SSDは2007年頃から単体PCパーツの販売が始まったが、当初はHDDと比べてGB単価が非常に高く、それに見合う速度は得られなかった。しかし、SLC、MLC、TLC、QLCとNANDメモリーの種類が増えるにつれ、1セルあたりの記憶容量は飛躍的に向上していき、大幅なコストダウンを実現。今日ではGB単価こそいまだHDDにはかなわないが、その性能は価格に大いに見合うものとして評価され、多くのPCのシステムドライブで活用されている。
そして、SSD普及の立役者は1セルあたりの記憶容量の増加だけではない。このNANDメモリーを立体的に何枚も積層する技術も大容量化に貢献している。Micronも先日、世界初の176層NANDメモリー採用SSDを発表して話題になったが、この立体積層技術の層数がそのメーカーの技術力を示すひとつの指標になっているからだ。
現在、SSDの主流フォームファクターはM.2だ。M.2のサイズは幅が22mm、長さが80mm/42mm/30mmと規定されており、その中でも最も多く使われているのは幅22mm、長さ80mmの「M.2 2280」(あるいは「M.2 22x80」)というタイプになる。ノートPCでも採用実績が多く、製品パッケージやPCのスペック表で見かけたこともあるだろう。この限られたスペースにより多くのNANDメモリーチップを実装すれば大容量になるので、1チップあたりの容量が大事になる。ゆえに、それを決定づける立体積層技術が重要な要素になるというわけだ。
もちろん、同じ層数でもTLCとQLCではTLCのほうが容量が少なくなってしまうが、速度や耐久性はTLCのほうが優れている。そして、DRAMキャッシュの容量やコントローラー、PCI Expressのバージョンなど、速度と容量、価格のバランスは各メーカーごとに各セグメントの製品で絶妙に調整されており、コストパフォーマンスは用途によってもかなり変わってくるだろう。
と、前置きが長くなってしまったが、今回は先日発売したインテルの最新SSD「SSD 670p」を触る機会に恵まれたので、そんなSSDのコスパを考えながら話を進めたい。
なぜ今PCI Express 3.0×4対応SSDを投入したのか?
SSD 670pのNANDメモリーは144層QLC NANDを採用。フォームファクターはM.2 2280で、インターフェースはPCI Express 3.0×4となる。ラインアップは512GB、1TB、2TBの3モデルで、順次読み出し(シーケンシャルリード)・順次書き込み(シーケンシャルライト)の公称速度はそれぞれ3000MB/s・1600MB/s、3500MB/s・2500MB/s、3500MB/s・2700MB/sとなる。保証期間は従来のシリーズと同じく5年で、実売価格は順に8400円前後、1万4600円前後、3万1700円前後となる。
1TB2TBSSD 670pシリーズ | |||
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型番 | SSDPEKNU512GZX1 | SSDPEKNU010TZX1 | SSDPEKNU020TZX1 |
容量 | 512GB | 1TB | 2TB |
フォームファクター | M.2 2280 | ||
インターフェース | PCI Express 3.0×4、NVM Express 1.4 | ||
NANDメモリー | 144層3D QLC NAND | ||
順次読み出し(最大) | 3000 MB/s | 3500 MB/s | 3500 MB/s |
順次書き込み(最大) | 1600 MB/s | 2500 MB/s | 2700 MB/s |
ランダム読み出し(8GB スパン、最大) | 110000 IOPS | 220000 IOPS | 310000 IOPS |
ランダム書き込み(8GB スパン、最大) | 315000 IOPS | 330000 IOPS | 340000 IOPS |
耐久性評価 (書き込み上限数) | 185 TBW | 370 TBW | 740 TBW |
保証期間 | 5年 | ||
実売価格 | 8400円前後 | 1万4600円前後 | 3万1700円前後 |
最新PCのストレージインターフェースはPCI Express 4.0×4になるため、「なぜ今このタイミングでPCI Express 3.0×4で?」と疑問符が出る人も多いと思う。しかしながら、現状PCI Express 4.0×4対応SSDの派手な速度(シーケンシャルリードが最大7000MB/sなど)を有効活用することは難しい。もちろん、データの移動など単純な作業は高速なのだが、ゲームのロード時間やアプリの起動速度でその恩恵を十二分に受けられるとは言いがたい。
例えば、以前週刊アスキーの特集記事に掲載した上記のゲームロード時間比較では、3.5インチHDDとの差と比べ、PCI Express 4.0×4とPCI Express 3.0×4、なんならSATA 3.0のSSDの差は少ない。
そして、Windows 10の起動時間ならこの傾向はさらに顕著になる。HDDが34.9秒かかるところ、SSD勢はいずれも20秒以下。そして、その差は4秒以内に収まっており、PCI Express 4.0×4とPCI Express 3.0×4の差はわずか1.2秒だ。そして、この比較で使ったPCI Express 4.0×4対応SSD(1TB)の公称値はシーケンシャルリード・ライトで7000MB/s・5300MB/sで、実売価格は2万7600円前後。PCI Express 3.0×4対応SSD(1TB)は2400MB/s・1950MB/sで、1万2800円前後となる。
ここまで説明すれば、もうおわかりいただけるだろう。つまり、PCI Express 4.0×4対応SSDは超高速な最新規格の製品だが、用途次第ではコスパが良くないのである。むしろ、現行のPCI Express 3.0×4対応SSDは価格も2.5インチSATA SSDとほぼ同等なため、コスパを考えると最もお買い得なSSDという位置付けになるわけだ。
というわけで、インテルが最新PCI Express 4.0プラットフォームを推すものの、ストレージ製品としては最もよく売れるであろうPCI Express 3.0対応SSDの最新モデルを投入する行動は何ら不思議ではないのである。もちろん、同社はサーバー向けではPCI Express 4.0対応SSDをすでに投入済みなので、コンシューマー向けでも早く投入してほしいところなのだが、「まずは売れ筋から」と考えれば、自然な動きに見える。
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