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手紙の文面を変えて他者の運命に介在するADV「WILL: 素晴らしき世界」:Steam

2018年07月06日 18時00分更新

 ビジュアルノベルというジャンルが定着して既に20年以上経つ。元々アドベンチャーゲームはかなり広義な意味を持つが、文章をメインとして画面効果やサウンドなどを組み合わせることで安価で開発できるジャンルとして大きく発展してきた。しかし、10年前ごろには肥大化する文章量に比例する開発費の問題を解決できず幾多のメーカーが産まれは消えていった。だが、筆者が好きなジャンルの一つがADVでもあり、過去にも紹介した「Symphonic Rain」や「Life is Strange」は未だに自分の中で感情を整理できないほど、心に残っている作品でもある。

 そして話はいきなり飛ぶが、2018年5月の話になる。京都にて「Bitsummit」というイベントが開催されていた。国内外のメジャーインディーズ作品の展示会で先月で6回目の開催であった。筆者は4回目以降から個人的に来訪しており、毎年大きくなっていくのブースを見るのが個人的な楽しみでもあり、思わぬゲームに出会う貴重な機会でもある。

 Bitsummitで出会った作品でもあり、パブリッシングが決まる前からも気になっていた「WILL: 素晴らしき世界」を第78回は紹介したい。

 

 本作品は日本語に対応している。ただし操作方法がコントローラーを認識している場合はコントローラーでしか最初は操作できないため起動時に戸惑うかもしれない。設定でマウスへの変更が可能なので、筆者的にはマウスでの操作をオススメするがコントローラーでもプレイは可能だ。

手紙の文面を入れ替えるだけの簡単なお仕事

 過去に一時的に流行った都市伝説がある。真夜中に手紙を書いて神様に強く願えばその願いが叶うかもしれないと。ゲームの主人公は“願(ユアン)”、正しくその手紙を受け取る神様である。長く眠っていたせいで記憶喪失になっている彼女は、イヌの見た目をした神様“イシ”のサポートを受けながら神様の業務を行う。

 業務は願いの思念である手紙を受け取ることでスタートする。手紙の選択画面はフローチャートを兼ねており、複雑に絡み合っていくシナリオを把握するためのヘルプも兼ねている。手紙はそれぞれのキャラクターのシナリオに関わっていき、バッドエンドを迎えるキャラクターたちを助けるために奔走することになる。奔走するとはいっても手紙の内容を変えて展開を変えるだけではあるのだが。

 展開を変える方法は手紙の白いブロックの文節をドラッグして入れ替えるだけだ。黒いブロックは移動できない固定の文節となる。本作品では文節を入れ替えたことで変化するそれぞれの結果を“エンディング”と呼んでおり、右下の“過去の手紙”を押すことでどれだけのエンディングがあるかも把握できる。

 例として、一番最初に行うことになるシナリオでは、家の鍵を落としたので助けて欲しいという願いをかなえなければならない。鍵を落とした原因はテニスコートが常に暗かったから気付かなかったという因果関係に結びついているため、テニスコートが暗くなったのは帰る直前だったと結果にすり替えることで、無事に帰宅できるという話の流れになる。

 最初は一人一人の展開を変えるだけだが、話が進むにつれ複数人の手紙の文節を入れ替えて展開を変えていかなければならない。ドラッグして文節を入れ替えるだけではあるが、矛盾や、相反するような内容の入れ替えは不可能となっており、制約も色々と追加されていく。特に他者が介在する場合は共にベストの結果を導き出さなければ話が進まない。

ゲームの難易度をノーマルにすれば赤文字でヒントが表示される。デメリットもないので、考察が苦手な方は利用しよう

 手紙を送った人物のデータは自動記録されており、フローチャートで該当の人物をクリックすることで人物情報も確認できる。キャラクターの容姿や情報はストーリーを進めることで解放されていく。必ず最初は女子高生の“李雯(リ・ウェン)”からスタートし、中国在住の彼女を起点として色々なキャラクターが複雑に絡み合っていく。

 どういった人物がいるかはお楽しみと言いたいところだが、序盤であれば韓国人の新米刑事“張京民(チャン・ギョンミン)”では熱血刑事ストーリーが、メキシコ人の“カルロス”のストーリーを選べば行方不明になった姉を中国まで探しに行く壮大なストーリーが展開していく。どう考えても交わることのないキャラクターたちのシナリオ展開が見所だ。

シナリオの結果は“S”でなければ進行しないが、展開によってはマルチに展開する場合があり、結果が二つ存在するルートもあるのでシナリオを注意深く確認しよう

全ての結果に前提があり、前提は結果でもある。

 現在Steamでは「Analogue: A Hate Story」を皮切りとして非常に沢山のビジュアルノベル作品が販売されている。冒頭でも挙げたように筆者の好きなジャンルの一つでもあり、かなりの本数をプレイしているが、そのプレイしてきた作品の中でも「WILL: 素晴らしき世界」は強烈なまでに私の記憶に残る作品となった。20年以上前にセガサターンで販売された「街」のフォロワー作品ともいえる本作品だが、オマージュとなった街のザッピングシステムを手紙に置き換えることで独自性と他者への介入感が増されており、自分がシナリオを組み立てているという感覚が強くなっている。更に日本語訳も原文だと、どう表記されていたのか非常に気になるレベルで違和感のない日本向けの素晴らしいローカライズになっている。

 運命を改変される登場人物たちの人間模様。予想もつかない展開はプレイヤーを必ず熱中の底へ引き込むだろう。主人公は手紙を軸に絶えず変化する。だが、全ての展開を握るのはプレイヤーであるユアンであり、イシである。だが、神様に願う手紙の送り主は願いが叶ったことにも気付かない。彼らは何故願いを叶えるのだろうか?

 全ては、ただの都市伝説。どんな意思で結果がもたらされたのか、願いを叶えた者にしか分からない。

※注意事項

 本作品にはグロテスクな表現も含め、同姓者、異性者への重度の性的な加害、被害表現が各種シナリオ中に含まれている。ゲーム中では賞賛や推奨される描写はないが、表現に不快感や嫌悪感を示される方はご注意いただきたい。

「WILL: 素晴らしき世界」の推奨動作環境は?

 最低動作環境のグラフィックの要件がIntel HD Graphics3000以上となっている。ここ数年のCPU内蔵GPUでも問題なく動作するだろう。推奨スペックでも1世代以上前のスペックとなっているのでWindows10が安定して動く環境であれば問題なくプレイ出来る。

『WILL: A Wonderful World』
●WMY Studio
●1480円(2017年6月6日リリース) ※価格は記事掲載時点のものです
対応OS Windows MAC
ジャンル カジュアル、独立系開発会社、物語、選択型進行、ビジュアルノベル、アドベンチャー

■著者:rate-dat
・Steamのプロフィールページ:Steam コミュニティ :: ratedat
・Twitter:@rate_dat

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