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ななふぉ出張所

VAIOは全米で”Mac対抗”へ、新社長体制で見えてくる次の一手

2015年08月25日 07時00分更新

 8月19日、VAIO株式会社は記者会見を開催し、新社長に就任した大田義実氏が今後の経営方針などを説明しました。

 ソニーから分離し、2014年7月から新たな企業として再出発したVAIOは、国産部品を詰め込んだハイスペック機『VAIO Z』や、クリエイター向けの全部入りタブレット『VAIO Z Canvas』を次々とリリース発表してきました。

 一方、VAIOブランドのスマホとして鳴り物入りで登場した『VAIO Phone』は、日本通信とVAIOの間でのすれ違いが話題になったのは記憶に新しいところです。

 さまざまな意味で業界の注目を集めてきたVAIOが、新社長のもとで今後どうなっていくのか、その姿が徐々に明らかになってきました。

“普通の中小企業”を目指すVAIO

 新社長である大田氏は、IT業界で有名は人物というわけではないものの、多くの企業で経営者として活躍してきた、いわば企業経営のプロといった人物です。商社出身の大田氏はサンテレホンやミヤコ化学など、VAIOと同じ日本産業パートナーズが出資した会社で社長を務めた経験があり、“実績”は十分にあるという印象です。

新社長体制で見えてくる次の一手
VAIOの新社長に就任した大田義実氏。IT業界での経験はないが、企業経営に関する実績が豊富という印象だ。

 その大田氏による新施策として、自前で営業部門を設立し、技術者を現場に出していく、というものがあります。これは大企業だったソニー時代の常識にとらわれない、意識改革の側面があるとしています。

 ソニーやVAIOに限った話ではありませんが、大企業の中枢で商品開発や企画に携わっている人々は、販売やサポートなどエンドユーザーと接する機会がなかなかありません。本社の会議室で、PowerPointのスライドに綺麗にまとめられたグラフを見て現場を“把握”することには、限界があります。

 それでも大企業ではさまざまな階層に優秀な人がいて、多少の矛盾は吸収されます。しかし中小企業では、そうはいきません。全員に営業を意識してほしいという大田氏の指摘はもっともなところがあり、VAIOは”普通の中小企業”になろうとしていることが分かります。

新社長体制で見えてくる次の一手
これまで販売会社に任せていた営業を自前で持つという。中小企業としては当たり前ともいえる体制だ。

 一方でVAIOは、決して普通ではないところもあります。ソニー時代に投下された莫大な資本を下敷きにしたブランドや技術的資産に加え、普通の中小企業ではまず採用できないハイレベルな人材が揃っています。大田氏も、VAIOという企業が持つ独特の魅力に惹かれたと会見で語っています。

米国でVAIOに期待される“Mac対抗”ポジション

 これまでのVAIOにおいて最も不安な点は、PC事業を国内向けに展開するという経営方針でした。

 PC市場が世界的に縮小する中、他のPCメーカーはグローバル展開でいかにスケールメリットを活かすか、といった競争を繰り広げています。一方国内では、NECや富士通、東芝といった大手メーカーが個人向け、法人向けともに安定した人気を誇っています。

 とはいえ、今後もPCには一定の需要があります。ひとつは企業向けのPCで、オフィスにあるデスクトップやノート型のPCがスマホやタブレットに完全に置き換わることは、当面はないでしょう。もうひとつはクリエイター向けのPCで、コンテンツの作り込みには必須のツールです。

新社長体制で見えてくる次の一手
クリエイター向けタブレットとして米国からも注目されるVAIO Z Canvas。

 特にクリエイター向けというのは、なかなか興味深いポジションです。たとえば米国への展開にあたっては、全米のMicrosoft StoreにVAIOを展示するという施策を発表しました。これはVAIO側ではなく、マイクロソフト側からのオファーにより実現したとしています。

 これまで海外で1000ドルを大きく超えるようなPCといえば、一部のゲーミング向けなどを除いて、ほとんどVAIOかMacくらいしか選択肢がありませんでした。一方でマイクロソフトは、アップルストアに並ぶMacに対抗できるような強力なPCを求めており、この点でVAIOとマイクロソフトの思惑が一致したというのが背景にあるようです。

新社長体制で見えてくる次の一手
ハワイのアラモアナショッピングセンターでは、Microsoft Store(左)とApple Store(右)がはす向かいに位置している。米国本土のショッピングモールでもよく見かける光景だ。

 大田社長も、PC事業に関してはこれまでの方針を踏襲し、“数を追わない”戦略を継続するとしています。これはVAIOの企業規模を考えれば妥当なところではあるものの、その結果として製品が割高になる印象は否めません。

 たしかにその中身は、高品質な国産部品の採用など、他のPCとは一線を画するものかもしれません。クリエイター向けのVAIO Z Canvasや、とにかくVAIOの作るものなら何でも欲しい、といった指名買いもあるでしょう。ただ、それだけではあまりにも数が出ないのでは、との不安があります。

VAIO Phoneの次はVAIOロボットか?

 このように、PC事業の先行きはあまり明るくないものの、大田氏は新規事業という新たな軸も打ち出しています。VAIOの安曇野工場にはソニー時代のロボット犬『AIBO』の製造設備や人材が残っており、これを活用したロボット、IoT、ゲーム分野などを第2、第3の事業として育てていくとのビジョンを示しました。

新社長体制で見えてくる次の一手
ロボットの受託製造、IoT、ゲーム分野などの新規事業分野に進出。2017年度にはPC事業と1対1の規模にまで成長を目指すという。

 個人的には、もっとも得意とするPC事業に全力投球したほうがよいのでは、という気がしなくもないものの、すでにVAIOはDMM.comが29万8000円で販売するロボット『Palmi』を製造した実績があるとしています。

 最近ではソフトバンクのPepperが毎月1000台も売れているように、新たなロボットブームが起こりつつあるのは事実。このビッグウェーブに乗ることができれば、PC事業の浮き沈みに依存するリスクを減らせる、との見方もあるでしょう。

 大田氏が語った言葉の中で重みを感じたのは、”自立”というワードです。ソニーから見放される形で分離したVAIOがいまもなお存続している理由は、企業再生ファンドである日本産業パートナーズが出資したからです。その出資者に利益をもたらし、企業として自立できるかどうか、その出口に向かって階段を登り始めたのが現在の状況といえます。

山口健太さんのオフィシャルサイト
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