マウスコンピューターは昨年の12月に国内で初めてスティック型のPC、m-Stick『MS-NH1』を発売。その後、ストレージが64GBの『MS-NH1-64G』を発表し、4月下旬には冷却ファン付きの『MS-PS01F』の発売を控えている。また、グループ会社であるユニットコムが販売している『Picoretta』も、開発は同社が行なっている。
↑左から『MS-NH1-64G』、『MS-NH1』、『Picoretta』、『MS-PS01F』のケースを開いたところ。『MS-NH1-64G』は『MS-NH1』と基板は同じ。『MS-PS01F』は基板が取り付けられているケースが白だが、黒のみ販売予定。 |
4ヵ月と短い期間に、形状が近い複数の製品を市場に投入した背景や、各製品の位置付け、今後の展開などについて、同社の製品企画開発部長の平井健裕氏にお話しを伺う機会を得た。
各製品ごとの性能は、搭載CPUこそ同じものの、BIOSによるCPUやGPUの動作の差異、ハードウェアの違いによって異なる。同社の資料によると、各製品はCPUの負荷が高まると動作クロックを増加させる“インテルバーストテクノロジー”の有効/無効、GPUクロックの固定または流動などによって動作の違いが生まれる。参考値としたベンチマークの結果は、基本的に冷却ファンを搭載したMS-PS01Fが優秀。しかし、『モンスターハンター』のベンチマーク(右端の棒グラフ)では、MS-PS01FのみGPUのクロックが変化するため数値が最も低い。一方、オフィスでの事務作業を想定したPCMark 8の“Work”は、ヒートシンクを搭載したPicorettaよりもMS-NH1の方が、若干高い数値を示している。
ちなみに、MS-NH1は発売してからしばらく経っているので、同社のなかでスペシャルBIOSと呼ばれている特定の用途に向けたBIOSが用意されている。初期ロットはCPUのバーストテクノロジーを無効とし、GPUクロックを646MHzで固定したBIOS“A05”が使用されている。一方、“X18T”と呼ばれるBIOSは、昨年末から製品の購入者が入れるサポートページなどを経由して、特定のユーザー向けに提供している。X18TはCPUのバーストテクノロジーを有効にして、GPUのクロックを低く抑えた、CPU性能を重視したBIOSになっている。
“A06”というバージョンのBIOSは、CPUクロックが不必要に上がらないように調整されている。上のグラフは平井氏によると、ビットレート的にギリギリで再生可能なフルHDのH.264動画の再生時の推移とのこと。動画はいずれもコマ落ちせず再生できているが、“A06”(グラフ下)の方がクロックの上がる頻度が少なく、そのぶん発熱し辛いため、ある程度のマージンが確保されると言う。GPUクロックを表わす緑色の線は、スロットリングすると313MHzに落ちるとのことだが、固定している646MHzで安定しているのがわかる。このBIOSの採用にあたり、ハードウェアの変更も若干行なっており、MS-NH1-64Gの出荷と同時に導入しているそうだ。サポートページで提供するかどうかは、MS-NH1の初期ロットでも問題ないか確認次第、提供される予定だ。
BIOSはその他にも一般的に公開していないものが2つほどあるとのこと。たとえば、サイネージ利用の顧客向けの評価用BIOSの場合は、USBの給電を行なうと電源を押さなくても自動的に起動する。そのため、リードオンリーになっているOSと組み合わせることで、給電用のケーブルを抜き挿しするだけで、システムが壊れることなく利用できるそうだ。
MS-PS01Fの冷却ファンは、SUNON製を採用。CPUの温度に応じて可変し、50度を超えないとファンが回転しない。グラフの赤い線は温度で、温度が上がってファンが回転したあと、60度で安定しているのがわかる。これは、MS-NH1と比べると10度くらい低い値。
CPUのバーストテクノロジーは、温度にある程度のマージンがないと機能しない。しかし、60度で安定しているときにもCPUクロックが1.8GHzまで上昇しているので、きちんと動作している。また、冷却ファンはCPUに近い場所に搭載されているため、ある程度高温の場所でも長く動作するとしている。平均故障時間は60度の環境化で約7万時間、年数で換算すると24時間動作させていても約7年強となる。ノイズレベルは、仕様書上25.6dBとなっている。無音ではないが、おそらくテレビが何かしらの動作音を発生させていた場合、ほぼ聴こえないのではとのこと。
このように、製品によって細かい仕様上の差異はあるものの、同社は現状の4製品において上位モデルと位置付けしているものがなく、使用環境によって選択してほしいとしている。
MS-NH1 |
MS-NH1はファン付きのMS-PS01Fより、高負荷環境での温度が上がりやすいが、どの製品よりも小型。さらに、最も長く販売しているため、BIOSやドライバーの最適化が進んでいる。アルミ製のヒートスプレッダーで冷やすだけのシンプルな構造をしている。
Picoretta |
一方、Picorettaはヒートシンクで冷却性を高めているため、MS-PS01Fと異なり無音かつ、MS-NH1よりも高負荷で利用できるなど、環境適応性が優れている。だが、ヒートシンクに含む銅は、熱が熱くなりにくい反面、冷めにくい。さらに、MS-NH1と比べて重量は1.5倍ほど重くなる。
↑分厚いベースメタルの下にヒートパイプも見える。 |
MS-PS01F |
MS-PS01Fは冷却ファンを搭載するため、Picorettaよりも高負荷な環境での安定動作が見込まれる。しかし、ファンノイズやホコリの影響、ファンの動作不良など、冷却ファン搭載機ならではの不安要素も懸念される。
MS-NH1-64G |
ストレージが64GBのMS-NH1-64Gは、現在再販(参考記事)している数量のみの限定販売になっているが、それ以外のモデルは可能であれば今夏に登場予定のWindows 10のサポートまで行ない、継続販売したいと考えているようだ。
平井氏によると、すでに販売している現行モデルであっても、技術的にはWindows 10のアップグレードは可能とのこと。しかし、ストレージが32GBと容量が少ないため、OSのダウングレードも行なえるよう、OSのイメージの提供なども視野に入れて検討しているようだ。
スティック型PCは省スペース、持ち運びがラクと小型ならではの大きなメリットがあるが、弱点もある。たとえば、無線LAN機能は、家電やAV機器にも使われ混線による速度低下などが予想される2.4GHz帯しか使えない。実際に、テレビの裏といった今まで無線LAN機器を置いていなかった場所で使われるため、インターネットに接続できないといった問い合わせは多いようだ。
加えて、盗難防止の手段を用意してほしいとの声もあると言う。持ち運びがラクということは、それだけ盗まれやすい。紛失する危険は、ビジネスシーンでの利用において不安が残る。しかし、無線LANはスティック型PCよりも、もっと小型なUSBアダプターに搭載可能なモジュールがあり、盗難の際に遠隔でデータ消去するソフトの提供など、技術的に対応が難しいわけではない。
また、平井氏は現行モデルだけでなく、今後のプランとして次世代のCPUを搭載したモデルと、より高性能なCPUを搭載した上位モデルの販売を見据えていると明言した。今後の対応に期待したい。
スティック型PC市場としては、インテルの『Compute Stick』が、量販店や周辺機器メーカーの直販サイトにて、MS-PS01Fの販売と同時期にあたる4月下旬に発売される予定だ。しかし平井氏曰く、24時間、365日の電話サポートなど、サポート面においては同業他社にはない強みがあると語った。
平井氏によると、スティック型PCは万が一ノートPCが故障した際の予備として、旅行に持って行く人が多いという。最近のホテルのテレビには、ほぼ当然のようにHDMI入力が備わっている。キーボードやマウスといった操作方法も考える必要があるが、タッチパッド搭載のBluetooth接続が可能なワイヤレスキーボードなどがあれば、旅先の大画面テレビで、ホテルの無線LANを使ってインターネットでメールをしたり、電子書籍を読んだりといったことができる(参考記事)。
スティック型PCはその形状による汎用性の高さから、あらゆる場面で活躍する可能性を秘めている。販売ルートも同社の直販店だけでなく、量販店などの取り扱いも増え、2万円台という低価格のため、これからも高い需要が予想される。今後発売される新モデルの動向にも注目したい。
■関連サイト
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