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聖剣生みの親が語るファンタジーRPGのつくり方(中編):召喚★アプリ神

2014年07月18日 13時00分更新

 話題のスマホゲームのクリエイターとスクウェア・エニックス安藤武博氏が対談する連載『召喚★アプリ神(ゴッド)』。週刊アスキー本誌で掲載しきれなかったインタビュー内容を3回に分けて掲載します。

 第2回目のゲストはこの人、スクウェア・エニックス『聖剣伝説RISE of MANA』のプロデューサー、小山田将さんです。さらに今回はスペシャルゲストとして聖剣伝説シリーズ生みの親である石井浩一さんにもお話を伺いました。(前編中編後編

安藤武博氏(スクウェア・エニックス プロデューサー)
アプリ神
石井浩一氏(株式会社グレッゾ 代表取締役)
アプリ神

秘伝!石井氏が語るファンタジー世界のつくり方
安藤武博氏(以下、安藤):RoMのリリースを機にまた『聖剣伝説 LEGEND OF MANA』(以下、レジェマナ)を引っ張り出して遊んでいるんですけど、ポリゴン全盛の時代によくあそこまでドット表現にこだわったゲームをつくり切ったなと思います。今やってみると、素晴らしい味わいがある。

石井浩一氏(以下、石井):2Dの技術スキルが成熟しているときだからこそ、どこまで突き抜けられるかやってみたかった。ドット絵からちょっと踏み込んで、イラストを動かしてみるとかね。みんなが3Dを向いているときに、敢えて真逆の方向でいってどういう印象を与えられるのかも知りたかった。そもそもレジェマナって、システム的にユーザーさんに責任を負わせる遊び方を提示しているんだよね。

安藤:フリーシナリオの究極みたいなゲームですよね。

石井:ひとつの世界の中に、いろんなシステムと遊びを用意して、どうプレイするかはユーザーさん次第のゲームにしてあるから。そういう仕組みのゲームなら、ユーザーさんが自分で遊びがプロデュースできる楽しみが生まれる。レジェマナでは、その面白さを味わってほしかったんだよ。

安藤:それがそのまま『FF XI』につながっていくんですよね。

石井:そこは流れができていたんだなぁと。今振り返るとビックリだよね。

安藤:実はFF XIの源流はレジェマナなんですよね。レジェマナで完成したことや、試したかったことがFF XIに反映されている。

石井:そう。レジェマナをやっていなければ、FF XIはあそこまで完成されていない。

安藤:レジェマナはアートワーク的にもゲームデザイン的にも、“サボテン君”などのキャラクター造形も深い。総合エンターテインメントとしてものすごく高いレベルにありますよね。
 さっきの岩壁の話もそうですが、石井さんの手に掛かると例えドットで描かれたの岩であっても、背景にしっかりした思想やイメージがあるから説得力のあり、のめり込める世界がつくりだせるんですね。

石井:表面的にとらえて流してしまうクセってあるじゃない。例えばFFのジョブキャラをつくるときに、白魔道師の衣装の赤いだんだら模様は、新選組みたいに赤く塗っているだけと思っていると、イラストを細く表現できるようになったときでもそういうデザインで終わってしまう。
 でも俺のイメージは違うんだ。糸を紡ぐときから、呪文を唱えながら紡いでいく。魔力が込められた糸で特殊な模様を形成するから、魔法を唱えるときに力が高められるし、それでこそ白魔道師が着る意味がある。だから俺の中では赤で塗られているのではなく、赤い糸で魔力を高める刺繍が施されているんだよね。

アプリ神
↑赤い模様は魔力を高める刺繍だった。言葉や目に見えない設定がファンタジーの世界を構築している。

安藤:聖剣やFFに魅せられた多くのファンは、目に見えなくてもそういった設定の積み重ねを感じ取り、遊び終わった後に幸福感やカタルシスを感じて今に至っていると思うんです。“神は細部に宿る”という言葉がありますが、こだわるべきところにこだわってつくれば、数値化はできなくても人の胸を打つものが生み出せるんでしょうね。RPGをつくる会社はほかにもありますが、なぜスクウェア・エニックスがこんなに愛されているかといえば、ディテールにこだわってきた歴史があるからだと思うんです。

石井:設定において言葉にして伝えなければいけない部分もあるけど、俺の中のどこかで、遊びを通して気づかせたいという気持ちがあった。だからそういう見えない設定をいかにデータ化するかに常にこだわっていたし、ゲームというよりは、デジタルのファンタジー世界を俺はつくりたかったのかな、って思ったこともあるよ。

安藤:物語性が強いファンタジー物をつくる人は、本来そういう動機がないといけない気がします。聖剣を遊んでいて感じるのは、『不思議の国のアリス』を読んでいるときの気持ちだとか、紙媒体で読む本やファンタジー小説がデジタル化された雰囲気があるんですよね。やっぱり最初のモチベーションが違うなと思います。

石井:絵本は自分のイメージを膨らませて楽しめるし、映画も本当にその場にいるように感じられるけど、ゲームが明らかに違うのはキャラクターを通してその世界に触れられることだよね。ゲーム内のキャラを自分自身と思えるまでに入り込めれば、本当にそこに自分が立っていて世界に触れるところまで持っていける。それって圧倒的だよね。だって五感で感じられるようになるわけだから。

安藤:そうですね。

石井:五感と言っても匂いとかはなかなか難しいけど、そこまでゲームにのめり込めたときに、本当にひとつの世界を感じる領域までいけてしまう。ゲームにはそういう可能性があるからこそ、売り上げだけを考てはダメだと思うし、誰かが突き詰めて何かをしていかないと、結局十何年前と同じ状態で何も変わっていない、なんてことになりかねないよね。

■ 正統後継者、小山田氏が思う聖剣伝説の世界

安藤:今石井さんに話していただいたことは、聖剣はもちろんファンタジー世界をつくるための秘伝と言ってもいいですよね。フィーチャーフォンでFF外伝をつくったときも、このぐらいの密度でやりとりしていたんですか?

石井:どちらかというと、チェックや監修に近かったね。

小山田将(以下、小山田):そうですね。もう1本のフィーチャーフォンの聖剣、『聖剣伝説 FRIENDS of MANA(以下、FoM)』は、まさにレジェマナの世界観を広げたような内容で、フィーチャーフォンの中に生活空間をつくろうとしたんです。石井さんに監修をしていただきながら、聖剣伝説を今の時代で通用するクオリティーまで引き上げるにはどうすればいいかを考えました。そのときに、聖剣伝説を新しくつくるときに大事にすべきことを学んだ気がします。

小山田将氏(スクウェア・エニックス プロデューサー)
アプリ神

安藤:外伝のリメイクやフレンズの制作では、小山田がつくって石井さんが監修するという構造があった。だから小山田が、聖剣の正統後継者たりえたと思うんです。そして今、このブランドに挑むにあたって、「聖剣伝説はとはなんですか?」と聞かれたらどう答えますか?

小山田:いい切るのは難しいですね(笑)。

安藤:お師匠さんの前ですしね(笑)。

小山田:僕のイメージで言いますと、聖剣伝説で遊んでいるときの居心地のよさ、それがちゃんと感じられる世界になっているかどうかだと思います。聖剣伝説には血なまぐさいエピソードや、ギスギスしたエピソードもありますよね。

安藤:かわいい敵キャラがしゃれこうべになったりしますよね。

小山田:そういうのがありつつも「この世界が好き」と思えるのが聖剣伝説の世界だと思っています。ゲーム的に乗り越えなければいけない困難な場所や、つらいお話があるとしても、その世界で生活している気持ちになれたり、キャラクターたちのことを思いやれる世界になるといいなと。
 温かさもあれば、想像超えた突拍子もないことが起こることもある、それも聖剣の世界だと思っているので、そのあたりもうまく再現したいですね。

安藤:なるほど、意外に概念的な話ですね。

小山田:遊びに関しては、石井さんがつくられたものがいっぱいありますし、「聖剣伝説はこういう遊びでなくてはいけない」という制約は正直ないと思っていますから。

安藤:そうですよね、聖剣は毎回非常にチャレンジングですよね。聖剣2や3のようにナンバリングをせずに、”何々オブマナ”みたいな名前で続けていったほうが合う気がしますね。

石井:そうだね。ナンバーをふっちゃうと、システムは継承しているのかとか、先入観がつきまといそうだしね。俺は聖剣をつくるうえで、「前作はこうだからこうすべき」なんて考えないから。聖剣を聖剣たらしめている要素さえ入っていればいいし、俺の中でイメージが構築された時点で、それはもう聖剣なんだろうなと。だから逆に、システムでいろんなチャレンジができるんだよね。

『聖剣伝説 RISE of MANA』
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●関連サイト
スクウェア・エニックス

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