■完成の域に近づいたiOSプラットフォーム
ここ数年のWWDCはiPhoneに関連するものばかりだった。2008年にはiPhone3G、2009年にはiPhone3GS、そしてこの2010年の目玉は、フルモデルチェンジを果たしたiPhone4が発表された。OS XやMac本体に関する情報は一切なく、当時のAppleがいかにiOSプラットフォームの完成に力を注いでいたかがうかがえる。この基調講演の冒頭でジョブズ、この年のチケットは8日で完売しており、iOSビジネスが世界中から注目されていることを強調した。
続いて、同年の4月に発売されたiPadに関する報告。約2カ月で200万台のセールスを記録し、またiPadの「iBooks」アプリから購入されたコンテンツの売り上げが電子書籍市場の22%を占めたと述べた。
業績報告を終えると、ジョブズはNETFLIX社やSynga社、ACTIVISION社といったiOSアプリ分野で成長している企業の代表を壇上に招き、アプリ開発の魅力を代弁させた。そして壇上に戻ると、App Storeからのアプリのダウンロード件数が50億本に上り、有料コンテンツの売り上げとしてAppleが開発者に支払った金額が総額10億ドル(約1000億円)に達したと言明。開発者にとってiOSプラットフォームが魅力的であるかをアピールした。
■満を持して発表されたiPhone 4
前振りが終わるとジョブズは、2010年は「初代モデル以来のiPhoneの大躍進」の年になると宣言。スライドに「iPhone 4」の文字が大きく打ち出されると、会場は一気にヒートアップする。
■iPhone4の8つの注目ポイント
今日はiPhone4に関して8つのポイントを紹介しよう、とジョブズは言った。ひとつ目は「まったく新しいデザイン」だ。従来の丸みを帯びた形状からフラットなデザインへと変わり、前背面は強化ガラス、側面は通信アンテナを兼ねたステンレス製。「側面にあるこの黒い線は何か?」と自ら問いかけ、「3G通信系」と「Wi-FiやBluetooth」の2種類のアンテナを絶縁するための機構だと述べた。ちなみに、この「線」の位置が通話時の問題を引き起こすことが後に発覚し、Appleはバンパーの無償提供を余儀なくされる。
■ポイント2:Retinaディスプレイ
いまや超高解像度の液晶モニターはスマートフォンの常識になりつつあるが、Appleはそれを「Retinaディスプレイ」としていち早くiPhone4に取り入れた。Retinaディスプレイは、1インチあたり326ピクセル(326ppi)と、従来の液晶モニターの4倍の解像度を持つ。Retina(レティナ)とは「網膜」のことで、人間の目では300ppi以上の解像度になるとドットを判別できなくなるという。実際に3GSの画面との比較のデモでは、iPhone4の表示がケタ違いに滑らかであることが示された。
ちなみにこのデモの際、ジョブズはSafariで「New York Times」のウェブサイトを表示させようと試みたが、会場のWi-Fi通信があまりにも混雑していたため、ページがなかなか表示されないというハプニングが起こった。いっこうにページの読み込みが完了しないため、ジョブズはこのデモをさっさと諦め、iPhone内の写真を比較するという内容に切り替えた。
■ポイント3:Apple A4プロセッサー
3つ目のポイントは、iPadと同じ「Apple A4」プロセッサーを搭載していること。プロセッサーのサイズが小さいため、その分バッテリーの面積を大きくすることができたという。これにより、3GSよりも処理速度は向上していながら、バッテリー駆動時間は延びている。
■ポイント4 & 5:ジャイロスコープと高性能カメラ
4つ目のポイントは、iPhone本体の向きを検知できるジャイロスコープを搭載したこと。この機能を利用したゲームを自らデモするジョブズは、実に楽しそうだった。そして5つ目は高画質カメラを搭載し、HD解像度の動画撮影にも対応したこと。同時にiPhone版のビデオ編集アプリ「iMovie」も発表され、開発担当のランディ・ユービロスがデモを行った。
■ポイント6:iOS 4
「次のデモに入る前に」と前置きし、観衆に向けてジョブズは言った。「さっきのデモ(Safari)が失敗した原因をバックステージで調べてみたんだ。そしたら、この会場内で530ものWi-Fi機器が稼働してることがわかった。これじゃ回線がパンクするのは当たり前だ。ここで、あなた方には2つの選択肢がある。ひとつは皆がWi-Fi機器をオフにしてデモを見ること。もうひとつはデモを見るのを諦めること。デモ、見たいよね?」と。
何とも傲慢な言い種だが、ジョブズが言うと不思議と皆が納得してしまう。会場は賛同を意味する拍手に包まれ、「よし、じゃあ機器のスイッチを切ってもらおう」とジョブズ。「周りの人がちゃんと切ってるかちゃんと監視してね」と続けると、どっと笑いが起こった。ジョークめかして言っているが、ジョブズは恐らく半ば本気で言っている。この無線を切る作業に1分弱の時間が割かれたが、この時ジョブズは「だいぶ待ったよ」(I got time.)とも言った。待たされることを極端に嫌うのだ。
皆が無線を切り終えると、ようやく6つ目のポイント「iOS」の話に入った。まずはOSの改称について。これまで「iPhone OS」と呼んでいたが、iPadやiPod touchにも搭載することを考慮して「iOS」に改めるとジョブズは宣言した。「iOS」が正式名称として使われるのは、これ以降のことだ。
iOS 4の内容紹介については4月のプレビューとほぼ同じだ。マルチタスクやフォルダーなど、100以上の新機能が搭載されたほか、1500もの新しいAPIが追加された。マルチタスクのデモでは、先ほど失敗したSafariのデモも成功し、ジョブズが観衆に「ありがとう」とお辞儀をする場面も。デモの内容自体に目新しさはないものの、先のハプニングによって大いに盛り上がった。こうしたアドリブができることこそ、ジョブズがプレゼンの天才と言われる所以だろう。なお、4月のプレビュー時になかった新要素としては、検索エンジンの「Bing」のサポートが挙げられる。
■ポイント7 & 8:iBooksアプリとiAd
7つ目のポイントは、iPhoneやiPod touchでもiBooksアプリが利用可能になり、iTunes Store、App Store、iBookstoreの3つのコンテンツ販売環境が整ったこと。8つ目は、アプリ内広告を提供する仕組み「iAd」だ。iAdのデモでは、日産自動車の「リーフ」の広告が紹介された。
■One more thing:FaceTime
お約束の「One more thing」は、iPhone向けのレビ電話機能「FaceTime」だった。普通に「9つ目のポイント」して紹介してもいいところだが、ジョブズ流のサービス精神なのだろう。デモではデザイン担当上級副社長のジョナサン・アイブとの通話を披露し、映像が一時途切れた場面では「会場のWi-Fi環境が悪くてさ」と言って笑いを誘った。
■ジョブズの小さな変化が意味するもの
最後にiPhone4の販売スケジュールと専用バンパーが紹介され、約2時間の講演は大団円を迎えた。これだけの長丁場をほぼ一人で仕切ることで、ジョブズは自分の健在ぶりを示したかったのだろう。確かに、4月のイベントの際よりも肌のツヤもよく、声の張りも申し分なかった。
ただ、前回と比るとジョブズの服装に小さな変化があることに気づく。ジョブズがジーンズにベルトを巻いているのだ。これまでにはなかったことだ。講演を見る限りでは体調は悪くないように思えたが、体は以前よりも痩せ細ってきている。Appleの業績が絶好調なのと相反するように、ジョブズの肉体は急速に衰えつつあったことをうかがわせる。
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