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【第3回】『PLUTO』制作中のスタジオM2・丸山正雄社長、野口征恒氏に聞く

融合に失敗すると「絵が溶ける」!? ベテラン作監が語る令和のアニメ制作事情

3DCGのフルアニメーションを「アニメ」に変える手法

野口 確かにフル3DCGであれば何かが混じるということはなくなります。ただ、2Dですとそこに作画素材が混じり、微妙なずれが起きます。それを確認すべき人が確認・修正していかないと、最後までそのずれが残ってしまい、仕上げから上がったところで「ダメだ」となり、直せる人と時間が揃えば直せるけれど……という状況になるんです。

―― カット単位で、たとえば手のアップなど身体の一部分が大写しになるシーンはすべて3DCGで、という例も増えています。そうすることで作画とCGが混ざらない、という分け方がさらに進むことはありますか?

野口 最初からそういったコンセプトが決まっていれば分けてやっていくことになると思います。あとやはり、メカなどは3DCGで描写することが多くなっていますが、昔の手描きの良さもありますので、あえて3DCGで一回起こし、それを作画でトレースし直すことで手描きの良さを再現しようとしたりもしていますね。

多くの工程を経るうちに生じるズレの修正は、デジタルを柔軟に扱える人材が必須。そしてなにより時間との闘いになるという

―― トレースまで行かなくても、汚しを3DCGの上に乗せる処理を実施した「ウェザリング」と呼ばれる手法もありますね。

野口 3DCGはフルアニメーション=24コマをすべて違う絵にできるので、妙な滑らかさが出てしまい、それに違和感を感じてしまうことがあります。3コマ撮り(24コマのうち8枚を動く絵にしてリズム感を出す手法)、2コマ撮りに慣れている私たちは、フルアニメーションの滑らかさって違和感を感じてしまうんです。

 そのため、あえて中のコマを抜いてメリハリをつけたりします。きちんとタイミングの取れるアニメーターに任せたうえで、コマを抜いて、さらに手でなぞったりといった手法もあります。

―― 『PLUTO』でもそういうシーンはありますか?

野口 どこまで言って良いかはわかりませんが(笑)、あります。たとえばノース2号がピアノを演奏するシーンなどですね。演奏シーンが止め(静止画)なのは良くないし、適当な動きだと感情移入できません。

 実写をトレースすれば「そのもの」になりますが、今度はアニメの気持ちよさが生まれません。だからコマを抜いたり、アニメならではのデフォルメを入れたりするわけです。今回、演奏シーンは私が担当しましたが、すごく時間が掛かりましたね。

融合をいかに図るか?

―― 丸山さんは、記事やここまでの野口さんとのやりとりを聞かれていかがですか?

丸山 ぼくは鉛筆と紙でやっていたことが、デジタルで上手くいくなら全然オッケーなんですよ。ただ「デジタルでしかできないこと」にはあんまり興味がないんです。

 ゲームの映像や、例外的にフルデジタルの映画で面白いものが絶対ないとは限りません。けれども紙と鉛筆で育った人間としては、あのデジタルの感触は違うなと感じてしまいます。ただ、若い世代の人たちが面白いという感覚を持つ、というのもわかります。ぼく自身はそこに行けないのでかなり困っているというのが本音ですね。

CGをどこまで手描きの感触に近づけることができるか……その調整に苦労しているという

 アナログとデジタルの融合がどれだけできるか、というのが課題で、たとえば『PLUTO』でも竜巻を手描き作画で描いたらものすごく大変なことになります。そのため、やむを得ず3DCGを使って表現しているのだけれど、それが良いと私はあまり思っていないところがあります。これを手描きでやれたら良いなと思っているけれど、できないだけなんですよ。

 現在の状況ではこれが精一杯。なので、それを手描き作画の絵に合わせたときに違和感がないよう、手描きに近いところまで調整はするけれども、果たしてそれが上手くいっているのかしら……という不安が拭えないんです。

 日本のアニメーションにおいては、手描きの良さがそのままデジタルに置き換わることは絶対にないと思っています。

―― 同感です。大事なのは「置き換わり」ではなくて「融合」ですよね。

丸山 そうです。融合しなくちゃいけないと思いつつ、その難しさにちょっと困っている、という感じかな……。ギリギリあんなものだろう、という感じで調整しているのだけれど、もっとデジタルの臭いが消えたら絶対良いのになあ、と。そうしたらデジタルを喜んで使うんだけれども。

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