週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

正確な音の再現のための卵型、イクリプス「TD307MK3」で聴く「YOASOBI/THE BOOK」

2021年05月17日 17時00分更新

色づけのないストレートな音で楽曲を描写。低音の感触もなかなか良好

楽曲別のインプレッション:

怪物 草食動物と肉食動物が共存する世界での、両者の友情や恋愛、そして対立を描いた群像劇である本作は、第2期ということもあって序盤からシリアスなムードが漂う。それを象徴するように曲調も速いテンポでスリリングなものになっている。こうしたテンポ感をTD307MK3は実にキレ味よく描く。ボーカルも速いテンポで歌う声も明瞭だし、リズム感の良さが際立つ。キビキビと鳴るドラムのリズムは確かに最低音域の伸びは少し不足していると感じるが、中低音域の量感や力感はしっかりとしていて、あまり物足りなさはない。サイズからして大音量でガンガン鳴らすことが得意なスピーカーではないが、案外大音量まで出しても、力強く鳴る。大音量だとさすがに低音がやや物足りなくは感じる。

 B&W 607は、低音までしっかりと出てリズムの重量感がある。比較してしまうとどうしても低音の伸びは不利だ。音場感については607も十分に優秀な実力はあるのだが、音場の広がりや奥行きは一回り以上小さくなってしまう。低音はパワフルなのに音場が小さいので、スケール感は小型スピーカーらしいコンパクトさを感じてしまう。低音がどうしても軽くなりがちなのにスケール感はTD307MK3の方が雄大に感じるというのもかなり意外だ。

優しい彗星 こちらはしっとりと落ち着いたムードの曲。物語のもうひとりの主人公と言えるルイは草食動物でありながら、肉食動物たちの暴力団組織のボスの座に立ってしまう。すぐにでも破綻してしまう脆い関係を支えたのは、ルイとイブキの友情。そのふたりの信頼関係を心安らぐムードで描きながら、しかし、ふたりの関係はこの場面で終わりを告げる。そんな温かい友情と哀しさが入り交じった曲だ。しっとりとした演奏にはところどころでカーラジオと思われるノイズ混じりの音が加わっているが、その音が背景のように後方に漠然と広がる。その前にドラムやギターといった楽器が並び、中央にボーカルがいる。そんなステレオイメージをTD307MK3は見事に描く。情報量が豊かで音色的にはニュートラルなので、まさしく音楽だけがそこにある感覚になる。

 B&W 607はラジオの音声もより明瞭だし、低音がしっかりしているのでそれぞれの音に芯の通った力強さがある。情報量としても表現力としても607が上回っているとわかるのだが、音場はTD307MK3に比べると平面的で、ラジオの音、伴奏、ボーカルが一枚のスクリーンに貼り付いた感じになる。それぞれの音が立体的に重なっている感じがしないのだ。

THE BOOK/アンコール のびのびと歌うボーカルの感触はややソフトだが、声の質感やニュアンスはきちんと描かれる。高解像な音という感じはなくあくまで自然体。曲の持つ情感がきちんと出るし、なによりも声が一歩前に出て定位するおかげでより実体感のある再現に感じる。ボーカルの魅力をたっぷり楽しみたい人にはぴったりの音だと実感する。

 B&W607はより精密だが、フォーカスの合った高解像度の写真を見ているような感じになってしまう。単独で聴くならば607の十分な広がりや奥行きがあるのだが、TD307MK3の後だと平面的だと感じてしまう。情報量や細かな部分の再現など、607の方が優れた点は多いのだが、TD307MK3の音場感が良すぎるのだ。

THE BOOK/あの夢をなぞって アカペラで始まるイントロがまさしくそこに居て歌っているかのような存在感で、鳥肌が立つ。微妙なエコーや吐息のニュアンスもなまなましい。そして、速いテンポのピアノの伴奏も反応がよく、リズム感がしっかりと出る。音の出方によどみがなく、ストレートに出る感じがライブを生で聴いているような感触になる。この曲のような若さが迸るような、爽快にエネルギッシュな感じの曲とはよくマッチする。

 B&W 607も、イントロのアカペラもきちんと再現できているし、リズム感もいい。低音までしっかりと出ていることや細かな音の質感の再現などでは優っている。だが、曲のフレッシュな感じ、若々しいエネルギー感はやや落ち着いた感触になってしまう。

THE BOOK/群青 序盤とクライマックスでコーラスが加わるが、その時の音の粒立ちの良さ、たくさんの人がステージに立っている感じの再現に驚く。低音の不足をあまり感じないのは、ドラムの音とか、伴奏のキーボード、コーラスやボーカルと個々をひとつひとつ聴く感じではなく、音楽全体を俯瞰して眺めているように聴いてしまうからだろう。音場というか空間全体を見通すように再現し、しかもバランスよくまとまっている。このまとまりの良さは上級機よりも優れているかもしれない。

 B&W 607はひとつひとつの音を精密に描くこともあり、ボーカルだけに集中して聴いてしまいがちになる。そうやって拡大して見るような聴き方をしても不満のでない情報量を持つことが特徴ではあるが、全体を見渡すとこぢんまりとしたスケール感になってしまう。

THE BOOK/夜に駆ける YOASOBIの名を世に知らしめたデビュー曲で、ポップでリズミカルなメロディーが新鮮だし、ボーカルの持つ独特の節回しも魅力的。曲、歌ともに優れたリズム感で成り立っている曲は、TD307MK3でますます生き生きと弾むように歌ってくれる。大音量で聴いていると低音の不足はたしかに感じるが、その場合はTD508MK3をはじめとする上級モデルも検討するといいだろう。ドライバーユニットの口径が大きくなるぶん、低音の再生能力がもっと増す。

 B&W 607は単独でも十分な低音感があり、重量感のあるリズムと弾むような高い声のボーカルのコントラストがよく出る。小型スピーカーといえども、やはり低音がしっかり鳴ると聴き応えが違ってくる。607との比較に限らないが、TD307MK3と一般的なスピーカーを聴き比べるとき、一番の差は低音の鳴り方になると思う。

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう