話題のスマホゲームのクリエイターとスクウェア・エニックス安藤武博氏が対談する連載『召喚★アプリ神(ゴッド)』。週刊アスキー本誌で掲載しきれなかったインタビュー内容を3回に分けて掲載します。
第9回はサムザップ『戦国炎舞 -KIZNA-』の代表取締役 桑田栄顕さんを召喚!(前編、中編、後編)
なお、第10回のゲストはバンダイナムコゲームス『ドリフトスピリッツ』の中西俊之さんと門田研照さん。追って掲載いたしますのでそちらもよろしくお願いします。
『戦国炎舞 -KIZNA-』
↑サムザップ代表取締役 桑田栄顕氏。 |
■快適性を求めてフレーム単位で改良と調整を続ける
安藤:炎舞はゲームシステムとしてはスタンダードなものです。でもサービスが磨き込まれているし、何よりテンポが良い。例えばクエストで攻撃方法を選択しても、来てほしいと思うタイミングでズバッと演出が入ってくれる。タクシーに乗っていて、ここを右に曲がってほしい、信号を突っ切ってほしいと思ったときに、その通りに運転してくれる運転手さんがいたら気持ちいいですよね。炎舞の演出もそれと同じ感覚なんですよ。フレーム単位で細かく調整して、「どうしたら気持ちよくなるか」というやりとりをスタッフ間でかなりされたのだと思います。
桑田:そこに気付いていただけたのはありがたいです。まさにそこも、渡邊さんのもとで修行した部分だったんです。
安藤:やっぱりそうなんですね。微細な調整を繰り返すことで、ゲームってより快適で、面白いものになりますものね。
桑田:たとえばガチャのアニメーションが始まってからカードが現れるまでのテンポも、計算してあのタイミングにしていると渡邊さんはおっしゃっていました。炎舞のクエストの部分はフラッシュなんですけど、僕がフラッシュ担当者の隣でフレームレートを見ながら、ここは縮めてとか増やしてとか、細かく指示を出して仕上げたんです。
安藤:今の新春ガチャの紹介アニメーションも、絵の出方のテンポがすごくいい。面白いなと思ったのは、「新アニメーションが登場!」という告知をすることがあるじゃないですか。ほかのゲームではあまりないですよね。新しいアニメーションが入ることそのものが、炎舞の目玉のひとつになっているんですね。
桑田:そうですね、はい。
安藤:その一方で、アニメーションを見たくない人はスキップできるようにもなっている。システムを磨き込み、多くのユーザーが快適に遊ぶためにはどうしたらいいかということを、毎日スタッフ全員で考えているのかなと思ったんです。
桑田:おっしゃるとおり、チームのメンバーはすごく炎舞が好きで、もっとこうしたい、こうしたらよくなるという話を、毎日自然と交わしています。それが安藤さんやユーザーの皆さんにわかっていただけるものになっているのは嬉しいですね。
安藤:ちなみに炎舞はUnityでつくられているんですか? ウェブの技術でつくられているのかなとも思うんですけど。
桑田:ちょっと特殊ですが、Adobe Airを利用しています。僕らはブラウザーゲームしかつくったことがなかったんですが、それであれば今までの資産を活かせると思いまして。
安藤:なるほど。後から簡単に改良や調整ができるのもウェブやフラッシュの長所ですよね。
桑田:炎舞で直せるところはバンバン直そうと思いますし、直していきたいという気持ちが常に頭の中にあるんです。サイバーエージェントに新卒で入ってウェブ業界を経験して、広告なども良いクリエイティブがあればすぐに切り替えたりしていましたから、僕自身そういう頭になっているんだと思います。
安藤:いいですね。快適さを優先するならウェブでも十分だし、遊び込んでそれに慣れてしまうと、「ちょっと時間があるから炎舞で遊ぼう」という気持ちになる。リッチに動いていようがいまいが、気持ちいいものって触りたくなりますよね。そこが炎舞の強みなんだなって、遊んでいてすごく感じました。
↑打てば響く演出は細心の調整によって生まれた。鉄砲、騎馬、歩の3種類から攻撃法を選ぶと、即座に演出に発展する。SEも小気味よく、攻撃する気持ちよさが味わえる。 |
■運営の神髄は長くサービスを続けること
安藤:炎舞はリリース当初と比べると、すごくたくさんの要素が追加されていますよね。UIなどもかなり機能的になっていて、まるで競馬新聞のように、慣れた人にとってはあらゆるデータが一発でわかるし使いやすい。長く遊んでいるユーザーに合わせて改良を続けた結果だと思うんですが、ヘビーユーザーにシフトするタイミングがどこかであったはずなんです。それはいつだったんですか?
桑田:実はまだ決めきれていないところがあるんです。ゲームを支えてくれるのはヘビーユーザーの人たちですが、新規ユーザーや回帰ユーザーも増やしたい。そこに対してのアプローチは、今でもやっているんですよ。
↑さまざまな項目がひとまとめになったデータ画面。慣れた人には見やすいが、秘技や継承などシステムの理解が必要となる項目もある。まさに競馬新聞。ライト向けの改良は成されるのだろうか。 |
安藤:先ほどの例で言うと、競馬新聞をライトな人にも分かるポップなものにするにはどうしたらいいか、というところですよね。何か具体的な施策や、改良したい点はありますか?
桑田:まだ炎舞を知らない方も多いと思いますので、ニコ生での放送をやっていました。
安藤:年末の12時間耐久放送は企画が盛りだくさんで、かなりインパクトがありましたよね。
桑田:あと炎舞のメインは1日3回行われる合戦ですが、先ほど安藤さんがおっしゃったようにあいている時間に触っていただく、そういう遊び方ができてもいいのかなと。なので合戦以外でも、楽しめる機能を開発しようと思っています。マルチプレイが今のトレンドということもあって、みんなで遊ぶ共闘系のものになる予定です。
安藤:なるほど、まだまだ炎舞に手を加えていくんですね。僕らは『拡散性ミリオンアーサー(以下、拡散性)』がヒットしたときに、別の新作を次々につくろうとして、結果として拡散性が薄いものになってしまったんです。運営ものはきちんと腰を据えてそのタイトルのお客さんのことだけを集中して考える、今はそれ以外にないと思っていますし、炎舞はまさにそうですよね。リリース初日からずっと遊んでいる人も多いでしょうし、そういう方には今後も長く遊んでいただけると思います。
桑田:そうなるよう努力していきたいですね。スクウェア・エニックスさんの『FF XI(以下、XI)』はやっぱりすごいと思いますし。コアスタッフはサービス開始から変わっていらっしゃらないんですか?
安藤:XIは10年以上続いているので、新しいことを始めているスタッフもいるんですけど、変わっていないスタッフもいます。少なくとも運営にかかわっているスタッフやコアなメンバーは変わっていないはずです。
桑田:そうなんですね。
安藤:10年前に僕がMMORPGをつくったときと同じスタッフがいます。『FF XIV』もそのスタッフたちがやっていたりします。10年以上続いたとなると、もう10年続くかもしれません。人生をかけるぐらいの気合が必要になりますね(笑)。
桑田:炎舞もスタッフの入れ替わりはあるかもしれませんが、改良を重ねながら長く続けていきたいですね。
安藤:拡散性は当時、2年続けば上出来だなと思っていました。同時期に立ち上がったパズドラの山本さんとお話したときも、その頃はみんなそのくらいのスパンで考えていた。でも今後は息の長いMMORPGのように、10年、20年ぐらいのスパンで考えないといけないのかなと思うんですが、桑田さんはどう思います?
桑田:市場もできたばかりで数年しかたっていなくて、2~3年続くと長寿アプリと言われますけど、ウェブに限らずいいサービスってずっと続くと思うんです。その最たるものが東京ディズニーランドですよね。
安藤:それ、すごくしっくりきますね! 僕がディズニーランドに初めていったのは10歳のときですが、全然古びないしいまだにスペース・マウンテンに乗りたいと思いますもんね。東京ディズニーシーのタワー・オブ・テラーでは期間限定のイベントがあったり、確かに運営ものっぽいところもありますよね。
炎舞のゲームシステムはスタンダードなものですが、サービスやもてなしが常に高い品質で回っている。それがお客様にとっては常に新しいものであり続けるんですね。ゲームは進化していかないといけないし、そのためにお金をかけないといけない。そこで完全新作ではなく、今あるものに新作がつくれるぐらいの手間とお金をかけて運営やサービスをしていくと、皆に長く愛されるものになる。まさに炎舞がそれなんですね。
桑田:以前、さるゲームメーカーの方から、25年のスパンでものを見ているとうかがったんです。たとえば長く遊ばれる人気のRPGのシリーズなら、1作めを遊んだ人が親になってそれを子供に伝えていく。その周期が25年なんです。そういう考え方を聞くと、使い捨てではなく、長くサービスを続けていくという考え方がすごく大事なんだなって思います。
安藤:本当にその通りだと思います。僕は宝塚歌劇が好きなんですが、今年で101周年なんです。戦前からあるものが、基本的な仕組みはそのままに、現在も人々を熱狂させている。ちゃんと手をかけていけば末永く人々に愛されるんですよね。スマートフォンゲームの時代は始まったばかりだし、未来のことはまったく想像できないですけど、そのぐらいのスケールで考えた方がお客さまは喜びますよね。炎舞のサービスの神髄を見た気がしますし、そのスケール感も意外でした。
桑田:ありがとうございます。
安藤:炎舞はウェブの技術でつくったと言われていましたが、僕らがやっているネイティブの技術よりローテクだから、よりそう思うのかもしれません。ローテクというとレベルが低いように聞こえますが、その差ってゲームの面白さとは関係がないんですよね。
桑田:僕らがゲーム屋からスタートしていないからかもしれないですね。僕らも可能であれば、安藤さんたちがつくるようなクオリティーの高いものをつくってみたいと思っているんです。でもそれって長年に渡って制作環境を整え、技術を培ってきたからこそできるもので、僕らにはできないと割り切っているんです。
ゲームでいうとPS2やPS3のゲームをつくるより、見た目はどうあれニンテンドーDSや、もっとライトに遊べるものをと考えています。遊んで楽しければグラフィックのクオリティーが低くてもさほど問題はないですし、我々がつくっていくものとしてはそっちの方がいいのかなと今の時点では思っています。
安藤:ゲーム業界では20年前に、豪華な絵やグラフィックを多用してもすぐ飽きるという論争があった。ちょうど『FF VII』や『FF VIII』がヒットしたころです。その一方で『ポケットモンスター』も大人気で、子どもたちは押入からゲームボーイを引っ張り出して、モノクロの画面で夢中で遊んでいたわけです。
実際今のランキングでも『乖離性ミリオンアーサー』のようにリッチに作ったものと炎舞とが同じような順位にいる。高スペックのゲームを求める人もいれば、暇なときに遊べればいいとか、手触りが良ければオーケーという人も当然いて、それもまた炎舞が受けている理由なんだなと思います。
↑スクウェア・エニックス安藤武博氏。 |
※この対談は2015年1月に行なわれたものです。
■関連サイト
・戦国炎舞 -KIZNA-公式サイト
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