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【後編】『機動戦士ガンダム 水星の魔女』プロデューサー岡本拓也氏インタビュー

『水星の魔女』を世に送り出すうえで考えたこととは?――岡本拓也P

2023年04月09日 16時00分更新

小説、オープニングテーマ、映像……幾重にも重なる展開と相乗効果

―― そして「祝福」のミュージックビデオはアニメ本編とは異なる、まるで絵本のようなタッチで、そのうえ小説や歌詞とリンクしている内容だったことに驚きました。YouTubeでも多く再生されていますね。

岡本 そうですね、たいへんありがたいです。

―― では、MVの映像はなぜ絵本のようなタッチになったのですか?

岡本 本編そのままのタッチで描くのではなく、ガンダムをまだ知らない人にも親しみやすいものにしたかったんです。

 絵柄のタッチに関しては、CALFさん(『水星の魔女』EDアニメーション制作など)からもアイデアをいただいて、アニメーション作家の久保雄太郎さんにお願いしました。

 久保さんの作品を拝見して感じていたのですが、久保さんの絵は優しいタッチの中にちょっと毒っぽい部分があります。そこがすごく良いなと思い、MVも、優しさと毒っぽさをうまく両立して届けられる映像にできればと思いました。

―― 確かにMVを拝見して、「毒っぽさ」、感じました。ちょっとコワさも感じるような……。

岡本 そうですね。絵本のような優しい雰囲気だけではなく、裏側に潜むものがある……それが感覚的にも伝わる映像になったと思います。映像のディレクションは依田さん(10GAUGE依田伸隆氏:『水星の魔女』OPディレクターなど)、映像制作はCALFさんにお願いしました。

なぜ第1話の前に「PROLOGUE」を発表したのか?

―― 明るさとダークさを表裏一体で見せると言えば、『水星の魔女』本編の前日譚である「PROLOGUE」でも顕著でしたね。『水星の魔女』第1話が明るい「学園もの」として始まったので、その振り幅というかギャップに驚きました。「PROLOGUE」を作られた理由をお聞かせ下さい。

岡本 『水星の魔女』は『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』(2015年)から久々の宇宙世紀以外のシリーズになります。7年ぶりのTVシリーズとなると、『鉄血のオルフェンズ』放送当時高校生ならもう社会人ですから。馴染みがない方もいらっしゃると思いますし、作品を広げていくうえで「はじめまして」の意味もありました。

 加えて、ガンダムファンのみなさんに向けて「新作をやります」というお披露目でもあります。

―― あの物語はどのように決まっていったのですか?

岡本 もともと本編の第1話を学園ものでスタートしようと思っていたので、その前に公開するお話で何を描くのかは悩みました。

 普通はこうした前日譚のような物語は、1期と2期の間のタイミングや、本編の物語が終わったあとなど、視聴者の方が作品の世界観やキャラクターを知った上で展開されることが多いのですが、本編の出せる情報も限られた中で前日譚を描くというのはあらゆる面で難しさを感じていました。

 しかし監督や大河内さんたちとの打ち合わせの中で、世界の構造や本編の起点となる物語はどうかというお話があり、「PROLOGUE」のアイデアが出てきました。本編よりも先に世界観をお見せできれば、本編に向けての広がりというものも作っていけるんじゃないか、という狙いもありました。

―― 「PROLOGUE」は、学園ものテイストな本編とのギャップが大きかったです。

岡本 テイストが違うのは、ギャップを狙ってというよりは、あくまでも世界観の広がりを見てもらおうという意図のもとだったのですが、最初は少し不安もありましたね。

 なぜなら、今回のガンダムは「若い方々にも幅広く観ていただこう」というミッションを課されています。だからこそ、少しライトなところから入っていく狙いがあったんですが、この「PROLOGUE」から観始めると「重い話だな」と判断されるかなと。

 ……けれど、それも面白いかなと。「PROLOGUE」が流れた後日、本編があの学園ものだったらすごいギャップがある。もし「PROLOGUE」を観ていただいた方が、よい意味で本編に驚いてくださるなら、これもアリじゃないかと。逆に、それこそ本編の後に「PROLOGUE」を観てくださる方も驚いてくださるだろうし。

 この取り組み自体が面白いなと思ったので、最後はチーム全体の直感にまかせて進めたところもあります。ギャップも含めて楽しんでもらえたらよいんじゃないかとスタッフの方々も満場一致でこれで行きましょうということになりました。

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