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日本法人設立30周年を迎え、改めて考えるアドビの価値と日本法人の役割

これからもデジタルで心をおどらせる 神谷社長に聞く次のアドビ

2022年04月22日 09時00分更新

クリエイター大国である日本の要望をくみ取り、アドビは成長してきた

大谷:今回の企画で個人的にもアドビジャパンの30年間をざっくり振り返ってきたのですが、改めて、日本法人の役割とはなんでしょうか?

神谷:なにしろアドビの最初のお客さまはキヤノンさまですし、最初の販売代理店となってくれたのがモリサワさまでした。このような先駆者の方々がいなければ、アドビの今はありません。その意味で、日本はアドビにとって非常に重要なマーケットです。

DTPソフトのAdobe InDesignも、日本のお客さまからのフィードバックをふんだんに取り入れ、日本市場で愛用されています(関連記事:PostScript、デジタルフォント、InDesign 日本語DTPを当たり前にしたアドビの技術)。Adobe Photoshopもそうですね。1990年代当時、フィルムへのこだわりからデジカメ時代の到来に懐疑的な声がありましたが、富士フィルムさまが率先してPhotoshopの改善に多大な貢献いただきました。今でも国内の多くのカメラメーカーさまからフィードバックをいただいています。

大谷:なぜ日本市場がそこまで重要なのでしょうか?

神谷:2バイト言語圏で、これだけ大きな市場は、日本と中国、韓国に限られています。これはどの外資系企業も同じだと思いますが、お客さまの要求レベルが高い日本で成功すれば、世界レベルで成功できるというのは長らく社内で言われていることです。

あとはモバイルという観点ですね。日本ほどiPhoneの普及率が高い国はないと思いますが、われわれのモバイルアプリもiPhoneでの利用率が高い。ですから、モバイルアプリのテストベッドとしても非常に重要です。ほぼ2年前にIllustratorのiPad版を発表しましたが、この製品は日本のお客さまの声を元に開発されたと言っても過言ではありません。

大谷:外資系企業の日本法人って、ともすればセールス・マーケティングのみにフォーカスが当りがち。でも、30年も続いている日本のアドビは製品開発やサポート、パートナーシップにおいても高いレベルにあるということですね。

神谷:アドビが以前実施した調査でも、日本は世界で最もクリエイティブな国であると認識されています。「日本=クリエイター大国」と言っても過言ではないし、実際に世界レベルで見ても優秀なクリエイターは多い。そんな彼ら・彼女らの要求レベルはもちろん高いので、この要件を満たせば必然的にほかの国でも戦えるということです。

コンテンツの制作から配信までを担うプラットフォームが強み

大谷:次にアドビの強みについてお聞きしたいと思います。

神谷:やはりアドビの強みはデジタルメディア。ブランドという観点でも、マーケットシェアをとってみても、これは間違いないと思います。フォトショ、イラレという言い方自体も、アプリの枠を超えて、もはや動詞になっています。

マーケットを見てみると、とにかくコンテンツのニーズが急速に拡大しています。われわれとしては最先端で、最高品質の製品をお届けすることで、このコンテンツのニーズを満たすことができると考えています。

大谷:エンドユーザーがサブスクについてきたというのも大きいですね。

神谷:アドビは、この30年間、お客さまとコミュニティとの関係をずっと大切にしてきました。だから最終的にはエンドユーザーに納得してもらうことが重要だと思っています。なぜサブスクにすべきかを納得してもらい、そしてそれには製品の圧倒的な優位性が不可欠です。

当初は製品によってはサブスク版の方が起動に時間がかかる、といったようなことがありました。テクノロジーやサービスに対するフィードバックをきちんと聞いて、製品を圧倒的に磨き上げ、「この製品を使わないと」と思ってもらうよう改良を重ねています。

われわれはコミュニティのみなさまによって支えられている会社。だから、新機能もコミュニティの声を取り入れて開発されています。そして、これがアドビの絶対的な強みだと思っています。

一方で、お客さまとなる企業のニーズを見てみると、作ったコンテンツを最適な人に、最適なタイミングと方法でお届けすることが重要になっています。これを実現するには、やはりユーザーのデータが肝になります。アドビはExperience Cloudというデジタル体験を実現するためのプラットフォームを持っているのですが、日本市場はコンテンツと配信という点のニーズが非常に多くあると思っています。

大谷:コンテンツの制作から配信までを一気通貫で担うという役割ですね。

神谷:Experience Cloudのビジネスは10年ほどと、他2つのクラウドに比べるとまだ若い分野ですが、顧客が商品を検討し、体験し、購入するまでの「カスタマージャーニー」はニーズをすべて満たすプラットフォームに成長しています。

先日開催されたAdobe Summitでも、Creative CloudとExperience Cloudとのプロダクト連携が大きく強化されています。作ったコンテンツを自動的にExperience Cloudに流し込んで、配信するような世界もすでに実現できている。この連携こそアドビの強みだと思っています。私が社長として就任した理由もそこだと思っています。クリエイティブ製品の畑から来ているので、サブスクのノウハウもありますし。

大谷:オムニチュアの買収から起こったExperience Cloudって、アドビが今までやってきたビジネスからすると、かなり異色なイメージです。神谷さんはどうお考えでしたか?

神谷:正直、最初はピンときませんでした。というのも、オムニチュアはあくまでWebサイトに来たユーザーのWeb解析がメインで、まだまだコンテンツ配信までは行っていなかった。当時のマーケティングオートメーション(MA)はIT寄りのプロジェクトだったんですよね。

大谷:マーケティング部門の方々が、情報システム部に頼んで解析してもらうという感じですよね。

神谷:はい。あと、日本に関しては、まだ当時はテレビが圧倒的なメディアでインターネットは普及段階でした。今のようにインターネット広告が他のメディアの広告費を上回るような時代ではありませんでした。

でも、スマホの普及とともに、デジタルコンテンツの需要は莫大になりました。趣味や趣向の異なるさまざまなユーザーに最適なコンテンツを届けるためには、やはりユーザーデータが必要になります。コンテンツとデータに、企業が本格的に取り組むことで、きちんと収益が上がるという理念で、当時からデジタルマーケティングの事業は続けてきました。

大谷:今まで結びつかなかったクリエイティブとマーケティングをつなげる必要がでてきたということですかね。

神谷:先ほどお話ししたAdobe.comは、Experience Cloudで支えられています。ここまでEコマースを成功させているIT企業はなかなかないので、私はこのノウハウを日本の企業、自治体、大学などにご共有したいと思っています。そのためにも、今まで縦割り感のあった組織の壁をなくし、オールアドビで全社一丸となって取り組んでいきます。

Experience Cloudの実験場でもあるAdobe.com

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