インドネシアの首都・ジャカルタで5月28、29日に開催された初音ミクの総合イベント『HATSUNE MIKU EXPO 2014 in Indonesia』。お祭りのメインともいうべきライブについて、現地の熱狂ぶりをレポートしていこう。
↑「音楽は国境を越える」を心底実感した盛り上がり! |
■日本語で歌う観客、ミクさんはMCで「こんにちはー♪」
インドネシアのライブは、クリプトン・フューチャー・メディアがプロデュースし、演出はMAGES.(メージス)のチームが担当。スケジュールとしては、28日が19時30分~、29日が13時~と19時30分~という3回の公演。座席はいずれも1階席で、プラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズという4種類に分かれていた。
↑座席の割当はこんな感じ。前売りのチケット価格は、プラチナが139万ルピア(約1万2000円)、ゴールドが100万ルピア(約8700円)、シルバーが70万ルピア(約6100円)、ブロンズが39万ルピア(約3400円)。現地の人に聞いてみたところ、ほかの海外アーティストの公演と似たような価格帯だという。 |
↑シルバーとブロンズは座席指定がないため、ライブの開場前には少しでもいい席を取ろうと行列ができていた。ちなみに筆者は28日に立ち見のブロンズで参戦。 |
ライブには、初音ミク以外にも、鏡音リン・レン、KAITO、MEIKOといった、クリプトン・フューチャー・メディアのボカロキャラが勢揃い。ファンにはおなじみとなる、ステージ前方に置かれた透明ボードに後方のプロジェクターからCGを投影するという手法で、ミクたちを現実世界に“召還”した。
↑1曲目、黒うさPさんの人気曲『千本桜』で会場はテンションがブチ上がり、「オイ!! オイ!!」というコールに包まれた。スクリーンを囲む桜は、背面のLEDに描かれたものだ。 |
↑鏡音リン・レン。日本における初音ミクのライブでは、キャラクターにあわせてケミカルライトの色を切り替えるのが定番だが、現地ではその文化はまだ浸透してなかったようだ。 |
↑客席でちらほら、色を合わせていた人もいたが、おそらくアジアから集まった重度なミクさん大好きクラスターな方々と思われます! |
現地の盛り上がりは、とにかくスゴいのひと言。ミクたちの歌声とバックバンドの演奏に乗って体を揺らしたり、ケミカルライトを振ったり。自分の好きな曲のイントロが流れ始めると「うぉぉぉぉ!」と喜びの声をあげて、一緒に日本語で歌っていた人も。
途中、MCパートで「こんばんわー」と初音ミクがあいさつすると、会場も「こんばんわー!」としっかり日本語で返す。続けて、「今日は来てくれてありがとう。ようこそ初音ミクです。みんな一緒に楽しもうね」と呼びかけると、大歓声で応える会場。2011年、米ロサンゼルスで開催した初音ミクのライブ『MIKUNOPOLIS』などと同じで、本当に国境を越えて人気なのだなと実感した瞬間だった。
↑OSTER Projectさんの『恋色病棟』。今までのミクパ♪ではあまり見られなかった、透明スクリーンにキャラクター以外を書き込む演出もあった。 |
↑dorikoさんの『ロミオとシンデレラ』。LEDに王宮が、透明スクリーンの初音ミクの前に柵がそれぞれ描かれて、バルコニーにいるような演出を実現していた。 |
筆者個人の印象だが、曲でいえば『ロミオとシンデレラ』、『ぽっぴっぽー』、『Tell Your World』の3曲で特に沸いていた感じだ。
インドネシア人のボカログループ“VOCALO.ID”が手掛けたバラード曲『Venus di Ujung Jari』(直訳で『金星の指先』、ピアプロでの歌詞はこちら)でも、会場が大いににざわついて「キャー!!」という黄色い声援も上がっていた。
不思議だったのは、先ほどまで日本語で歌っていたミクの言葉がインドネシア語に変わるだけで、まるで現地のアーティストのように思えた感覚だ。大声で一緒に歌う観客の心には、「海外アーティストが自分たちの言葉で歌ってくれて嬉しい」という気持ちだけでなく、「自分たちの仲間が作った曲がこの大舞台で演奏された」という誇りが生まれていたに違いない。今後、ほかの国におけるMIKU EXPOのライブでも同様な演出が続くのか要注目だろう。
初音ミク以外では、巡音ルカのパートで流れた『ダブルラリアット』と『ルカルカ☆ナイトフィーバー』で大歓声が上がっていた。「もしかしてルカさん好きが多いの?」と現地で知り合ったインドネシア人のファンに聞いてみたところ、単純にその2曲の人気が高かったようだ。
■「ミクに初めて会えた!」という喜びに満ちあふれた会場
週アスの読者なら、ライブの技術面も気になるところだろう。今回のステージでは、キャラ用の透明スクリーン、背景のLEDパネル、舞台の左右に後方座席のためのサブスクリーン──といった構成で映像を映していた。ここに照明が加わって、舞台に華を添える。バックバンドの紹介パートで、透明スクリーンに名前が写ったのも珍しい演出だった。
単純に海外ライブといっても、初音ミクの場合は、透明スクリーンやプロジェクター、それを操作するシステムなど、とにかく機材が多くなってしまいがちだ。輸送費などを考えると、日本から運んでいける量にも限界がある。実際、会場を組む際にも、現地のスタッフが日本人のように細部までこだわってくれるかどうか。そんないろいろな不安や制限がある中、滞りなく公演をやってのけたことで、MIKU EXPOは最良のスタートを切れたのではないだろうか。
↑Cosmo@暴走Pさんの『初音ミクの激唱』。定番の羽が生える“ただでさえ天使のミクさんが、マジ天使に”という演出に、やっぱり現地は大盛り上がりでした。 |
アンコールの最後、電子の歌姫は客席に語りかける。「アンコールありがとう。みんながいて、初めてここにいられます。そして最後の曲聞いてください。『letter song』」。
ゆっくりと左右に揺れるサイリウムの中、「10年後の私へ 今は幸せでしょうか?」と歌い上げる姿は、まるで彼女が自分自身の将来を問いかけるようにも見えた。全27曲の演目を終えたミクがゆっくりお辞儀すると、力強い声援とともに盛大な拍手が沸き起こり、この歴史的なコンサートが幕を閉じた。
“長年、ネットで聴いて親しんでいたミクを目の前にし、大好きな曲をみんなで大音量で聴くことができる──”。
よく初音ミクのライブは、音と映像を流しているだけと言われがちだが、感覚的には、テレビやCDで聴いて長年憧れていたアーティストが、ようやくライブに来てくれたという構図と変わらない(しかも次元の壁を超えて)。会場にはとにかく「初めて会えた」という喜びで、エネルギーが満ちあふれていたのが印象的だった。
『ありがとう、初音ミク』。この子たちに囲まれて面と向かってそう言われ、うちのスタッフ号泣。救われました。RT @Kazukake: @itohh ラストにこんなんやってくれました。 pic.twitter.com/7efPJV2R9T #mikuexpo #miku #vocaloid
— 伊藤博之(Hiroyuki Itoh) (@itohh) 2014, 5月 31
次のMIKU EXPOの場所はまだ明かされていないが、きっとインドネシアと同じ熱狂を巻き起こすはず。初音ミクが育んできた創造文化がいかに世界に伝わっていくか、今後の展開にも注目していきたい。
【2014年6月8日】ライブのプロデュース担当について追記いたしました。
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