この講演は、Appleという企業が新たな局面を迎えつつあることを象徴するものだった。主役であるはずのスティーブ・ジョブズが健康状態を理由に欠席。さらにApple自体も、この回を最後にMacworld Expoに参加しないことを表明した。Mac関連の「お祭り」として1985年から親しまれてきたイベントが、事実上の終焉を迎えたのだ。
いつもの基調講演とは微妙に異なるムードが漂う中、イベントは幕を開けた。登壇したのは、マーケティング担当上級副社長のフィル・シラーだ。前口上として実店舗のアップルストアが好調であると報告したあと、シラーは「今日は3つの発表がある」と告げた。具体的な内容は下記の通り。
(1)iLife '09
(2)iWork '09
(3)MacBook Pro 17インチの新モデル
1時間40分にもおよぶステージを、シラーはほぼ独りで演じた。途中で交代したのは、iMovieのデモを開発者に託した際の1回きり。これだけの長丁場ならば、普通はゲストを何人も入れ替るなどして観衆を飽きさせないように工夫するものだ。そういう意味でも、この基調講演は異例だったと言える。
■サプライズに欠けるiLifeとiWork
最初の話題は「iLife '09」だ。顔認識や位置情報などの新機能をサポートしたiPhoto、手ブレ補正機能を搭載し編集機能も強化されたiMovie、プロミュージシャンのレッスン機能を追加したGarageBand……。いずれも相応のグレードアップはしているものの、正直なところ、心躍るようなサプライズはなかった。それは「iWork '09」も同じだ。そして残念ながら、この講演全体ついても同じことが言えた。
■地味に興味深い2つのポイント
このイベントで2つだけ興味深かった点がある。ひとつは、iMovieのデモを演じたランディ・ユービロス。彼は、元はアドビ社で「Adobe Premiere」の開発に携わっていた人物。その後マクロメディア社を経てAppleに入り、プロ向けビデオ編集アプリの「Final Cut Pro」を完成させた。iMovieは前バージョンからインターフェースが刷新されて賛否を呼んだが、そこにはユービロスの影響があったのかもしれない(あくまで推測だが)。
そしてもうひとつは、観客席にいるジョナサン・アイブとスコット・フォーストールが隣席だったことだ。後年ジョブズが逝去したあたりから、アップル関係者の間では2人の確執がささやかれるようになる。現CEOのティム・クックの同席なしには2人は会おうともしなかったと言われているが、果たしてこの時はどうだったのだろうか……。
■インパクト弱めの新型MacBook Pro 17"
Appleの基調講演では、誰もが新しいハードウェアの登場に期待する。その意味ではiLifeやiWorkは「前座」であり、今回の「真打」として発表されたのがユニボディーのMacBook Pro 17インチだった。しかし、これもやはりインパクトには欠けた。すでにMacBook Proの15インチやMacBookといったユニボディー化を実現しており、17インチモデルが発表されるのは予想の範囲内だったからだ。もちろん、性能的には文句のつけようのない仕上がりになってはいたが、新鮮味はなかった。
■「One last thing」は音楽配信について
冒頭の宣言通り3つの発表を終えたシラーは、最後に「One last thing」があると言った。ジョブズの決まり文句である「One more thing」(あともうひとつ)と微妙に表現を変えたのは、不在のカリスマへの配慮だろうか。内容は、今後iTunes Storeで販売される楽曲が順次DRMフリー化されるという発表だった。DRMフリー、すなわちプロテクトのかかっていない楽曲は、これまで「iTunes Plus」として別枠で販売されてきたが、今後はDRMフリーが標準になるということだ。
恒例のスペシャルゲストは、ポップシンガーのトニー・ベネット。「The Best Is Yet to Come」と「I Left My Heart in San Francisco」を披露した。2曲目の邦題は、「想い出のサンフランシスコ」……。なんとも意味深な選曲だ。こうして、Appleの最後のMacworld Expoは、熟年シンガーの美声で幕を閉じた。
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