『週刊アスキー』(2012年12月10日発売の12/25-1/1合併号)から短期連載が始まりました。“スーパーデジタル・ラボ”と題して、コンピューターの先に見え始めた“我々自身”を知るための旅……といった気分の研究室訪問レポート記です。その第1回は、ジュウシマツの“さえずり”に文法があることを発見して、言語発生の研究をされている東京大学教授で、理化学研究所情動情報連携研究チームチームリーダーの岡ノ谷一夫先生です。
↑短期連載“スーパーデジタル・ラボ”。写真は電極付きの脳波測定機をかぶった岡ノ谷先生と筆者(撮影:高野裕靖)。
私もNHKの番組を見て「サルでさえしゃべらないのに、ジュウシマツの歌に文法があるって!!!」と、食べているご飯をこぼしながら、かつ椅子から転げ落ちそうになったひとりである。ジュウシマツの歌はチョムスキーの言語学でいう有限状態文法にそっているのだそうだ。求愛の歌しか歌っていないらしいのだが、いまどきニコ動にボカロ曲をあげまくっているのと同じで一羽ずつ違う歌をうたっている。
ということで、編集のKくんからこの企画を相談されたときに、まっ先にインタビュー候補にあげさせてもらったのが、岡ノ谷さんだったのだ。NHKの『サイエンスZERO』の“シリーズヒトの謎に迫る(5)言葉はどう生まれたか”の後は、『博士の愛した数式』の作家小林洋子さんとの対談本『言葉の誕生を科学する』(河出書房新社刊)や『言葉はなぜ生まれたのか』(文藝春秋刊)も読んでいて、興味はモリモリと盛り上がっていた。
まあ、毎年出かける香港の廟街(テンプルストリート)では、文鳥が、ピョンピョンピョンと跳ねていって占いを1個を選んで持ってくるからそれなりのことはするかもなーと思いつつ、なにしろ文法があるというところが凄い(人間のように入れ子状の文法ではないのだが)。変ロの音をチューバで鳴らすとアリゲータどもが萌え萌えになるという話よりはだいぶ複雑で、ここが言語発生の研究材料になってくるわけだ。
↑今週号の『週刊アスキー』は超特大号。読みどころいっぱいです。
ということで、インタビューの内容は、ぜひ『週刊アスキー』を買って読んでいただきたいのだが(岡ノ谷先生がなぜこの研究をはじめられたのかから始まって、筒井康隆の『関節話法』はあながちジョークではないという話になってきたり、最後は、ツイッター談義になったり……)、インタビュー中に思い出しかけたんだけど中途半端にしか言えなかったことがあった。それが、その後わかったのでちょっと触れておきたいと思います。
それは、言語発生に関してコンピューター専門誌の『bit』で読んだ実験があったからだ(たぶん20年くらい前)。たしか、鉄道模型を使ったロボットを2台走らせて、行ったり来たりしているうちに言語を獲得する。途中にライオンが出現したりして、その間にロボットが「ピポパポピピピプ」とか「プププポピピピプ」とか発声しあっているうちに、しだいに言語ができあがるというものだった。
この話、近々ASCII.jpで掲載予定のUEI清水亮社長と慶應義塾大学の増井俊之教授との鼎談をしているときに話したら、そこはやっぱり蛇の道はなんとやらで、清水社長がすぐに反応した。「それあれでしょ、ボクも好きな東大の中野馨先生の本に出てくる奴でしょ」というのだ。それで、ググッてみるとそうだった。私はBASIC版を読んだことがある『Cでつくる脳の情報システム』(中野馨編著、近代科学社刊)という本にちゃんと出てくる。
↑とても刺激的な本です。絶版らしいので図書館などでご覧あれ。ちなみに、私が学研『大人の科学マガジン』の4ビットコンピューターで作った“4ビット人工知能”もこの本の影響を受けているつもり(http://blogmag.ascii.jp/tokyocurrydiary/2009/06/4.html)。
↑言語発生ロボット“ランギー”は鉄道を使っていてもこんな形のものだった(『Cでつくる脳の情報システム』より引用)。
たぶん、『bit』誌に載ったのも同じ「ピポパポピピピプ」とやったロボットで、“ランギー”という名前らしい。単行本では第8章“言語発生ロボット”とあって有田裕也という人が卒業研究で作りはじめて、その後、何人かの手をへてできたシステムで“連想記憶モデル(アソシアトロン)”という概念で動いている。これは文法までは踏み込んでいないのだが、共通部分が発生するというお話。ということで、言語発生に関して、なんとなく2週間ほど心の中でモヤモヤしていたものがスッキリ。
それにしても、言語って、コンピューターも“プログラミング言語”で動いているし、“ソーシャルメディア”も言葉とは切っても切れない関係にある。これの発生って、とっても興味の尽きないお話ですよね。ちなみに、岡ノ谷先生といえば、今年6月、ロボット工学で長く言われてきた“不気味の谷”現象をほかの研究者とともに発見。聞き足りないこともいっぱいなのだが、インタビューでは先生のお人がらもわかって楽しい記事になっている。ご興味のある方はぜひお読みいただきたい。
なお、巻末連載の『神は雲の上にあられる』(第05回)は“iPad mini 欲しい4.2%、Kindle Fire欲しい3%”というお話。これも、合わせてご覧あれ。
【筆者近況】
遠藤諭(えんどう さとし)
角川アスキー総合研究所ゼネラルマネジャー。元『月刊アスキー』編集長。元“東京おとなクラブ”主宰。コミケから出版社取締役まで経験。現在は、1万人調査“メディア&コンテンツサーベイ”のほか、デジタルやメディアに関するトレンド解説や執筆・講演などで活動。東京カレーニュース主宰。TOKYO MX TV 毎週月曜日18:00からのTOKYO MX NEWS内“よくわかるIT”でコメンテーターを務め、『週刊アスキー』で“神は雲の中にあられる”を巻末で連載中。
■関連サイト
・Twitter:@hortense667
・Facebook:遠藤諭
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります