第3回将棋電王戦の気合いの入れっぷりに、ドワンゴの本気を見た!
2014年3月から4月にかけて開催される『第3回将棋電王戦』の記者発表会が12月10日、ニコファーレで行なわれた。すでに、プロ棋士5名、プログラム5つはすでに決まっており、どのような対戦になるかが注目のポイント。……だと思って会場を訪れたのだが、今回の電王戦、気合の入れ方が違って度肝を抜かれた。
まず全5戦あるが、その対局場所が想像を絶する。対戦カードと合わせて紹介しよう。
■第1局: 3月15日(土)
対局会場:有明コロシアム(東京都江東区)
菅井竜也五段 × 習甦(将棋電王トーナメント第5位/開発者・竹内章)
■第2局: 3月22日(土)
対局会場:両国国技館(東京都墨田区)
佐藤紳哉六段 × やねうら王(将棋電王トーナメント第4位/開発者・磯崎元洋、岩本慎)
■第3局: 3月29日(土)
対局会場:あべのハルカス(大阪府阿倍野区)
豊島将之七段 × YSS(将棋電王トーナメント第3位/開発者・山下宏)
■第4局: 4月5日(土)
対局会場:小田原城(神奈川県小田原市)
森下卓九段 × ツツカナ(将棋電王トーナメント第2位/開発者・一丸貴則)
■第5局: 4月12日(土)
対局会場:東京・将棋会館(東京都渋谷区)
屋敷伸之九段 × ponanza(将棋電王トーナメント第1位/開発者・山本一成、下山晃)
これまで、すべて千駄ヶ谷の聖地・将棋会館で行なわれていたが、第4局目までは、通常では将棋での対局を行なわないところで開催。このことについてドワンゴ・川上会長は、
「今回、少し今回気合を入れました。いろいろとおもしろい仕掛けがあるので、盛り上げていきたい。どういう場所がふさわしいか考えた結果、まず有明はテニスをはじめ戦いの場であり、ふつう将棋の対局はやらない場所。両国は、将棋というと昔からあるゲームであり、日本はゲームの国。伝統のある相撲が行なわれる場所で、同様に歴史の長い将棋をやるのはいいんじゃないか。第3局のあべのハルカスは日本一の高さのビルであり、その場所で対局してもらおうと思いました。小田原城は、お城で戦う設定にしたかったから。場所は銅門(あかがねもん)ですが、ここでイベントが行なわれるのは今回が初めて。1年に1回しか公開されない場所でもあります。最後の将棋会館は、最高の力を発揮していただくために、棋士の方が慣れ親しんだ場所でやるのがいちばんかと思いました」
日本将棋連盟の片上理事は
「どこもすばらしい会場をご用意いただき、棋士のみなさんが力を出せる対局ができると思います」
とコメント。有明や両国は広い観客席があるが、そこに人が入って応援するわけでもなく、通常の対局と同様、立会人や記録係といった人以外はいないという、ものすごく無駄な……もとい、ぜいたくな対戦場となる。
対戦カードがきまり、プロ棋士、開発者もそれぞれコメントした。
菅井竜也五段
「すでに週に2、3回対局をしているが、1年前に比べて終盤が強いと思う。なかなかうまく行かない。対局場所はすごいですね。せっかくの舞台なので、しっかりとした将棋を指したい」
『習甦』開発者・竹内章氏
「電王戦トーナメントは習甦にとって厳しい戦いでした。でもコールさんに負けた思いがあるのでまた出場できてうれしい。菅井五段は7割の勝率をおもちなので、厳しい戦いになると思う。対戦場所は格闘技の名勝負が思い浮かべる。同様に名勝負ができればいいなと思う」
佐藤紳哉六段
※対局日のため欠席。VTRでの出演
「やねうら王に決まったがまだよくわからない。とても個性的なソフトだと思う。私も個性的な方だからおもしろい対決になるかな。両国国技館には何回か行ったことがあるが、まさかその場所で対局するとは思わなかった。まずはまわしの締め方を研究しないと。本番と同じ環境で、指してみて、ソフトの対策をしっかり考えていきたい」
『やねうら王』開発者・磯崎元洋氏
「佐藤六段は将棋会のお笑い担当でもあるので、私は同じような立ち位置かなと。できればお笑いの方でも負けたくない。今回スーツでなかったのは、着ようとしたスーツが入らなかったため。妻が代わりのものを買ってきてくれたのがこの服。ニコニコ動画のことをDVDのレンタル屋だと思っていたらしい。両国で行なうことに関しては、こんないい場所で、やねうら王が対戦していいんでしょうか? 電王戦トーナメントでは予選、本戦通じて7回も有利と言われる先手盤だった。なんか配慮していただいたのかな(笑)」
豊島将之七段
「あっという間に時間が経っていて、なかなか練習できていない。これからしっかり練習していきたい。自分にできることをしっかりやるということ。日本一のビルの55階でやるということを聞いてびっくりした。もちろん、こんな高層で指すのは初めて」
『YSS』開発者・山下宏氏
「豊島七段はタイトル戦にも出られている方なので、少しでもいい将棋ができればと思う。相当厳しい研究をされるのではないか。厳しい対戦者になったと率直に思う。あべのハルカスは建設中ずっと見てきた。開館当日にも行ったぐらいなので、その場所でさせるとはうれしい。地元でさせるので、人も呼びやすいのではないか」
森下卓九段
「ツツカナとあたってうれしく思う。前回の電王戦で7三桂と跳ねたのが印象的。ほかのソフトとは違い将棋の筋がいいように思う。通常の対局と同様、本格的ないい将棋を指したい。ツツカナの胸を借りるつもりで望みたい。対局場所は、小田原城一の丸ですよね(一丸氏に掛けたのだが……)」
『ツツカナ』開発者・一丸貴則氏
「ソフトの開発は終わっていて、対局をただただ待つだけなので、待ちどおしい気持ちでいっぱい。森下九段の著書を読んで、原理や理にこだわる方だということがわかり、私と同じような考えをもつ方だったのでうれしかった。小田原城での対局は、風流でいいかな。晴れてくれれば景色がいいかなと思う」
屋敷伸之九段
「だんだん気持ちも盛り上がってきた。ほかの方はすごい場所ばかりですが、私は将棋会館なのでふだんどおりしっかりやりたい。山本さんはがっかりしていますが、落ち着いてさせるからいいと思う。平和島とかの競艇場でてすか(笑)? 電王である『ponanza』に挑戦させていただくという気持ちで、頑張りたい」
『ponanza』開発者・山本一成氏
「屋敷九段との対局はすごい楽しみ。1年経って、大将として指せることはとてもうれしい。ぜひお城でやりたかったので、第4回電王戦は期待してます!
『ponanza』開発者・下山晃氏
「7月から一緒に開発して、少しだけ強くなりました」
まさかの安倍晋三内閣総理大臣の登場でニコ生騒然
そして、いよいよ発表会メインイベント。第1局の先手後手を決める振り駒だ。第2局以降は一局ごとに先手後手が入れ替わっての対局となる。つまり、第1局が先手なら、第3局、第5局も先手。先手のほうが統計的に5割2分~3分ほど勝っているとのことで、有利だと言われている。また、今決まってしまえば、後手であっても対策ができるかもしれない。
これまで川上会長がこの大役を務めてきたが
「振り駒は、ホント嫌でして、この結果によって勝負に影響を与えてしまう。もっと大事な方にやっていただきたい」
ということで、今回は将棋文化振興議員連盟の所属議員に打診。将棋文化振興議員連盟は日本将棋連盟の故・米長邦雄会長が国会議員に呼びかけて設立したもので、会長は山東昭子元参議院副議長。100名以上の議員が所属している。そして、その中から選ばれたのが……、
安倍晋三内閣総理大臣!!!
いやぁ、まさに降臨。電王戦も3回目を迎えるが、これまで以上に箔がつくというか格が上がった感じ。もう国民的一大イベントといってもいいんじゃない? 中央の赤絨毯の上を颯爽と登場する安倍首相。SPがすごい!! ステージに上がり日本将棋連盟・谷川浩司会長の立会いのもと、振り駒を行なった。歩を5枚振って、歩が多ければ棋士側の先手、と金が多ければコンピューター側の先手だが、結果は……、
まさかのオール歩!!!
これには谷川会長も言葉を失っていた。片上理事の口があんぐり開くのも頷ける。
安倍首相
「振り駒はじめての経験。5枚出る確率は低いのではないか。気持ちよかった。富士山も和食も世界遺産に登録された。将棋も同様にクールジャパンでこれからも応援していきたい」
谷川会長
「安倍首相に振り駒をしていただき、電王戦の格が一枚も二枚も上がった。歩が多ければプロ棋士側だったので、1枚でも多くと思っていたが、5枚とは。驚いてしまってすぐに伝えることができなかった」
ここで今回の経緯を含めて安倍首相が電王戦についてお話しいただいた。
「官房長官からお話をいただいた。ニコニコ動画は思い出深い場所。参議院選挙や総裁選挙で討論会を行った場所であり、ホームグランドだと思っている。将棋という文化を世界に発信していきたい」
「映画『2001年宇宙の旅』で人間がHALと戦う。それは電王戦の人間とプログラムの戦いに似ている。人間には感情があり意思もあるが、それがときに邪魔になることもある。なんとしてもプロ棋士には頑張ってほしい」
「コンピューターには感情がなく、たんたんと勝ちに行く。人間は勝ちに行くだけでなく、負けないようにする意思も働く。前回の電王戦でも引き分けに持ち込んだ。今回はどうなるのか楽しみだ」
「将棋は昔、兄と指していたが最近は指せなくて残念。故・米長会長にぜひといわれて、将棋文化振興連盟に参加している」
「取った駒を使うのがチェストの違い。複雑であり、その人の性格が現われると思う。それが将棋の魅力なのではないか。プログラムに打ち勝つかどうかが、この電王戦の魅力だと思う」
今回、振り駒を安倍首相が執り行なったが、第4回以降は首相が毎回行なうんでしょうかね? それとも……ゴクリ。なんとなく無駄な心配をしてみたくなる。
重要なスポンサーもつきました
そして、川上会長から今回はスポンサーがついたことを報告。これ、実は重要。将棋のタイトル戦もすべてスポンサーがついてますし。
特別協賛●ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジア(SCEJA)
対局会場や番組中でPlayStationの提供表示を行なう。プレジデントの河野弘氏は、
「コンピューターと人間がしのぎをけずるのは、ひとつのエンターテインメント。電王戦に対し純粋に共感して、いっしょに応援したいと思い協賛した。コンピューターの高速演算処理による驚異的な部分と、人間の直感力とひらめきとの戦いがおもしろい。人間がどう成長するのか。人間のもつ魅力と可能性がこの戦いを通じてどこかで感じられれば。プロとしての意地を見せてほしいし、開発者も真価を発揮させられればと思う」
特別協賛●日産自動車
「日産自動車は今までなかったワクワクを、という理念を掲げている。過去の電王戦もワクワクした。このワクワクをいろんな人に広めたい。コンピューターと人間の関係は、自動車の運転にとっても極めて重要。日産が誇る、エルグランドとルークスをプレゼント品として提供する」
とのことで、今回MVP賞を設定し賞品としてエルグランドが提供されることになった。将棋連盟の方々もこのような賞品の経験はなく、一様にビックリ。ただ、棋士の人はあまり免許を持っている人が少ないもよう。今回の対局者も豊島七段と森下九段は免許を持っていないそうだ。谷川会長は「教習所へ通うより、将棋の研究をしてほしい」と釘を刺した。ルークスは視聴したユーザーに当たるそうなので、ぜひニコ生で観戦しよう。
そして最後に
おやつ協賛●ローソン
「ウチカフェスイーツをためしていただきたい。男性ユーザーのかたに、休息をもたらすスイーツでほっとしてください」
対局者は全スイーツから選びたい放題だそうだ。おやつの研究をしなければとの発言が出るほど。昼食やおやつに棋士が何を食べているのか毎回話題になるので、ファンにとっても同じものが手軽に食べられるので、うれしいのではないだろうか。
そして最後に、電王戦の番外編がキターー!!
■大晦日に『電王戦リベンジマッチ』
船江恒平五段×ツツカナ
●ニコニコ本社にて9時半より開催する。
船江五段
「お話をいただいたときは、かなり悩んだ。もう一度指したい気持ちはあったが、私でいいのかかなり悩んだ。だが再戦したい気持ちを抑えたくなかったので出させていただくことにした。前回の準備を活かしつつ、失敗したことやあれこれやっておきたいことがあるので、リベンジに向けてがんばりたい。前回はいい将棋ではあったものの、負けてしまった。今回は勝つための準備をして、勝っていい新年を迎えたい」
『ツツカナ』開発者・一丸貴則氏
「リベンジする姿は眩しく見えた。電王戦の時に船江五段の対局姿を見ていたが、胸を焼かれる思いだった。もう一度見てみたいと思う」
川上会長
「電王戦は世間で話題にはなっている。ただ果たして1発勝負だけで判断していいのかという思いがある。今回再戦することで、そのことを検証する場としたい。当時のソフトを保存しているので、当時そのままの状態で対戦できる。前回以上のいい将棋になることを期待している」
片上理事
「前回は一人の棋士として見てきた。船江五段の将棋がいちばんくやしかった。またこうやって舞台に立ってくれるのはうれしい。棋士冥利に尽きると思う。今回は理事という運営する立場から言わせていただくと、勝ってもらわなければならない。がんばってほしい」
対局場所は原宿にあるニコニコ本社にて行なわれるが、本社移転のため、この場所でのイベントはこれが最後。電王戦仕様につくりかえて望むそうだ。ルールは前回と全く同じ。前回同様、先手は船江五段で行なわれる。観覧希望の人はサイトにて募集するのでぜひ。
ということで、プロ棋士側はこれから3ヵ月間みっちり研究しなくてはならない。逆に開発側は、すでに対戦するバージョンを納めているので、バージョンアップすることはできない。タダひたすら対局当日を待つのみだ。
ソフトが1秒間にどのくらい読めるのかということに関しては、今回はマシン性能が統一のためか、どのソフトもおよそ400万から500万局面といったところだそうだ。ただ、最近は評価関数が複雑化して精度を上げているため処理が重くなっているという。評価関数はソフトによって違うので、1秒間に読める局面数が多い=強いという単純な図式にはならない。
また、ソフトは同じ局面だと同じ手を指しがちなため、変化をつけるために選ぶ手をランダムにするようにしているソフトもあるようだ。このあたりは開発者たちが集まったときに話し合われたそうだが、開発が短期間だったこともあり、実際に実装しているソフトは少ない。
電王戦はテレビで取り上げられ、安倍首相も登場したことで、より国民的なイベントになりつつあると、私は確信している。人間に勝ってほしいと思う人が多いと思うが、そのほうが共感を得やすいし、ふだんの将棋対局を見るよりも感情移入しやすいはず。加えてドワンゴによる将棋らしからぬ派手な演出も、一般の心を引きつけることだろう。
コロシアムの広い会場にポツンと盤に向かう2人の姿……想像ができない!! 第3回電王戦が今から楽しみである。
■第3回将棋電王戦 実施概要
●第1局: 3月15日(土)― 対局会場:有明コロシアム(東京都江東区)
▲菅井竜也五段 vs △習甦(将棋電王トーナメント第5位/開発者・竹内章)
●第2局: 3月22日(土)― 対局会場:両国国技館(東京都墨田区)
△佐藤紳哉六段 vs ▲やねうら王(将棋電王トーナメント第4位/開発者・磯崎元洋、岩本慎)
●第3局: 3月29日(土)― 対局会場:あべのハルカス(大阪府阿倍野区)
▲豊島将之七段 vs △YSS(将棋電王トーナメント第3位/開発者・山下宏)
●第4局: 4月05日(土)― 対局会場:小田原城(神奈川県小田原市)
△森下卓九段 vs ▲ツツカナ(将棋電王トーナメント第2位/開発者・一丸貴則)
●第5局: 4月12日(土)― 対局会場:東京・将棋会館(東京都渋谷区)
▲屋敷伸之九段 vs △ponanza(将棋電王トーナメント第1位/開発者・山本一成、下山晃)
●大盤解説会場:ニコファーレ
※一般観覧方法など詳細は電王戦公式サイトにて随時公開
●協 賛:ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジア(特別協賛)
日産自動車株式会社
(特別協賛:全対局者から選出されたMVPにエルグランド、視聴者1名にデイズ ルークス贈呈)
株式会社ローソン
(おやつ協賛:ローソンで販売中の「Uchi Cafe SWEETS」を対局中のおやつとして提供)
●主 催:ドワンゴ、日本将棋連盟
■電王戦リベンジマッチ 船江恒平五段 vs ツツカナ 概要
●日 時: 2013年12月31日(火)10時開始
●会 場: ニコニコ本社(東京都渋谷区神宮前1-15-2)
※対局と大盤解説はニコニコ本社内の別フロアで開催。
公開対局ではありません。
●対局者: 船江恒平五段、ツツカナ(開発者・一丸貴則)
●持ち時間:各4時間(1分未満切り捨て)
●大盤解説:鈴木大介八段(解説)、藤田綾女流初段(聞き手)
●主 催: ドワンゴ、日本将棋連盟
※大盤解説の観覧募集ページはこちら(募集期間:12月10~19日)
●関連サイト
『GALLERIA 電王戦』モデル
日本将棋連盟
第3回将棋電王戦のページ
将棋電王トーナメント
※一部、安倍首相の漢字が間違っておりました。大変失礼いたしました。(12/11 19:50)
※理事のお名前が間違っておりました。大変失礼いたしました。(12/12 14:00)
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