【前編】興収20億円突破記念! Netflix・ツインエンジンのキーマンに舞台裏を聞く
『超かぐや姫!』が「長尺&冒頭20分間日常シーン」でも大ヒットした秘密は巧みな宣伝手法にあり
2026年05月02日 15時00分更新
「配信オンリーでヒットさせる」という課題に立ち向かう
―― 一方、Netflix側では『超かぐや姫!』を盛り上げるためにどのような方針を立てましたか?
N 山野 今回コロリドさんと『超かぐや姫!』をご一緒するにあたって、一番最初に「配信限定でヒットを作ってみませんか」とお話させていただきました。『雨を告げる漂流団地』と『好きでも嫌いなあまのじゃく』では配信と劇場公開が同時でしたけど、今回は配信単独でのヒットの作り方や盛り上げ方に挑戦した形です。
―― 配信だけでヒットを狙おうとする意図は?
N 山野 僕ももちろん劇場は大好きですが、配信ではお家のTVだけではなく、スマホの画面で見る人もいたり、映像がよりお客様の身近なところで流れますよね。
そのなかで、描くストーリーやキャラクターが最適化されているものがあるはずだ、と。Netflixとしては、配信ならではの魅力を追求したかったのです。
日本発の実写作品であれば『シティーハンター』や『今際の国のアリス』や『地面師たち』、アニメだと『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』などが世界で跳ねているので、『超かぐや姫!』も「まだ正解はない段階だけど、一度チャレンジをさせてほしい」とお話して深くご理解いただいたという経緯があります。
T 長坂 そうしたNetflixさんからのご提案を受ける形で宣伝を進めました。僕は宣伝担当として「配信と劇場の同時公開」を過去に経験していますが、プロモーションする立場からすると、劇場と配信では誘導策が異なるため同時進行は難しく、宣伝の一貫性が薄まってしまうこともあり最適解がまだ見えていなかったとは思います。
しかし今回は「劇場公開はない前提でいかに配信を盛り上げるか?」という目標を定めたことでNetflixさんとのプロモーション連携を今まで以上に強められたと思います。
「5分で切られる」配信の世界で140分視聴してもらうには
―― 「配信オンリーでヒットさせる」という目標を達成するためにどのような障害がありましたか? たとえば配信に向いた内容に変えたりなど。
T 長坂 それが、むしろ配信に向かないくらい尺が長くなってしまい。
N 山野 最初に聞いたときは私も思わず「140分ですか!?」と(笑) 極端な話をすると、映画館は一度真っ暗になったらエンドクレジットまで見る気持ちで入場させると思いますが、配信は始まってから5分で映像を止められてしまう可能性があります。
配信はいつでも好きに止められて、視聴者の都合で再開できることが大きなメリットですが、冒頭で「自分には合わない」と判断されてしまったら……。最後まで視聴してもらうにはかなりのハードルがあると思いました。140分は劇場用の映画ですら基本的には避ける長さですから、最初は怖かったです。
T 長坂 そうですね、お客様にとって、原作がないオリジナル作品は自分好みの面白さかどうかもわかりませんし……。
N 山野 そして、始まってから、VR空間の〈ツクヨミ〉でヤチヨが歌う華やかなシーンにたどり着くまで約20分掛かります。配信がメインの作品なら、いきなりライブシーンを見せてしまい、そこから日常生活に戻すという構成が王道だと思います。
VR空間でのライブシーンが印象的なPVとは打って変わって、本編では冒頭から20分間「かぐやと彩葉の日常」が丁寧に描写される
©コロリド・ツインエンジンパートナーズ/Netflix映画『超かぐや姫!』 Netflixにて独占配信中
―― 配信作品の場合は、最初にヒキを作るのが王道なんですね。
N 山野 実は今だから言えることですが、『超かぐや姫!』の構想――ボカロ&かぐや姫のアップデート版――をうかがった段階では、「これ混ざるのかな、詰め込み過ぎでは?」と思いましたし、山下監督は「ハッピーエンドに持っていきます!」とおっしゃるのですが、「このまま進めて大丈夫かな?」という戸惑いも正直、若干ありました。
「なるほど、わかりました。じゃあ、それで行きましょう!」なんて、物分かり良くは進んでいません。
―― 各要素がきれいに混ざるか心配で、しかもあえて冒頭にヒキを作らない……よくGOサインを出されましたね。
N 山野 僕が「おっ、なるほど!」と思い始めたのは、山下監督が「ライブよりも先に、キャラクターをしっかり描きたい」とかなり明確におっしゃったときです。
冒頭の「かぐやと彩葉の日常」は、お客様が登場人物にグッと感情移入できる作りになっています。一人暮らしでがんばっている彩葉のもとに、ゲーミング電柱からかぐやが現われて、迷惑もかけるけど彩葉の日常がキリキリしたものから楽しいものに変わっていきます。
そこがキモで、2人での暮らしや関係をしっかり描くことで、観客は「この2人と一緒に居たいし、これからを見届けたい」と思うわけです。そして20分経ったところで〈ツクヨミ〉空間でのライブに連れて行く。
そこまで観たら140分、最後まで観ていただけるでしょう。これは山下監督の素晴らしい構成力、かつ絶妙なバランスあってのものだと思います。
T 長坂 構成としては素晴らしいのですが、やはり宣伝目線ではライブシーンまで20分掛かるのが怖いなという気持ちはありました。ですから、「このシーンが本編で登場するのを楽しみにしてください」という事前宣伝をしっかりやることで、お客様に興味を持ってもらえるように動きました。
この事前宣伝によって、本編配信の1月22日までの間にみなさんの期待値を高められたので本当に良かったです。
N 山野 あの一連の宣伝動画は、作品の魅力を事前に知ってもらうために非常に重要な役割を果たしました。ツインエンジンさんと山下監督はMVを先行でアップしましたが、MVの発表順や歌詞を(本編鑑賞後に)掘り下げると、「だからこのカットだったのか!」と理解できるぐらい緻密に計算されていました。
何より、MVのライブシーンを観てもらうことで、お客様に「このシーンが来るまでは(止めずに)観よう」と思わせることができます。その意識づけも、相当戦略的でした。
僕も最初は戸惑いましたが、知るほどに設計の面白さがわかりました。1回本編を観て、2回目でキャラクターの見え方が変わり、本編を観た後でまた別の視点からMVを楽しめる。この設計の素晴らしさは、正直、走りながらようやく理解が追いついてきた感じですね。
T 長坂 宣伝によって期待値を高めることができた結果、満足度も高まったという奇跡的なマッチがあったと思います。140分「も」観られてよかったというコメントも多かったですね。
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