週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

Windows RT機Surfaceはもっと評価されて良い by 本田雅一

2012年11月14日 15時30分更新

 10月26日、米ニューヨーク市タイムズスクエア。Windows 8発売日前日夜に突如現われたMicrosoft Storeのニューヨーク店は、ブロードウェイに交通規制を入れての大騒ぎ。マイクロソフト自身が企画、開発した『Surface RT』の深夜販売に合わせ、長蛇の列もできた。筆者は取材で並べないプレスのために用意された枠で、自分のSurface RTを購入した。

マイクロソフト『Surface RT』
Windows RT本来の使い方はストアアプリの使いこなしにあり:本田雅一寄稿

 これがニューヨークだけの出来事かと思ったら、サンフランシスコでも、もちろんお膝元のシアトルでも、同じようにサーフェスRTを求める列はあったようだ。Microsoft Store専売で品切れしないだろうと見られていたが、発売翌日には売り切れ店も出始めた。

 筆者個人の印象はとてもポジティブだ。NVIDIA Tegra 3のCortex-A9クワッド1.5GHzというスペックは、いまやスマートフォンとしても上位モデルなら当たり前のもの。ところが、Surfaceの反応はよくタッチ操作への追従性はとてもいい。これは、たとえばSnapdragon S4、Kraitデュアルコア1.5GHzを搭載するサムスンの『ATIV Tab』でも同じ。

サムスン『ATIV Tab』
Windows RT本来の使い方はストアアプリの使いこなしにあり:本田雅一寄稿

 いずれも2GBの搭載メモリーだが、プリインストールのアプリケーションを使いながら、パソコンというよりもタブレット端末ライクな使い方をする上で、性能不足を感じることはあまりない。

 ただし、これはWindows 8/RTで動作メモリーの縮小、性能チューニング、それにタッチ操作に対する応答の優先制御などを徹底した結果で、絶対的な性能は決して高いわけではない。たとえば大量のメールを一気にダウンロードする時には動作が重くなる。また、(これはアプリそのもののチューン不足だろうが)カレンダーアプリのビュー切り替え時は、アイテム表示が遅れるといったことがあった。

 一般にスマートフォンやタブレットの情報ツールは、すべてのデータではなく、直近の必要な情報だけを端末内で処理し、残りはクラウドに置いておくというスタイルのアプリケーションが多いが、Windows 8パソコンと同じ標準アプリを備えるWindows RTは通常のパソコンと同じだけの情報を処理する。

 このあたりは、今後のアプリ開発の進展や、サードパーティー製のアプリが増加するにつれて解決していくだろう。言い換えれば、現時点では絶対的なパフォーマンスに不満を持つケースも考えられる、ということだが、他タブレット端末の状況を見る限りには大きな問題がもたげてくるようには思えない。

 OSそのものの性能や、タッチ操作に対する応答性などは、アップルのiOSに負けず劣らずに良好だ。よく、これだけ巨大なシステムを、ここまでコンパクトなシステムで軽々動くよう落とし込んだものだと思う。

 省電力性能に関しても期待通りだ。31.5Whのバッテリーを背負うSurfaceは10.6インチディスプレーで680グラムと、9.7インチディスプレーのiPadよりも軽量に仕上がっている。バッテリー持続時間は動画再生時でも10時間以上とのことだが、実際、感覚としてiPadなどのタブレット端末と同等ぐらいという印象。

 Surface RTは日本で発売される予定がないが、軽量かつ省電力な道具、文房具としてのコンピューターを考えるとき、iPadよりもパソコンに近い使い勝手ができる製品として、これはこれでアリだなぁ、と正直に感じた。

 もっとも、従来のパソコンユーザー的な観点から言うと、Windows RTには制限がとても多く、いわゆる“Windowsパソコン”らしい使い方を想定していると、少々面食らうだろう。Windows RTを使いこなすには、まず「これはWindows“パソコンではない”」ことを受け入れるところから始める必要がある。

Windows RTで動かせるのはWindowsストアアプリのみ
Windows RT本来の使い方はストアアプリの使いこなしにあり:本田雅一寄稿

 たとえば、従来のWindows用アプリはすべて動かすことができない。動かすことができるのは、Windowsストアアプリという全画面動作のWindows8から導入されたスタイルのアプリだけだ。Windows RTには、Office 2013が付属しているが、これもデスクトップで使う従来型アプリを後から導入できないため。デスクトップで動かせるのは、メーカーが独自に組み込むソフトなど、出荷時にインストールされるアプリに限られる。

Windows RTにはOffice 2013が付属
Windows RT本来の使い方はストアアプリの使いこなしにあり:本田雅一寄稿

 こうした仕様になっている理由のひとつには、セキュリティー対策がある。デスクトップアプリ(従来型アプリ)のウィルス対策には、様々な意味で多くのコストがかかる。いずれにせよプロセッサーが変わるのだから、従来型アプリは限定しておき、Windows Storeアプリ(新型アプリ)だけが使えるようにすれば、ウィルス・ワーム対策もやりやすい。

 新型アプリはサンドボックス(砂箱)と呼ばれる独立した環境で動くようになっており、システムを破壊したり、データを盗んだりといった破壊的行動を取ろうとしても、システムや他アプリに影響を与えることがない。悪意がないクラッシュにも、もちろん強い。

 つまり、一般的にパソコンに求められる作業が行なえるよう、Office 2013がバンドルされ、デスクトップを備え、最低限のワーム監視などのためにWindows Defenderがインストールされているが、それはあくまで道具として使いこなすために、最低限必要だからに過ぎない。

 つまり、Windows RT本来の使い方は、Windowsストアアプリの使いこなしにあるということだ。OfficeをインストールしたWindowsパソコンとしては、従来通りの使い方をそのまま行なえるが、コンピューターとしての発展性はそこにはないということ。一部のアプリ不足は、インターネットエクスプローラからウェブアプリケーションを利用することでもある程度はカバーできるだろうが、Windows 7と同じような使い方がしたいのであれば、Windows RTは選ぶべきではない。

 一通り使い、何日か道具として持ち歩いてみて、あらためて感じるのは、出先でのちょっとした作業には、軽量さとバッテリー持続時間の長さ、サスペンドモードからの素早い復帰など、使い勝手がとてもいい端末ということだ。こればかりは、実際に持ち歩いてみないと実感できないかもしれない。

 しかし、これまでのパソコンにはない、タブレット端末と同様の長所を備えるWindows RTだが、一点、マイクロソフトの想定外だったのはインテルの新型ATOMプロセッサー、Clover Trailだろう。Clover TrailはWindows 8が動作するため、従来のアプリケーションも当然ながら動作する。その上、ARMプロセッサーほどではないものの、省電力で薄型軽量のタブレットを開発できる。Clover Trailを搭載するThinkPad Tablet 2を使ってみると、さらに薄く軽いWindows RTマシンとの間で迷いが出てくるかもしれない。

レノボ『ThinkPad Tablet 2』
Windows RT本来の使い方はストアアプリの使いこなしにあり:本田雅一寄稿

 あとは価格、自分の利用スタイルに合わせ、どの製品が良いかを考えてみてほしい。利用シーンを想定して割り切れるのであれば、意外なほど良いパートナーとして活躍してくれるはずだ。もっとも、まだWindows RT搭載機の選択肢は少ない。はやく“選べる”状況になってほしいものだ。

【編集部追記 11/14 17:30】
 今週発売の週刊アスキーでは、Surfaceのほか、日本でも買えるWinRT機『LaVie Y』、『VIVO Tab』を徹底分析するWindowsRTの6ページ特集記事を掲載しています。興味のある方は7net shoppingからも購入できますのでどうぞ。(関連リンク

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります