2015年01月08日12時30分

Android TVからFirefoxOSまで テレビに“モダンOS時代”がきた理由 by 西田宗千佳:CES2015

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 今回のCESで、テレビの話題は2つに集約できる。AndroidやFirefox OSなどの“モダンOS”の採用拡大と、量子ドット技術やHDRなどの“色表現拡張”の導入だ。これらはある意味、テレビに求められる要素の両輪であり、同時に実現することで、テレビの価値は大きく変わる。

スマートテレビの現状
↑Android TVを採用したシャープの『AQUOS UH/UBシリーズ』。

後者は、要は画質向上であり、テレビにとって本道といえる変化だ。デジタル化もハイビジョン導入も4Kも、もっといえば1970年代のカラー化だって、この路線である。しかし、モダンOS導入は位置付けがちょっと異なる。狙いが複数あるからだ。

●笛吹けど踊らなかった“スマートテレビ”時代

 2005年くらいから、テレビの世界には画質以外の大きな波がやってきていた。映像が放送という“電波”でやってくるものから、“ネットも供給源である”という時代がはっきりしてきたのだ。

 そもそもアメリカやインドではケーブルテレビが強く、特にアメリカは有料チャンネルが多かった。“線で映像を送っていた”わけだ。ただし、ケーブルテレビはあくまで放送である。しかし、インターネットの世界でビジネスをする、俗に“Over the Top(OTT)”と呼ばれる事業者のサービスが増えて、PCでの視聴が増えた結果、それらをテレビで提供しよう……という発想が出てきた。OTTというとわかりにくが、要はYouTubeなどのことである。特定の回線に依存しないネット上のサービス、という意味だと考えていただいてかまわない。ブロードバンドが定着し映像もそれなりのクオリティーで流せるようになってきたので、それをテレビでも活用する、という発想は自然なものといえる。日本でも、いわゆるVODを実現するために2007年9月より“アクトビラ”がOTT型の映像配信をスタートしている。

 同時に、2010年頃から動き始めたのが“スマートテレビ”という潮流だ。スマホが普及しはじめたことから、テレビ上で使える機能や情報を“アプリ”的な形で増やし、テレビの価値を拡大しよう……というものだ。OTT的な映像配信はスマートテレビの“アプリ”、“機能”として位置付けられていった。主にサムスンやLGエレクトロニクスといった韓国系メーカーが推していた方向性だ。

「スマホっぽくなるなら、今年のモダンOS搭載って、要は“スマートテレビ”なの?」

 そう考えるだろう。ところが現在、“スマートテレビ”の名を使うテレビメーカーはほとんどない。使っているのは、周回遅れのところ、と思ってもらってかまわない。

 なぜスマートテレビという見方がすたれ、一見よく似たスマホ由来のモダンOS搭載が広がるのか? そこにあるのが“テレビでのニーズ”の問題だ。

 実は、YouTubeをテレビで見れるようになっても、ゲームを含むアプリがテレビで使えるようになっても、テレビのネット接続率は上がらなかった。日本の場合、今でもテレビのネット接続率は25%前後しかない(2014年4月、市場調査会社シード・プランニング調べ)。この値はスマートテレビのかけ声が生まれた2011年前後からほとんど変化していない。そうした“スマホやPCでできること”では、テレビをネットにつないで付加価値を高めるインセンティブにはならなかったということなのだ。

●放送とネットの境目が“いよいよなくなる”

 しかし現在、アメリカのテレビのネット接続率は50%を大きく越える。メーカーによっては70%近くに達する場合もあったほどだ。

 アメリカでテレビをネットにつなぐきっかけになったのは、月額固定制の映像配信の普及だ。中でも最大手のNetflixの影響は大きかった。なにしろ、月額7.99ドルでメジャーな映画・ドラマのほとんどが“見放題”だったからだ。アメリカではDVDレンタルを数年で完全に駆逐し、今やケーブルテレビと並ぶ“テレビ上のエンターテインメント”の主役に踊り出た。OTTではあるが、2012年頃から独自のドラマを出資して製作、2013年にはNetflix自主製作のドラマ『House of Cards(邦題:ハウス・オブ・カード 野望の階段)』が、ドラマのアカデミー賞といわれるエミー賞を、他のテレビドラマを抑えて、ネットオリジナルドラマとして初受賞したくらいだ。

 こうなると、テレビは“放送もネットも同じように見る存在”になっていくのが必然だ。

 しかし、である。そうした使い方にはちょっと問題もあった。テレビのアーキテクチャの問題から、いまいち使い勝手が悪かったのだ。

 テレビは画質と安定性を重視して開発されてきたため、PCやスマホとは違う構造になっている。ネット系の機能を搭載してはいたものの、放送受信部とネット部が、言葉は悪いが“糊で貼り付けた”ような構造になっていたからだ。放送からネットに切り換えるのに時間がかかったり、そもそもネット機能の動作が遅かったりした。スマートテレビが普及しなかったのも、今の日本でテレビのネット接続率が上がってこないのも、IT系機能が“テレビにとってはオマケ”であったからだ。

 しかし、放送と通信が融合すると、その境目はどんどん曖昧になる。テレビをつけたとき、放送を見たいのかネット配信を見たいのかは自由に選べるべきだし、番組表などで見たい番組を見つける際には、ネット配信とテレビがまとめて検索できるべきだ。映像の上にネットから取得した付加情報やSNSの書込を重ねて表示し、いままでにない楽しみ方をしたい……という発想もある。

 ソニーのテレビ事業子会社、ソニービジュアルプロダクツ(ソニーVP)の今村昌志社長は、この現象を“テレビから枠がなくなる”と例える。放送という“枠”を使うことが主軸だったテレビから枠が取れ、様々なコンテンツを並列に使う世界へと変わっていく……といの主張だ。

 そうしたことはスマートテレビでも試みられてきたが、操作性や高度化の壁があった。開発効率を高めるには、スマホでの知見を生かすべき、という流れになってきたのだ。テレビはPCではないので、OSを変えることは設計や開発手法を大きく変えることでもある。開発済みのノウハウの継承や設計変更のコストは問題であるが、あらゆるメディアが並列になる時代を見据えれば、テレビの中身はいままで通りではいられない。特に、コンテンツやサービス、アプリの開発については、スマホ向けのノウハウやリソースが活かせるかどうかで、天と地ほどの差が生まれる。

 こうした流れは、まずはストリーミング系が普及しているアメリカで必須のもの。だからこそ、モダンOS採用はアメリカでは急務だった。

 日本はテレビ局が番組製作と配信の両方で力を持っているため、“放送以外”に冷淡だった、という事情がある。そのため“ネット配信では日本は蚊帳の外”と思っている人も多いだろう。しかし、テレビ視聴率の落ち込みやユーザーニーズの変化もあり、ネット配信を単純に敵視してはいられなくなりつつある。1月13日から、フジテレビも無料の見逃しサービス『7+』をスタートするし、民放全体での統一的な“見逃しサービス”開始の動きもある。海外勢・日本勢ともに、2015年こそ、アメリカ的な定額制や広告モデルによるネット配信ビジネスが、日本でも拡大する、と見る放送・映像業界関係者は多い。

モダンOS 時代
↑フジテレビの新サービス『+7』。 Fuji Television Network, inc. All rights reserved.

●スマホのように“サクサク”、操作性の革命をテレビにも

 同時に、テレビにとって問題だったのが“操作性”だ。メニュー遷移やネット機能の動作が遅く、快適ではなかった。スマホやゲーム機が“サクサク動く”時代に、テレビだけが遅れていた、とも言える。動作がなめらかで素早くなれば、テレビが“快適さ”で売れるようになる可能性も高い。

 ソニーVPの今村社長は、Android TV採用の狙いのひとつを“操作性”という。

「テレビとはなんなのか、ということです。大きなタブレットはテレビではない。簡単にコンテンツを楽しむもの。Googleも“とにかくテレビを簡単にしたい”との思いをもっていたので、共同で2年に渡って開発を進めてきました」と説明する。

 LGエレクトロニクスも“Make TV Simple Again”というキーワードで、WebOS搭載テレビの拡販を行なっている。実はLGは、スマートテレビでも先陣を切った企業だ。複雑化しただけで利用が進まなかったスマートテレビを本当の意味でリブートするのが、モダンOS搭載のテレビである、といえる。

モダンOS 時代
↑CES2015のLGプレスカンファレンスの様子。

 もうひとつ、操作性の面で大きいのが“スマホやタブレット”との連携だ。シャープの水嶋繁光・技術担当副社長は「データを効率的に扱い、情報を見るならば、広く普及しているプラットフォームとの連携が重要になる」と説明する。モダンOS対応テレビでは、スマホとの連携が強化されている。スマホ内の写真や映像をワンタッチでテレビに表示する機能は、どのメーカーの製品もウリにするポイント。複雑さを排除するには、テレビ側が“スマホに寄っていく”ことが重要だ。

 他方、Androidを採用しないメーカーは、白物家電やウェアラブル機器などを開発する際、Android以外のOSを視野に置いている。LGならばWebOSを活用するし、サムスンはTizenを使う。Androidも“5.0”(コードネーム Lolipop)から、スマホ以外の多用な機器へ展開する方向性を打ち出しているが、洗濯機やディスプレーのない活動量計までカバーしているか、というと少々見通しが効かないところがある。それらと連携する世界をつくる場合、同じOSプラットフォームであることが望ましい、という話になる。

 Androidでなく独自のOSを使う理由としては「Androidを使う限り、Googleの思惑に振り回される可能性があり、自由な開発ができないのでは……」という思惑もある。モダンOS搭載テレビの開発は、おおむね2年近く前からスタートしている。ソニーなどはGoogleとかなり密接に連携して“5.0”をフォーカスに開発を進めていたが、他社は手を出しやすいOSで進めてきた、という経緯があるようだ。
 
 とはいうものの、Android TVにしても、実は、スマホ向けやスマートウォッチ向けのAndroidに比べ、メーカー側のカスタマイズの余地が大きく、テレビを開発する上での“画質要素”を中心としたメーカー間の差別化が行いやすくなっているという。Android TVの場合、スマホやスマートウォッチであるAndroid Wearとの連携がOS側で確実に用意されるぶん、連携機能の開発は他のOSより容易ではある。Android TVを使うメーカーは、特にそこを高く評価している。

 OS開発というと、他社にOSを提供してプラットフォームビジネスを……というイメージになる。だが、Tizenを使うサムスンにしても、WebOSを使うLGにしても、Firefox OSを使うパナソニックにしても、強く“同じOSをテレビに使う仲間”を増やそうとしているわけではないようだ。自分が自由に使えるOSで開発することが差別化ポイントであり、いわゆる“テレビ向けOS戦争”とは異なる。

 どのOSを使うにしろ、ユーザーが触れる部分である“表示のなめらかさ”や“操作性”に、まず変化が生まれる点は共通である。テレビ業界の伝統として、これまで、テレビは“操作性”を軸に大ヒットしたことがない、と言われている。モダンOS採用に冷ややかな視線を送る人々は、そうした点を指摘しがちだ。

 しかし、スマホがヒットしたのは“フィーチャーフォンより、高度なことや自由なことを行なう際の操作性が劇的に良い”点にある。スマホが“操作性の改革”で売れたならば、テレビがそうなる可能性も、否定すべきものではない、と思うのだ。

(2015年1月21日15:00訂正:記事初出時、誤字脱字や誤解を招く表現がありました。お詫びして訂正いたします。)

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