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日本の希望『サマーレッスン』原田勝弘Pいわく「VRゲームはマトリックスを目指してはならない」

2015年02月13日 18時00分更新

 週刊アスキー「大江戸スタートアップ」プロジェクトが気合いで開催した、ゲーム開発者向けセミナー「VRゲーム進化論」。会場レポートに続き座談会の模様を超公開しちゃうよ! 太っ腹!(自分で言うな)

 登壇者は、バーチャルリアリティー(VR)ゲーム『サマーレッスン』バンダイナムコゲームスの原田勝弘プロデューサー、拡張現実(AR)を使った体を動かすゲーム『HADO』メリープ(meleap)の福田浩士代表、某格闘ゲームのボーナスゲームを彷彿とさせるVRゲーム『NARIKIRI SHOWDOWN(ナリキリショウダウン)』デイジー稲垣匡人代表の3名。

 特に注目を集めた原田プロデューサーは、VRゲーム、ARゲームの将来像として「マトリックスを目指してはならない」と話していた。それはどういうことなのかしら? なお、モデレーターはVR専門誌『PANORA.tokyo』広田稔代表。

次回セミナー「大江戸スタートアップアカデミー」は2月20日開催、テーマは「ネット時代のモノ作り」。腕時計5000本がわずか数ヵ月で売りきれたカラクリは? 大手メーカーではなくインターネットから製品のブランドが生まれ、大ヒットを飛ばしている背景に迫ります。詳しくはこちら

 

ディズニーランドはバーチャルの最先端

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──まず、最近使ったメディアコンテンツで面白かったものはみたいな話をしたいんですが、AR、VRの何に可能性を感じているか、今この盛り上がっている状況で何を魅力を感じてみなさん入ってきたのかとかを聞きたいですね。

稲垣 最近体感したAR、VRってことなんですけど、これAR、VRって言っちゃっていいのかわからないですけど、リアルとバーチャルの融合っていう意味でちょっとお話を。

――リアルとバーチャルの融合。

稲垣 そうですね。日本のディズニーランドにはないんですけど、カリフォルニアのディズニーランド(ディズニー・カリフォルニア・アドベンチャー)でそこにソアリン・オーバー・カリフォルニアっていうアトラクションがあるんですよ。どういうのかっていうと、ハングライダーに乗ってるのを体感できる。

──それは実際に乗せるんですか?

稲垣 ほぼ実際に乗せています。半円の巨大なドーム状のスクリーンがありまして、中に入ると上から椅子がつり下がってるんですよ。真ん中の方のいい席に座るとスクリーンの端の境目が見えないんです。だから実際に下向いても上向いてもすべて風景、といった形ですごく良くできてるんです。

──ヘッドホンとかをかぶるのでなく、ドーム内に映像が投影されて、みんなで同じ映像が見られる。

稲垣 で、その離陸から始まって、急旋回とか上に行ったりとか下に降下するんですけど、つり下がっている椅子をジャッキで傾けてG(重力)を感じさせるんですよ。風が吹き込んだりして、本当に飛んだらこんな感じなんだろうなって。没入感っていうかほぼ本当に飛んでいるのと変わらないくらいなんじゃないかっていう。そういう意味ではやっぱりヘッドマウンティングが体感できないような。

──そんなにデカいわけじゃないんですか? 何人くらい座れる?

稲垣 多分何十人だと思うんですけど、そのままアトラクションの施設ごとシステムになっているんで。規模的にできるとしたらディズニーランドくらい。ありとあらゆるエンタメのノウハウとテクノロジーを結集させて作っているような。これはVR、ARっていっていいかわからないですけど、いろんな可能性があるんだろうなっていうのを肌で感じました。


ARはモテる人の発想だ

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バンダイナムコゲームス 原田勝弘プロデューサー

──VR、ARって言っていいのかちょっと難しいですね、なかなか。原田さんはどう感じてらっしゃいますか、定義とか?

原田 割とここに来てる人は、どっちも好きな人が多いと思うんですよ。僕はVR・AR定義の話をしているわけじゃないんですけど、あえて一番面白い言い方すると、ARやりたがる人ってすごくアクティブな方が多いんですよ(笑)。外にでも遊びに行く。たとえばそれこそ渋谷のスクランブル交差点行ったら、巨大なガンダムが見れますって言ったら、実際に現場に見に行っちゃう人なんですよ。

僕はFPSをいつも遊んでいるせいか、よくサバゲーに誘われるんです。でも実際はサバゲーとかは行きたくないんですよ。サバゲーに行く人はARが好きな人。「FPSはサバゲーとは違うんですよ、家でやりたいんです」って言っている人はVRが好きな傾向がある。外に実際出て、面白いことやろうぜっていう、テクノスポーツ(会場内で展示されたメリープの『HADO』)みたいな、あの発想ってやっぱりARなんですよね。VRとは違うんですよ。僕もヨットレースをずっとやってたんで、スポーツが嫌いなわけじゃないんですけど、基本的な発想ってそれくらい実はちょっと違うんです。VRとARってしっかり考えていくと、今の時点でのテクノロジーだとそれが分かれちゃってるんですよね。

ただ今後、テクノロジーの進化で変わっていくところもあるだろうなと思ってます。これはあくまで現状での話です。

──福田さんその辺は考えありますか?

福田 僕も原田さんがおっしゃる通りだと思いまして。僕もサバゲーは好きなんですよ。サバイバルゲームはやっていて、これはARを使ってもっと面白いことできるんじゃないかなって。

原田 ほらそれ、モテる人の発想ですよ(笑)。

福田 なので、どちらかというとアクティブに休日過ごす派ですね。ARでやれて、VRでできないことっていろいろあるんですが、その逆もありますし。僕はどちらかというと一緒にプレイしてる人たちとハイタッチしたいんですよ。

原田 ほらね、すごい明るいでしょ? ハイタッチですよ!!??

(一同笑)

原田 人としてリアルにポジティブな人ですよ。休日ずっとインターネットでSNS見てるとか、ツイッター見てリプを返して一日が終わったとか、そういうのないんですか?(笑)

福田 基本的にないです!(笑) なので、VRだとハイタッチできない。ARだと目の前に人がいるんで、ハイタッチできるっていうのがある。

原田 私がVR大好きな理由がなんとなくわかりました(笑)。

福田 やっぱり少し現状の技術ではターゲットとなる人たちが違うのかなって。将来はちょっと変わってくると思いますけど。

原田 格闘ゲームが好きな人と、本当に格闘が好きな人との違いみたいな。格ゲーやってる人とかよく勘違いされますね。ボクシング好きなんですか? みたいな。見るのは好きですけど、実際にやるのは嫌いですみたいな。それくらい実は似てて違うっていう。

──やっぱりアプローチですね。

原田 アプローチですよ。

──すごい面白い。

原田 モテる派、モテない派!(笑)

 

まだビジネスモデルが見通せている人はいない

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メリープ 福田浩士代表

──じゃあまずそんな感じで、最終的に定義話になっちゃいましたけど。次、みなさん結構気になってることだと思うんですけど、AR、VRは今かなりデバイスが出て、ソフトウェアもいろいろ出てるけど、どこでブレイクするか、どこでビジネスになるのかみたいな話をちょっと聞きたいなと。どうですかね? ビジネスになりますかね?

原田 どんな企業もそうだと思うんですけど、利益を得ないと……経済、エコシステムが回らないと、普及もしないですよ。VRがビジネスになるかという点では、例えば「5年後に何兆円」とか言われていますよね、あれは単なるアナリストの予想でしかない。どっちがニワトリ、タマゴの世界ですけど、経営者視点でみると今のところお金になるしっかりしたビジネスモデルが見えている人って、いないんですよ。

──あ、いないんですか?

原田 ハイ。実はなかなか難しいと感じている。みんな興味は先行するんだけど、いかに普及させるのがどうするのかっていうのがかなり課題になっています。そんな中でブレイクスルーをどうやったらできるかっていう話ですが、ゲームではインディーズと大きい企業で役目が違うと思うんです。

 インディーズはコンセプトにあった面白いアイデアを提供できる。一方で大きい企業なんかは、ソニーさんとかが代表格ですが、大きな企業力と影響力を持って、どういうふうに社会にプレゼンテーションしていくかっていう。

 あと、ゲームも一般の私生活にあるもの全部そうなんですけど、ヒットする商品にはひとつ共通のキーワードがあって、それは「人間の不便を解消しているもの」なんですよ。

──おお。

原田 ゲームはなんの不便を解消しているのかって言ったら、ストレスだったりとかなんらかの欲求を満たしたいとかそういうのですけど、バーチャルリアリティの世界もそうです。

 たとえば3Dカメラってあるじゃないですか。最近安いのが出ましたけど、高齢化になってみんな入院とかしちゃって孫とかにも会えない人が、本当は家に3Dカメラを一個置けば、おじいちゃんでもおばあちゃんでも着ければみんなと暮らせるような感じになるじゃないですか。そういうのって生活の不便を解消している。ほかにも旅の話がよく出ますよね。僕とか正直言って旅行に行こうにも時間がない、海外出張が多すぎて移動が辛い。移動したくないし、時間もないけど、世界中の遺跡は見たいんです。でも遺跡行くのって面倒臭いんですよ。こういった時にVRで見に行った気になれれば、不便は解消されていますよね。これらのアイデアは全部、時間をかけたくない、移動したくないといった不便を解消している。こういうことをありとあらゆる業種で大きい企業がちゃんとお金かけてやり始めると、初めてブレイクスルーが起きる。現状、これを同時進行で起こすのは難しいのとお金が非常にかかるので、どこが先にやるんだってせめぎ合いが起きている感じです。

 

不便の解消がブレイクスルーにつながる

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デイジー 稲垣匡人代表

──ARではどういうようなブレイクスルーがあると思います? 福田さん。

福田 ARというと現状、技術的なレベルではシースルー派のものが多い、フォローレンズとかもそうなんですけど、価格が限られていたり、没入感が減ってしまうんですよね。例えばゲームコンテンツを作るときに没入感があるものを作れなかったりとか、出てくると思います。それが一つのARの技術的な課題かなと思います。あと技術面以外の所を言うと、やっぱりVR、ARに限らず、つけていない人、体験していない人にどうやって魅力を伝えるかっていうのが非常に大きな課題だなと思っていまして、やったことない人なんて良さがわからない。

──すごいわかります。それ。記事でめちゃくちゃ書いてるんですけど、誰もわかってくれないんですよ。アップル系の記事とかも書くんですけど、そっちのビューは割と良かったりして、VR系はわかっている人は読んでくれるんですけど、わかってない人はそもそも興味を持たないんで、クリックされない状況なんですよ。難しいんですよね。魅力を伝えていくっていうのが、非常に大きな課題だっていう。

福田 そこを伝えればプレイする人も増えて、一方でプレイしなくてもプレーヤー以外に見る人も増やせるっていう。ちゃんと映像コンテンツとしてお伝えできるのであれば、VR、ARでそれを観る人たちの層が増えてくる。

原田 実は格闘ゲームもそうなってるんですよ。意外とテクノスポーツとかの発想、構図としてはそれに近い。やる人がいて、見る人がいて、応援する人がいて、プロゲーマーがいて……格闘ゲームのほうは、今は成熟してますけどね。

──稲垣さん、どうですか?

稲垣 えっとARとVRってことなんですけど、ARに関しては実用的な方がまずいいかなと思っていて。

──『ナリキリショウダウン』は実用的じゃないと?

稲垣 見た目的にも大々的に出しちゃっていいものかっていうのがありまして。あれは純粋に楽しんでいただければいいという所で、ビジネスの所では考えていないんです。実はこういう仕事やっておきながら、ゲームって自分でやらないんですよ。自分で会社作る前は大手のゲーム会社さんで働かせていただいていたんですけど、ゲーム自体はそんなに自分はぴんとこなくて、どっちかっていうとリアルでなんかやる方が。例えば、バイクとかスピード出してると、軽くトリップ状態になるじゃないですか。ただ、ゲームだと時速200㎞でぶつかるとぼよんとぶつかるだけで、「ぼよんじゃねーだろ」みたいな。

 リアルで車とか、スピードを出してとぶつかると確実に死を覚悟しますよね。その恐怖が脳内麻薬を出すようなところがあるのかな、そういうのはもしかしたらVRとかだったら作れるのかなっていうような感じはします。毎年CESは見に行ってますが、今年はやっぱりVR系のプロダクトが多くて。すごかったのが、車で下からジャッキがいっぱい出てて、さっきのソアリンと同じような感じになっちゃいますけど、ヘッドマウントディスプレイをかぶるんじゃなくて没入できるくらい広いスクリーンで見せる。ハンドルとかアクセルを踏むとジャッキが椅子を動かしてものすごくGを感じることができる、そのレベルまで行くとリアルで車を運転する人もかなりハマれるんじゃないかなと。

──ゲームとまた違ったレベルの体験ができる。

稲垣 ビジネス的なことで考えるとコストがすごくかかるので、成り立つかどうかは別なんですけど、純粋に面白そうだなって思いまして。ARに関してはどちらかというと個人的には実用的な方がいいかと思います。今あるコンテンツとかプロダクトで唯一、僕がほしいなっていうのはサイバーナビとかですね。

──あれ便利ですよね。目線をそんなに動かさないで。

原田 あれも不便を解消してる。

──なるほど。

稲垣 そのうちフロントガラス全面がそうなったりするとかなり便利かと。

福田 僕はARの使い方について思うのですが、今までのARアプリは視界の中に情報を表示させるということをやっているんです。

──なんとなくQRコードで出てくるみたいなイメージはあったりしますねARって。

福田 スマートフォンの場合はそうですね。ウェアラブルの場合は視界の中に何か表示させるのが圧倒的に多いです。一方で、これからは"ウェアラブル×AR"に"周りの空間を認識する技術"が追加されていくと思うんです。たとえばグーグルが開発している” project tango”のデバイスですが、赤外線で周りの空間の形状をちゃんと認識できるんですよ。この"空間を認識する技術"がウェアラブルに入れば、机の上にキャラクターを立たせるとか、椅子にキャラクターを座らせるということができて、バーチャルキャラクターと一緒に生活するということもできるようになるわけです。

──タグとかつけないで、その形状を認識してそこに置いてくれる。

福田 "空間を認識する技術"がしっかりできればエンターテインメントにも十分使えると思います。

──確かに一つのブレイクスルーですね。

福田 今までのARとは全く違う使い方ができるんです。

 

高解像度の3D酔いは次元が違う

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VR普及の壁は「3D酔い」の克服

──大変面白いです。次の質問は現状の認識と比べてどこが問題かという点。あとはAR、VRみなさん作られてて、「ここが今危ないかも」みたいなところがあると思うんですね。

原田 VRの危険性とか、今現状のヘッドマウントディスプレイにおける話ですよね。今日話していることは2015年現在の話であって、デバイスとかは技術の進化で何とかなるところなので、2020年くらいになったら笑い話になる内容かもしれません。ただ、ここに来てる方には、平面のディスプレイを光学レンズを通して一生懸命見るような今現状のコンテンツを、ちょうどこれから作りたいと思っている人もいるでしょうし、実際作っている人もいるかと思うんで、お話します。

 僕、この間にすごい貴重な体験をしまして。うちは『サマーレッスン』を発表するよりもっと前からVRに力を入れてて、研究としては3年前ぐらいからやってるんですよ。その蓄積もあって、3D酔いとかに対してはものすごく敏感にやってたんですけど、そんな僕でさえ去年末、初めて体験したレベルのすごい3D酔いってのがあって。本当にやばい、さらに次のレベルを見ちゃったんですよ。これが何かっていうことをご説明します。

 みなさんVR機器をつけたら酔うことがありますよね? あれって原因がいっぱいあるんですよ。インディーズ系のコンテンツで一番多いんですが、自分のPCのスペックがソフトの要求に追いついていなくてフレームレートが悪いとか。もしくはそもそもゲームのソフトの作りが悪くて、カメラの動きがひどくて酔うとか。で、あの程度は実はですね、まだ通常のゲームの画面で酔ってるのとあんま変わらないレベルなんですよ。これが進むとどういうふうになっていくかっていうと、”ものすごいレベルの高い酔い方”っていうのがあるんです。

 今のゲームとか映像コンテンツとかの場合は結局、自分の視界をどっかでだましきれてなくて、やっぱり非現実的なものだと頭の片隅で思ってるので、完全には視界の情報をジャックできていない。現実だと完全は思い込まされていなくて、没入感としてはまだ低いから、あの程度の酔いで済んでるんです。

──あれは高くないんですね。もっと上があるんですね。

原田 そうですね。それで去年末に、某社の方からFPSや車のゲームでまだVRコンテンツとしては世の中一般には公開されていないものを紹介していただいたんです。非常にテクスチャーの質も高ければ解像度も高くて、フレームレートもいい、ちょっと遊んだら5分くらい冷やさないといけないくらい高スペックなPCで遊ぶ、非常に質の高い良くできたCGのコンテンツ。そういうレベルのコンテンツだと、今までより没入感があるわけです。視覚が本当の視界だと認識する。

 そうすると、同じ車ゲームをやってもどうなるか。僕は今まで「車のゲームは水平移動だし、上下の揺れもたいしたことないんで酔わないです」なんてことをいろんなセミナーで言ってたんですが、見せてもらったようなレベルの高いVRコンテンツでは、実際の運転とほぼ変わらない感覚で没入できるので、運転が下手な人もしくは運転うまいけど自分と感覚が合わない人のタクシーに乗った時みたいな、「本当の酔い方」をするんです。そして面白いことに、車を運転したことのない人は、そのデモであんまり酔わないんですよ。自分の予想とずれがないんで、「こういう物なのかな」って思っちゃうんですね。普段から私生活で運転してる人からすると、ラリーゲームとかやった時の、本当の挙動より誇張された揺れみたいなのを、リアルな視覚のままでやられる、嘘をつかれてしまうと、ちょっとした段差でふわっと浮いただけでも、「こんなに浮いてるわけないじゃん」って違和感を感じる。その瞬間にうーっと気持ち悪くなる。

 ほかにもFPSみたいなゲームでたかだか5段の階段を降りるとします。たった5段の階段ですよ? それが、降りるのが嫌なんですよ。スーっとスムーズに降りていく動きがもう気持ち悪くてしょうがないんです。だからリアルに近づくほど、リアルとのズレに気づいているわけです。加速度は現実とズレがあるし、自分の体は本当には動いてないしってことで、酔いのレベルっていうのが高度になるんですよ。

 『サマーレッスン』のディレクターがよく言っていることなんですけど、みなさんが仮に飲食店に行ってまずい料理を食わされたとしても、そのメニューは頼まないで、次は新しいメニューを頼めばいいや、と思うじゃないですか。既存のゲームは現状これなんです。でも、VRで酔って気持ち悪くなるのは、初めて入ったお店で食あたりとか食中毒とか起こしたのに近い。そんなことがあったら、その店には二度と行かないじゃないですか。それくらい3D酔いってやばいんですよ。今くらいのコンテンツだといいんですけど、超お金をかけてすごくいいコンテンツを作った時、異常に酔うものを作った時に、初めてVRを体験する友達にそれをやらせてみてください。そいつは間違いなく、二度とVRに手出さないですよ。それくらい、3D酔いって本当やばいなっていうのを去年末改めて体験したんです。

──本当に注意して、注意して作っていかないと。

原田 そうなんです。だから絶対的に僕、「酔うかどうかっていうのは別に3番目くらいの優先度で良いよ」って言ってたんですけど、今一番に上がりましたね。やっぱり。

──酔いを軽減するテクニックって、オキュラスVRもそうですし、いろいろシェアされているじゃないですか。

原田 映像レベルが上がって、ハードがよくなれば、その酔い軽減の工夫もさらに一個レベル上げないと無理になるんですよ。

──え? じゃあ今まで使えてた戦法が使えなくなるんですか?

原田 結構あります。だからもっとフレームレートが上がって、高精細になったらもっとひどい、逆に言うと素晴らしい、レベルの高い酔いが待ってます。

──開発者たちはそこを注意して作っていかないと。

原田 より注意しなきゃダメです。バスの真後ろについている窓から流れ去る背景を見ます、みたいなコンテンツ作ったらもう終わりです。気持ち悪くてしょうがないです。たった時速1㎞くらいでも気持ち悪い。うわーっとなる。

──すごい大事ですね。それ。

原田 没入感がより高い状態で現実と乖離した動きを少しでもするとかなり気持ち悪い。だからせっかく興味ある人がもう二度とやらないって言わないように、気をつけるっていう所をまずクリアしてから、その上で何をやるかを、ぜひ考えてもらいたいなって思います。

──そこらへんの共有はちゃんとみんなでしていけるといいですね。

 

ARを突き詰めたところでの課題は

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メリープ「HADO」(イメージ)

──そのほかARでいう、ここがもうちょっと改善された方がいいよねという点はどうでしょう?

稲垣 僕もオキュラスを自分で体験するまでは、ユーチューブとかで体験者の方がわーって倒れそうになっているような映像ありますよね? あれ、ネタだと思ってたんですね。ですが、同じものを体感する機会があって、いざ自分がやってみると同じようになるんですよ。没入感がコンテンツとしてはいい方にも邪悪な方にも使えるんじゃないかと。これからハードのスペックが上がって、解像度も上がってくると、本当にマインドコントロールみたいなことができるんじゃないかって、そういうのちょっと怖いなって。そういう意味では我々コンテンツを作る方も気をつけたほうが良いと思います。

福田 細かい話はいろいろあると思うんですけど、僕らが作っているARでいうと、リアルな空間で走り回ったりとかするので、危ないんじゃないかとか。ARで動き回る際には、壁や人、モノとぶつかるのを避ける必要があります。僕らのシステムはビデオシースルー型を使っていますが、そこで大事なのはモノとの距離感を裸眼で見た時と同じような感覚で表示できるかということです。たとえば1メートル先のモノが、きちんと1メートルにあるように感じられる映像表示にこだわっています。ただ現状、ヘッドマウントディスプレイをつけた状態でキャッチボールをすると、ぽろっと取りこぼしてしまったりするんですけど。

──なんで取りこぼしてしまうんですか?

福田 遅延もありますし、やっぱり距離感が少し実際のモノと違うんです。

──遠近感というか、単眼というか一つの目でとってるから立体視できないみたいのがあるんでしょうか。

原田 両方で撮っても無理ですよ。目とは別の光学レンズを通してますから。普段通さない別の光学レンズを通す以上は、何か望遠鏡とか双眼鏡を見てるのと変わらないですから。工夫をしないと距離感は狂います。

福田 ただ、前面にワイドレンズを装着することで、現実の距離感と同じくらいに近づくんです。安全にプレイできるように様々な方法を検討しています。

──スポーツは難しいですね。

福田 あと単純に目が悪くなるっていう。

──あー。それはあるかもしれないですね。オキュラスも14歳以下は体験させるなといった推奨文が最初に出ますけど、普通に大人でも目も悪くなるかもしれないですねそれは。

福田 やっぱり少し疲れるんですよ。

──なかなか難しいところですね。疲れないデバイス作りみたいな所は。ハードウェアで解決できればいいんですけど。

原田 逆に言うとそこの技術を突き詰めていって、距離感とか全部出て映像もリアルになったらARも危ない。さっき実用的ってところでカーナビの例出ましたけど、極端な話でカーナビなんか本当はここで道切れているのに、フロントガラスにではあるように見せられるじゃないですか。そういう意味でARは、実用的に使われる分、ハッキングされたりハグったり、危ない面もあります。まあもっと先の話でしょうけど。

 

マトリックスを目指してはならない

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デイジー「ナリキリショウダウン」

──最後の質問はこれからのAR、VRの発展に必要な新しいテクノロジーは何か。フルダイブ型、例えば『ソードアート・オンライン』は実現可能かとか。今回集まっていただいたゲーム・エンタメ・スポーツ以外の領域でAR、VRがどう使われていて、どう生活を変えていくみたいな。そういう未来の話をみなさんに伺えればと思います。

福田 ARの文脈でいいますと、デバイスの進化がまさにこれから起ころうとしているんですよ。たとえばマイクロソフトのHoloLensとか、Magic Leapですとか、新しいデバイスが今続々と出ようとしてます。それらがさらに進化し続けていき、2020年くらいになれば非常に画角が広くなったり、軽くなったりするので、日常的につけていていることができるようになると思いますね。そうなってくると日常のシーンでARを使ってコミュニケーションするとか、居酒屋にいながらARを表示してコミュニケーションできるようになります。

──SNSが手元に表示されてるとか。

福田 SNSもそうなんですけど、もっと本質的な使い方としては、例えば自分の好きな女の子に告白するとき、お互いウェアラブルをつけていれば、ぱちんと指を鳴らすだけでその空間に満点の星を演出することができます。

原田 ほらあ!! やっぱり発想が違うよね(笑)。そもそも相手を告白とかいう時点でハードルを高く感じるのがVR傾向の人。告白する相手をそもそもバーチャルで用意する気がないところが、もう発想が違うんですよね(笑)。モテる気まんまんじゃないですか! ここに隔たりがあるのかな……多少は、やっぱりVRとARの溝……みたいな(笑)。あ、これ冗談ですよ(笑)

福田 例えばそういう使い方が出てくるんじゃないかなって(笑)。

──いいっすね。

原田 こういう人は絶対『サマーレッスン』みたいな発想に行かないんです(笑)。

福田 基本的にARは現実の何かを拡張するという発想で、その中で僕らはスポーツを拡張しようとしています。一方で居酒屋でのコミュニケーションのような日常シーンを拡張することも十分できるだろうなと思いますね。

──稲垣さんはどうでしょう?

稲垣 スポーツ、ゲーム以外ですと、医療の方で興味あるのが手術支援ロボットのダヴィンチって知ってますか? タコの触手みたなアームが出てまして、今までお医者さんがメス持ってやってことを、ヘッドマウントディスプレイをかぶって操作して、細かい作業をやってくれたりとか。

──遠隔でもできるんですか?

稲垣 はい、遠隔操作できます。3Dのヘッドマウントディスプレイを使って、お医者さんが操作してるんですけど。進化するとスクリーンにAR情報が出て次のアドバイスしてくれるとか。技術的には国をまたいでインターネット経由でもできるらしいんですけど。そういう所にゲームで培ったインタラクションのテクノロジーとかがより応用できるのかなって。ああいうの見ちゃうとすごい世の中だなって。『攻殻機動隊』とかそういうサイバーパンクを連想させるようなものが現実的にどんどんできてくるんだろうなって感じますね。

──あらゆる情報が引き出せて見れてしまうみたいのって、グーグルグラスがそういう感じじゃないですか。あれがもっと手軽になってくるのかなって。

稲垣 スマホもそうだけど、かざすだけでARが見れるようになるレベルにならないと普及は難しいかなと。アプリ入れて動かさないとできないとかじゃなくて。

──デフォルトでそういうデバイスになってないと。

稲垣 そうですね。多分一般の方って僕もそうなんですけど、ワンクッション動作が入るだけで、もう嫌になっちゃう。かざすだけで自動的にババっと情報が出るっていう感じまで進化して、初めて普及する可能性がある。

──なるほど。原田さんとか、どうですか?

原田 そうですね。僕はじゃあせっかくなんで『ソードアート・オンライン』みたいな世界を実現した場合の話をします。ああいう完全に没入したものは、いわゆるヘッドマウントの世界ではもはやないですよね。究極的には『マトリックス』みたいなもの、ってみんな言うじゃないですか。僕もそれ、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を始める前は最初に思ったんですけど、みなさんよく考えてほしいんですね。

 いいですか、現時点の技術では視界をジャックしてます。なんで、この時点で結構面白いと思ってやってる人が増えてます。で、次のステップで本当に実際の感覚にすればいいと思ってやっていったら、視界だけじゃなくて、嗅覚だ聴覚だってジャックしていきますよね? 三半規管だって実際にシートが動くようになるかもしれない、でも結局肌の感覚が残っていて動いてないのが分かる。そうなると結局、頭の神経をジャックして……とかになっていくわけじゃないですか。

 それが究極のバーチャルリアリティであり、面白いコンテンツだ、っていうふうに大きく誤解している人がいるんですけど、ゲームってなんでエンタテイメントとして面白いかっていうと、現実じゃないところの感覚があるから、言い方を悪くするとどこかの感覚が欠落しているからなんです。どれだけ没入しても何か現実の感覚が残ってはいるからなんです。いまのVRでいえば、要は視覚は奪っているけど、体は残しているから、ゲームだと認識できていて面白いんですよ。

 これを突き詰めて考えてみてください。まさに『マトリックス』の中のキアヌ・リーブスが演じているネオっていう人は、あれはあの世界を現実として生きているわけですよね。はたからから見ている分に、バーチャルの設定って分かっててみてれば面白いんですけど、本人からしてみればとてつもなく恐ろしい状態でしょう。

 これ、いまみなさんに問いますけど、「いま目の当たりにしている現実がバーチャルリアリティなのか現実なのか」っていうことを証明するのって、難しいですよね。みなさんをこの会場のビルの屋上に連れて行って、「これはVRです、ゲームですから、ここから飛び降りてください」って僕が一生懸命言っても、誰も飛び降りませんよ。「大丈夫です。これゲームですから、落ちたら絶対目が覚めて、『あ、そうだゲームでした』って言いますから」って言って、誰が信じますかって話なんですよ。

 つまり本当に神経をジャックする、脳も体の加速感も何もかも本物と完全に同じく感じてしまうような技術に到達した時にも、必ず一か所どこか「ここはゲーム内です」って絶対に知らせる信号、ないしは判別する方法を残しておれば成り立つんですけど、「本気でやっちゃうと中で死んだら死ぬのか」っていうことが楽しめるわけがない。

 そういう話しをすると、例えば「そういう時にドラゴンとか非現実なものが出てきたら、ニセモノってわかりますよ、原田さん」っていう人いるんですけど、これもちゃんと思い出してほしいんですよ。みなさん夢見てる時に巨大な人が襲ってきたりだとか、車にはねられそうになる時って、夢だと認識してませんよね?

──うーん。寝汗すごいですよね。

原田 あれは起きる寸前で脳がいくつかの神経をそれでもちゃんと残してくれるから、途中で夢だって気づく人もいます。つまり欠落してるんですよね。でも完全にジャックされている夢の状態って、本当にやばいと思いませんか? あれがゲームだと思うと面白いわけがないって、分かりますよね。

 実は我々にとっては、描写はリアルだけど、安全な地にいながら、家でクーラーでも浴びながら、ものすごいジャングルでダダダダダーって銃を撃ちあってる、っていうものだからこそ、ゲームは面白いんです。本当にめっちゃ暑くて服の中に虫が入ってきたら絶対面白くないですよ。僕はオカルトを信じてないですし、幽霊さえ見たことないですけど、ホラー映画が大好きなんです。でも、完全にジャックされたVRだったら、体験として本当に見えちゃうわけじゃないですか。ホラー映画どころの騒ぎじゃない、脳が区別つかないんだから。その時はこれ本当にゲームですって言ってくれないと。つまり、実際の感覚は少し現実に残してくれないといけない。

──「スタッフがおいしくいただきました」みたいな感じで、こうこれはゲームですって。

原田 究極の世界はそうなっちゃうんですよ。もはやバーチャルリアリティじゃなくって現実ですよね。本当の意味でリアルになっちゃったらダメなんです。「バーチャルリアリティはあくまでバーチャルリアリティって言っているうちが華なんですよ」っていうことを僕は今日言いたかったんです。

 本当の本気で『マトリックス』とかを求めてると、あの映画の中で悲惨な目にあっている人たちみたいに本当になりますよって、それだけです。

──いや面白いですね。

原田 本当に僕最近そこの境地に達しました。

──『サマーレッスン』も作られているとそこはいろいろ見えてくるんですね。

原田 あれが本当に現実と区別がつかないゲームになったら、好かれてるうちは楽しいでしょうよ。でも、キャラクターに嫌われたくなくて一生懸命やった挙句、例えば「原田さん臭いからイヤ!」とか言われたりとかしたとき、どうなるでしょう?

 ゲームだったら、ハハハ!って笑って済ませられますけど、脳がゲームだと認識できない体験だったら、本当に落ち込むんじゃないですか? あれがもっと、究極に没入感が強ければ。「大嫌いです先生、消えてください!」って言われたら、多分次の日ものすごい落ち込んで、下手したら失恋のショックで自決を考える可能性もあるかもしれない。それはダメですよねもう。バーチャルリアリティとゲームの世界じゃない。

──超えてますよね。現実ですね。

原田 どこかに現実じゃないところを残すっていうのは、「ゲーム」にとってはすごく重要なんだなって思います。

VRゲーム進化論
360度を見渡せる仮想空間で女の子とコミュニケーションできる『サマーレッスン』 (C)BANDAI NAMCO Games Inc.

写真:編集部、YouTube

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