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Ingress:『Atari 400』がなければ生まれなかったかも!? ジョン・ハンケ氏インタビュー

2014年12月13日 11時30分更新

 12月13日に行なわれた『Ingress』の公式イベント『Darsana(ダルサナ)』に合わせて、Ingressの開発元であるナイアンティック・ラボの創業者でGoogle副社長の、ジョン・ハンケ(John Hanke)氏が来日。Ingressのことはもちろん、本人がいかにしてプログラマーになったのかなど、貴重なエピソードを聞くことができました。

Ingress:ジョン・ハンケ氏インタビュー
↑ナイアンティック・ラボ創業者/Google副社長のジョン・ハンケ氏。

――私たちの週刊アスキー編集部の大半がエージェントです。よろしくお願いします。

ハンケ氏: Awesome(素晴らしいね)! 編集部では、エンラインテッド(Enlightened)とレジスタンス(Resistance)の人数のバランスは、半々になっていますか?

――そうですね。大体半々ですね。

ハンケ氏: 「なぜ2つの陣営の人数バランスがとれているんですか?」とよく聞かれるのですが、皆さんはどう考えていますか?

――「Ingressって面白いよ」と広めた人と同じ陣営がまずは増えるんだと思います。その後、対抗心を燃やす人がいて、反対の陣営が増えていく、という印象です。

ハンケ氏: 結果的にそういったパターンが、会社のような小さな単位からグローバルのような大きなスケールでも同じように伸びていくのが面白いですよね。

――ご自身ではバランスがとれている理由をどう考えていますか?

ハンケ氏: プレイヤーは、拮抗するゲームにしていきたいんじゃないかなと思います。ひとつの陣営が大きくなってしまうと、人間の欲求として、不利になっている陣営を助けようとして人が増えていって、結果的に半々になるのだと思います。

――MMORPGのようなゲームでも同じようなことが起こりますね。ブルーがクールだと思う人と、グリーンがクールだと思う人が半々なんだ、という意見もありますが(笑)

ハンケ氏: (笑)

――それでは、ナイアンティック・ラボの位置づけと、Ingressを作成した理由を教えてください。

ハンケ氏 ナイアンテック・ラボは元々Google MapやGoogle Earthを立ち上げた主要なメンバーから構成されています。私たちは、常に次に出てくる流れはなんなのか、ということを考ええています。そして、それはなんのかと言えば“モバイル”です。モバイルと言えばウェアラブルのデバイスですよね。グーグルグラスもそうですし、アンドロイド端末もそうです。それらの上で動くキラーアプリケーションがあったほうが良いのではないか、と考えてつくったのが『Field Trip』でもあり、Ingressでもあるということです。個人的には1995年ぐらいからMMORPGのような要素が組み合わせたプロジェクトが世に出るべきだと思っていました。重要な点として、単にPCの前に座っているだけでなく、外に出て探検できる要素を入れたかったのです。

Ingress:ジョン・ハンケ氏インタビュー
↑ユーザーの位置情報を取得して、その地域の情報をプッシュ通知するアプリ『Field Trip』もナイアンテック・ラボ製。

――もしかすると日本は比較的に、治安が良いということのもあるのではないかと思います。日本のコアなユーザーは深夜に歩き回ることが多いですし、ほかの国だとそれは危険なのではないかと思います。あとは地理的に狭いので、色々な場所のポータルにアクセスしやすいのかもしれません。

ハンケ氏: 私も15年の間に日本になんども来たことがありますし、東京やスイスのチューリッヒがお気に入りです。歩きやすいですし、地下鉄が整っているので、楽しいですし健康的ですので、アメリカもそうなればいいな、と思います。

Ingress:ジョン・ハンケ氏インタビュー
↑ハンケ氏お気に入りのチューリッヒ近辺をIntel Mapで確認。東京と同じく盛んにプレイされていそうだ。

――ここまでIngressが広まっていくことを想像していましたか? そうなった理由をどうお考えですか?

ハンケ氏: 予想はしていませんでしたが、望んではいました。嬉しい驚きでした。タトゥーを入れたり、飛行機のチケットを買ったり、山頂に登ったりしてIngressをプレイしているエージェントの皆さんを観ていて、どこを面白いと感じているのか自分なりに考えてきたんですが、Ingressをプレイしているのと同時に“体を動かしている”ということが人間の本能にうまくマッチしたんだと思います。
 普通のゲームであれば机の前でイスに座ったままプレイし、当然その場合でもエンドルフィンが出て衝撃を感じます。Ingressの場合は、体を動かすことでより自然なエンドルフィンが出ているのではないかと思います。

 もうひとつの理由は、ゲームをするうえでほかの人と対面してやりとりする必要があるので、それが楽しさに繋がっているのだと思います。プランを立てたりオペレーションを考えたりするので人とつながり、プレイした後、例えばディナーのときにゲームの話ができることが成功につながったんだと思います。

――私たちもコミュニケーションツールとして「あのポータルをとったよ」というような会話をしています。Ingressの遊ばれ方として、日本固有の違いなどは感じますか?

ハンケ氏: データ上ではありません。私個人としては、5月に石巻でプレイしたのが初めてなので日本での経験は少ないですが、12月13日のDarshanaイベントにも参加しますので、イギリス、ドイツ、フランス、アメリカとの違いが分かるかも知れませんね。

 日本の方は家にいるより外出したり、社交性がある方が多いと思います。アメリカでゲームをしている方は逆のイメージがあります。Ingressのそもそものコンセプトとして、色んな人とやりとりとかいっしょに楽しむという要素があるので、日本の方にマッチしているんだと思います。

――最近日本ではローソンとのコラボが実装されました。そのほか、企業とのコラボレーションは考えられていますか?

ハンケ氏 アメリカでは『Jumba Juice』や『DUANEreade』など、イギリスでも『Vodafone』といったパートナーと進めていくのを前提としていました。ですので、質問の答えはイエスです。

LAWSONがIngressとのコラボを正式発表
↑11月に国内企業として初めてコラボし、全国約1万店舗のローソンがポータル化した。

――Ingressの世界はどのように展開されていくのでしょうか。

ハンケ氏: エピソード1はおそらく来年終了します。その後エピソード2が来て、ゲーム自体が終了することはありません。エピソード1が完結するなかで、今までの謎が少し解明し、KlueやADA、Jarvisといった登場人物がどうなっていくのか、といった情報が出てきます。また、“Shaper”と呼ばれている存在が何千年ものあいだ人類に影響を与えきました。それに加えて“N'zeer”という存在も出てきて、Darsanaのイベントで、どう関わっていくのかもわかっていきます。

ナイアンテック・ラボ

Ingress:ジョン・ハンケ氏インタビュー

――お子さんがテレビの前でゲームをしているのを見て、もっと外で遊べばいいのに、と思ったところからIngressのアイデアが生まれたそうですが、ご自身はどんな子供だったんですか?(笑)

ハンケ氏: 私ですか!?(笑) テキサスの小さな田舎町で、人口1000人程度の、ほとんどが農家か牧場経営者というところで生まれ育ちました。そこでは、普通のアメリカの子供のようにバスケットボールをしたり、バンドを組んでおり、将来の農家の候補者として牛の世話をしていましたね。しかし、唯一ほかの子供と違ったのが、数学の先生が『TRS-80』を購入したことで、それを見て夢中になったことです。そこからプログラムを書いたりゲームをつくっていたりし始めました。

 その当時、自分で『Atari 400』を使い始め、『Atari 800』も使いました。友達は『Atari 2600』を買っていましたが、自分はゲームのカートリッジが高くて買えませんでしたし、両親もお金を出してくれません。だったら自分でゲームをつくってしまおうというわけです。結果的に自分で色んなものをつくり上げる能力が身についた子供時代でした。

――初めてつくったのはどんなゲームでしたか?

ハンケ氏: 『Robotron』というゲームをご存じですか? 周囲から敵が迫ってくるのを撃つシューティングゲームです。これをもっとシンプルにしたようなものをつくりました。その後、『Climber』というマリオに似たようなアクションゲームもつくっています。BASICや類似した言語で書いていたのですが、雑誌社に当時200ドルで売却したんですよ!

Atari 2600
レトロゲームコーナー
↑E3 Expo 2011会場にあった、『Atari 2600』。画面はあの“アタリショック”を引き起こしたといういわくつきの『E.T.』

――自分のお子さんを見て思いついた、というお話でしたが、子供が遊ぶにしては難しくないでしょうか?

ハンケ氏: おっしゃるとおり、けっして簡単ではありません。それには2つの理由があります。Ingressをプレイするためにはモバイル端末が必要で、アカウントをもっていなければなりません。もうひとつは、子供は小さいので行動範囲が限られており、親といっしょに行動しなければなりません。

 そこで、ポータルがたくさんある公園や動物園に親御さんといっしょに行って遊ぶのがベストだと思います。将来的には何か改善できればと思っています。 しかし、Anomalyイベントでは、親子でいっしょにプレイしていましたので、子供も楽しんでいるようですよ。

――日本語へのローカライズについて、何か動きはあるのでしょうか。

ハンケ氏: すでにフェーズ1の段階は終えています。川島やほかのチームのサポートにより、チュートリアルや基本的なUIは日本語化ができています。今はフェーズ2の段階で、それ以外のUIについても来年の第1四半期ぐらいに完了するのではないかと思っています。
 それだけではなく、例えばコミック本の日本語バージョンを出していきます。ゲームに登場するキャラクターにも、日本の要素を取り入れていこうと思います。例えば、日本でXMを研究している組織と連係するといったように、ストーリー自体にも反映していく予定です。

――お子さんを見て、もっと外に出て遊べばいいのにとおっしゃっていたのですが、実はご自身が外に出て遊びたかったのかな、と確信がもてました(笑)

ハンケ氏: たぶんね(笑)

――日本でも子供に戻って遊んでいる大人がたくさんいます。最後に日本人エージェントにお知らせはありますか?

ハンケ氏: ホリデーシーズンは、教会など寄付が行なえる施設をポータルや、そのポータルを含んだミッションを申請する場合、“#MissionsForGood”というハッシュタグを付けて申請すると、優先的に承認します。特別なMedalも得られますし、チャリティーにも参加してみてください。

――ありがとうございました。

Ingress:ジョン・ハンケ氏インタビュー
↑ハンケ氏とナイアンティック・ラボの川島優志氏と記念撮影してご満悦の編集部エージェント・ムラリン。

 というわけで、Ingressをつくったナイアンティック・ラボの創業者である、ジョン・ハンケ氏にお話を聞くことができました。Ingressはこれからも進化していくことがわかるインタビューになったのではないでしょうか。ナイアンティック・ラボの最新プロジェクトとしては『ENDGAME』があります。同小説の作者や20世紀フォックス社とのコラボにより、本やゲームアプリ、そして映画が連係する、まったく新しい試みなのでこちらも大注目です。

 インタビューのあとで、日本人エージェントのあいだでは“水没”と“緑化”という言葉が使われていることをお伝えしたところ、「じゃあ明日は“水を引かせない”とね!」と意気込んでいました(12/13イベント前日に収録)。

●関連サイト
『INGRESS EVENTS』公式サイト
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