週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

【後編】ソリッド・キューブ原田奈美社長インタビュー

原田社長が「モーション業界に“ヒーロー”を作りたい」理由

2022年11月20日 15時00分更新

アクターは「コマ落ち」した踊り方ができる!?

―― アクターさんによるキャラクターのダンスのお話が出ましたが、ダンスでもお芝居でも、「キャラクターならではの動き」のコツというのはありますか?

原田 『kiss×sis(キスシス)』をやったときに思ったのですが「そのままやるとアニメっぽく見えない」んです。

 現在は3DCGの技術が発展していますし、お客さんも3DCGの動きを見慣れてきたので違和感も薄くなりましたが、当時は「ヌルヌルした動き=違和感」になっていました。

―― 「3DCGキャラクターの動きをそのままトレスすると、ヌルヌルした動きになる」という問題は、私の別のアニメ連載でも『楽園追放』の野口光一プロデューサーや、オレンジの井野元英二代表がお話しされていました。手付けだけでなく、モーションでも同じ問題に直面していたのですね。アニメでキャラクターを演じ始めた初期の時代、まだ業界にもノウハウがなかったと思いますが、御社ではそれをどのように解決していきましたか?

 アクターのダンス動画を見た映像ディレクター出身の野口(隆行氏。スタイルキューブ代表)が、それをコマ落ちさせたような動画を作ってきたんです。それを見ると確かにアニメっぽいんです。それで『ならば最初からコマ落ちしたような感じで踊ったらいいのでは……!?』と。

―― コマ落ちしたような動き……1秒間に24コマのアニメで言うと、2コマとか3コマ同じ動きのままにしておくということですか? スローモーションにすると、動きが一瞬止まって見えるような。

原田 具体的には「動作にタメを入れる」ということです。たとえば、腕を広げて閉じる動作でも、人間なら曲に合わせてスムーズに腕を動かすところですが、キャラクターは一拍タメてから動かします。その一拍にキャラの個性や感情が乗っているんですよ。もし、一生懸命踊る子なら、腕を力一杯広げて、戻すときも一生懸命、力を込めて閉じるはずですから。

―― なるほど。動きにメリハリやアクセントを付けると「キャラクター」らしい動きになる。そして動きのタメ方や勢いといった力加減にも、キャラ固有の感情が乗る、と。

原田 お芝居のメソッドとしては主従が逆で、本来はキャラクターの感情を掘り下げるお芝居をすると自然にメリハリが生まれる、ということなんですけれども。

 キャラクターひとりずつの感情がベースにあって、その感情を元にして動きを作っています。ダンスの収録時も、「この子は小柄だから、ステージでは手足を精いっぱい伸ばして自分を大きく見せようとしている。だから動作が大きくなる」とか、「ここは、思いっきり手を広げて、歓声を浴びている感じ」といった、キャラクターの感情やシチュエーションがわかるような言い方をして、ディレクションしています。

インタビューはモーション収録スタジオの一角で実施。天井付近の機材は、モーションを収録するためのカメラ類。部屋をぐるりと囲んでいた

―― 「メリハリ」という単語だけでは言い表せない、芝居の世界ですね。

原田 私が若い子によく言うのは「オーバーアクションとは違うよ」と。舞台とTVドラマでは芝居の仕方が違うように、アニメで培われた芝居も絶対あるので、その土俵に合わせて、アクターにも表現方法を少しずつ変えてほしいなと。

 ……とはいえ、一方で「メリハリをつけて大きく動かないと撮れなかった時代があった」ことも確かです。野口が見つけた「コマ落ち」を参考にしたのも、当時のキャプチャー技術の限界が理由の1つでした。

 私たちがクライアントさんに納品する際、「処理をあまりしなくてもよいようなきれいなデータにしたい」というのが前提にあったので、『アクターの芝居でクライアントさんの技術的な手間を省けたら良いな』というところから始まったことでもあります。

 現在は機材やソフトが進化して、細やかな動きをずいぶん拾ってくれるようになりました。でも、「キャラクターらしく動く」というのは、今でも方針として変わっていません。

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

この連載の記事