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【第3回】『PLUTO』制作中のスタジオM2・丸山正雄社長、野口征恒氏に聞く

融合に失敗すると「絵が溶ける」!? ベテラン作監が語る令和のアニメ制作事情

作監が手を出せない場所でトラブルは起きる

―― 数年前、口パクが顔の外にズレたまま放送された作品があり、衝撃を受けたことを思い出します。映像となる直前の段階(撮影前)まで気がつきにくいということですね。そして納品まで時間がない段階で気づいても、そのまま進んでしまうことすらあると。

野口 そうですね。ほとんどの場合、動画でクリーンナップしたあとは、すぐに仕上げという流れでやっていることがほとんど(筆者注:この2つのプロセスは海外も含め外注することが多い)ですから、そこに私たち作画監督が介入することは難しいです。

―― 動画検査(動画工程前後の素材チェック)の過程でそこは潰せないのでしょうか?

野口 動仕の工程はデジタル化されていますので、動画の線も2値、つまりドットの線になったところに、色を塗っていくことになります。そこにはなかなか入り込めません。つまり、作画監督がチェックできません。

※先の図表を収録した「アニメシリーズ制作における制作進行のマニュアル」の38ページでは、「動仕(動画と仕上げを一緒に行う)は、動画検査の工程が入らないため、リテイク増加、クオリティ低下のリスクがあります」とされている。

―― そうすると作画監督が「アニメの絵」でクオリティーを確認できるのは、動仕上がりとなりますね。

「溶けた絵」数百枚を手作業でデジタル修正することも

野口 そうです。そこで初めて『あー、こんな絵になったか』とか『こんなにズレちゃったか』となります。

 私の場合は、TP(トレースペイント=デジタル環境での修正作業)で直接データを触れるので、そこで本来の絵に修正したりしています。つまり、デジタルツールが使える作画監督ならドットを弄って直せるわけです。

 そしてこの方法は「最終イメージに手を入れている」ので、修正は必ず画面に反映されます。「溶けてしまった」絵でもこの方法なら救えるんです。

―― よくスタジオの様子などで紹介される原画へのリテイクだけでなく、撮影に入る直前のギリギリのタイミングで直すということですね。

野口 はい。ただ、この時点では動画の中割も入っていますので、キーフレームだけでなく何十枚、下手すると何百枚に手を入れていかねばならなくなります。そんな作業を全カットに対して実施するわけにはいかないので、大事な、あるいは致命的なところを選んで作業していくことになります。

「溶けた絵」を修正するには、彩色済みの最終データをまるでドット絵に見えるほど拡大し、わずかなズレを1枚ずつ修正していく必要がある

―― 枚数もそうですし、すでに色もついているわけですからね。形だけではなく色が破綻してもいけない。

野口 そうです。余計な色を加えてもいけないし、抜き色(透明の指定)に変な色を塗ってしまうと、背景に載せたときにゴミとして表示されてしまいますから。

―― 作画監督の仕事のイメージというよりも、仕上げや動画検査の作業に近いですね。

野口 デジタル環境が触れる作画監督はそれも「やってしまっている」という状況です。私の場合は、セガサターンの頃からのゲーム業界出身なので、ドットを扱うのに慣れているというのは大きいと思います。テレビシリーズに関わっているときも、「これ、仕上げで崩れますよ」とかよく指摘をしていますね。

―― そのような方は多いのですか?

野口 多いと思います。酷い仕上がりを見ちゃうと、たまらず(笑) たとえデジタルに慣れていなくても、触りたくなる、直したくなるというのが絵描きの性(さが)ですから。

 いずれにしてもアナログ(紙ベースの成果物)とデジタル(PCベースの成果物)が混ざっていることが混乱を生んでいるとは思います。先ほどの、口パクの位置がずれてしまうような例も、演出意図を知らない仕上げの人は『そういうものかも』と思って塗ってしまうこともあると思います。

 あとは、どれくらいその仕事に愛着を持っているか、(発注元の)会社と密な関係を持って作業するかなどによって修正範囲も変わるでしょう。

―― アナログ作画とデジタル作画のミックスという状況に加えて、3DCGがそこでどう位置づけられるのかも模索が続いていますよね。先日、ゲームエンジン「Unity」を用いてアニメを作るイベントを開催したのですが、動画はもちろん、仕上げ・撮影まで一気通貫で作業できる環境も整いつつあります。仮にそのワークフローだけであれば、仰るような事故は起こらない、とも感じました。

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