週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

0.1gでも削り、コンマ数ミリで場所を奪い合う!

新VAIO Zのパフォーマンスにかける情熱バトル(開発者インタビュー)

2021年06月11日 11時00分更新

ターボブーストで許容されている電力なら壊れないんじゃない? がVTPの出発点

――VAIO株式会社になって、SシリーズにVTPという技術が採用されました。もともとは過去のVAIO Z向けに開発した技術を発展させたという話を聞いた記憶があります。

板倉 「社内的には、誰が言ったんだ!? という話もあるのですが(笑)。Skylakeのころだったと思います。ターボブーストで動作しても、いまほどの電力上昇はなく、数%程度の倍率でした。それならTDPを上昇させなくても、ターボブースト区間で許容されている電力であれば部品は壊れないだろうと考え、先代のVAIO Zで取り入れました。

 当時の私は電源を担当していて、熱設計の担当とどちらが先にギブアップするかという『チキンレース』をしていたのですが(笑)、最終的にどちらもギブアップせずに完成しました。そこで培った思想や私自身の経験をKaby Lakeを搭載するSシリーズでも応用しました。CPUのTDPは15Wでしたが、20W以上で動かしたらどうかという形で、着手したのがVTPになります」

久富 「板倉が言うように昔から35Wの熱設計はやっています。先代のVAIO ZでもTDP 28WのCPUをTDP 35Wにアップしていますし、もっと遡れば、標準電圧版と呼ばれるCPUを積んでいたこともありました。ただ、今だから言いますが、標準電圧版でも実は35W出すことはないのです。というのもTDPとはCPUが100℃のときの負荷を指すためです。設計上は100℃ギリギリの温度で使うことはなかなかなく、70~80℃で使うことになります。70~80℃に冷却するとリーク電流が減るため負荷を掛けてもCPUの実力は29W前後ぐらいしか出ていなかったというわけです。VAIOの設計条件として標準電圧版で本当に35Wまで出たのはSandyBridgeからで、低電圧版でも35Wまで出たのはHaswell Uプロセッサーからですね。

 先代のVAIO ZはCPUのTDPが28Wで上限35W。実際35Wで動作するのですが、それはグラフィックスとCPUを同時にぶつけた場合の話です。CPUだけではやはり35Wには届きませんし、94℃程度で使っていても35Wまで行くことはめったになく、だいたい33~34Wでした。

 板倉が言ったように35Wを超えたのはKaby Lake Rの4コアになってからですね。PL2(短期的な最大消費電力)が44Wになって、通常使用時でも35W以上が出るケースもあって、その超えた分が、どれだけ高く長く続くかでパフォーマンスが決まってくるようになったのが、Kaby Lake世代で導入した最初のVTPなのです。

 PL2で40W、50Wを出す状態をできるだけ高く長く踏ん張らせるために、CPUのそばにあるヒートパイプをどれぐらい太くすればいいかを検討してきました。新しいVAIO ZではTDPが35Wに上がり、PL2も64Wになりました。64Wの状態を維持するために、VTPのノウハウを活かしたというのが熱設計的な視点でのチャレンジになります」

VTPの基本的な考え方。ターボブーストで最大パフォーマンスを発揮する時間をできるだけ長くし、持続可能パフォーマンスも通常より高く推移できるようにしている

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう