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Windows情報局ななふぉ出張所

佐賀県におけるWindowsタブレットの活用は失敗か? 成功か?

2014年06月25日 22時00分更新

 佐賀県におけるタブレット導入の取り組みが、なにかと話題になっています。2014年4月より佐賀県の県立高校において、新入生全員が富士通のWindowsタブレットを購入するという試みを採り入れたことについては、本連載でも取り上げています。

 ネット上では“失敗”ばかりに注目が集まっているといった傾向が感じられますが、実際に佐賀でタブレット活用の現場を取材した筆者としては、正直なところ違和感を覚えるところもあります。

■WindowsタブレットならiPadにできない問題を解決できる

 たとえば佐賀県の県立高校では、タブレットへの教材の配布方法と、授業での利用開始が遅れてしまうという問題がありました。その原因はWindowsタブレットではなく、サーバーやネットワーク環境にあったと日本マイクロソフトは回答しています。

佐賀におけるWindowsタブレット活用の現場レポート
↑5月22日開催のOffice 365 Educationに関する説明会でも、日本マイクロソフト 業務執行役員 パブリックセクター 文教営本部長の中川哲氏が、県立高校のタブレットについてコメントした。

 すでに現場では、USBメモリーやSDカード利用して教材を配布することで、問題は回避できているとのこと。日本マイクロソフト 業務執行役員 パブリックセクター 文教営本部長の中川氏は「WindowsデバイスならUSBメモリーが使えるので、人数分のUSBメモリーを用意してプリントのように配ることもできる。そういう意味では、“問題が起きたのがWindowsタブレットでむしろ良かった”と考えている。(USBメモリーやSDカードが使えない)他のプラットフォームなら、大変なことになっていただろう」とコメントしています。

 高校のクラスで同時利用する生徒の数はあらかじめ想定できることから、不特定多数が押し寄せる環境よりもずっとテストしやすかったものと考えられます。ただ、そういったノウハウも失敗を重ねて習得していくことができるという面もあり、タブレットを導入しようとしている、ほかの教育機関が参考にできる先行事例となりました。

 また、県立高校が選択した富士通製のWindowsタブレットは、iPadよりずっと高価なハイエンド機であり、高機能であることは、ある意味当然とも考えられます。その上で、PCと同じように使えるWindowsタブレットの汎用性が、ピンチを救ったといえるでしょう。

■盲学校でもWindowsタブレットを授業に活用

 ほかにも佐賀ではWindowsタブレットの活用を進めています。佐賀県立盲学校では、県立高校とは機種は異なるものの、富士通の2in1型Windowsタブレットを活用していました。

佐賀におけるWindowsタブレット活用の現場レポート
↑佐賀県立盲学校で導入している富士通の2in1型PC。全校生徒に1台ずつ用意されている。

 盲学校の特徴として、生徒ひとりひとりの視力に個人差があり、全く見えない“全盲”の生徒だけでなく、さまざまな見えにくさの症状を持つ“弱視”の生徒も一緒に学んでいる点が挙げられます。

佐賀におけるWindowsタブレット活用の現場レポート
↑全校生徒と教職員の分を合わせて30台程度のタブレットを、ラックで管理している。もちろん充電も可能。
佐賀におけるWindowsタブレット活用の現場をレポ―ト
↑お話をうかがった佐賀県立盲学校 教諭の宮田義弘氏(右)と、青山修二氏(左)。タブレットなら、弱視の生徒でも必要に応じて画面を拡大・縮小することでPCを活用できるという。

 このような拡大・縮小機能はWindowsだけでなくiPadでも可能です。そして現場の先生からは、教育に利用できるアプリという点ではiPadのほうが豊富、とのコメントもありました。しかしWindowsタブレットなら、Officeで作成した教材など既存の資産が活用できること、そしてキーボード対応が充実していることを優位性として挙げています。

 特に盲学校において重要なのが、“六点入力”と呼ばれる日本語入力法です。これは6点式点字で用いられる6つの点を、キーボード上のホームポジションを中心とした6つのキーに見立て、同時押しにより日本語入力する方式です。

佐賀におけるWindowsタブレット活用の現場レポート
↑左手でS・D・F、右手でJ・K・Lという最大6キーを同時押しすることで入力できる。ホームポジションさえ分かれば、画面やキーボードを全く見る必要がない入力方式だ。

 六点入力には、音声点字PDAと呼ばれる専用のデバイスもあります。筆者も海外のプレスカンファレンスにおいて、このようなデバイスを駆使し、高速にタイピングしている記者を見かけたことがあります。

佐賀におけるWindowsタブレット活用の現場レポート
↑音声点字PDA。点字入力用のボタンに加え、手前の黒い部分は点字ディスプレイとなっている。インターネット接続機能なども備えた高機能端末だ。内部はWindows CEで動作しているとのこと。

 なお、この機種ではタブレットとキーボードのドッキング部分の仕様により、6キーの同時押しに対応できないという問題があり、外付けのUSBキーボードを接続してそれらを回避している現状があります。この点に関しては盲学校における今後のタブレット導入においての課題となりそうです。

■タブレット活用の可能性を模索する民生委員の事例

 そのほか、佐賀県では、地域における高齢者世帯の相談や見守り活動を行なう“民生委員”によって、Windowsタブレット活用の実証研究も行なわれています。

佐賀におけるWindowsタブレット活用の現場レポート
↑佐賀市本庄地区で民生委員児童委員協議会の会長を務める石井智俊氏(写真右)。地域の高齢者世帯を訪問し、相談に乗っている。様々な個人情報を扱う活動となる。
佐賀におけるWindowsタブレット活用の現場レポート
↑本庄地区の各民政委員に1台ずつ配布された、富士通製Windowsタブレット。実証研究のため、タブレット本体やLTE通信はスポンサー企業による提供となっている。

 これまでの民生委員は、かなりの分量の紙資料を持って各世帯を訪問しており、その中にはセンシティブな個人情報も含まれていたとのこと。そこでWindowsタブレットと専用アプリを導入、各世帯の個人情報はクラウドに保存し、必要に応じて適切に取得することで、タブレットに個人情報を残さない仕組みとなっています。

佐賀におけるWindowsタブレット活用の現場レポート
↑実証研究に参加する地元企業の木村情報技術が、Windowsストアアプリを独自に開発。民生委員の声をヒアリングしながら、機能追加などを行なっている。

 Windowsタブレットやアプリの使い方については、民生委員の定例会に合わせて講習会を開催。基本的な使い方からアプリの機能追加、バグ報告に至るまで、活発な意見交換をしていました。

佐賀におけるWindowsタブレット活用の現場レポート
↑タブレット講習会のようす。操作方法だけでなく、民生委員向けアプリの機能追加やバグ報告にも活用されている。

 このタブレット講習会で気付いたのは、民生委員の皆さんの飲み込みが早く、アプリに関する指摘も鋭いという点です。中にはPCに慣れていない人も含まれるものの、アプリを使いこなしたいという意欲が高く、基本的な事務処理について熟知していることが、その背景にあると考えられます。

佐賀におけるWindowsタブレット活用の現場レポート
↑PCに関するスキルは個人差があるが、基本的に参加者の飲み込みが早いという点が、タブレット講習会と一般的なPC教室とは異なる。

 ここでもタブレット導入に問題がまったくなかったわけではなく、SIMカードスロットの不良に悩まされたり、現在に至るまでにすべての端末を交換するなどの苦労があったとのことですが、これは最新機種を早期導入した実証研究ゆえの問題といえそうです。

■タブレット活用が他の地域にも広がるか注目

 ほかにも佐賀県武雄市では、小学生全員にAndroidタブレットを配布するなど、さまざまな観点でタブレットへの取り組みは続いています。全国に先駆けてタブレットを導入する過程ではいろいろな困難も予想されるものの、まずはそのチャレンジを応援したいと筆者は考えています。


【6月27日16:00】一部、写真とキャプションを差し替えました。

山口健太さんのオフィシャルサイト
ななふぉ

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