験もなく、心配事がない生活なのに、何もやらないのももったいない。うずうずしていたところに着火しました」
そうして社長になった椎木代表。経緯はともかく「中学生美少女社長」という経歴は出来すぎの感もあり、ともすれば「あざとい」とも思われかねない。起業したとき、やっかみはなかったのか。
「炎上しましたね」
エゴサーチが好きなんです
登記後、手をつけたのはツイッターとブログ。何をしようにも先立つものがない。まずは自分が誰で、何をしていきたいか書きつらねた。するとすぐに掲示板サイトで批判のスレッドを立てられた。
その炎上で初めて「自分が特別なんだ」と気づかされたという。
「普通は何歳で起業するのかを知らなかったので、反応があることにすごくびっくりしたんです。あ、これって特別なんだと」
そのときの反応をばねにして事業の方向性を決めたと椎木代表。ネットで批判されているのを見るといやな気分にはならないのか。
「むしろ嬉しいです。悪口を言われるのは、多くの人に知られているということなので。自分でエゴサーチするのが好きで、ツイッターで『椎木』ってつぶやいてる人はみんな見てます」
そこまで言ってから、椎木代表は照れた顔で付けくわえた。
「最初はへこみましたけど。同級生にも『半年でつぶれる』と言われましたし」
しかし、その炎上が最初の仕事を運んできた。
騒ぎを見つけたサイバーエージェントが、ブログメディアの編集長になってくれないかと依頼してきたのだ。高校1年生の初仕事。喜んで引き受けたが、「いま考えると普通にバイトをした方が稼げたような……」と苦笑する。
「仕事をしたことなかった、バイトさえやっていなかったので」
とはいえメディア経由で名前が売れ、翌年2月に製菓メーカーなど大手からの仕事が入ってきた。学校の友だちを誘ってメーカーに行き、放映前のCMを見せてもらって「ここはカットしたほうが」などのアドバイスをした。
結果は好評。これはいけると、半年後にマーケティング部隊を「JCJK調査隊」と名づけ、以降主力事業に成長させた。だが、すでに女性層のサンプル調査は山ほどある。JCJK調査隊は競合他社といったい何が違うのか。
そんなことじゃ会社やめてもらうよ
「リアルでガチな女子高生がいる」と椎木代表は説明する。
JCJK調査隊は、椎木代表のツイッターから声をかけて全国から集めた女の子たちだ。「マイルドヤンキーから超まじめで偏差値70近い高校に通う人材まで」(椎木代表)とジャンルも幅広い。
「『頑張ってやります!』という子もいれば、『暇なんで来ました~』という子もいる。面談なのに『今日すっぴんなんで、マスクしたままでいいっスか』みたいな子もいたりして」
いわゆるサンプル調査を女子高生目線で見たとき、本当に女子高生を使っているのか疑問に思わされたこともあった。事務所に属すなど、いわゆる「プロ」として仕事を受けていると、実態と離れてしまうことがあるのではないか。
「うちには仕事の意味が分かってない子“しか”いません」
そう言って椎木代表は笑う。業界では「女子高生の本当の声が分かる」と評判になった。今後は調査隊の人数を現在の50人から100人に倍増させる計画もあるらしい。
「(リクルートジョブズのキャラクター)『パン田一郎』はほとんどうちの会社がコンサルしてるんです。うちのメンバーは好き嫌いをめちゃくちゃはっきり言う。はっきり言っておかないと、良いものが作れないので」
おかげで事業は好調だが、好調なぶん、学業との両立には苦労させられてきたという。
「学校終わるのが15時、16時からクライアントさんのところに行き、取材があるときは18時ごろから。会食なんかがあると帰れるのは22時とか」
聞いているだけで、とても学生の生活とは思えない。おかげで以前のテストは「中の下くらい」(椎木代表)。母親から「そんなことじゃ会社やめてもらうよ!」とプレッシャーをかけられることもしばしばだった。
「本当に『やめさせるよ、やめさせるよ』と毎日言われていた。本当に……それだけ言われるとやばいなと思って。その呪文のおかげで中の上に」
そんなに大変なことになるなら、学校をドロップアウトして社長業に専念すればいいんじゃないか。そうたずねると、椎木代表は首を横に振って言った。
「女子高生じゃなきゃダメなんです」
仕返しはまだ始まったばかり
「学校をやめたら、わたしただのフリーターじゃないですか」と椎木代表。
「わたしはプログラミングができたり、特別な才能があるわけじゃないんです。女子高生とのコネクションを持っていたり、女子高生の感性があることを求められているので、女子高生でいることが大事なんです」
同じように若くして起業した知り合いもはいるが、
「みんな高校をやめちゃう。もったいない感じがする。ぶっちゃけ仕事なんて後からでもできる。高校生活は一度きり、3年間しかない。先輩からのいびりとか、先生との対立、同級生のケンカも必要な経験じゃないかと」
自社の強みは、「若さ」をフルに使うこと。それが見えなくなったら、途端に誰も振り向かなくなる。そこをブレさせてはいけない。
実は、彼女の父親はアニメ『秘密結社 鷹の爪』を手がけるディー・エル・イーの椎木隆太代表だ。仕事の疲れを決して家庭で見せない父親のことを尊敬しているという。だが、社長の娘というのは伏せている。自分の強みはそこではない。
「思春期ということもあり、関わってほしくないという気持ちがあります。心配だとは思うんですけど、口を出されるとウザって感じで……あ、これ読んだらお父さん泣いちゃうかな」
椎木代表が目指すのは、等身大の経営だ。変に背伸びすることなく、自分の年齢に合った仕事をするのが本分と考える。そのため高校を卒業したあとは「女子高生マーケティング」も手離したいと考えているそうだ。
「違う切り口を作りたい。いまは女子高生だから出来るのであって、25歳で女子高生をやっていても説得力がない。女子高生のビジネスは現役女子高生に託して、新たな事業で勝負していきたい」
今はまだ”椎木里佳”が商売道具。自分の限界を超え、今ある事業をどこまで大きく伸ばせるか。経営者としての手腕はこれから本番を迎えるのだろう。
ところで、男の子に対する仕返しという当初の目的は?
「まだ全然足りてない。仕返しはまだ始まったばかりです」
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