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MWC2012:中国製4コアチップ『K3V2』と新スナドラS4 Proに見る技術トレンド【本田雅一氏寄稿】

2012年03月01日 07時00分更新

 週アスからも編集・筆者ともにたくさん取材に出かけているMobile World Congress 2012。
 新型端末の出来具合も気になるところだが、各社が採用しているアプリケーションプロセッサに関してまとめて欲しいとの依頼があった。もちろん、各新プロセッサのスペックに関してはネットで情報が出ているので、それらを参照する方が手っ取り早い。そこで、ここではいくつかの”視点”や”切り口”を提供したいと思う。

●ファーウェイが突如デビューさせたスマホ向け4コアプロセッサ『K3V2』

K3V2

 さて、MWCでもっとも度肝を抜かれたのは、ファーウェイがクアッドコアの独自プロセッサ『K3V2』を開発してきた事だ。実際に設計しているのはハイシリコンだが、これはファーウェイの一部門から独立した子会社。
 プロセッサコアはライバルと同じARM Cortex-A9で、最高1.5GHz動作だから、今後、続々と登場してくるだろうクアッドコアのアプリケーションプロセッサに比べ、CPU部分が突き抜けて高性能なわけではない。
 内蔵するGPUは16コア構成ということ以外は発表されていない(GPUコアのアーキテクチャや、他社からGPUの設計を購入したのかも解らない)。3GやLTEに関しては何も書かれておらず、ワイヤレス関連の機能は統合されていないと考えるべきだろう。
 ベンチマークの結果では、同様にクアッドコアのNvidia Tegra3よりも高速だとファーウェイは主張しているが、実際に製品が発売されてみないことには判断できないのは、スマートフォンの常だ。

 もちろん“最速クラス”ではあるのだろうが、K3V2の注目点はむしろ端末メーカーでもあるファーウェイがプロセッサをも手がける意図の方だろう。今回のリリースに際して、彼らは『A.I. Power Scaling』という技術を訴求している。
 この機能はプロセッサ内部で、各コアの動作状況をモニターし、複数あるコアの動作ステータスを変化させるというもの。同様の機能は、たとえばインテルもx86プロセッサに採用しており、OSからの指示による動作モードとは別に、より省電力な状態に切り替わる。

クアッドコアCPU搭載のAscend D quad
MWC2012:クアッドコア機を強力に推進しハイエンド市場に乗り出すファーウェイ
背面に8メガピクセルカメラを搭載
MWC2012:クアッドコア機を強力に推進しハイエンド市場に乗り出すファーウェイ

↑ファーウェイが発表した『Ascend D quad』。K3V2を搭載する、MWC2012でデビューした4コアスマートフォンだ。

 K3V2の場合、4個あるARMコアはもちろん、GPUコアが16個とTegra3の12個と比べても数が多い(ただし、数が多い=高性能というわけではない)。
 GPUコアそのものの構成はわからないが、コアの数から推測するに比較的シンプルなGPUとしてコア数を増やし、動画処理など多目的にGPUを使い分けつつ、不要なコアの電力制御を柔軟に行う設計とすることで、効率を上げているのだろう。
 アプリケーションプロセッサ側の機能として、省電力性やパフォーマンスを向上させる仕掛けを入れておき、Andoroidの開発スケジュールに依存しないようにするやり方は、今後増えてくるのではないか。自社製品の出荷数がある程度以上確保できることが前提だが、専用設計とすることで他Android搭載製品に比べて差異化しやすくなるだろう。

 一般的にAndroid端末は、どの価格帯の製品でも同じアプリケーションが動作する。他社でも自社でも同じようなプロセッサと機能を持つため、発売してもすぐに価格が落ちてしまうという、独自性の出しにくい製品だ。しかしプロセッサのレベルから差異化できれば、端末の作り込み方のアプローチも変わってくる。

●デュアルコアの新鋭、クアルコムSnapdragon S4 Pro

Snapdragon S4 Pro

 一方、同じくMWCではクアルコムがSnapdragon S4 Proを発表した。すでに各社スマートフォン上位モデルで採用されているSnapdragon S4の進化バージョンで、Cortex-A15デュアルコアは同じ(とはいえ、”Pro"ではないSnapdragon S4の採用もこれからのことだが)。Proの違いはGPUのAdreno 320だ。従来型に比べて4倍のGPU演算スループットを誇る。
 もっとも、4倍という数字を単純に受け入れるべきかどうかは微妙だ。クアルコムが、新GPUのAdreno 320で主眼に置いたのは、Windows 8でのパフォーマンス向上である。今年末に登場すると見られるARM版Windows 8タブレットに狙いを定め、Windowsのグラフィックス機能をGPUの機能に置き換えることを意識して設計されているという。
 さらにGPGPU処理を行うため、Open CLなどGPU活用のためのツールを用意することで、GPUを強化した成果をシステム全体のパフォーマンス向上に転嫁しようという意図が見える。

 一般にデュアルコアよりクアッドコアの方が高性能という印象があるだろうが、Cortex-A15は同じARMでも新しい世代のコアであり、デュアルコアでもCortex-A9クアッドよりも処理が高速だ。現状のAndroidのマルチスレッド性能を考えるとデュアルコアで高速な方が性能は引き出しやすい。Androidが 4.0になればプロセッサのスケジューリング能力も上がるとはいえ、GPU性能を除くCPU性能の面でもTegra3などCortex-A9クアッドよりも高性能になることが予想される。
 また、今後の進化の方向という意味でも、タスクスケジューリングの最適化がなければ効率が上がらないクアッドコア化を目指すよりも、GPUを強化してグラフィックスを高速化し、さらにGPGPU処理でCPUの負担軽減をした方が、トータルのパフォーマンスで良いと考えられる。OpenCLに対応したのも、そうした意図があっての事だろう。

 さて、いずれにしても端末搭載の状態で、実際のAndroid上のアプリケーションで比較してみなければ、本来のパフォーマンスはわからない。しかし、ファーウェイとクアルコム、両事例を見る限り、CPU+GPUでGPUを強化し、柔軟に扱えるアーキテクチャとすることで、GPUの演算力を活かすというのが、二つの新プロセッサが持つ共通のイメージだと思う。ただし、二つのアーキテクチャは絶対的に違うポイントがひとつあり、それが”CPUの重み付け”の度合いなのだと思う。

●忘れてはならないTI OMAPシリーズ

 一方、ヘテロジニアスアーキテクチャの代表的なCPUベンダーといて知られるTIも、OMAPの最新シリーズとなるOMAP5をではCortex-A15のデュアル構成を採用している。MWC2012ではCortex-A9クアッドを用いた他社アプリケーションプロセッサよりも高速であることがデモされた。

 その上で、GPUはPowerVR SGX544MP-2を搭載。といってもピンとこないだろうが、現在主流のSnapdragonに対して、単純な3Dレンダリングのスループットとして、現在のハイエンド機向けの2.5倍程度にまで達する。TI OMAPならではの、オーディオ処理や制御用CPUコア、静止画処理用プロセッサなどの活用をうまくやれば、CPUの利用効率も高まり、PowerVRの良さが見直されることになるかもしれない(ただし、搭載製品の登場は2012年末か2013年早々になるかもしれない)。

●各社の“作り方の違い”の成果がハッキリと現れるのは2012年末

 昨年はGPUを強化しながらも、CPUのデュアル化という一本の軸があったが、今年はCPUのコア数増加かGPU強化か。あるいはCPUコアを増やさずコアアーキテクチャとGPUの両方を強化するのか。ひとつのアプリケーションプロセッサに使えるトランジスタ数がほぼ同じとするなら、その予算(バジェット)をどう振り分けるか、各社のポリシーが異なっている点が興味深い。その成果がハッキリと現れるのは、年末にかけてのことになるだろう。

(3/1 12:20訂正:初出時、Snapdragon S4 Proのコア技術をCortex-A9としておりましたが正しくはCortex-A15となります。修正に合わせて末尾のまとめの表現も変えています。読者の皆様、ならびに関係者の方々にご迷惑をおかけしましたことをお詫びして訂正致します。)

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