Podcast(ポッドキャスト)は、iTunes Storeで扱われるコンテンツの中でもかなり地味な部類だ。簡単に言えば、音声/動画による番組配信であり、いつでも視聴できるラジオ/テレビ番組のようなもの。iTunes Storeの「Podcast」タブに各種コンテンツが用意されており、ほぼすべてが無料。番組の種類も学術的なものからタレントのラジオ番組の録音データまで多岐にわたり、実はすごく魅力的なコンテンツなのだ。
実はApple社自身も、とあるポッドキャストコンテンツを配信している。過去のイベントで披露した基調講演(キーノートスピーチ)のビデオだ。2007年以降の、比較的最近の講演に限られるものの、それでも20本以上が配信されている。1本あたり1〜2時間と長めなので、かなり見応えのある内容だ(残念ながら、日本語の字幕はない)。本連載では、この基調講演のPodcastを視聴しつつ、当時発表された製品やジョブズのプレゼン術、そこで生まれた名言などを紹介していく。毎週日曜日の20時に更新予定。
現在配信されている基調講演で最も古いものは、「Macworld San Francisco 2007 Keynote Address」。実はこのスピーチは、Apple史上で最も重要な講演のひとつと言える。なぜなら、Appleを世界一の企業へと押し上げる原動力となったデバイス、すなわち初代「iPhone」が発表されたからだ。
ただし、その画期的デバイスが発表されるのは、スピーチの中盤以降だ。この回に限らず、ジョブズは「おいしい発表」はプレゼンの中盤以降にとっておく。序盤は、すでに発売されている製品の紹介や売れ行きといった情報をテンポよく列挙していく。観衆は、「新製品が出るんでしょ? 早く発表してよ!」と次第に焦れていく。ジョブズは、時にジョークを挟みつつ、会場が十分に「暖まった」ところで、目玉となる製品をドヤ顔で披露するわけだ。本講演では、MacのインテルCPUへの移行が順調であるという話や、iPodシリーズの売れ行きが好調であるという業績報告でスタートした。
続いて、新製品として発表されたのが「Apple TV」だ。映画やテレビ番組、音楽のストリーミング配信を可能にする、いわゆるセットトップボックスで、Appleの新ジャンルの製品として、比較的長い時間をかけて紹介された。会場はそれなりに盛り上がるものの、まだ完全燃焼にはほど遠い。誰もが知っているのだ。「本命」は別の製品だと。
会場内に満ちる期待感がピークに達したところで、ジョブズはようやくその本命製品の紹介に取りかかる。ただし、いきなり製品を見せることはしない。その製品がどんなコンセプトによって作られたものか、またいかに画期的なものであるかを、遠回しに伝えていく。観衆は焦らされつつも、徐々に確信していく。「来た!!」と。早く出せと言わんばかりに、口笛を吹く者もいる。ジョブズは心の中でこう思っているはずだ。オーケー、それじゃあ皆の期待に応えるとしようか、と。
そして講演はクライマックスに達する。ハードウェアキーボードやテンキーを備えず、前面パネルの大部分が液晶スクリーンの、マルチタッチ入力のスマートフォン。いまでこそスマホと言えばこのスタイルが当たり前だが、当時、iPhoneのような携帯電話を想像できた者はいなかった。このときジョブズは、「我々は電話を再発明した」と豪語した。現在のスマホ市場を見れば、その言葉が真実であったことは明白だ。Appleユーザーは、ぜひこの講演を見てほしい。スマホが当たり前になった現在だからこそ感じられる爽快感が、そこにある。
さて、ジョブズの基調講演といえば、最後の最後で発表される「One more thing」(あともうひとつ)も名文句として知られる。時には、一番重要な発表を、まるで「ついでに」とばかりに持ち出してくることもある。ジョブズの茶目っ気がこもったひと言であり、最後の1秒まで会場の空気を緩ませない、巧みな工夫とも言える。「One more thing」が出ない場合もしばしばあり、その際の観衆の落胆ぶりには同情を禁じ得ない。では、この回には、iPhone以上のインパクトを持つ「One more thing」があったのだろうか? 答えは、実際にポッドキャストを見て確認してほしい。
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