週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

いよいよ決戦迫る! 米長永世棋聖vs.ボンクラーズの将棋電王戦両者の思いとは?

2012年01月12日 12時30分更新

文● いーじま 聞き手●山崎バニラ 撮影●篠原孝志(パシャ)

 プロ棋士対コンピューターとの将棋対決『電王戦』が、いよいよ1月14日に対局! 昨年末に行なわれた前哨戦では、米長永世棋聖が奇抜な一手目を試してコンピューターの動向をみてみたが、残念ながら85手までで負けてしまった。すでにプロ棋士の域に達しているといわれるコンピューターとの対戦。引退したプロ棋士・米長永世棋聖とボンクラーズの開発者・伊藤氏へ、将棋好きでNHK BSなどの将棋番組にも出演している山崎バニラさんが、それぞれの思いを伺った。

電王戦直前インタビュー

永世棋聖
米長邦雄
公益社団法人日本将棋連盟会長。タイトル獲得数19期は歴代5位。2003年現役引退。通算成績1103勝800敗1持将棋。ツイッターは<a href="https://twitter.com/yonenagakunio" target="_blank">@yonenagakunio</a>。

■勝負感を取り戻すべく毎日がんばってます

山崎 ご自宅の方にボンクラーズがあるそうですが。
米長 はい、設置していただきました。2台のパソコンで構成されていますから、このボンクラーズの能力がどのくらいのものかは分からないのですが。
山崎 どうですか調子は?
米長 一手30秒の早指しでやりますと、だいたい勝率2割程度ですね。
山崎 でも本番は持ち時間3時間ずつになるわけで……。
米長 そうですね。コンピューターのほうは何千万手も1秒間で読むんですよ。それに対して30秒では人間は読み切れない。直観しかないですから。3時間あるからといって15分考えたり、30分考えたりとかいうときに、人間が考えつく最善手と、コンピューターが考え抜いた答えとでは、コンピューターのほうがはるかに読むんです。読むんですけど、読んだ方が勝つのか、それとも直観に基づいての思考となる人間のほうが勝つか、という戦いなのです。
山崎 具体的に、対人間と対コンピューターの対局ではいちばん何が違うのでしょうか?
米長 何がいちばん違うかというと、まず、とても難しい局面があるとします。終盤で。どうなのかな、つまないのかな、勝ってるのかな、負けてるのかな、そこがいちばん勝負で難しいところなのです。またおもしろいところでもある。以前、片上大輔六段にお話をいろいろ伺ったとき、終盤は実は人間のほうがまだまだ強いのではないか、というお話だったのですが……。うーん、その終盤というのは、終盤の入口ということなのか、終盤の最後ということなのか。たとえば、この局面に詰めがあります。五十手とか百手かかります。向こうが詰みます、という局面があるとします。人間にしてみたら難しいですから、詰むのかな、詰めそうだな、と1時間考えてもわからない。しかしコンピューターは数秒で、はい、これは詰みません、これは詰みますって出るんですよ。そいう点では、難しい局面になったときには人間のほうが弱いと私は思うんです。
山崎 そうなると、いかに序盤と中盤で差を広げられるかということですね?
米長 そうですね。ですからマラソンにたとえますと、スタートして30キロとか35キロでスパートするという作戦があります。しかし、この戦いではそれは許されないのです。スタートからすでに引き離してる。最後にトラックに入ってから勝負というのも絶対駄目なんですよ。トラックが入った時に、大差になっていて、いくら一生懸命頑張ったってもう駄目という局面になっていないと。
山崎 いや私はすごい楽しみにしていて。米長先生はもう68歳ですし、引退もしていらっしゃるので、映画化されてもいいような、世紀の対局だと思って楽しみにしております。
米長 僕が勝つためには何が大事なのか言いいますと、全盛時代の将棋にどこまで戻せるかにかかっているんです。でも、いくら頑張っても、もう全盛時代のところには戻れないんですけどね。弱くなった自分を元の強さに戻していくのですが、コンピューター相手と人間相手とではちょっと違うんですよ。人間相手だと、タイトル保持者と同じ実力でないと勝てないのですが、コンピューター相手の場合は、ある程度の実力になっていればあとは関係ない。さっき言ったように、本当に難しい局面になったら、人間どうしだと強いほうがやっぱり読み切るのでしょうけど、コンピューターが相手では敵わないですから。もう将棋が強いとか弱いとかというレベルではないのです。
山崎 いっぽう序盤の方ですと、角換わりに弱いのではないかとか、色々対策を練っている遠山五段などがいらっしゃいますが、その点はいかがお考えですか?
米長 序盤については、今回は後手番なところが問題なんですよ。将棋は後手番より、先手番が主導権を握ってる。後手番は受けて立つことになるから、そこが少し不利ですね。

電王戦直前インタビュー

■読みづらい局面、コンピューターはどう読むのか

山崎 将棋倶楽部24でのボンクラーズのレーティングは、3300に達する値をたたきだしていますが。
米長 そうですね。3300というと、これはもの凄い点数なんですけど、これは一手30秒の早指しですからね。30秒だと、だいたい人間の方が2割勝てればいい方だと思いますね。
山崎 将棋倶楽部24だと、2割も勝ててない感じだなんて……。
米長 そうですね。確かに凄いものができたのですが、問題はどのくらいの規模(1秒間に読む手数)かによります。たとえばお見合をすることになったとして、5人くらいこう女性の写真を紹介されます。この中からお見合い相手を選ぶことになる。読むわけですよ、この人と結婚したら、お父さんがこういうお父さんで、金持ちで自分は一生金に困らないな、とかね。この人はすごく美人だけど性格が合わないな、とか。5人並べるといろいろと大きな差がありますが、どんどん絞っていくとだんだん差は縮まってきますよね。そうやって読んでいって、最終的に読み切れるかということなんです。でも男女の仲なんて読み切れないんですよ。その読み切れないものをコンピューターの方は、読むよりしょうがない。時間があるかぎり最前を求める。人間の方は、後で後悔するということもあるでしょうけど、ある程度で決断してしまいます。
山崎 私も人生の数手先が読めるように将棋を始めたんですが、なかなかそういうわけにはいかないですね。
米長 誰も読めないんですよ。ですから読んでもきりがないとか、読めない局面にもってきたときはプロ(人間)かなと思ってます。読みやすい局面と読みづらい局面があるんですよ、将棋には。

電王戦直前インタビュー

■奇策はうまくいかなかった……

山崎 少しお話が変わるんですが、米長先生は現在、北陸先端科学技術大学院大学の客員教授でいらっしゃいますが、それは勝負脳や人工知能の分野で将棋を生かそうということですか?
米長 そうですね。たとえば一局の将棋で、並べたときを互角としてね、少し優勢になったとか、逆転したとか、それを僕なりに点数で表わすのです。コンピューターはそういった優劣を点数で表わしますから。そのとき、コンピュータの出した点数と僕の出した点数がどのくらい合致するかどうかを調べています。
 今の局面がたとえば60対40で優勢だとします。数手読んでみて55対45のような局面になるようだと思ったら、そこで打ち切る。その手は悪い手だから。最善の手ならだんだん差が広がっていくはずなんですよ。それが差が縮まってきたということは、どこかに悪い手があるんですよ。だからその先を読んでもしょうがないんです。
山崎 その授業でいい対策を教わったそうですが。
米長 それは、プロどうしの対局だと絶対指してはいけない手を指すことなんです。去年の12月21日に将棋倶楽部24で事前手合わせをしたときに指した、△6二玉がそれです。コンピューターには、プロの実戦がたくさん入力されているので、前例のない手を指せば入っているデータがまったく通用しない。それでコンピューターが、どのくらい惑うのか、コンピューターがどのくらい頭がいいのか分かるのですが。残念ながら結果は85手までで負けてしまいましたが。
山崎 本番でも奇策が出ると?
米長 「お前それでも名人になったことがあるのか」ということになりますから、指せない手がありますね。ただ、今回のプレ対戦でふだん指さない手を指すとかえって僕が難しくなるということも分かりましたので、本番ではふだんどおりで行きます。

電王戦直前インタビュー

■向かいに座る人を発表!!

山崎 皆さん気になっているのが、当日、誰が向かいの席に座るかということなんですが。
米長 クイズにもなっていましたが、座るには条件が4つあるんです。まず、将棋が強いこと、プロ棋士ということです。それから、真剣にやってくれる人。真剣にやるっていうのは、単にコンピューターの手を指すだけの人ではなく、対局しているときと同様に真剣に考えてくれるということです。それと、服装とかが目障りではないこと。最後のひとつが僕を尊敬してくれている人。この4つの条件を満たす人は、恐らく日本中に3人くらいしかいないでしょう。
山崎 そうなんですか。
米長 そう。その中から今回は、中村太地五段にお願いしました。ちなみに立会人は谷川浩司九段にお願いしています。
山崎 米長先生はツイッターのフォロワーがたくさんいらっしゃいますよね。
米長 ツイッターというのは、川柳族って感じですかね。息抜きになるんです。電車中などで詰め将棋などを考えてますと難しいなぁって、そういうときにつぶやいたりしています。
山崎 インターネットを見てると、女性の将棋ファンが増えたという印象があります。
米長 僕のツイッターのフォロワーは8割が女性です。
山崎 そうなんですか?
米長 将棋の好きな、いわゆる将棋ファンが10%ぐらい、関係者が10%未満、将棋を知らない女性が80%ぐらいです。
山崎 それでは最後に、そんな方々に向けて電王戦に向けての意気込みをお願いします。
米長 だいたい、いけるだろうと思ってます。まぁ、後輩にあとを託すと言うことで、まずトップバッターとしてがんばりたいです。すでに来年の1月に二回戦をやることが決まってます。5回勝負の予定です。
山崎 人間はどなたか決まっているのでしょうか?
米長 先日発表しましたが、船江恒平四段(第1回加古川青流戦優勝)です。コンピューターは、今年の5月に開かれるコンピューター将棋世界選手権の結果を見て代表を決めます。僕は、今後会長で監督の立場になるので、監督はバッター順を決めていくわけです。楽しみにしてください。


 

電王戦直前インタビュー

ボンクラーズ開発者
伊藤英紀
去年5月に開催された第21回世界コンピュータ将棋選手権の優勝ソフト開発者。自作パソコン3台を使って大会に参加。富士通研究所の研究員でもある。

■クラスタ並列にしたことが強さの秘密

山崎 去年のコンピューター将棋選手権では、あれよあれよといううちに勝っていきましたが?
伊藤 そうですね。オープンソースの『ボナンザ(Bonanza)』というものがあって、誰でもソースを見られるのですが、僕はそのソースをみっちり読み込んで研究しました。ボナンザは、ほかの将棋ソフトでも使っていたり研究していたりするので、ある意味ほかのソフトと似てはいるのですが、違う点と言えば入玉対策してるとか、もうちょっと高速化してるとか色々あるんですけど、一番大きいのはクラスタ並列にしていることなんです。ですから『ボンクラーズ』という名前はボナンザとクラスタからきています。
山崎 変な話、ボンクラーズという名前でクレームとかはなかったのですか(笑)?
伊藤 5月の時点では、米長先生から「プロとやるときはこの名前を変えてくれないと」って言われたのですが(笑)。でも9月頃に電王戦のお話が来たときに、「名前を変えましょうか」とお話ししたら、「いや、もうこれでやって」とおっしゃっていただきました。
山崎 2010年くらいの伊藤さんのブログ拝見すると、Core i7-860の自作PCだけで、開発なさってたそうですが?
伊藤 最初はそうですね。
山崎 CPUが1個のPCだけで?
伊藤 はい、Core i7-860は4コアなんで。
山崎 私も2009年に組んだ自作PCのCPUがそれだったんです。このマシンでできるんだとビックリしました。
伊藤 できますよ。4つあるコアから、実際にはどのコアからも搭載しているメモリーがすべて見えてしまうのですが、それぞれ見せないようにして別々のメモリーを使っているようにし、クラスタ並列っぽいことができるわけです。
山崎 どの程度強いのができるのでしょう?
伊藤 パソコン4台よりは弱いです。そもそも並列処理にはクラスタ並列とスレッド並列というのがあります。スレッド並列と言うのはCore i7で4コアとか6コアとか複数のコアがあるのですが、そのコアと言うのがCPUの処理する単位で、4コアなら4つの作業が独立してできるものです。1個のCPUの中で。この4つを協調させるのが、スレッド並列と言います。これは昔からやられていた手法です。
 コンピューター将棋は、その前にコンピューターチェスというものがあって、もう40年くらい前からやっているのですが、そのコンピューターチェスですでにスレッド並列の道がある程度確立されていたのです。スレッド並列は、同じメモリーを共有して協調処理するのに対し、クラスタ並列は、独立した複数のPCを使うので、メモリーは共有せず、ネットワークで情報をやりとりして、うまく協調して動作させています。大まかに言えばメモリーを共有するか否かがスレッド並列とクラスタ並列の違いなのです。

電王戦直前インタビュー

■強くなるために日夜努力して修正

山崎 開発にあたって、ここだけは譲れないことはありますか?
伊藤 僕はなんていうか、2つあると思うんですけど、ひとつは、将棋は強くするのがおもしろいというほうなんですね。その将棋のプログラムを強くするために必要なことはできるだけ何でもやる。人によっては、評価関数が大切だからそれをやるという人もいれば、ごちゃごちゃ定跡を入れたりしないで、ひとつの理論で全部うまく行くようなのが好きという人もいるんですね。
山崎 勝敗を優先したいと?
伊藤 僕はそう。強くなると思ってプラスになるんだったら何でもやるというスタンス。もうひとつは、今言ったこととはちょっと矛盾するのですが、僕自身に得意な分野と不得意な分野があるんです。たとえば保木氏がボナンザで機械学習というのを使って評価関数をつくったのですが、そういうのは僕は正直苦手なんですね。僕はもともとコンピューター専門でプログラミングとか並列とかというのは得意なんですけど、機械学習とか統計とかってあんまり得意じゃない。だから不得意な分野は人の真似でうまく使わせていただきましょうと。自分が得意な分野ではオリジナリティーを付け加えて強くしていこうと。そういうふうに考えています。
山崎 特に苦労された点というのは、そういうところなのですか?
伊藤 いや、もう苦労だらけですよ。とにかく、こうやれば強くなるんじゃないかと思ってプログラムを変える。でもやってみると強くならないということがあまりにも多い。100個やってみて、強くなるのは5個あるかないか。それが大変で、めげる人も多いですね。
山崎 先程、強化している点として入玉の対策をしているとおっしゃってましたが、だいぶ得意になっているということですか?
伊藤 いいえ。ボナンザの入玉って、こういっちゃなんですけど、結構ひどいんですよ。ボナンザは本当に入玉のことをまったく評価をしていないのです。多分ボナンザをそのまま将棋倶楽部24に入れたら、普通だと強いんですけど、人間とやると入玉を目指してきますよね。目指してくると1割とか2割とか入玉されて負けてしまうのです。そのあたりは多少対策しました。ただ対策はしたけれど、そんなに完全な対策ではないので、やっぱりまだときどき入玉されるし、入玉されたら、なぜか“と金”をつくってばっかりなど、変な手を指してしまいます。
山崎 それはボンクラーズもですか?
伊藤 ボンクラーズもですね。
山崎 米長先生は入玉を目指すことになるのでしょうか?
伊藤 目指すっていうのは有力な手段だと思いますよ。
山崎 あと角換わりでしばらく負けていた感じがするのですが?
伊藤 富岡流という角換わりのいろいろな変化があるのですが、かなり激しい展開で、60数手定跡通り進んで、進んだときにはもう勝ち負けが決まっている。それにハマって、こっちは実際にあったプロの棋譜をそのまま定跡として取捨選択せず与えているので、60数手まで定跡どおり進んで、もう負けが決まっている局面でも、それは定跡だといって選んでしまうのです。現在は負ける変化に飛びこまないように、少しずつ対策してます。まだ完全ではないですが。
山崎 逆にゴキゲン中飛車には強いと遠山先生がおっしゃってましたが。
伊藤 それはおそらく、ゴキゲン中飛車のような激しいねじれあいの将棋になると、コンピューターが有利だということだと思います。
山崎 そうなんですか。私自身はボンクラーズにボコボコにされたので、何が良かったとかちょっと言いようがない状態なんですが(笑)。前回の『あから2010』と清水市代女流六段が対決したときは、清水先生の棋譜をあからが研究してたというふうに伺っているんですが。
伊藤 僕は、あからに実はあまり関わっていないのですが、そういうふうに伺ってます。
山崎 ということは、今回は引退して8年間も公式戦がない(データがない)ので、そういうのはちょっと不利になるものですか?
伊藤 あからみたいに研究しようとすると、多分そうだと思いますが、僕はあまり序盤にそういうことをあまりやりたくないので、あまり関係ないかもしれないですね。でも、米長先生は矢倉が得意だとか、あと鷺宮定跡とか、対振り飛車が得意だとかあり、一方では、おそらく最新定跡はご存じないでしょうし、ゴキゲン中飛車なんてあまり指されていないと思います。そういう意味で序盤の定跡としてなにか考える余地はあるとは思いますが、やることがいっぱいありすぎて、定跡のところまで考えてる暇がないというのが率直なところです。

電王戦直前インタビュー

■今回の対局はブレードサーバーで臨みます

山崎 今回の対局では、ボンクラーズを将棋会館に設置するとか。
伊藤 いちばん最初に僕の方に話がきたのが去年の9月だったのですが、そのとき米長先生が、前回の『あから』が東大にあるコンピューター何百台で戦ったのは、やっぱり気持ち悪いから見える範囲にコンピューターがあるといいようなことをおっしゃってて。その後、現地になくてもよいことにはなったのですが、設置する方向で動いていたため、将棋会館の対局室とは別の部屋に置くことになりました。
山崎 そうなんですか。大会のときはパソコン3台でしたが今回は?
伊藤 今回は普通のパソコン3台ではなくて、富士通のブレードサーバーを利用します。大きさとしては小さい冷蔵庫くらいで、最大8台までサーバーをつなげられます。ただ、設置場所の電力が2800Wまでと言われてますので、それに合わせた構成になります。
山崎 そうなると、今回の場合1秒間に何手読むことになるのですか?
伊藤 クイズにもなっていましたが、結局6台のサーバーをつなげることにして、1800万手ぐらいということになりました。
山崎 持ち時間が3時間というのは、人間の方が有利になることになりますか?
伊藤 それはいろんな説があるのですが、30秒だと確かに人間だとミスが多くなるため、時間が延びればそのミスが少なくなるから、そういう意味では人間にちょっと有利になるとは思います。ただ、3時間の持ち時間があると、終盤に入るくらいまでは、一手5分くらい考える計算になります。30秒考えるのと5分考えるのとでは、10倍違うじゃないですか? コンピューターは10倍の時間があると、きっちり10倍たくさん読むことになります。たくさん読むと強くなるので。一手深く読むのには、大体3倍ぐらい必要になるので、10倍ということは二手深く読むことになります。二手深く読むとかなり強くなります。レーティングでいうと多分400ぐらい。一方、人間はというと、よく名人戦とかで、2時間の大長考の末、指した手があまりよくなかったということが、結構あるわけじゃないですか? あれは人間が、持ち時間30秒と5分じゃ違うかもしれませんが、10分が2時間になったところで、それだけ多く読むかというと、おそらく読んでいないのです。どっちがいいか迷ってるとか、あるいは同じところをぐるぐるまわってる。そういうのがあるんで、人間の方は持ち時間10倍になったら、10倍深く読んでるかっていうと、そうではないのです。そういう意味では、持ち時間が延びるのはコンピューターに有利という面もあって、どう働くのか、ちょっとやってみないとわからないですね。
山崎 自信のほどはいかがでしょうか?
伊藤 いやー、将棋倶楽部24での対戦結果を見ていても、勝率的にはかなりいい線いってはいるとは思うのですが、ときどきむちゃくちゃな手を指したりするので。プロレベルの人ならたぶん勝率8割ぐらいだと思います。8割ということは、かなり良さそうではありますけど、2割は取りこぼしたわけです。一発勝負だとその2割がでるかもしれないので、どうなるか分からないレベルですね。
山崎 楽しみにしている方、たくさんいらっしゃると思うので読者の方に一言お願いします。
伊藤 ふつうの将棋ファンだと、ほぼ100パーセント人間持ちなんですよね。週アスの読者だとどうなのかわからないのですが、僕としてはやっぱりずっとコンピューター将棋をやってきた側なので、読者の皆様にコンピューターが人間に勝つところをお見せできるよう頑張りたいです。

電王戦直前インタビュー

 今回の対局は、ニコニコ生放送にて1月14日10時より終局まで中継される。解説は、渡辺明竜王と矢内理絵子女流四段。この熱戦を見逃すな!

■今回の聞き手

電王戦直前インタビュー

活動写真弁士
山崎バニラ
将棋が好きでNHK-BSの将棋番組や将棋雑誌にも出演。山崎バニラの活弁大絵巻 ~ニセモノvsホンモノ~ 日時:2012年2月24日(金)開演19:00、主催・会場:全労済ホール/スペース・ゼロにて。チケット発売中!

■関連サイト
日本将棋連盟
将棋倶楽部24
『米長邦雄永世棋聖 vs ボンクラーズ』 将棋電王戦公式サイト
1月14日の生中継サイト


※12日16:08 一部記事訂正いたしました。

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう