私のサブカル根性を鋭く見抜いてたまに献本いただく社会評論社さんから本が届いたので、「フムフム、今度は、どんな本?」と楽しみながら開いたら『消滅した国々』という本でした。サブタイトルに“第二次世界大戦以降崩壊した183カ国”と書いてあって、「国って消滅するんだぁ、そりゃそうかぁ」と感慨深く手に取ると著者が、吉田一郎氏。
↑『消滅した国々』は712ページもある大著。いま話題の『メイカーズ』(クリス・アンダーソン)の2倍もある。
ちょっと嬉しいのは巻頭カラー口絵で、消滅した183ヵ国の国旗が一覧になって掲載されていることだ。小学生の頃国旗マニアだった私には、ちょっぴり感傷にふけってしまう時間しばし、「あったあった、この国あった」とひとり頭の中で繰り返した。
1ページ目は、“第一章 国際的に承認された国”とあって、南ベトナム、マラヤ連邦、北イエメン、南イエメン、アラブ連合、ソ連、東ドイツ、チェコスロバキア、ユーゴスラビア、ソマリランド、カメルーン、マリ、ザンジバル、タンガニーカとメジャーなところが並ぶ。「ザンジバルとタンガニーカがくっついてタンザニアになったんだよな」などと、1人でトリビア出して答えたりしている自分がいる。
そういえば、今年9月までMXの朝番組でご一緒していた八田亜矢子さんのお姉さんはタンザニアでお仕事中だそうで、自身もロケで訪れたことがあるとか。などと1ページ目ではまっている場合ではない。“第二章 わずかな国に認められた国”、“第三章 改めて独立したら併合された国”、“第四章 併合されたくて独立した国”……と続くからだ。このあたりになると知らない国が出てくる。アンジュアンとかご存知ですかね? 国旗もいい。
↑やはり国旗は楽しい。左ページ右下がアンジュアン。右ページのアンギラもいいです。
ということで、“第十三章 作り損ねた国々”、ニューアトランティス、ローズ島、ミネルバ共和国、アバコと、ほとんどでたらめを言っているような、往年のテレビ番組『キーハンター』に出てくる謎の国みたいな感じになってくる。実際、どの国の背景もとってもいい感じになっていて、それが、豊富な図版やデータをもとに語られている。ちなみに、ニューアトランティスという国は、以下のような国らしい。
「アーネスト・ヘミングウェイといえば、代表作『老人と海』で有名なアメリカの小説家で、1961年に亡くなったが、その弟レスター・ヘミングウェイも作家で、'61年に『兄ヘミングウェイ』という本を書き、ベストセラーになった。レスターがその印税でジャマイカ沖合6マイル(9.7キロ)のカリブ海に人工島を作り、1964年7月4日に独立を宣言したのがニューアトランティスという国だ。(後略)」ということだそうな。
著者の吉田一郎氏は、1997年に『香港的秘密 〜読んで福来る』(アスペクト刊)という本を作らせてもらって以来のつきあいだ(当時、私はアスペクトの取締役だった=現在のアスペクトとは同じ会社ながらも体制は異なる)。『香港通信』(現地日本語誌)の元編集長で、九龍城砦に住んでいたという経歴の持ち主だが、香港自体がこの年に中国に返還されたんですね。その後の経歴も今回の『消滅した国々』をちょっぴり連想させるものがある。
あるとき私の会社に訪ねてきて「今度、市議会議員選挙に出ることになりました」と遊説していったのはいまも覚えている。なんでも平成の大合併でふるさと大宮市が“消滅した自治体”になってしまったのだそうな。さいたま市議選立候補時の彼の公約は「さいたま市をふたたび大宮市と浦和市に分割する」というものだった。その時の選挙事務所は携帯電話だったが、議員の報酬が高すぎるなど真面目な主張もしていたこともあり、'07年には見事に当選をはたしたのだった。
市議会議員となった後も「大宮の子どもたちに、大宮を知る教科書を」というさいたま市の“教科書問題”などで活躍、詳しくは“あとがき”に書かれているのでご興味のある方はご覧あれ。『消滅した国々』は、712ページもある大著だが、どこから読んでも楽しめる。ためになる。どんな社会科の教科書より世界を知る手掛かりになる1冊なんではないかと思います。
↑北京火鍋を囲んで右側が吉田一郎氏、左は月刊アスキーで香港記事訳をお願いしていた村上氏@香港1999年。
【筆者近況】
遠藤諭(えんどう さとし)
角川アスキー総合研究所ゼネラルマネジャー。元「月刊アスキー」編集長。元「東京おとなクラブ」主宰。コミケから出版社取締役まで経験。現在は、1万人調査「メディア&コンテンツサーベイ」のほか、デジタルやメディアに関するトレンド解説や執筆・講演などで活動。東京カレーニュース主宰。TOKYO MX TV 毎週月曜日18:00からのTOKYO MX NEWS内「よくわかるIT」でコメンテータ、『週刊アスキー』で「神は雲の中にあられる」巻末連載中。
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(2012年12月1日3時4分追記)文中の一部国の表記について誤りがありました。お詫びして訂正いたします。
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