日本マイクロソフトは4月7日、『Imagine Cup(イマジン カップ)』の日本大会を開催した。
Imagine Cupは、マイクロソフトが国際競争力のある人材育成の場として提供している、学生のためのITコンテスト。ビル・ゲイツの発案で2003年にスタートした。11回目となる今大会では、前回までとはレギュレーションが大きく替わり、メインコンペティションは下記の3つの部門で争われることとなる。
●ゲーム:WIndows、WindowsPhone、Kinect SDK、Xbox、いずれかのプラットフォームを使用したゲーム。テーマやコンセプトは自由
●イノベーション:規定されたマイクロソフトのツールやテクノロジーを使用し、技術革新をもたらすアプリ又はソリューション
●ワールドシチズンシップ:規定されたマイクロソフトのツールやテクノロジーを使用し、誰かの人生を変えるようなアプリ又はソリューション
今回の日本大会は、3部門すべてを合わせた“Imagine Cup競技部門”として開催。ゲーム部門の4チームとイノベーション部門の2チームがファイナリストとして選出されており、優勝チームには賞金30万円と、7月にロシアのサンクトペテルブルクで行なわれる本大会の出場権が与えられる。
↑審査は20分間のプレゼンと5分のQ&Aで行なわれる。
最初のチームは、イノベーション部門でのエントリーとなるHAL東京のチーム“NFKey”。ソリューションは『NFKey』という、NFCとウィンドウズタブレットを使った自動車のロックシステムだ。キーロックにNFCのシステムを採用し、かざすとロックが解除され、その情報がウィンドウズタブレットを通じてサーバー上にあがるというもの。
このソリューションは、平常時にはカーシェアリングでの位置情報などに活用されるのだが、ポイントととなるのは災害などの非常時。NFCのマスターキーを消防や自衛隊などが管理することにより、車の移動や持ち主への返却などがスムーズに行なえるようになる。
↑実際にロックを解除できるドアシステムを持ち込み実演も行なった。
↑地震などの大災害でも、スムーズな救助活動を行なうのに役立つ。今までのImagine Cupらしいソリューションだ。
続いて2チーム目から5チーム目までは、すべてゲーム部門のでのエントリー。2チーム目、トライデントコンピュータ専門学校のチーム“Clear Voice”は、Windowsストアアプリとして開発されたゲーム。Windowsストアアプリのポイントとなるタッチ操作に加え、音声を使ってキャラクターを操作するというもの。
現状では音量に反応しているが、これは声での操作が恥ずかしくて敬遠されないように、拍手などでも操作できるようにしているため。コンセプトどおり、大人数でワイワイと遊べるゲームとなっている。
↑キャラクターのパッフィーをタッチと音声で操作して、母親のところまで移動させる。
↑ノベルティーなども作成し、実際に販売されているゲームの雰囲気もあり。
3チーム目は太田情報商科専門学校のチーム“KRAD”。作品は、Kinectを使ったレースゲームの『トイチェッカー』。アクセル操作はオートとなっており、コーナリング操作をKinectセンサーでカラダの傾きを感知して行なうシステム。
ゲームデザインは、子供のおもちゃをモチーフにしており、Kinectでの簡単な操作性と合わせて、子供がすぐに楽しめる内容となっている。
↑ゲーム内容を劇仕立てプレゼン。今年はどのチームもプレゼンの質が上がっていた。
↑両手をバタバタさせると、空中を浮遊する“ジタバタアクション”や、対戦プレーモードも搭載している。
4チーム目はHAL大阪の“チームでやんぞ”。Kinectを使ったゲームで、作品名は『ぬけがみ』。キャラクターを端から端まで移動させるという、若干ありがちなゲーム内容だが、その操作方法が変わっているのがポイント。Kinectで人の位置を検出し、キャラクターのシルエットを投影。このシルエットとそれ以外の部分が光と影の違った世界を描画し、その背景の差を使って道をつくり、キャラクターを操作するというもの。
↑Kinectセンサーで身体の位置を検出し、シルエットを動かす。見ているほうも楽しく、筆者としてはいちばん感心したゲームだ。
↑シルエットに部分に光が当たり、影のときとは違った地形を映し出す。この光と影の地形をうまく組み合わせてキャラクターを移動させる。
5チーム目は、HAL名古屋のチーム“flower_shooter”。作品はプレーヤーが画面上のキャラクターを操作して、不毛な大地を緑化していく『Enchant Flower』。アナログスティックでの操作性や、3Dのスムーズな描画に力を入れた作品となっていた。
↑キャラクターから見える範囲だけをレンダリングすることで、描画スピードをアップさせている。
↑操作はアナログスティックを使って行なう。タッチ操作や傾きセンサーなどの対応は考えていなかったとのこと。
競技部門最後のチームは、京都コンピュータ学院のチーム“Project N”。イノベーション部門のエントリーとなっており、ソリューションは『Knowall Library 5.0』。これは2D、3Dに関わらず、アクションゲームやシューティングゲームが作成できる汎用ゲームフレームワークライブラリーだ。ゲーム開発用のプログラムに精通していなくても、ライブラリーを活用し、ほとんどの作業をGUI操作でゲームを作成可能。
その完成度の高さは審査員を感心させていたが、それもそのはず。メインプログラマーの米山さんが「ゲームを作りたい」からと、中学生のころからひとりで作りはじめ、7年かけて作り上げた成果とのこと。
↑エディターも用意されており、プログラミングに詳しくなくてもゲーム制作ができる。
↑ライブラリーを使って、パーツやアルゴリズムを配置していくだけで、アクションゲームが作れる。
また、日本大会独自部門として“Windows 8 チャレンジ部門”も開催。規定はWindows8の機能やデザイン、コンセプトを生かしたWindowsストアアプリとなっており、4チームが登場。5分間のプレゼンと5分間のQ&Aで審査が行なわれ、審査結果には審査員だけでなく、筆者らプレスや会場来場者の投票も反映された。
↑木更津工業高等専門学校のチーム“青リンゴ”の作品は、タッチ操作のゲーム『New War's』。画面中心部のブラックホールの重力影響を考慮しつつ、相手チームを攻撃するというゲーム内容。
↑文教大学のチーム“k.shima07”は、キャラクターとの会話を行なうアプリ『なじみん』を披露。ユーザーがキーワードを登録して育てていけるほか、NFCを使った着せ替え機能なども装備。
↑長野工業高等専門学校のチーム“Cheer Group for OSS”の作品は、OSS(Open Source Software)用のエディターやプレゼン作成用アプリ。当日のプレゼンも本アプリを使って行なわれた。
↑鳥羽商船高等専門学校のチーム“BOTEKO”は、簡易プラネタリウムの『星空投影機』をプレゼン。タブレットを光源にして、ダンボールと虫眼鏡で作った投射機で室内に星空を映し出すアイデア作品。
すべてのチームのプレゼンが終了したのち、両部門の最優秀賞が発表され“Windows 8 チャレンジ部門”には、木更津工業高等専門学校のチーム青リンゴの『New War's』が選出された。
↑チーム青リンゴの江澤拓哉さん(写真中央)と佐藤 陸(写真右)さんには、審査員の矢野りん氏から、副賞としてSurface RTが送られた。
“Imagine Cup競技部門”には、イノベーション部門でエントリーした京都コンピュータ学院チームのProject N、『Knowall Library 5.0』が選ばれ、優勝書金30万円とロシアでの本戦出場権を獲得した。
↑審査員の加治佐俊一氏(写真左)と、米山哲平さん(写真中央)と、チェスター・リーさん(写真右)。リーさんはマレーシアからの留学生ということで、昨年の東京高専チームに続き、本年も日本・マレーシア連合チームが本大会出場となる。
惜しくもImagine Cup競技部門で負けてしまった5チームだが、オンラインによるエントリーも行なっており、その結果次第ではロシアでの本戦出場権を得られるチャンスが残っている。
授賞式終了後、Project Nのメンバーと審査員の方にいただいたコメントは下記のとおり。
●米山哲平さん(Project N):昨年も出場に声をかけていただいたんですが、レギュレーションに合わないこともあり出場は見合わせましたが、今回はそのレギュレーションが変わったのでチャレンジしてみました。賞金は相棒と分けます。ボクはフィギュアケースを買います(笑)。
●チェスター・リーさん(Project N):マレーシア人ですが日本チームとして出るというので、なんだか複雑な気持ちです。本戦では英語のプレゼンを頑張りたいと思います。賞金でヘッドマウントディスプレーを買いたいですね。
●日本マイクロソフト 執行役員 加治佐俊一氏(審査員):どの作品、ソリューションも本戦に出しても問題ないレベルでしたが、Project Nの『Knowall Library 5.0』は、製作期間の長さもあるため、群を抜いた出来だった。今までのImagine Cupではなかったジャンルのソリューションということもあり、革新性も十分あると思います。
●バイドゥ プロダクト事業部 矢野りん氏(審査員):若いころから「すごい、すごい」ってほめられると、開発者はどんどん成長します。開発者にとってこういう発表ができる場というのは大切ですね。
↑大会終了後にサプライズとして参加者にプレゼントされた、ビルGケーキ。
昨年までは、いずれの部門でも国連ミレニアム開発目標(貧困や格差、環境といった社会問題)をテクノロジーを使って解決するという規定があったが、今年から撤廃。そのためか、厳しい規定の中からも革新的なテクノロジーやワクワクするアイデアが飛び出す大会からは、かなり印象が変わったと感じた。
とはいえ、マイクロソフト関係者によると、この規定の変更により、エントリー数がかなり増えており、より競争が高まりレベルも上がっているとのこと。
本戦のロシアでは、日本チームの活躍はもちろん、世界の学生の革新的でワクワクするソリューションの登場に期待したい。
■関連サイト
Imagine Cup
Imagin Cup 2013日本応援サイト
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