■希代のカリスマが見せた最後の雄姿
万雷の喝采とそれに応えるジョブズの笑顔で、彼の最後のステージは幕を開けた。ジョブズはこの講演の約4カ月後、2011年10月5日に逝去する。その事実を知ってはいても、この回を見ると哀惜の念を抱かずにはいられない。
やせ細った体と、お世辞にも張りがあるとは言い難い声つき。それでもジョブズは、2時間にわたるイベントのホスト役を見事に演じきった。それでは、この基調講演がどんな内容だったのか振り返っていこう。
ジョブズによる冒頭のあいさつが済むと、本編は3部構成で展開された。各パートごとにメインのプレゼンターが概要を説明しつつ、サポート役がデモを行う形式だ。また、通常は冒頭のあいさつに続いてまとめて話される業績報告についても、各パートで個別に語られた。パート構成は下記の通り。
(1)OS X Lionについて
(2)iOS 5について
(3)iCloudについて
■OS X Lionはシラー&フェデリギがプレゼン
まずは、マーケティング担当上級副社長フィル・シラーによる、次期OS「OS X Lion」のプレビューだ。ただし、Lionの新機能については前年10月に開催されたスペシャルイベントで発表済みだった。このため、マルチタッチジェスチャーやAirDrop、Launchpadといった主要な10機能を紹介する駆け足のプレゼンとなった。
いま改めてこのビデオを見ると、ひとつ興味深い点がある。このプレゼンのスライドの中に、サーフィンの画像が2回も登場するのだ。ひとつは、Lionのデスクトップのイメージ画像、もうひとつは新バージョンのメールの画像に。この基調講演から2年後、すなわち今年のWWDCでは、次期OS Xである「Mavericks」が発表された。Mavericksとはカリフォルニア州にある有名なサーフスポットの名称なのである。
単なる偶然と片付けてもいいが、Appleはしばしば、この種の「伏線」を密かに張っておくことがある。そう考えると、この時すでにAppleの内部では、Mavericksが将来のOS Xのコードネームとして使われていた可能性はある。ちなみに、このパートでLionのデモを行ったのは、ソフトウェアエンジニアリング担当上級副社長のクレイグ・フェデリギ。今年(2013年)のWWDCの基調講演で主役級の活躍を見せた人物だ。
■iOS 5のプレゼンはフォーストールの独擅場
第2部は、iOSの新バージョンである「iOS 5」のプレビューだ。この場を仕切るのは「ミスター・ドヤ顔」ことiOS担当上級副社長のスコット・フォーストール。10個の主要な新機能を紹介した。通知センターやリマインダー、Newsstandなどの各機能の概要を説明しつつ、自らデモも演じてみせるという活躍ぶりだった。
最も会場が盛り上がったのは、このバージョンでiOSが「PCフリー」になることをフォーストールが告げた時だ。これは、各種の情報機器の母艦となる「デジタルハブ」の役目を果たすのが、Macではなくなることを意味する。では、今後は何がデジタルハブとなるのか? それこそは、この後ジョブズが発表するiCloudだ。
■Appleの新戦略の要はジョブズ自らがプレゼン
iCloudは、いまではAppleユーザーにはなくてはならないサービスのひとつだ。しかしほんの2年ほど前までは、Appleのオンラインサービスは「MobileMe」という名の有料サービスで、利用者も限られていた。どちらかというと「ショボい」サービスだったわけだ。その後継サービスをジョブズ自らがプレゼンするというのは、いささか奇妙に思えた。
しかし、後に我々は、このiCloudこそがそれ以降のAppleを支える重要なサービスであり、それを語れる人物はジョブズをおいて他にいないことを理解する。それまでのMacを中核に据えたデジタルハブ構想は、iCloudの登場によってクラウドベースへと移行した。つまり、MacやiOSデバイス内のあらゆるデータはインターネット上のストレージで管理され、ユーザーは環境を問わずにいつでも同じデータにアクセスできる。そうしたデジタル環境の大きな変化が起ころうとしていることを、この時ジョブズは語っていたのだ。
■iCloudの詳細とOne more thing
ジョブズは、MobileMe時代にもあった「連絡先」「カレンダー」「メール」のウェブアプリが、iCloudでは新しく作り直されたものであると述べた。また、iCloudバックアップやDocuments in the Cloud、フォトストリームなどの新機能が加わり、全部で9つのサービスを提供することを発表。しかもそれらが無料で提供されることがわかると、会場は盛大な拍手に包まれた。
ちなみに、Documents in the CloudのデモはiWork担当副社長のロジャー・ロズナー、フォトストリームおよびiTunes in the Cloudのデモはインターネットサービス担当副社長のエディー・キューが行った。この2人は、2013年のWWDCの基調講演にも登場しており、特にキューはその存在感を増している。
「One more thingについても話そう」とジョブズがお約束のひと言を発すると、会場はどっと沸いた。「そんな大したものじゃないんだ」と前置きして、ジョブズは「iTunes Match」について説明した。自分でリッピングした楽曲でも、iTunes Storeのカタログにあるものであれば、iTunes Storeで買った楽曲と同じように扱うことができるという年額約25ドルのサービスだ。現在に至るまで日本では未提供だが、早期の導入が望まれるサービスのひとつと言える。
ジョブズは、iCloudの実現のために建設したノースカロライナ州の大規模なデータセンターの写真も公開。Mac、iOSデバイス、iTunes Store、そしてiCloud。これらのすべてを自社で提供することにより、Appleの盤石なエコシステムが完成したわけだ。
終盤、ジョブズはこの講演の冒頭で見せたスライドをもう一度表示し、その日の講演を振り返った。そして、「どうもありがとう」という感謝の言葉で、最後のステージを締めくくった。
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