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「SPORTEC2022」の基調講演レポート

オリンピックのレガシーを伝統へ スポーツ産業15兆円への挑戦

日本のスポーツ界を成長させる3つの施策

「スポーツによる地方創生、まちづくり」に関しては農林水産省が中心になっている取り組みだ。これまでのように、まず町があり、そこでスポーツが成長するという図式ではなく「スポーツから町づくりを考える」のが特徴。スポーツを中心に捉え、地域のブランドにすることで、健康促進、コミュニティーの再生、観光や新ビジネスにもつなげようとするものだ。

 しかし、スポーツで地方創生するとなっても、第1部で遠藤氏が語ったように、地方でも縦軸で動いている部署が多いため、実現が難しい。そのため「自治体の会長などさまざまな地域の人に理解してもらえるよう、対話を続けている」と室伏長官は話す。地域の協力と理解が得られるようになれば、スポーツツーリズムの創出にもつながっていくだろう。また、ツーリズムの側面では「武道ツーリズム」と称した、武道を観光資源にし、文化を維持、継承していくという取り組みも説明。こちらも日本の伝統文化を守るためにも重要な取り組みだ。

 続いて「スポーツによる健康増進」についての取り組みについて語った。どのライフステージにおいても、運動とスポーツが健康促進のために必要ではあるが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大もあり、より運動や健康について意識する人が増えている。そのためにも、誰もが安全に安心してスポーツに取り組める環境づくりが求められる。本取り組みは、スポーツ促進、習慣化の実現に向けたものだという。

 取り組みの一例として、2019年に大阪府門真市で行われた、「医療と連携した運動スポーツの習慣化の取り組み」を紹介。医療機関に通院中の患者さんを対象に、サルコペニア(加齢による筋量の減少)防止を目的として運動を習慣づけてもらう、という内容だ。医療連携トレーナーの育成、医療機関での運動指導の実施、また運動教室の実施やアプリでのケアなどを行なったことで、「意識が変わった」「(患部の)膝の調子がよくなった」などポジティブな結果が得られたという。

 最後に、スポーツ庁の「運動・スポーツの実施に向けた啓発活動」として、室伏長官が考案した「簡単に身体診断ができるセルフチェック動画」を紹介。11種類の動きがあり、動作の成否や可動範囲によってポイントが得られ、総合ポイントによって手軽に体の状態がチェックできるというもの。講演の参加者全体で実践してみたが、筆者は思っていたよりも体が動かなかった。機会があれば挑戦していてはどうだろうか?

⇒『スポーツ庁』「室伏長官が考案・実演する身体診断「セルフチェック」動画」

オリ・パラのレガシーをヘリテージさせることが重要

 第3部では、大阪体育大学の学長で、日本スポーツツーリズム推進機構の代表理事である原田宗彦氏が登壇。「スポーツ地方創生・まぢづくりの最前線」を題し、日本のスポーツ産業を拡大させるためのロードマップを語った。

 原田氏がまず挙げたのが「レガシー(遺産)からヘリテージ(継承物)へ」というもの。スポーツ基本計画では、現在のスポーツ市場規模5.5兆円を2025年までに15兆円に拡大することを目指している。しかし、このままスポーツ産業だけで15兆円に到達するのか、原田氏は疑問に思っていると話す。東京オリンピックなど大きな大会があると、まず経済にインパクト(影響)が起こり、次に競技施設などがレガシー(遺産)化し、ヘリテージ(継承)されることで、文化や伝統になるのが一般的な流れだ。

 現在の日本は2番目の「レガシー化」に取り組んでいるところだが、次のヘリテージが、スポーツでのまちづくりやSDGsを意識した環境行動につながる非常に重要な部分だという。

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