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さくらインターネット田中社長らが語る「成功するベンチャー社長の条件」とは? Startup Day 中四国 in 広島

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投資家や上場企業の経営者が、成長するベンチャーのあり方について語った

 世界のヒロシマは工業大国・日本を象徴する県でもある。瀬戸内海に面した呉を中心に、鉄鋼業、造船業、自動車製造業といった「ものづくり県」として発展してきた歴史がある。

 戦後70年を迎える現在、広島は「イノベーション立県」をかかげスタートアップ企業の育成に力を注いでいる。少子高齢化で労働人口が今までのように増えない中、いわゆる「城下町型」産業集積モデルに頼らない産業基盤を作ろうとしているのだ。

 そんな広島で17日、成長中のベンチャー企業が集まるイベントが開かれた。『全国StartupDay』だ。有限責任監査法人トーマツのグループ会社であるトーマツベンチャーサポートと、ベンチャー育成支援のサムライインキュベートが主催している。

東京から地方に盛り上がりが波及していない

 広島を含めた中部・四国の企業が集まり、成功のため何をすべきかを語り合った。インターネットによってどこからでも世界展開を前提としたビジネスができるようになったが、やはり都市部に比べて地方のベンチャー企業は出づらいのが現状だ。

 「サムライインキュベートが出来たのは2008年、金融危機で景気が後退しはじめたころ。東証の新規上場が年間20件という時代もあり、日本のベンチャーは終わってしまうのではないかとさえ言われたが、最近はIPOも増えている。しかし、首都圏以外だとその盛り上がりがまだ波及していない」(サムライインキュベート玉木諒氏)

 地方ベンチャーの成功には一体何が必要なのか?

 四国・愛媛を地盤にベンチャー投資をしているフューチャーベンチャーキャピタル宮川博之 愛媛事務所長、日本とシリコンバレーを股にかけベンチャー育成をしているドレイパーネクサスベンチャーパートナーズ 中垣徹二郎 マネージングディレクター、そして自身が起業家であるさくらインターネット 田中邦裕社長が語った。

出資を受けるのは資本戦略を組んでから

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さくらインターネット田中邦裕社長

 サーバーのホスティング屋さくらインターネットの田中社長は、関西出身の学生起業家だ。1996年、京都の舞鶴高等専門学校の在学中にさくらインターネットを創業した。インターネットバブル崩壊の荒波にもまれながらも、創業者として会社を上場させた。

 「創業時は18歳だが、ハードワーカーだったことは間違いない。昼間はロボコンをやっていたし、吹奏楽部で指揮者もやっていた。それでも(会社の)帳簿もつけて、寝る時間は授業だけ。落第せずに卒業したが、20台ずっとハードワークしていたのが人生経験になることは間違いない」(田中社長)

 創業から上場までは投資会社(ベンチャーキャピタル)からの出資を受けていた。金融機関の融資が受けられないばかりか、クレジットカードの審査にも落とされてしまい、投資会社に頼るほかなかったと実情を明かす。

 「(投資会社と組んで)一番よかったのは、経営に携わってくれる優秀な人がタダで来てくれること。優秀なベンチャーキャピタルにパッパラパーな人はいない。優秀な人を創業直後に雇えるわけはなかったのでありがたかった」(田中社長)

 営業が厳しいときはリース契約を決めるなど、どうにか会社を成長に乗せるための行動をとってくれる。「感謝してもしきれないくらい」(田中社長)だが、一方で、「ぶっちゃけ出資は受けなくて済むなら受けなくていい」とも話す。

 「株式会社は株主のもの、というところからは逃がれられない。たまに大株主が売りたいという話が出てきて、ライバルが買おうとしている、と言われるとどうしようもなくモチベーションが下がる。株主を後で変更するのはとてつもなく困難。資本戦略を組んでいないとあとで大変なことになる」(田中社長)

社長が成長すれば企業も成長する

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フューチャーベンチャーキャピタル宮川博之 愛媛事務所長

 投資会社側もさくらインターネットのような優良株を鵜の目鷹の目で探している。

 宮川所長が愛媛の地元金融と合同でファンドを始めたのは約10年前。自治体からのベンチャー企業育成補助金もあり、投資した11社のうち6社が上場した。投資会社は10社に1社が上場すれば上出来といわれる中、きわめて異例の業績だ。

 上場した6社の経営者に共通していたのは「ハードワーカーである」「大きな志を持っている」という一見当たり前の2点だと宮川所長。中でも、社長自身に人間としての成長へのこだわりがあるかどうかが重要だったと話す。

 「たった数カ月でも社長の成長が見えることはある。多くの経営者は資本政策の経験がない。だが、勉強したり、我々と対等にやりとりするほど吸収し、事業計画が成長していくと、まだ社長自身としても伸びていくな、と感じる」(宮川所長)

 地方で起業すると「目立つ」という利点はあると宮川所長。

 上場を目指している、出資を受けた、こんな成果が上がった。競争が少ないためちょっとしたことでも目立ち、都市部にくらべて支援が集中しやすいのだ。

 一方、愛媛は「1%経済」と言われており、上場企業が全国3500社ある中、愛媛に35社ほどあっておかしくないが、実際は14社程度しかないと宮川所長。それは情報ギャップによるものといい、企業の成長にはやはり良質な情報環境が不可欠だと話した。

 「情報、人材、何より刺激、身近な失敗・成功例があることで、東京の経営者はより早く成長できる。そこが不足しているのはマイナス面であることは間違いない。まず経営者が頭と体をフル活用したギャップの解消が必要」(宮川所長)

海外展開は情報発信の方法も考えるべきだ

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ドレイパーネクサスベンチャーパートナーズ 中垣徹二郎 マネージングディレクター

 日本であってもシリコンバレーであっても、「優秀な社長」の像は変わらないと中垣ディレクター。

 「ハードワーカーであることに加え、経営者という意味では中長期のビジョンを持っている方。長期計画と短期計画は矛盾することも多いが、うまく帳尻を合わせて周囲を巻き込んでいける経営者は非常に成長しやすい」(中垣ディレクター)

 しかし、経営者が同じだけ優秀なのであれば、なぜ日本企業が英語版サービスを作ってもグローバルレベルに波及しづらいのか。

 田中社長は、1つの理由が「シリコンバレーにはメディアが来ていて、シリコンバレーで発信すると発信されるが、情報伝播の上で日本語しかない」点にあると考える。メディアを含めて、地理的な要因が産業に影響しているのではないかというのだ。

 「はてなのCTOと対談してハッとしたことがある。はてながなぜモバイルで苦労したのか、たった1つの理由は『(はてなの本拠地がある京都が)東京のように長い通勤時間ではないからだ』という。どういう生活をしているかによってサービスは生まれてくるもの。友達関係で『こんなサービスがあったらいいよね』というのがシリコンバレーでは生まれてくるが、発想の範囲は日本では狭い」(田中社長)

 一方、工夫さえすれば、どこにいてもシリコンバレーにいるような発信の仕方は考えられるはずだと中垣ディレクター。

 「日本のハードウェアスタートアップでも、クラウドファンディングのIndiegogoやKickstarterにプロジェクトを上げている。そうすればあちらのメディアでも発信される」(中垣ディレクター)

 世界規模で考えれば、地域の課題に根ざしたアイデアを並行展開できるのは地方企業にとっての強みになる。だが発信の方法で米国に先を行かれてしまえば、同じようなアイデアであってもやはり米国に市場を先に奪われるという危惧はある。

 「ここ1~2年、アメリカで多言語化が流行っているのが最近はとても怖い。日本はもうちょっと考えないとまずい」(田中社長)

 成長する地方ベンチャーは、自分たちの強みをしっかり認識し、まずは地元地域を実験場として事業を磨きあげている。そして地元に頼ることなく、都市部や海外などより広い市場に事業をスケールさせるための志と戦略を確実に育んでいるのだ。

1月20日追記 発言中の「はてなの社長」を「はてなのCTO」に改め、表現を一部修正しました。読者の皆様、ならびに関係者各位にお詫びして訂正致します)

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