7月1日、日本で『Apple Music』のサービスが始まりました。先行していた『AWA』や『LINE MUSIC』、さらにそれ以前からあった『dヒッツ』や『うたパス』などとともに、定額制の音楽ストリーミングサービスがちょっとしたブームになっています。
日本でも始まったApple Music。当初はスマホアプリの対応はiOSのみだが、秋にはAndroidにも対応予定。無料期間が終わる頃にはAndroidでも使えるようになりそうだ。 |
ついに日本の音楽ストリーミングが本格化するか
これまで音楽のストリーミング配信といえば、海外の『Spotify』や『Pandora』が先行していたイメージがありました。日本でもレコチョクなどが同様のサービスを展開しており、携帯キャリアを中心に展開してきたものの、いまひとつ垢抜けない印象がありました。
しかし6月から7月にかけてこの状況が一変し、日本でも複数のサービスを選べるようになったのは嬉しいところです。やや気になる点として、Apple Musicにはソニー・ミュージックエンタテインメント系列のレーベルによる邦楽タイトルが登録されていません。これは同社がLINE MUSICの立ち上げに注力しているからとみられていますが、ユーザーの立場からすればこうした“縄張り争い”は理解に苦しむところです。
マイクロソフトの動向も気になります。同社は海外で、聴き放題サービスとして『Xbox Music Pass』を提供しているものの、日本では楽曲を販売する『Xbox Music』だけの展開にとどまっています。しかし国内レーベルがストリーミング配信に乗り出したことで、Xbox Music Passの国内展開にも期待がかかります。
2013年11月に日本でもXbox Musicを発表したが、聴き放題サービスは保留状態のまま。しかしWindows 10の登場を見据え、そろそろ進展を期待したいところだ。 |
ストリーミング配信で管理の手間も不要に
音楽のストリーミング配信では、3000万曲など、膨大な音楽ライブラリにアクセスできることが特徴です。ハイレゾ音源や非圧縮音源にこだわるのでなければ、個人で音楽データを所有する必要がない時代になった、ともいえます。
たしかに、引き出しの中にたくさんの音楽CDを保管していた時代に比べれば、音楽を所有するコストは下がりました。しかし音楽ライブラリをHDDなどの物理的なメディアに記録して保管する場合、寿命やクラッシュなどHDDの管理が問題になります。
これに対してストリーミング型の音楽配信サービスは、楽曲ライブラリ全体をクラウド上に置き、必要とするユーザー全員でそれを共有するという、合理的なシステムになっています。音楽だけでなく、デジタルコンテンツの流通における最終進化形といえるのではないでしょうか。
音楽のデジタル配信としては、iTunes Storeのように音楽を1曲ごとに販売する方式もありました。しかしストリーミング配信なら、コンテンツが特定のサービスを紐付くことがないので、サービスを容易に乗り換えることもできます。Apple Musicが気に入らなければ、解約してAWAやLINE MUSICに移ればいいのです。
そのため各ストリーミングサービスは、SNS機能やプレイリスト機能などを提供していくことで、ユーザーを囲い込む方向で競争していくことになるでしょう。
Apple Musicは音楽聞き放題だけでなく、おすすめのプレイリスト機能”For You”や、アーティストとつながる”Connect”などの機能も備える。月額料金や楽曲の数以外の面で差別化しようという試みだ。 |
Apple Musicでは3ヶ月後に無料から有料に移行するとき、自動更新をオフにできる。契約したことをうっかり忘れて課金されることがないよう、いったんオフにしておくとよいだろう。 |
“音楽聴き放題”のSIMカードは登場する?
音楽のストリーミング配信において今後注目されるのが、パケット通信との関係です。現在では、音楽や動画などサイズの大きなコンテンツを視聴する場合、Wi-Fiを利用するのが一般的です。
しかし外出先で新しい音楽を探したいとき、LTEや3Gのパケット通信のまま、ストリーミングを楽しめるに越したことはありません。たとえばApple Musicのビットレートは256Kbpsとされており、筆者が個人的に使っている『ぷららモバイルLTE』(下り3Mbpsで無制限)でも問題なく利用できました。
また、UQコミュニケーションズのWiMAX 2+でも、3日で3GBを利用することで翌日から速度制限がかかるものの、制限時でも700Kbp~1Mbps程度は出るとのことから、無制限にストリーミング配信を楽しむのに十分な速さといえます。
さらに、キャリアやMVNOの動向にも注目です。通信事業者は、パケット通信の中身を見ながら帯域制御などの処理を加えることができます。また、その上位レイヤー(アプリケーション層)では、SSLなどで暗号化されていない限り、どこのサイトとどのような種類のデータを送受信しているのか、完全に把握することができます。
この技術を”制限”のために利用すると、画像ファイルを縮小したり圧縮率を上げたりする”通信の最適化”機能や、動画のビットレートを抑制するといった機能が実現します。
一方で、この技術は”開放”に使うこともできます。たとえば米国のT-Mobile USは、SpotifyやPandoraなど音楽サービスの利用分をパケット通信量にカウントしないという、”Music Freedom”サービスを提供しています。
T-Mobile USでは主要な音楽ストリーミングの利用分をカウントしないサービスを実現。月額50~80ドルの契約プランに含まれている。 |
これを応用すれば、特定のサービスだけを無制限に使えるようにしたSIMカードというのも可能なはず。膨大な数の音楽が、本当の意味でいつでもどこでも聴き放題になるサービスが、近いうちに実現するかもしれません。
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