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0.1gでも削り、コンマ数ミリで場所を奪い合う!

新VAIO Zのパフォーマンスにかける情熱バトル(開発者インタビュー)

2021年06月11日 11時00分更新

H35搭載決定も余裕だったエンジニアリングチーム

――当初搭載予定のCPUから急遽H35シリーズになったと思うのですが、それで苦労したということはありますか?

板倉 「正直あまりないですね(笑)。もともとUP3でぶっ飛ばそうと考えていたので、TDP自体は28Wであっても、ターボブーストの区間は64Wという数値が出ていたのです。いかにターボブースト中の電力を長持ちせるかを考えていました。そのため、UP3であろうとなかろうと、その区間を長くすればパフォーマンスを出せると久富と話をしていたのです。H35になってTDPが35Wになっても、その思想が崩れるわけではありません。取り組みの延長線上にあったので、苦労はしませんでした」

――もともと目指すところが高かったから余裕だったと。

古川 「そうですね。もともと35Wで設計していて、UP3を使って28Wだけど35Wまで使いますという話をインテルにはしていました。その話をしていく中で、実はH35というものがあると最後に出てきたんです。評価してみると、ピタッとハマったのがH35でした」

――以前、インテルからH35があると聞いたときに、インテル側はモバイルPCには無理だとVAIO側に伝えたと伺っていたんですが。

古川 「もともとHシリーズはゲーミングや大きめの筐体に大きめのサーマルユニットを積む前提で作られたCPUという位置づけでした。VAIOのようなモバイルPCに搭載するなんて想定もしていなかったと思います。『それでもご所望ですか?』と言われたので『ご所望します!』と答えたということです。

 インテルとの打ち合わせの中で、VAIOの思想は定期的に、熱意をもって伝えていましたので、それがなければ、逆にこういう話も出てこなかったのかもしれません」

――カーボン素材になったことで金属とは違う熱対策が必要になる部分はありましたか?

久富 「一番大きいのは重量ですね。PL2をできるだけ長く高くするには、サーマルユニットの重量がどうしても重くなってしまいますし、実際重くなっています。カーボンボディになったおかげで、その重さを吸収してくれました」

――アルミのような金属筐体のほうが、ボディそのものから熱が発散して冷却しやすいのではと考えてしまうのですが、そんなこともないのですか?

久富 「筐体は人が触るため、結局、部品の熱をダイレクトに筐体に逃がすことができないんです。ただ、設計時は筐体からだいたい10Wぶんの熱が出ることを期待しています。素材でみた場合アルミとカーボンファイバーでそれほど違いが出るとは思っていません。熱伝導率の特性からすると、カーボンファイバーは樹脂よりは金属に近い特性で、横方向の熱伝導率が高い点がメリットなのです。アルミ筐体とは違いますが、ホットスポットができにくく、金属筐体とほぼ同じ特性で設計しています」

――ホットスポットの話が出ましたが、設計する上で触る部分に熱が伝わらないようにするポリシーはありますか?

古川 「もちろん、『何℃以上にはならないこと』という社内規定があるので、それをクリアする必要があります。もうひとつは、お客様が使っていて不快にならないことです。たとえばパームレストの部分が熱いと、タイピング時に手汗をかいてしまうので、そこをヒートスポットにはしないといった配慮はありますね」

――冷却効果を高めるために、バックプレートを挟み込んだという話もありましたが。

久富 「バックプレートを使うこと自体は、そんなに特殊なことではありません。昔のパソコンはみんなバックプレートを使っていました。ただ、薄くするためにバックプレートを使わなくなっていったのです。しかし、TDP35WでPL2=64W実現するためには、熱抵抗を減らす必要があり、できるだけガッチリCPUに受熱版を当てるために復活させたんです。通常より大きな力で当てるためには、バックプレートが不可欠でした」

――ヒートパイプの形状や素材はモデルによって違いますが、何か理由があるのですか?

久富 「フィンがアルミか銅かという微妙な違いはあるのですが、シミュレーション的にはそこまでの差は出ません。ただ、リアルでやると、35Wでずっと流すときは、それほど差は出ないのですが、電力をダイナミックに上げた際にフィンの部分で熱を持っていってくれるため、PL2区間で違いがでてきます。そのためPL2を活かしたいときは銅を使い、それほどでもないときはアルミを使っています。

 あと、重量的な差を考慮してアルミと銅とを使い分けているという意味合いもあります。Core i5モデルは重量を軽くすることのプライオリティが高いので、アルミを使用します」

上がVAIO Zのハイパフォーマンスモデル向けヒートパイプ、下がアルミ素材を使ったヒートパイプ

――5Gモジュールも搭載可能になり、そこへもヒートシンクが必要となりました。

板倉 「検討を初めた段階では、まだ5Gモジュールが世の中にはありませんでした。その後VAIO Zに初搭載させようとなったとき、『5Gは熱い』と脅かされました。この熱によって性能が下がってはいけないということで、5Gモジュール用にもヒートパイプを搭載する判断をしました。とはいっても、全モデルで5Gモジュールを搭載するわけではないので、ヒートパイプを取外しできる仕組みを取り入れ、できるだけ軽くできるようにしました」

久富 「5Gモジュールを搭載でき、CPUもいいものが載っているのに、せっかくの性能をフルに出せないのは寂しいじゃないですか。VAIO Zを買った方は、数年間は使い続けると思いますし、誰よりも早く5Gモジュールを搭載したマシンを買ったのに全然速度が出なかったら、すごく悲しくなくなると思います。そこでフルに性能を出せる設計を目指しました」

――内部構造のなかで一番軽量化が大変だった部分はどこでしょう?

板倉 「常日頃考えていることなので、逆に『どこかがよくわからない』というのが正直なところです。基板の小型化もやりますし、バッテリーまわりの線材の太さ、たとえば、ここは信号線だから細くするなど、微々たるものですけどチリツモです。そういったところは、これまでもやってきたことなので、すぐに思い浮かばないですね」

古川 「もはやライフワークです(笑)」

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