初音ミクに代表されるボーカロイドの世界では、ユーザーがつくるCGM(消費者生成メディア)の力が欠かせない。音楽だけではなく、イラストや動画、歌ってみた、演奏してみた、作ってみた、コスプレなど、さまざまなジャンルにいる“野生のプロ”がボーカロイドを楽しみ、新しい要素を投入してシーンを盛り上げてきた。
中でも3D作成ツールの『MikuMikuDance』(通称、MMD)は、'11年からぐっと注目を集めている存在だ。3月24日には、東京・六本木にある“ニコファーレ”にて、ユーザー主催の上映イベント“MMD杯 in ニコファーレ”を開催。週アスPLUS方式で数えるとざっと70~80名の来場者と、4万ユーザーを超えるニコニコ生放送のネット視聴者を大いにわかせていた。ボカロ大好きな週アス取材班ももちろん参加したので、レポートをお届けしようっ!
MMD杯 in ニコファーレは、ニコファーレ初となるユーザー主催のイベント。名作の動画上映だけでなく、AR(拡張現実)を利用した表彰式やライブも実施した。
■“無冠の傑作”を12曲上映 クオリティーの高さに驚く!
MMD杯とは、ニコニコ動画において年に2回、夏と冬にユーザー主催で実施しているコンテストのこと。MMDを使ってお題にそった動画をつくって投稿し、マイリスト(ブックマーク)の登録数で競うという内容だ。3月3日に閉幕した第8回大会では、505作品、合計30時間を超える作品が集まった。とにかく数が多いので、観る側もすべてをカバーするのがひと苦労。素人がつくったとは思えないクオリティーの作品も埋もれてしまう──。今回のイベントでは、そんな受賞はしなかった“無冠の傑作”をピックアップして、12作品紹介するというのがメインだった。
MCは、MMDerで第8回MMD杯運営委員のcortさん(右)と、ボビー・オロゴンやマスオさんなどの声マネで知られる生主のナオキ兄さん。ちなみにMMDerはMMDの動画制作者で、生主はユーザー生放送の提供者を指す。
ステージでコメントを添えたゲスト陣も豪華。ハローキティ×ボカロのコラボ『猫村いろは』を企画したサンリオウェーブさん(左から3番目)、アイマスやMMDの動画製作で知られるわかむらP(右から4番目)、MMDも使われたテレビアニメ『gdgd妖精s(ぐだぐだふぇありーず)』で映像監督を務めた菅原そうたさん(右から2番目)の3名が参加した。ボカロ、アイマス、東方というニコ動の“御三家”を再現したコスプレイヤーさんもかわいい!
周囲をぐるりと取り囲まれる360度LEDでMMDの動画を観るという贅沢な体験! 内容も音楽のイメージビデオだけでなく、ボーカロイドのキャラが出てこない物語もあって、バラエティーに富んでいた。セットリストは以下のとおり。
※リンクのクリックで上映した動画をニコニコ動画のページで開きます。
1.初音ミク-反芻の印象-
2.白い雪のプリンセスは
3.禁断の惑星
4.ナツカシノツバサ ~昭和87年空の旅~
5.車
6.Clockworks
7.おはよー!
8.ドロップ☆スター
9.24KEYs
10.Walk without you
11.初音ミク - 嘘つきの世界
12.Melody Line
『禁断の惑星』(左)は還暦を超える方、『ナツカシノツバサ ~昭和87年空の旅~』(右)は現役高校生がつくったという。年齢も職業もまったく関係ない人たちが、自分の見たいものを愛だけでつくりとおしてしまう。そんなスゴい世界がMMD!
会場が最も盛り上がっていたのが『おはよー!』。途中、初音ミクさんがはくソックスの柄がちくわっぽいと一部のMMDerで話題になり、なぜか火がついて、おでんの具をMMDのモデルで再現する“おでん祭り”に発展したり……。そんなナゾの内輪受けも楽しい!
MCから“ハローキティといっしょ公式さん”と呼ばれていたサンリオウェーブさんは、6本目の『Clockworks』を「キャラクターの耳の動き生きてるものにできるのはスゴい」と評価。
わかむらPは、10本目の『Walk without you』について「ミュージックビデオをたくさん観て研究されてる方だと思う。ミュージックビデオは説得力も大切だけど、それなりの意味不明感も大事。『なんでそのオブジェクトがそこに』とか『何その動き』というのがちょこちょこ入ってる」と、プロ目線で太鼓判を押していた。
菅原そうたさんは、ロサンゼルスから飛行機で帰ってきて成田に着いたその足で会場に向かい、途中から参加していた。9作品目の『24KEYs』について「共感したのは髪の毛が折れるシーン。3Dプリンターでつくっててどうやっても折れてしまうんですよ」と発言。
■二次元と三次元の融合! ARライブに会場&ネットが沸いた
さらに後半では、ARを活用したサプライズも用意していた。ニコファーレは、1月に実施したニコニコ動画の新製品発表会でMMD対応を発表。MMDのモデルやモーションのデータを読み込んで、カメラの映像と合成して3Dキャラをステージに立たせられるという最先端のライブハウスに進化していた。発表会で披露したデモに次いで、MMD対応を一般イベントで使ったのは今回初。しかし、ユーザー主催といい、ARといい、なんという初物づくし!
第8回MMD杯における総合優勝、準優勝、敢闘賞の3作品に対して表彰式を行なった。ニコニコ生放送で観ると、作中に出演した3DキャラがLEDから飛び出してステージに現われて、iPadの中に表示されたトロフィーを受け取るという凝った内容。
総合優勝の『MMDDFF』からは、敵役で出演していた矢部野彦麿がトロフィーを受け取る。
準優勝の『天ノ弱』は、MCをつとめたcortさんが手がけた作品。8ヵ月に渡っていっしょに動画をつくってきたGUMIに自分でトロフィーを渡すというすごい展開。
敢闘賞の『パンダヒーロー【フリーダムな方】』はミクさんが登場。LEDから抜け出してきた際、スカートが半分表示されないハプニングも……。元動画にならってフリーダムすぎるミクさん。
授賞式のあとはARライブ! ミクさんがARで舞台に立ち、MMDerの心の歌である『Let's Dance Now!』を熱唱していた。実はニコファーレではARの照明連動機能も用意。これから生放送をタイムシフトで観るという方は、3Dのミクさんに光が当たると色が変わるという凝った演出に注目だ。
鳴り止まぬ拍手の中、大団円で終了。cortさんは「ネットから飛び出していくのをイメージしていて、今回その第一歩が踏み出せてうれしい2時間でした」と感動を表わしていた。
MMDは'08年2月の登場後から、動作が軽くて比較的古いパソコンでも動作するうえ、無料で使えるということもあってニコニコ動画の中で話題を獲得。制作者が増えるに従って、人物や背景のモデルと、そのモーションを配布する人も現われた。
3DCGはとにかくモデルやモーションの製作に時間がかかるのが難点だったが、そうしたデータをネットから入手して、少し調整するだけで3DCGに触る楽しさを味わえるようになったわけだ。しかも、MMD杯に参加して、不特定多数の人に観てもらうこともできる。音楽の世界における初音ミクのように、MMDが3Dの世界にもたらした影響は計り知れないインパクトがある。
その盛り上がりの最先端に“MMD杯inニコファーレ”があると考えると、MMDerなら“胸アツ”に(胸が熱くなる)ならざるを得ないでしょう! ちなみにイベントの主催は第8回MMD杯運営委員となっているが、ユーザー側の作業の多くはMCのcortさんが無償で担当したとのこと。前日までニコファーレのスタッフと技術テストを繰り返して、今回の成功に結びつけた根性はスゴい!! 直前まで交渉していたが、権利関係で流せなかった作品もあったようだ。
MMDの次なる大きなイベントは、4月28日、29日に幕張メッセで実施する“ニコニコ超会議”だ。さらに7月には第9回のMMD杯が控えている。少しでも3DCGに興味があるなら、これからまた大きく発展しそうなMMDの世界に飛び込んでみるべし!
■関連サイト
ニコニコ超会議サイト
(2012年3月28日3時30分追記:タイトルに誤りがあったので修正いたしました)
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