4月20日に将棋会館特別対局室で行なわれた第2回将棋電王戦最終局、三浦弘行八段vs.GPS将棋の対局は、102手まででGPS将棋が勝利した。これで対戦成績がコンピューター側の3勝1敗1分となり、現役プロ棋士の敗北が決まった。将棋会館の控え室にはたくさんの報道陣が集まり、前回の将棋電王戦を上回るような注目度の高さ。最終局は約48万人がニコ生を視聴し、これはこれまでの将棋中継で最高記録となった。5局トータルでも200万人を超え、興行的にも大成功に終わった。
最終局は、対局開始時から報道陣の数が違った。狭い対局室内では撮影する場所を確保するのも一苦労。そんな中、三浦八段はスーツ姿で登場。少々緊張した面持ちだったが、この対局に臨む意気込みが感じられた。
序盤は、ほぼ定跡通りだったため、コンピューターはほとんど考えることなく相矢倉でスムーズに展開。そして40手目からの△7五歩▲同歩△8四銀が今回のひとつのポイントとなった局面。この△8四銀が人間では指さない手だと控え室で言われていた。後日渡辺明三冠も自身のブログ(外部サイト)で「この形では新手法の仕掛けですか、これで決定的に悪くならないのならば新定跡誕生です」と書かれている。
この手に対し三浦八段は▲7四歩と出たが、このあと細々と攻めを続けられ、角と金を交換し、飛車角すべて手に入れたものの、まったく相手の囲いを崩すこともなく102手で三浦八段が投了した。投了直後三浦八段は「何が悪かったのかわからない」というように、ミスらしいミスはしていない。GPS将棋の圧勝と言っても過言ではない戦いぶりだった。
終局後の記者会見のおもな質疑応答
終局後の記者会見の様子。 |
Team GPS・金子知適氏
本日は東大駒場にある600台以上使った特別なプログラムを用意しました。まず、無事に動いてほっとしています。対局のGPS将棋が何を考えていたのかは、インターネット上に公開していますので、ご覧いただければ幸いです。本日はこのような貴重な機会をいただきまして大変ありがたく思っております。ありがとうございました。
三浦弘行八段
電王戦を今後盛り上げて、大きなイベントにしたかったので、今日は勝ちたかったのですが、ただ、正直どこが悪かったのかちょっとわからないところがあります。GPS将棋が非常に強いと言うことはわかっていたのですが、事前準備から1台と680台とは違うのでしょうけど、余りつけいる隙がないソフトだなぁと思います。
コンピュータ将棋協会会長・瀧澤武信氏
本局の対局は、もちろんGPS将棋は強いのですが、三浦八段はA級棋士でありますので非常に強いと言うことがわかってました。ですので、金子さんには悪いのですが、GPS将棋の方が分が悪いだろうとみておりました。私自身はそんなに強いわけではないのですが、私が見る限りでは、三浦九段はちょうど米長永世棋聖が第1回電王戦でとられたような、形は違いますが玉の前を固めてスクラムを組んだような形で、押し込んでいくような将棋を指されていました。米長永世棋聖の場合はリタイアしてからずいぶん経っておりましたので、途中で体力負けしてしまいましたが、三浦八段は最後まで押し切って、勝たれるのではないかと思ってみていたので、この結果には正直驚いております。
立会人・田丸昇九段
最近のプロの将棋は似たような将棋が多いのです。本局も矢倉の定跡系なのですが、GPS将棋が中盤で仕掛けた手が、よくある手法なのですが、勝俣六段の話によると初めての手だったようです。そういう意味で、将棋はまだまだ無限の可能性があるなと、逆に私はコンピューターに教わったような気分でした。今後は、ただ単に対決するだけではなく、プロとコンピューターが強調して、将棋の無限の可能性を探求してほしいと思ってます。
――自宅で指していたものと、今回指したものとでは、どのくらい違いがあるのか
三浦八段 1台でも十分強いので、ちょっとわからないです。
――今回ノートラブルだったようですが、そのために何か準備はされましたか?
金子氏 今朝も電源が入らないものが1、2台あったと聞いてます。すべてのマシンに電源を入れて回るのは大変だと言うことは、すでに知見があったので自動起動をセットはするのですが、最初3人を駒場に待機させて、万一自動起動しなくても対局開始が遅れないように配慮しました。またネットワーク接続をしているので、コンピューターが駒場で指したつもりでいても、こちらに届いていないことがあるかもしれませんので、1秒ごと秒を読むGUIがあったので、それを活用して切れたらすぐわかるようにしました。それから、666台ありますと、途中で電源が落ちるという可能性が十分あるので、それでも大丈夫なようにプログラムしたつもりではあります。リハーサルでは、閉館時に部屋の電源がすべて切れるということもありました。このような、私どもの不手際で対局に影響がないように事前の手はずを整えました。
――結局今回は1台もトラブルなく動作したということでしょうか?
金子氏 もう一度ログを精査する必要がありますが、見た範囲では何もなかったと認識してます。
――三浦八段はトッププロのひとりですが、今後コンピューターには勝てないという感触でしたか?
三浦八段 まだまだ強い棋士はいますので、わからないです。
金子氏 私個人としては、コンピューター将棋は対局ごとに出来不出来が激しいと思ってます。開発者はコンピューターどうしで40局とか100局とか1000局やって強さを計るので、1局の対局で知見を申し上げる文化ではありません。私には強さがわかりませんので、残された棋譜から棋士の方々が読み取って下さると幸いです。
――これで決着がついたと思われるのか、今後コンピューター対人間はどのようになると予想されますか?
瀧澤氏 まったく決着ついたとは思ってません。今日は勝ちましたが完璧に勝ったとは思っていなくて、これまでの対局を見ても逆転という形が多かったですし、そういうことを考えると、今回プロ棋士の方々が真剣に指して下さったので、申し訳ないですが、いいデータができたと思ってます。私も金子氏もそうですが、将棋のレベルは低くアマ段位程度なので、そのレベルでは強さがわからない状態になったということだけは言えます。しかしもプロ棋士に今回価値はしましたが、まだそりレベルまでには到達していないと思ってます。ただ、近づいたなと言う印象はもちました。
――今日、GPS将棋は速いスピードで指されていたような気がしましたが、想定内なのか、それとも600台以上接続した成果なのか?
金子氏 基本的に4分で指していたと思うのですが、基本4分55秒考え、難しい局面だと判断したときは7分55秒考えるという設定でした。難しい局面というのは、このまま指していくと不利になりそうだとか、670台以上で読んでいるはずなのに、その手を推薦したマシンが1台だけだったという特殊なケースで延長するスタイルです。ネットワークトラブルからの復帰のために、秒読みに入ってから何かするのは避けたいので、30分持ち時間を自主的に短縮しました。ただ60秒未満切り捨てのルールを活用して約5分考えていると計算すると、4時間考えたときと同じ強さになると思います。将棋として早く指していると思われたのは、定跡で少し長めに進んでいったことが影響していると思います。コンピューターは定跡を抜けたときに、それは飛ばしてよい序盤なのか、時間をかけなければならない中盤なのかを判断するのはGPS将棋には備えてないので、早めに定跡を抜けた場合に今日ぐらいのペースで考えないと時間が残らなかったのではないかと思います。
――将棋を指している感覚として、ふだん人間と指しているときとは違うと感じましたか?
三浦八段 特にそういったことはないです。GPS将棋を難敵だと思ったのは、練習していたとき序盤に穴があれば、その穴をついて序盤で優勢を拡大して、コンピューターの計算速度が追いつかないような局面にもっていける可能性はあるのですが、そういった序盤に穴がなかったので、厳しい戦いになると覚悟はしてました。
――人間どうしだと、これまでの経験や棋譜によって腹の探り合いのようなものがありますが、今回の将棋ではそういったものはないという違和感はなかったか?
三浦八段 もしかしたら今回は若い棋士も多かったので、そのあたりで動揺して自分の将棋が指せなかったということがあるかもしれませんが、私は今回最終局で1局目から4局目まで見てきており、そういった違和感もわかっていたことですので、言い訳はできません。
――今回の電王戦はコンピューター対人間ということをクローズアップされてますが、コンピューター将棋を開発したのも人間だという考え方もありますが、その辺りどう思われますか?
瀧澤氏 もちろん、今回の戦いはコンピューターと言われてますが、開発者が一所懸命つくったものを、我々ではわからなくなってきているので、プロの方に欠点を突いてもらって、いろいろと弱点をあげてもらうということを期待していたので、人間と人間の戦いであると言うことは間違いありません。
――今回定跡や棋譜はどのくらい新しいものまで使っているのか。
金子氏 1990年以降の棋譜だけを定跡に収録していると記憶しています。最近の棋譜については中継された今期の順位戦をまとめて入れましたので、配布されているものより少しだけ新しいものになっています。定跡といっても最大でも30手か35手ぐらいから自分で考えるようになっていますし、勝っている人がひとりかふたりか、それ以上かによっても打ち切っています。つまりそのまま棋譜をなぞっていって負けるというのを避けるためです。
電王戦総括会見の質疑応答
今回戦った面々の集合写真。どの対局も熱いバトル。みなさん、お疲れ様でした。 |
習甦開発者・竹内氏 特別対局室での対局で非常に緊張して迎えて、阿部四段に完敗し頭が真っ白になってここに座っていたのが1ヵ月前なのですが、それから非常に反響が大きくて、いままでコンピューター将棋に興味のなかった人にも見てもらえたことは、非常に意義深いイベントだったと思います。習甦と本気で準備をし対局していただいた阿部四段をはじめ、プロ棋士のみなさんの努力とすばらしい演出をしていただいたドワンゴさんに感謝しています。
阿部四段 電王戦に出場が決まって、この日を迎えるのが非常に早いと思ったのですが、ただできることだけやってきたという感じしかしないので、1日1日が早く感じました。
ponanza開発者・山本氏 電王戦を振り返って、ここにいる人以外にも多くの方がいますが、みんながつくったプログラムが、プロの棋士と指せることがあるのかと思ったのですが、本当に指せて戦って過ごせたこの1ヵ月は本当に夢のようでした。勝ったり負けたりしましたが、そこにすごい感動を覚えました。戦った棋士の生き様と言いますか、人間性が見えてくるのが驚きました。船江五段が「コンピューターと戦うということは、自分を映す鏡だ」とおっしゃってましたが、なるほどこうやって戦って人間を見せつけるというドラマがいっぱいあったと思いました。
佐藤四段 結果は自分の将棋も残念でしたし、5局通しても残念なものでした。結果はこのようになってしまいましたが、ひとりひとりが将棋と向かって何十日間も過ごしてきて、将棋のファンの方々が励ましてくれましたし、これまで将棋をあまり見たことがなかったという方もいましたので、そういう意味ではたくさんの方々に見ていただけたことはよかったことだと思いました。
ツツカナ開発者・一丸氏 口べたので結論だけ申しますと、とても楽しかったです。この半年間ぐらい電王戦に向けてがんばってきましたが、プロ棋士と指せるという喜びというかあこがれといったものを抱えながら、果たして自分のプログラムがプロ棋士に通用するのかという苦悩もありました。その中でお互い力が出し切れるようにいろんなことを考えてきたのですが、最終的には熱戦になって私はうれしかったです。
船江五段 電脳戦の結果は残念でしたが、自分にとっては非常に大きな経験となりました。このような機会を与えていただきましたドワンゴ様をはじめ関係者の方々に感謝します。ありがとうございました。僕は始まる前から「コンピューターと戦うということは、自分を映す鏡だ」と思ってまして、自分の力をどれぐらい出せるかと言うことを重点的に思っていたのですが、ツツカナと指すことで、自分のよいところ、悪いところが鮮明にわかりましたし、1局指すだけでそのようなことをわからせてくれるツツカナはホントにすごいと思いました。このようなコンピューター将棋を開発してくれた方々のおかげで、この世に多くの方に将棋のことを興味を持っていただけたので、開発者の方々にはお礼申し上げます。
Puella α開発者・伊藤氏 私は1998年ぐらいからコンピューター将棋を始めたのですが、そのころはマスコミが来ることは全くなく、オタクの内輪のイベントだった。そういう世界で細々とマイナーにやってきましたが、5年ぐらい前から世界コンピュータ将棋選手権にもマスコミの方が訪れるようになり、去年、今年の電王戦はテレビも新聞も来たりして、とんでもないことになっていると思いました。15年前に比べると隔世の感という思いがして感動してびっくりしている。今回を振り返ると、自分のブログラムにちょっと疑問なところがあったわけですが、見ている将棋ファンや観戦者のみなさんが楽しんで盛り上がってもらえるのがいちばんなので、そういう意味では熱戦も多かったですし、私のときはプログラムはへぼでしたが、笑いは取れたみたいですので、まぁよかったかなと思います。最後に、真剣に研究して戦っていただいた棋士のみなさん、将棋協会のみなさん、ドワンゴのみなさん、ありがとうございました。
塚田九段 私は結果的に持将棋だったのですが、引き分けたのにみなさんからこんなに賞賛していただいたのは初めてでした。もちろん将棋では引き分けにはならずに、もう一度指しますから、電王戦ならではの結果でしたが、みなさんからの反応があって参加してよかったと思ってます。
Team GPS・金子氏 わたしからも棋士の方々、ドワンゴさん、関係者のみなさんのご尽力により意義深いイベントが行なわれたことは、開発者のひとりとしてお礼申し上げます。ありがとうございます。ここ1ヵ月、100万円チャレンジを含めると2ヵ月ほど、眠れない日々が続いてまして、自分の将棋でもないのに、こんなに興奮していいのだろうかと楽しい日々でした。もし、ファンのみなさんにも楽しんでいただけたのならとてもうれしいことです。
三浦八段 団体戦なので、今回負け越しが決定してしまって非常に申し訳ないと思ってます。塚田九段も持将棋に持ち込んで引き分けにしていただいたのに、申し訳ないです。準備はしていたのですが、GPS将棋がこれほど強いとわかっていれば、もっと危機感を持って、より前からやっていればよかったと反省していますし、悔いが残るところです。
ドワンゴ・川上量生会長 今回、世間でも話題になるような電王戦を主催させていただけて非常に光栄に思っておりますとともに、非常に恐縮しております。本来、このような電王戦というイベントを、将棋の歴史から鑑みてドワンゴのような歴史の浅い会社が行なうのは非常におこがましいことだと思っております。ただ、主催させていただいたからには、できる限りのことをして盛り上げようと努力をして参りました。我々は、ビジネスのためにやっている部分はもちろんありますが、将棋の今後の発展のために寄与したいという気持ちが80%ぐらいあります。今回非常にたくさんのメディアのみなさんにきていただき、大変うれしく思ってます。でもこのニコニコ動画という名前が、ここに座っていることによって、今後取材が減るのではないかと心配しております。ですので、できるだけ隅っこにいて来年以降はいこうと思っています。この将棋で人間とコンピューターの戦いは、コンピューターが人間が勝った負けたというイベントではなくて、人間ドラマが生まれていたと思うので、ぜひ今後電王戦が開催されましたら、今回のように取材していただきたいと思ってます。
コンピュータ将棋協会・瀧澤会長 まずこのような場を設けていただいた主催者のみなさんに深く感謝いたします。私は実は39年前の1974年の暮れに、将棋のプログラムを初めてつくったのですが、そのときはこのようなときが来るとは思っていませんでした。その後、チェストとかで成果が上がってきたのを見て、将棋もある程度のレベルまでは来るかと思いましたが、こんなに早くプロ棋士と対局できる日が来て、しかも勝つことができるとは思ってもいませんでした。正直このスピードには私自身も驚いています。事前にいい勝負になるのではないかと言うことはわかってましたが、実際にそうなったので大変うれしく思っています。プロ棋士の方々には勝った方、負けた方がいらっしゃいましたが、アマチュアレベルではその強さがわからない。その強さをプロ棋士の方々が解明してくれている。もちろん、コンピューターは変な手も指します。たいていは悪い手なのですが、実際どのように咎めるかというと、アマチュアではなかなか咎められない。プロ棋士に咎めていただき、それがコンピューター将棋の進歩になる。また塚田九段のとき非常に粘っていただいて引き分けに持ち込みましたが、このことは研究対象として非常に大きくありがたい棋譜でした。そして、とても感動しました。どの対局も非常に人間のドラマとして大変感動しました。いろいろなことが起こりましたが、いちばんよかったことは、すべてがすばらしい対局だったことです。
谷川会長 皆様お疲れ様でした。昨年の米長永世棋聖の対局に続きまして、第2回5対5の対局を主催していただきましたドワンゴ様には厚く御礼申し上げます。今回の結果はプロ棋士にとって非常に厳しい現実を突きつけられたわけですが、今回の5名のプロ棋士は、対局前にきっちりと準備・研究をしてきっちり全力を出し切ったと思っております。本日の三浦八段の姿を見ておりますと、私も心が痛みますが、決して責任を感じることなく胸を張ってほしいと思います。特に若い人は、今回の対局を棋士生活へのプラスにつなげてほしいと思います。5対5の団体戦と言うことで勝負に重きがおかれると思っていましたが、もちろんそのめんもありますが、5局すべてにドラマがあったと思います。私自身が印象に残ったのは第3局で、通常形勢が苦しくなってしまうと、気持ちが折れたしてしまうことがあるのですが、苦しくなっても読み筋に穴があっても、その時点での最善手を追求していく。コンピューターにとって自然なことかもしれませんが、なかなか人間では難しい部分があり、精神力の重要性をコンピューターに教わるとは思ってもみなかったのです。今回5局対局したことで、人間の長所、短所、コンピューターの長所、短所の課題が見えてきたので、今後につなげられればと思います。以前お話ししたかもしれませんが、コンピューターとは共存共栄、コンピューターを通じて人工知能の進歩、発展につなげてほしい。たとえば医療の現場や災害救助の現場で役に立つようになってほしい。
――第3回の電王戦に関して決まっていることがあれば教えて下さい。
谷川会長 第3回に関しては、いまドワンゴさんと協議中で、将棋連盟としても前向きに考えていきたい。もし第3回が実現したら、コンピューター側も進歩していると思いますが、プロ棋士側もコンピューターと対戦する抵抗や不安が少し解消されるのではないかと思うので、今回とはまた違った勝負が見られると思います。
――タイトル棋士を含めた番勝負を見てみたいと思ったファンの方々も多いと思うが。
谷川会長 そのあたりは今回団体戦として決着ついたわけですし、まだ具体的な人選が進んでいるわけでもないので、今の段階では何も申し上げられない。
――今後の指し方に影響はありますか?
阿部四段 あると思います。それが結果に出ている形になっている感触もあるので。
佐藤四段 自分にとってもプラスになるところを取り入れで、これからも自分の将棋が変わっていけるよう将棋と向き合っていきたい。
船江五段 今年の1月にソフトを提供していただき、何十局と指しましたので、今でもすでに将棋の考え方に影響されているところもありますし、いい意味でかなり変わってきています。ソフトをこれからも練習として取り入れて行きたいですし、いい効果が出てくると思っています。
塚田九段 影響あったと思います。ボンクラーズとツツカナを使わせていただきましたが、ボンクラーズと私が対局していて、ツツカナに検討させ、ツツカナの意見を聞いてやってました。中盤になると私が考えない手をどんどん提示してくる。なのでコンピューターで研究したり、コンピューターの棋譜を参考にしたりするということがあると思います。
三浦八段 コンピューターは当然終盤が強いですが、人間だと決着が付いたと思う局面でも、またまだ終盤には奥深さがあると言うことを再認識させられました。当然影響はありますし、終盤においては精度を上げるためにもソフトを活用していきたい。
――第3回があった場合、どの棋士に挑戦したいか?
竹内氏 今回負けてますし、次回があるかわかりませんが、習甦という名前に込められたプロ棋士に挑戦したいという思いはあります。
山本氏 第3回がどうなるかわからないですし、次回大会で今回の順位が全部入れ替わるというような厳しい世界コンピュータ将棋選手権ですが、私個人としては、トップにたって、現在最も強いプロ棋士の方と戦いたいと思っています。ちょっと言い過ぎました。
一丸氏 まだちょっと考えていないです。
伊藤氏 次回どうなるのか、そもそも自分が出るかどうかもわからないですし、血ヨット何とも言えないレベルですね。
金子氏 第2回のようになるのであれば、第3回も対局を申し込むのではなくて、お招きにいただけるかということになりますので、まずは次回の世界コンピュータ将棋選手権にしっかり力を入れたいと思っています。
――今回団体戦として負けてしまいましたが、率直にどう受け止めてますか?
谷川会長 正直、5局対局する訳ですから、棋士が負けることにはなるとは思っていましたが、団体戦としてこのような結果になったことは厳しい現実であることは間違いないと思います。ただ、開発者の方の努力モアって、コンピューターは非常に強くなってきているので、今回の5名はキチンと準備をしてきたと思いますが、より準備を重ねて投了の声を聞くまでは決して気を緩めないという強さが必要かと思います。
――今回の対局で人間の強みって何か感じられましたか?
船江五段 私の対局で言いますと、終盤の最初の斬り合いでは一直線なら人間でも負けていないと思いました。練習のときから非常に強いと思っていましたが、一直線の斬り合いだったら自分も力を出せたと思いますが、しかしそこからさらに長いもう1ラウンドの終盤では、ソフトの強さ、粘りが出ていたと思います。序盤・中盤・終盤、どの段階でも人間は負けていないと思っています。ツツカナで指した将棋は復習しましたし、この経験を生かして行ければ、それは人間の強みだと思います。
人間の発想を超えるコンピューターの一手
今回の控え室は、プロ棋士や報道陣がごった返していた。 |
今回の対局はもちろん、これまでの4局すべてで言えることは、人間の発想を超える一手をコンピューターが繰り出してくることだ。もちろん、なかには悪手もあるが、コンピューターが有利になる場合が多いと感じた。先に話した△8四銀も控え室では「なんで?」と疑問に思う人がほとんどだった。しかし、そのあとの展開を考えると渡辺三冠がおっしゃったように「新たな定跡」となるかもしれない。
人間は、これまでの対局で培われた経験と、さまざまな定跡、研究などにより最適な手を絞って判断していると言われている。コンピューターも当初は人間と同様にある程度絞って読むという手法を取ってきたが、棋力を上げるのは相当難しかった。しかし『ボナンザ』の登場で、とりあえずすべての局面を読むという力技的手法が取り入れられ、大幅に棋力を上げることになる。つまり、これまで捨てていた手にこそ、最善手が含まれていたのだ。もちろん、深く読めば深く読むほど膨大な局面を読む必要が出てくる。そうなるとやはり取捨選択しなくては処理しきれない。そこで取り入れた技術が機械学習という手法だ。膨大な棋譜を読ませて駒の位置関係を評価させて自動的に数値として記録する。それを元に、ある局面に対し評価関数ではじき出された評価値によって取捨選択するのだが、“捨てた”なかに最善手が含まれる可能性がだいぶ低くなった。
評価の仕方はプログラムによってさまざまだし、機械学習の仕方も、取捨選択する基準もプログラムによってまちまちだ。いかに効率よく最善手が含まれない手を捨て、より深く読めるか。「クラスター並列によってさらに棋力が上がった」とPuella αの伊藤氏が言うように、分散させて効率よく処理するのが、今、棋力を上げるいちばんの近道なのだろう。今回クラスター並列処理させていたのは、ponanzaとPuella α、そしてGPS将棋だ。
東京大学駒場キャンパス |
さて、今回GPS将棋の心臓部である666台+13台のコンピューターの一部が公開されたのでご紹介しよう。GPS将棋は東京大学大学院総合文化研究科の教員・学生が開催しているゲームプログラミングセミナー(Game Programming Seminar = GPS)のメンバーが中心になって開発が行なわれているプログラムだ(GPS将棋のサイトによる)。ただ、現在は学生はいなく、教員とOBや知り合いによって開発されているようだ。
使用しているマシンは、東京大学情報基盤センターの教育用計算機システムの学生用iMac (インテルCore i5 2.5GHz 4core、メモリー 4GB) 666台(当初667台だったが、この日1台だけ起動しなかったため)と、サーバーマシン13台という構成。マスター1台が指揮しスレーブに処理を割り振っている。サーバーのうち3台は詰め将棋探索用となっている。666台のマシンは、1台1台起動していたらきりがないので、自動起動を使って起動させている。しかし、ふだん学生が使用しているマシンのため、すべてがきちんとシャットダウンしているわけでもなく、今回も約60台ほど手動で起動しているという。
コンピューターが考えている最中は、CPUフル回転でファンがグワーンと回っているという気がするが、100数十台ある教室に実際入いってみると、マシンの画面も消えていて、まったく動いていないかのような静かさ。チームのメンバーに画面をつけてとお願いしたが、映し出されたのはウィンドウズかMacかのOSを選択する画面。実はMacで起動してプロクラムがバックグラウンドで動いているそうだ。これら1台1台がマスターマシンによって局面を割り振られて計算して判断し、マスターへ戻している。すべてのマシンを動かしているわけではなくその都度判断で計算していないマシンもあるそうだ。ちなみに、マシンが一部落ちたとしても問題なく動作するようにプログラムされているという。また、第4局で話題になった入玉対策だが、約2、3週間前にプログラムを改良して対応させていたそうだ。
iMacがずらりと並ぶ教室。通常は画面をつけてはいなくバックグラウンドで動作させている。 |
サーバールームにある7台ほどのマシンも使用。このうち3台が詰め将棋探索用のマシン。 |
田中哲朗准教授(左)とメンバーが説明してくれた。 |
ウィンドウズかMacかを選択する画面。プログラムはMac OS上で動作している。 |
将棋会館では、マスターマシンのデスクトップを表示させてコントロールしていた。控え室ではリアルタイムで公開されていた探索木(最善手の読み)を見ていて、検討していたが、先の△8四銀はどうしてなのかその時点ではよくわからなかったようだ。また、GPS将棋の控え室では、Team GPSのメンバーがよりビジュアル化した探索木の画面を公開していた。ニコ生でも何度か表示されていたが、この表示は直感的に非常にわかりやすい。赤色がGPS将棋側、青色が三浦八段側が有利なときの状態を表し、GPS将棋側としては、画面全体が赤く染まると勝利が近いことを意味する。1秒間に約2億局面読め、プレッシャーも動揺も全くすることがなく、ひたすら計算して約1秒ごとに最善手が絞られていく様子を見ていると、それに対抗している人間の脳はすごいのだと改めて感じた。
GPS将棋のコンソール画面。いわゆるリモートデスクトップのような感じで画面を操作。 |
将棋会館の控え室ではメンバーが画面に向かって問題がないか確認していた。 |
ビジュアル化した探索木の画面。計算結果によりリアルタイムに変わっていく。赤がGPS将棋が有利な手、青が三浦八段が有利な手。縦の長さは割り当てているマシンの量に比例している。 |
控え室でも参照していたGPS将棋のリアルタイム探索木。GPS将棋のサイトで公開されている。ちなみに、ツイッターでもリアルタイムでつぶやかれていた。 |
ということで、今回で第2回電王戦は幕を閉じた。プロ棋士が敗北してしまったが、そんなに悲観するようなことではない。勝負であるからには勝ち負けは重要なことだが、それ以上に、今回の将棋はどの対局を見ても非常におもしろく、通常の将棋以上に人間ドラマが繰り広げられていたと思う。そして、ニコ生による中継によって、ふだん将棋を見ないような人たちも興味を抱かせ、大盤解説に多くの人が足を運んだことは、将棋界にとってもすばらしいことだと思う。将棋界の歴史こそ長いが、現代ではやはりマイナーな競技だ。そんな将棋とニコ生がタッグを組んで、これまで見られなかったタイトル戦全局生放送や、今回のような取り組みが行なわれたことによって、人々の将棋の見方も序々に変わってきたと思う。将棋連盟のアプリを含めネットというメディアをうまく活用し、将棋ファンや競技人口の裾野を広げているのではないだろうか。さらにコンピューター将棋も対局者として練習相手になり、今回のような人間では思いつかない“新しい手”を次々と提供してくれるかもしれない。コンピューターを取り入れた研究によって、人間はさらに強くなることだろう。
第1局の阿部四段と習甦開発者・竹内氏は、ふたりで談笑していた。 |
控え室では塚田九段と谷川会長、そして瀧澤コンピュータ将棋協会会長が並んで戦局に注目、この時点ではすでに三浦八段のほうが分が悪い状況だった。 |
控え室の中継では、谷川会長も登場。 |
中継では大盤による解説も最終局で取り入れられていた。 |
また、今回思ったのが全体的にコンピューターに早く仕掛けられ、防戦で体力を使って最後まで時間がもたないというパターンにはまっていること。この早い仕掛けにどう対応するのか、はたまたコンピューターよりも早く仕掛けるべきなのか、今回の電王戦を復習することで、単に弱点を突くのではなく、これまでのコンピューターの常識を捨てて、対策に取り組んでもらいたい。
終局後のTeam GPS・金子知適氏。「まだ実感がわかない」と小さい声で語っていた。 |
第3回電王戦もきっと開催されるはず。米長会長が進めた“改革”を、次の世代も引き継いでくれることを願う。
ニコ生画面その1。ボンクラーズの評価値は、ある程度指針にはなるので、将棋をあまり知らない人にはわかりやすいと思った。川上会長の発案だそうだ。これ、タイトル戦でもあるとおもしろいかも。 |
ニコ生画面その2。電王戦のエンディングロール。第5局の最後に流れたがこれまでの戦いのダイジェストを含め、すべての対局を楽しんで来た人は感動すること間違いなし。ぜひ見てほしい。 |
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●対局者および解説者/聞き手:
第1局 (3/23):○阿部光瑠四段 vs 習甦(しゅうそ)●【終了】
◆解説者:阿久津主税七段/聞き手:矢内理絵子女流四段
第2局 (3/30):●佐藤慎一四段 vs ponanza○【終了】
◆解説者:野月浩貴七段/聞き手:山口恵梨子女流初段
第3局 (4/6):●船江恒平五段 vs ツツカナ○【終了】
◆解説者:鈴木大介八段/聞き手:藤田綾女流初段
第4局 (4/13):△塚田泰明九段 vs Puella α△【終了】
◆解説者:木村一基八段/聞き手:安食総子女流初段
第5局 (4/20):●三浦弘行八段 vs GPS将棋○【終了】
◆解説者:屋敷伸之九段/聞き手:矢内理絵子女流四段
●持ち時間:各4時間(1分未満切り捨て)
先手番は、第1局 阿部光瑠四段
(2局目以降は先手番・後手番が交替)
●主 催:株式会社ドワンゴ、公益社団法人 日本将棋連盟
●詳 細:「第2回将棋電王戦」公式ホームページで
●関連サイト
日本将棋連盟
GPS将棋の第2回将棋電王戦のページ
※画像を1点追加しました(4/23 22:45)
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