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【後編】ソリッド・キューブ原田奈美社長インタビュー

原田社長が「モーション業界に“ヒーロー”を作りたい」理由

2022年11月20日 15時00分更新

CGライブでも武道館とアリーナでは演技が変わる

―― 先ほど、アイドルものなど大勢が躍る場合のカメラワークのお話が出ましたが、ステージの大きさによって、モーションキャプチャーの方法は違うのですか?

原田 はい。撮るシーンによって変えています。たとえばCGライブの公演でも、イメージしているライブ会場のスケール感を必ず聞きます。武道館に近いのか、アリーナに近いのか、ステージはどのように組むイメージなのか……。それによって、キャラクターのフォーメーション(ダンスの時の立ち位置や入れ替わり)や、振りつけが違ってきますので。

 また、想定された会場の規模によって、私たちがスタジオでモーションを撮る際の撮影範囲が変わることもあります。実際、武道館とアリーナクラスでは異なる幅を採用しています。

―― ステージの大きさによって、スタジオでアクターさんたちが動く範囲を決めるのですね。

原田 また、ステージ規模を確定させることでアクターさんに演じてもらう際に「キャラクターの目線をどこに置くか」もおのずと決まります。

 ステージに合わせて、ダンスだけでなくパフォーマンスする人たちの意識の向け方も全部変わります。特に最近は配信でも中継されることがあるので、客席だけではなく、中継のカメラに向かってアクションをしたほうがいいのか、などもクライアントさんと相談して考えていきます。

―― なるほど。「会場にカメラが入っている」という設定があれば、キャラクターの目線もカメラを意識するものになるのですね。

元アイドルの経験が大きなプラスになる理由

原田 そうです。うちのアクターには元アイドルの子も多く所属しています。アニソン歌手、声優さんもいます。それの何が大事かというと「アリーナクラスのステージに立った経験」なんです。

―― と、言いますと?

原田 大きなステージに立って、自分を見ているお客さんの前で歌ったことがある人って、やっぱりその人にしか見れない景色を知っているんですよ。

 ステージからお客さんがどう見えているか。お客さんをどう見渡せば、自分の思いを届けようとする目線になるのか。その経験をしたことがある人は、動きのモーションやフェイシャルキャプチャーを使った目線が、普通の人とは全然違うんです。逆にダンサーさんは、ステージに立つときは(アイドルなどの)バックで踊るので、「見られている自分」という意識が(元アイドルのアクターとは)大きく異なります。

 だから私たちが、元アイドルや元アーティストといった人たちを積極採用する理由は、何より舞台に立って経験したことがあるからです。

 しかも、アイドルものって物語的にも設定的にも最初から上手いわけじゃなかったりしますよね。1話では下手だけど、12話ではすごく上手くなっているとか。だけど、どうして下手なのか。純粋に下手なのか、本当は踊りたいんだけど自信がないのか……いろいろあるんですよ。気持ちが。

 元アイドルの子なら(キャラクターのそういった感情を)理解してあげられる。ステージに立つのが楽しいという子もいれば、怖くて何か失敗しちゃったことがあって歌うのが怖いという子もいるかもしれない。歌うのは怖い、でも歌う、みたいな。

 経験者なら、そうしたキャラクターの繊細な心の変化や表情をよりわかってあげられる。「単純に『悲しくて、でも踊ります』ってことじゃないんだよ、もっと複雑だよ、そこは」みたいな。どうしてそこで足がすくむのか、その感情ってお芝居に全部出るんです。

 普通、「ちょっと怖い」という感情を動作に表わすと、目線を下に向けがちじゃないですか。だけど、アイドルの場合はきっと、目線はお客さんに向いているはずなんです。お客さんが待ってる舞台に行かなきゃいけないのはわかっているけれど、身体はちょっと怖がっているという動作になる。

 私は演出だけなのですが、これまで声優事務所や芸能事務所でタレントを大勢見て育成してきたので、アイドルの子たちの様子を沢山見てきました。ステージが怖くなっちゃってしまうとか、失敗を乗り越えて成功したとか、沢山あったんです。

―― アイドルのリアルな日常をご存じなのですね。

原田 ステージ裏でのトラブルはどうしても起きてしまうもので、アイドルもの作品ならドラマでもアニメでもそういったトラブルは必ず出てきますよね。

 元アイドルや元アーティストのアクターさんは、実際にそういう経験をしてきたから(キャラクターの)気持ちがわかるし、私も様々な現場を見てきた経験がある。そうした芝居と演出が合わさったときは、ものすごく良い芝居が生まれるんじゃないかなと思います。

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