1年間にわたり関西、北海道、関東、中部、九州、中四国、東北と全国7会場を回り、地方のスタートアップ企業と東京の大企業、投資家を結び付けてきたイベント“全国スタートアップデイ”が、2015年3月26日にファイナルを迎えた。
パネルディスカッションで絶賛されたのが、ハードウェアベンチャー企業の“ジョイアス”だ。九州会場に登場して「脳にこびりついて離れない」(一般社団法人MAKOTO 竹井智宏代表理事)、「抱き枕のジョイアスさんが印象に残っている。Makuakeでバズってすごいことになっている」(さくらインターネット 田中邦裕代表取締役社長)と、他のベンチャーや投資家を圧倒させた撫でると声を出す抱き枕を開発している。全国スタートアップデイに登場したことをきっかけに、メディアで取り上げられ、クラウドファンディングでは大成功を収めた。このイベントで成功したスタートアップの1社だ。
九州会場に登場したジョイアスの内村代表。 |
まさにわが道を進んでいるジョイアスだが、東京との比較でも重要な意味をもつ。「地方だと、あまり市場規模、世の中のトレンドを考えていない人が多い。いい意味でも悪い意味でも。良い意味では自分がつくりたいからつくっている。目の前のお客さんのためにつくっている。そこからブレイクスルーすることもある」(MAKOTO 竹井氏)
どうしても都内のベンチャーは、大きな流行の波や周りに左右されやすい。対して、じっくりと周りの影響を受けずに自分のサービスをよくしていく、地方ベンチャーの活路が見える。ただ地方での活動だけでは経験が足りず、「金融機関の方との付き合いもスマートじゃないのが多いなと感じる」とさくらインターネットの田中代表は指摘する。東京で経験したあと、UターンやIターンで地方に行き、「大都市でスマートさを得て、自分の思いをもって、東京から離れて独創性をもつのがいいのかなと」(田中代表)。ジョイアスの内村代表も東京のIT企業で働き、その後地元に戻って起業したひとりだ。
ITバブルどころか、かつてバブルの時代を経験し、現在はベンチャー投資を行なっている大和企業投資の平野清久取締役は「グローバルに展開できる可能性はどこにもある。風呂敷広げすぎくらいの話をしてほしい。もともと日本の地方にはたくさんの上場企業がある。世界でしか仕事をしていない製造業の会社もある。特に地方はそういう空気はもとからあったはず、目線として海外を見ることを、今だからこそできることもある」と語る。
東京を飛び超えて、地方から世界へ出られる時代というのも、1年を通じて全国スタートアップデイで何度も指摘されたテーマだ。Draper Nexus Venture Partnersの中垣徹二郎氏も、「抱き枕の会社はMakuakeでもいいが、Indiegogoでも見てみたい。世界にオタクマーケットはある。突然変異はあると思う」という。特にハードウェア企業は、ソフトウェアよりも世界で戦いやすい下地ができている。「(全国スタートアップデイを主催する)トーマツベンチャーサポートや、サムライインキュベートが仕込んでいける」(中垣氏)とパネルディスカッションを締めていた。
また当日は各地のピッチでグランプリに輝いたスタートアップ企業7社がプレゼンを競い合い、年間グランプリが決まった。
グランプリの中のグランプリに選ばれたのは、仙台会場の“足でこげる車いす”を開発した東北大学発のベンチャー企業TESS。「車いすなのに足こぎペダル?」と思ってしまうが、もともと人間には足を動かす反射が備えられていて、この車いすに乗るとその脊髄反射が起こる仕組みになっている。足の不自由な障害者でも、リハビリなどに利用できる。
日本ではリハビリを始め医療の領域はなかなか新しい技術の認知度を高めるのが難しいと課題を挙げ、今後は業界団体などにアプローチをして、さらに今春からは必要な顧客に直接アプローチをしていくという。TESS自体を広めるのはなかなか難しいが、グランプリに選ばれた理由では世界中に必要な人がいて、大きな市場があると講評されていた。
特別スポンサーのさくらインターネット賞には、北海道地区のクラウド型畜産システム『ファームノート』が選ばれた。従来、ITの活用がされてこなかった畜産分野。ファームノートはスマートデバイスで毎日の牛の活動記録、データ活用と革新的に使いやすいシステムを武器に導入を進めている。今後はまず開発スピードを上げ、得た大量のデータを活用した行動データの分析や、ほかの経済動物への転用も考えている。
そのほかファイナルに勝ち進んだ企業は、テレビに嗅覚メディア装置を取り付けようと活動する大阪地区のアロマジョイン。幼稚園で日常の子供写真を共有して販売する中部地区のユニファ。EV、ガソリンのバイクにLPガスを取り付けハイブリッド化し、ランニングコストを抑える関東地区のTeco。月額500円のホームセキュリティーを提供する九州地区の“プリンシプル”。すでにサービスを開始、好調なスタートを切った月額6800円のブランドバックのシェアリングサービス、中四国のesが登壇。各地区を勝ち上がってきただけに独自の事業モデルをもち、社会的意義も大きい。そんな企業が集まっていた印象だ。
主催するトーマツベンチャーサポートとサムライインキュベートが1年間にわたり、支援をしてきた全国スタートアップデイだが、各地域からすれば年に1度しかない機会。今後はもっと頻繁に各地域を結び付けるべく、イベントによらない展開など、各地域の横のつながり、コミュニティーなど活性化につなげ、接点を増やしていきたいとしている。
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