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最小積層ピッチ0.05ミリ 3Dプリンター『SCOOVO X9』をテスト

2014年04月24日 20時10分更新

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 オープンキューブは3月3日、3Dプリンター『SCOOVO X9』(以下X9)を発表した。同社は'13年8月に最初の3Dプリンター『SCOOVO C170』(以下C170)を発売し、本製品が2世代目となる。大幅に改良されて超高精度になった『X9』の実力をテストしてみた。

■今までの製品との違い
 まず、前モデル『SCOOVO C170』との違いを確認してみよう。

製品名 SCOOVO X9 SCOOVO C170
価格 22万円前後 19万円前後
造型方式 熱溶解積層法 熱溶解積層法
最大造型サイズ 200(W)×170(D)
×230(H)mm
150(W)×150(D)
×175(H)mm
最小積層ピッチ 0.05ミリ 0.1ミリ
ベッド部吸着方式 加熱式 テープ式
使用材料 PLA/ABS PLA
本体サイズ/重量 406(W)×343(D)
×441(H)mm/18kg
76(W)×333(D)
×404(H)mm/15kg
材料1gあたりの単価 約5.1円(PLA)、
約4.9円(ABS)
約5.1円(PLA)

 

 『C170』と比べると、熱溶解積層法という基本的な方式は変わらないが、最大造型サイズがひと回り大きくなり、最小積層ピッチが1/2の0.05ミリとなった。

 このため、本体のデザインはほぼ同じだが、サイズはひと回り大きくなっている。また、材料を積み上げて物体を造型していく台“ベッド”部分が、『C170』ではテープを貼ってそこに材料を吸着させていく方式だったのが、『X9』では加熱式に。

 これは、材料が今までのPLAのみから、PLAとABSの両方に対応するようになったためだ。ABSは加熱しながら造型しないと物体にソリが出てきてしまうので、ベッド部分の加熱が必要になる。材料単価に関しては、『C170』と『X9』でPLAは共用のため同じ約5.1円だが、『X9』から対応したABSは、やや安い約4.9円で直販されている。

 スペックだけで見ると、前モデルから多少改良されたぐらいかと思うかも知れないが、実物を見てみると、まるで別物だった。次にハードウェア面の進化を見てみよう。

■安定して材料を供給できるローダー

 大きく進化したのが、材料を加熱して造型するヘッド部分“エクストルーダー”に送り出すためのローダー機構だ。『C170』では背面に材料のロールを引っかけて直接エクストルーダーへ材料を入れる方式だったが、『X9』は背面に材料を送り出すためのローダーが新設された。

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 なぜこのような仕組みが必要かというと、熱溶解積層方式の3Dプリンターでは、糸状の材料をエクストルーダーにあるギアに巻き込みながら材料を加熱して射出していく。

 このとき、ギアが正確に材料を巻き込めなければ、材料が切れて射出できなかったり、エクストルーダー内で材料が詰まってしまうことがある。これを防止し、より精度の高い材料供給をしようというのが新設されたローダーだ。

 材料をまず背面のローダー内にあるギアでしっかりと巻き込み、安定したピッチでエクストルーダーに送り込む。筆者の『C170』のテストでは、実際に造型途中で材料が射出できなくなったり、エクストルーダーが目詰まりすることがあったが、『X9』ではそういった事はまったく起こらず、終始安定して造型できた。

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■造型状態を把握しやすいエクストルーダー

 エクストルーダーは『C170』よりも大幅に小型化。『C170』では安全性を確保するために、200度近くとなる部分には金属製のカバーがかけられていた。もちろん、子どもがいる家庭などにはありがたいカバーなのだが、造型中の物体がカバーの下に隠れてしまい、見にくかったということがあった。『X9』はカバーもなくエクストルーダーも小型化されたため、造型中の物体が把握しやすくなった。
 

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 また『C170』は造型する際にエクストルーダーがX軸、Y軸、Z軸方向に動いていたが、『X9』はエクストルーダーがX軸、Y軸方向、ベッド部分がZ軸方向となり、エクストルーダーはつねに上部にあるため、上部の開口部から造型中の物体を見やすくなった。エクストルーダーがZ軸方向に動かないのは、上記の背面ローダー構造を採用したのも要因としてあるが、結果的に使いやすくなった。

■調整しやすくなったベッド部分

『C170』から方式が大きく変わったのがベッド部分だ。『C170』はメンディングテープを貼り、そこに材料を吸着させていたが、造型を開始したときに材料が吸着しない場合があった。また、いちど造型をするたびにテープを貼り替えなければならないことがあり、扱いがめんどうだった(基本的には貼り替えなくてもいいはずなのだが、実際には材料がテープにガッチリとくっついて剥がれないことが多かった)。

 『X9』は加熱式のヒートパッドとなり、表面に貼ってあるフィルムも造型した物体を剥がしても破損しないものになったので、使用時の手間がだいぶ減った。

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 熱溶解積層方式の3Dプリンターで非常にめんどうなメンテナンスが、エクストルーダーとベッド部分の隙間の調整だ。この隙間が狭すぎると材料が射出できず、広すぎると材料がベッドに材料が正確に吸着されない。最適な隙間を設定しないと、まるで造型できないのだ。

『C170』ではベッドの四隅にあるドライバーを回して調整してたが、『X9』はベッドの裏にあるスクリューネジを回すだけで調整できる。また、調整した間隔はロックナットで固定することができるので、造型する度に生じるズレを無くし、連続で手間なく造型ができるようになった。

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 とはいえ、未だに調整する最適な隙間は“コピー用紙を通して引っかからない程度”という従来からの方式のままだ。確かに調整しやすくなったが、未だに最適な隙間がわかりにくく、調整には経験と勘が必要となる。

 この部分は、製品の価格が上がったとしてもモーターとセンサーによる自動化が必要だ。また、ベッドのどの部分でも同じ間隔に隙間を保たねばならないので、ベッド部分を完全に平行にする必要がある。現状では4隅のスクリューネジを回す方式だが、三脚と同じで水平を出すなら、調整部分は3つの脚にするほうがやりやすい。実際に、今回は水平を出すのに非常に苦労したため、カメラ用の水準器を補助に使った。

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■実際に“ナイスバディー”を造型してみた

 気になる造型品質だが、今回は“かんたんモード”で造型可能な0.4ミリと0.1ミリの積層ピッチで造型してみた。製品としては0.05ミリまで対応できるのだが、英語表記のアドバンストモードでの造型が必要となり、他のパラメーターも多く設定が必要なため、造型に時間が掛かりすぎてしまい無念のタイムアップ。今後機会を見て再チャレンジする予定だ。

 なお、造型ソフトに関してはC170と同じ『SCOOVO Studio』を使用。今回は『X9』用にベッド部分の温度調整が追加されたほか、ソリを防止するために造型する物体に縁をつける“ブリム”材の設定が追加された。

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 右が0.1ミリ、左が0.4ミリで造型した物体だ。 データは『Shade 3D』のサイトで配布されている3Dプリンター用STLデータ『Hanako』だ。水着の女性が寝ているデータで、今回は頭から足先まで約15センチのサイズで造型した。

 指や耳などの細かい部分や微妙な胸や腰のラインなど、現在の50万円以下の3Dプリンターにとっては非常に造型が難しいデータのひとつだ。正直、このデータが3Dデータの見た目とまったく同じに作れる安価な3Dプリンターが出てきたら、それこそ市販品と同じものが3Dプリンターで作れる従来の製造業を覆す製品と言っても過言ではない。

 実際の出来を見てみよう。0.4ミリのほうはピッチが広いため、地図の等高線のような形になっているが、これはもう0.4ミリピッチに設定する以上は仕方がない。また、造型時間は0.4ミリで5時間57分、0.1ミリで15時間43分と、速度面では『C170』との差はあまりない。それよりも0.1ミリピッチで造型した物体はかなり精度が向上している。

『C170』では曲面に溝や飛び出している部分ができることがあったが、『X9』は髪の毛の3ヶ所に見られる以外はまったくない。複雑な曲面でもかなり滑らかに正確に造型できている。これは背面のローダー機構の採用がかなり効いているようだ。

 ただし、髪の毛の先端など先が尖っている部分がまだ苦手なようで、材料の射出がコントロールしきれずに玉になってしまっている。それ以外は現状の同クラスの3Dプリンターと比較してもかなり精度が高く造型することができた。またひとつ、3Dプリンターの精度が上がった製品が世の中に登場したのを実感できた造型結果だった。

SPEC
直販価格:22万6800円(税込み)
造型方式:熱溶解積層法
最大造型サイズ:200(W)×170(D)×230(H)mm
積層ピッチ:0.05〜0.4mm
プリントヘッド:シングル
使用フィラメント:PLA/ABS
対応OS:Windows XP/Vista/7/8/8.1
インターフェース:USB2.0
サイズ:406(W)×343(D)×441(H)mm
重量:18kg

●関連サイト
オープンキューブ
SCOOVO X9製品サイト
『Shade 3D』3Dプリントデータ配布ページ

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